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冬休みがやってきた。
年明けにはセンター試験を皮切りに、それぞれが自分たちの「戦い」に臨む事になる。
クラスではちらほら、推薦で進学先を決めちゃった子もいるけど、私らは全員、一般受験組なので、
冬休みは最後の山場となる。
学校は休みでも、勉強はしなければならないし、こうして冬期講習でいつものメンツと顔を合わせて
いるしで、正直なところ休みって感じはしないけどね。
それぞれ志望校も選択科目も違うので、同じ講座をみんなで受けるってことはないけど、申し合わせた
ように昼はこうして、みんなで集まって食事を取っている。
「いや、こうしていると、団活を思い出すよネ」
こなたがのほほんと、チョココロネを齧っている。アンタ本当にそれ好きね……ってそればかりね!
もうすこし栄養のあるモノも食べなさいよ。
「慌しい中にあっても、こうしてのんびり語らう時間を持つのも、悪くないものですね、ふふっ」
「……別におまえとのんびり語らいたくはないがな」
この2人は仲がいいのか悪いのか……そういやキョン君と古泉君って、いつもこーんなやりとりを
してた気がするわね。男の友情? くされ縁?
つかさを見ると、佐々木さんの友達……橘さんとなにやら楽しそうに喋っている。こないだ会った
ばかりなのに、女の子相手だと、本当に人懐っこいわね。
「京ちゃんってスイーツ詳しいんだね。すごーい」
「今度一緒に食べに行きます?」
京ちゃんって……なんか不快なことを今、思い出しかけたぞ。
「つかさと違ってかがみんはツンデレさんで怖ーいからネ。慣れると結構可愛いけど」
うっさいわね。人を犬や猫みたいに言うな。
2
「……あ、そうそう。みんな聞いて!
聞いてるとは思うけど、春休み、SOS団最後の合宿を敢行するわよ! 卒業祝いと合格記念を兼ねてね」
佐々木となにやら話していたハルヒが、やにわに声を上げた。って言うか、口にモノ入れたまま
喋るんじゃありません。眼前になんか欠片が2つほど飛んで行ったぞ。
「鶴屋さんに話したら、『別荘1つ貸したげるから、好きなように使っていいにょろよ』って!」
「さすが鶴にゃん、太っ腹だネ! 持つべきものはスポンサーだネ」
こなたの言う通り、まさに最強のスポンサーだな。高校生の卒業旅行ごときで、別荘丸ごとロハで
貸してくれる人なんてまずいない。肝心な所で世話になりっぱなしで、何か悪い気がするが。
「……んで、今佐々木さんにはちょろっと話したんだけど、佐々木さんと、えーと……橘さん?
貴女たちも一緒に来ない? 歓迎するわよ」
おいおい、変人が引率する珍道中に、佐々木たちまで無理矢理巻き込むなよ。迷惑だろうが。
「私たち部外者ですし……皆さん、部活の最後のイベントなんでしょうから、部員さんだけの方が
良くはないでしょうか。あと、名前は橘で合ってますから、疑問符付けないでくれると嬉しいです」
本当は迷惑極まりないだろうに、俺たちのことを気遣って、はっきり迷惑とは言わなかった彼女。
まあ、顔を見れば大いに困惑しているのがよく分かる。
「好意は有難いけれど、私も橘さんと同じかな。やっぱり最後のお別れは、苦楽を共にした仲間だけで
する方が良いだろうしね。涼宮さんのご好意だけ、有難く受け取っておくわ」
佐々木もやんわりとハルヒの誘いを拒絶した。まあ、もっともだ……というか賢明だ。
「別に遠慮しなくてもいいのに……」
2人の言葉に不服なのか、頬を膨らませる我らが団長。
あのなハルヒ、2人は遠慮してるんじゃなくて、イヤだって言ってるんだぞ。分かるか?
お前も昔に比べたら、ちったあまともになったが、もう少し社交辞令というヤツを身につけろよ。
「まあ……あまり強いて勧められても、お2人もお困りでしょう、涼宮さん。
我々には周知のイベントでも、ご両人にとってはいきなりの話です。お2人にもいろいろとご予定が
あるでしょうし、もし遠方の大学に進学されるのならば、春休み中に住居探しや引越しの手配も
しなければなりません。無理に時間を割いてくれというのも、ご迷惑かと」
「そうね……それなら仕方ないわね。ま、こうして知り合ったわけだし、これから先、遊ぶ機会は
いくらでも持てるしね」
ハルヒ使いもとい、古泉の一言で、ハルヒはあっさりと伸ばしていた魔の手を引いた。流石に顔色を
読んで、神様の怒りを買わないタイミングで、絶妙の合いの手を入れるのは手馴れたものだ。
褒めて遣わすぞ腰巾着、じゃなくて古泉。
「お褒めに預かり光栄です……まあ、彼女たちのため、というだけではなく、これ以上貴方の周りに
女性を増やしますと、色々と収拾がつかなくなるということもありますのでね」
……おまえが何のことを言っているのか、俺にはさっぱり分からん。佐々木をハルヒの魔手から
助けてくれたことだけには、礼を言っておこう、友人としてな。
3
……とまあ、受験後のこんなイベントの話なんかもあったりしたけど、なにせ周囲の雰囲気が雰囲気
なもんで、お昼休み以外にはあんまり馴れ合うこともなく、めいめい、自分の選んだ講座を受講し、
復習し、予習し、分からないことは教えてもらったり教えたりと、受験生らしく有意義な時間を
私も過ごしていた。
ま、私やつかさなんかは教えてもらう一方で、人に教えることはほとんどないけどネ……
そんな感じなんで、流石にこの休み中は、キョン争奪戦も休戦……と安心していたんだけど、事件って
いうのはホント、予期せぬ時に起こるものなんだネ。
SOS団に入って以来ハルにゃんに振り回されて、予期しない事態には慣れていたつもりでいたけど、
やっぱ平和ボケしてると人間ダメだネ、なんてつくづく思ったよ、ホント。
「こなた? あたしよ。明日だけど、SOS団の今年度納会を部室でやるから、朝10時集合ね。
今日で年内の冬期講習の講義は終わったはずだから、明日は大丈夫よね?」
そりゃ、予定はないけど随分急だネ。キョン辺りがまた文句言うんじゃない。かがみたちも今年は
受験生だから、巫女のコスプレはしないだろうケド、初詣の準備くらいは手伝うかもしれないし……
「だから大晦日は空けて30日にしたの! 団員は団活優先! 問題なし! 遅刻厳禁! 以上っ!」
こっちが応答する間もなく、携帯はスパンと切れた。いやはや、すごい切れ味。
相変わらずハルにゃんの電話は簡潔だネ。ま、キョン相手だと、言いたい事だけ言って、キョンの言う
ことは一言も聞かずにさっさと切るみたいだから、これでも話はしてくれてる方なんだろうけど。
……思えばこの時に、ちょっと警戒しておくべきだったんだよネ。
納会って言ったって、SOS団は今年、団としてはほとんど何も活動してなかったわけだし、近況なんか
はちょくちょく、冬期講習のお昼休みなんかに、みんなやハルにゃんと話してるし……
いまさら何を話すことがあるのだろうか……ってネ。なんで気づかなかったんだろ。
まあ、ここまで思いが至らなくても、かがみやつかさやみゆきさんに「明日、何時頃に出る?
一緒に行く?」なんてこっちから電話すれば……つかさはまあともかくとして、かがみやみゆきさんが
狙いに感づいたかもしれない。
……ま、いまさらこんな事言っても、あとの祭りなんだけどネ。
4
何か妙だ、と私が気づいたのは、つかさと連れ立って文芸部室に入った時だった。
「早いわねかがみ。つかさも……一緒に来たから、遅れずに済んで良かったじゃない」
遅刻しなかったのはまあ良いとして、いつもなら必ず部室に居るはずの長門さんがいない。
「あれー、ゆっきーは?」
「有希は今日は来れないって」
……珍しいこともあるのね、と思いながら、私はなにやら胸騒ぎを感じていた。とにかく席に着く。
しばらくつかさと話しながら過ごしていると、ドアの開く音と共に、聞きなれた声。
「失礼します」
マフラーとコート姿で、寒そうに震えながらみゆきが部室に入ってきた。
「みなさん、おはようございます。今朝は寒いですね」
「ほんとー、起きるの大変だったよねー」
「ええっと、他の皆さんはまだ、来られていないのでしょうか?」
そう尋ねるみゆきに、ハルヒは憮然とした表情で、
「まだね。遅刻厳禁って言ったのに、ホントにしょうがない奴ね」とおかんむり。キョン君のことか。
早く来ないとまた罰金よ。
「お茶、入れますね。水汲んできます」
やかんを手に水を汲みに行こうと、部室のドアを開けたみゆきが外に出て行く……と廊下で何やら
話し声がする。こなただ。ちょうどみゆきと鉢合わせしたらしい。
……と、ハルヒのやつ、いきなり立ち上がって部室のドアをバンと開くと、校舎中に響くくらい
でっかい声で
「こなたっ! 遅いわよ、遅刻厳禁って言ったのに、もう2分も過ぎてるじゃない!」
と怒鳴りやがった。アンタ、そんなでっかい声出さなくたって、聞こえるでしょうが。
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いやいや遅刻遅刻、不覚不覚……頭を掻きながら部室に入った私が見たのは、ハルにゃんとかがみ、
つかさの3名のみ。さっきすれ違って、水汲みに行ったみゆきさんと合わせると、4名。
ながもんとキョンと古泉君の姿はなし。男2人はともかく、ながもんが居ないというのはおかしい。
これはもう、私らを召還した本人に直接聞くしかないでしょ。
「ねー、ハルにゃん、他の人たちはどうしたのかナ? 揃って遅刻? 珍しいネ」
「もう出席者は居ないわよ。今日呼んだの、あんたら4人だけだから……キョンも古泉君も有希も、
今日は来ないわ」
かがみとつかさが、ハルにゃんの言葉を聞いて思わず顔を見合わせてる。まあ、私ら4人だけが
こうしてハルにゃんに召集されるということは、いったい何の要件か、火を見るより明らかだよネ。
私らとキョンの仲がどんなものなのか、遂に探りを入れに来たんだね。
私はそっと、かがみたちの方に目を向けた。かがみとつかさも見返してくる。
ハルにゃんがどこまで、キョンと私たちの付き合いを知っているのか知らないけど、少なくとも
身体の関係を持っている事までは知らないはず。もし知っていたら、こんなまどろっこしい事なんか
しないで、すぐに事実関係を問いただしてくるはずだしネ。
仲を順調に進展させていることは否定しなくていい……って言うか、それを否定したら不自然。
キョンのことが好きなのかと聞かれたら、それもはっきり「好き」って答えていい。
ハルにゃんがキョンのことをどう思っていようと、私らが遠慮する理由はないしネ。
でも……絶対に、キョンとエッチなことしてるなんて認めたらダメだヨ。
そっち関係の尋問は完全否定、いいネ……って、テレパシーで伝えてみたけどちゃんと伝わったかナ。
6
水を汲んで部屋に戻りますと、部室内はなにやら妙な雰囲気です。みなさんどうしたのですか?
……すぐにお茶の準備をしますね。それにしてもキョン君たちは、まだ来ないのですね。
とりあえず、ここにいらっしゃる方の分だけ淹れますので、しばらくお待ちください。
「あー、みゆきさん。今日はもう私ら以外は来ないみたいなんで、心配しなくていいヨ」
え……みなさん、ご都合が悪いのですか。でしたら納会は、日を改めてした方が宜しいのでは?
「その必要はないわ。今年度は来年の3月末までだから、納会なんてその時にやればいいのよ」
……事ここに至って、ようやく私にも事態が飲み込めました。
涼宮さんは私たち4人だけを呼んで、お話がしたかったのですね。
やっぱり……キョン君のお話ですよね。
「キョンとこなた、つかさ、この3人の学力底上げのために、かがみとみゆきをお目付け役にして、4月
から面倒見て貰ってたわけだけど、よくやってくれているし、3人もそれに応えてよく頑張っている
みたいね。
特にキョンは模試の偏差値、15も伸びたみたいだし……ま、アイツは元があまりに悪すぎるってのも
あるからアレだけど、第一志望に十分手が届くところまで来てるし、つかさとこなたも、このまま
順調に行けば第一志望でも五分五分以上の勝負は出来そうね。で、お目付け役のみゆきもかがみも、
ここまで順調に好成績をキープ。うん……
ま、今はまだ褒めないわよ。志望のところに合格したら、その時はたっぷり褒めてあげるわ」
……涼宮さん、今日貴女が私たちにお話したいのは、そんなことではありませんよね。
こなたさんたちを見ると、やっぱり涼宮さんに目は釘付け、次の言葉を待っているようです。
「で、受験という困難を共に協力して乗り越えていく過程で、当然それなりの感情なんてものも
生まれたりするのでしょうね。ま……あたしはそういうの、全然理解できないけど、他人のそれにまで
とやかく干渉する気はないわ。もともとあんたら4人、キョンのことを随分と気にしていたみたいだし
聞く所によると、随分と仲良くなったみたいだしね」
涼宮さんは一気にここまで言うと、私が入れたお茶をぐいっと飲み干しました。
あの……いつも思うんですけど、熱くないのでしょうか。
「飲み方にコツがあるのよ」
思わず呟いた私の言葉に律儀に答えると、涼宮さんはぐいっと身を前に乗り出して、こう言いました。
「で、ぶっちゃけあんたたちとキョンの仲ってどんな感じなの。っていうか、どこまで進んだの?
正直に答えなさい。ごまかすとタメにならないわよ」
「頭を下げろとはいわないけど、人にモノを聞くときはもう少し、言い方ってもんがあるでしょうが!
アンタに脅迫される覚えはないわね」
あの……かがみさん、そういうことを言うとまた、涼宮さんと喧嘩になりますから……
「こんなことで喧嘩するなんて労力のムダ。さっさと聞かれたことに答えなさい!」
7
憎まれ口はさておき、ハルヒのヤツ、ストレートに本題に入ってきたわね。
自分が聞きたいことを聞くときに、誘導尋問や妙な搦め手を使わないところは、まあこいつらしいと
言えばこいつらしいけど。
……さて、団長さまのご下問に、誰が最初に口火を切って返答するのかしら。
つかさはあまり喋らせない方がいいわね。なんか危険な気がするし。
「ん、まあ仲は順調ですヨ。キョンがなかなかハッキリしない人だから、まだ私らのうちで誰を
選ぶかなんて話には、残念ながらなっていないけどネ」
無難な線ね。こなたはこういう所、割とそつがないから、このテの駆け引きには向いているかも。
「あいつ、相変わらずフラフラ、鼻の下伸ばしてんのね。これで成績がアレだったら処刑ものね」
答えるハルヒの言葉も、いつもキョン君を評する時の標準的表現の域を、まだ出ていない。
このまま毒にも薬にもならない話で終わってくれればいいんだけど、ハルヒはそんなに甘い女では
ない。いままで散々、団でハルヒとやりあった私は、身をもってそれを知っている。
案の定、ハルヒはこれ以上、毒にも薬にもならない話題を引っ張る気はないらしく、続けて
ストレートに第二矢を打ち込んできた。
「アンタたち4人とも、キョンのことが好きで、彼女になりたいと思ってるのよね」
「はい、私はそのつもりですし、告白もしました。こなたさんやつかささん、かがみさんも同様です」
みゆき……アンタやっぱり変わったわよね。昔なら絶対にそんなこと、人前で明言なんて出来なかった
でしょうに。
この発言には流石にハルヒも驚いたらしく、みゆきの顔をぽかんと見つめている。これはレア顔ね。
「ええっと……みゆきが明言するくらいだからマジなのね」
「そうよ、私はキョン君のこと好きよ」
「私も好きだヨ。絶対に私のものにしてみせる!」
「わ……私も好きだもん。絶対私の彼氏になってもらうんだもん」
……いや、あらためて好きってはっきり言うのは気恥ずかしいわね。でも、こう聞かれた以上
誤魔化すことは不誠実だ。ハルヒだって半ば、分かっていて聞いているんだから。
「なるほどね……よーく分かったわ」
さあ、おそらく正念場はここからだぞ。みんな気合入れなさいよ……思わず手にも力が入る。
8
うわー、ハルちゃんの前でキョン君が好き、彼氏になって欲しいって言っちゃったよー!
……でも最初に言ったのはゆきちゃんだよね。ゆきちゃん勇気あるな。
ハルちゃんはキョン君のこと、どう思っているんだろう。私たちのことを気にするくらいだから、
やっぱり好きなのかな。
ハルちゃんって可愛いし、胸おっきいしスタイルいいし、恋のライバルになったら怖いな……
そんなことを考えていると、ハルちゃんが一つ大きく深呼吸をして、こんなことを聞いてきました。
「あんたら4人はキョンと恋人関係になりたい。で、キョンはキョンで、あんたら4人が自分の彼女に
なりたいと思っていることを承知の上で、これまで付き合っている……となると、少なくともお互いの
気持ちが分からなくてヤキモキするなんて、恋愛にありがちな非生産的な葛藤なんてものは、あんたら
5人の間にはないってことになるわよね。
……付き合うとなれば当然、身体の関係をもつことも前提になるわけだけど、あんたたち、そっちの
問題については今現在、どう考えているわけ? 結論が出るまでお預けなの?」
言い回しがちょっと複雑だけど、要するにハルちゃんは、エッチなことについてどう思うかって聞いて
いるんだよね。ええっと……もうみんなでエッチしてますなんて、正直に答えたらまずいよね。
じゃ、なんて言えばいいんだろ。嘘ついちゃって良いのかな、こういう時って。
よく分からないから、とりあえず黙っていよう。
少なくとも答えるのは、お姉ちゃんやこなちゃんがどう答えるのか聞いてからにしたい。
「私はセックスは、やっぱり彼氏になってからしたいと思ってるヨ。キョンがヤリ逃げするなんて
思ってないけど、けじめとしてね」
「キョン君にも、私たちを抱きたいならちゃんと結論を出してからでないとダメよ、って言ってるし」
「キョン君もそれで納得していますし、涼宮さんの仰るように、結論が出るまでお預け、ということ
です」
あれあれ……私たちが夏休みの温泉や、こないだラブホでしたことって、「身体の関係」に入らないの
かな? 最後までしないとそう言えないのなら、嘘をついているわけじゃないんだよね。
いいんだよね。
9
ついにハルにゃん、本題を切り出してきたネ。ここがまさしく正念場。
身体の関係をセックスのことだと解釈すれば、私ら4人ともまだキョンとセックスしてないしネ。
ここで追及の手を緩めてくれるといいんだけど、ハルにゃんのことだ、また食い下がってくるヨ。
「なるほど……あんたら、ちゃんとした貞操観念持ってるのね。流石にあたしが見込んだだけの事は
あるわ。そこいらのアホなら、とっくにズッコンバッコンヤリまくってるだろうしね」
「そういう言い方はやめなさいよハルヒ。アンタ一応女でしょうが!」
「一応も何もあたしは正真正銘の女よ!」
かがみんは必ずこのテの発言に突っ込むよね。キョンとのエッチではあんなエロいのに、変なトコ
潔癖だからネ。ま、それもかがみらしいケド。
「セックスはともかくとして、その前段階はどうなのよ。キスとかペッティングとか……」
あちゃー、流石に誤魔化されてはくれないみたいだネ。これは覚悟決めて白を切り通した方が
いいのかナ。でもハルにゃんって妙に勘がいいんで、下手な白の切り方をすると墓穴を掘りそうだネ。
「キョン君次第……かな。女の方からって言うのはちょっとね」
かがみさん……あなた、どの口でその言葉を言いますかい。
エッチのとき、キョンに自分から乳首を吸わせたり、言葉責めしながらパンツで手コキしたり、
自分から進んでキョンの<禁則事項>を咥えて口の中に出させたモノを飲み込んだり、キョンの
顔の上に跨ったりしてたあの光景は、すべて幻だったというわけですかー
ま……そんなことはしてない、なんて必死に否定すると、かえってハルにゃんに怪しまれるから
答え方としては、それでいいのかもネ。
「キョン君って自分から、何かをしてくるタイプじゃないですしね」
……上手いネみゆきさん。ハルにゃんが聞きたいのは、私らがキョン君とそういうことをしているのか
という事なんだろうけど、それにははっきりと答えずに、間接的に類推させて捌こうとしている。
「キョン君の方から迫ってこないのだから、そういう事など出来るはずはない」ってネ。
実際はキョンの方から迫ってこなくても、私たちの方からキョンに迫っているから、そういう事が
出来るんだけどネ。
……さて、それじゃ私が偽装の締めを致しましょうかネ。
「キョンがもうちょっと積極的になってくれないと、如何ともし難いネ」
さて、ハルにゃんの反応はいかに!
「ふーん……ま、アイツはスケベなくせに、自分のことについても人のことについても、すぐに
傍観的態度をとってメタな分析に走って変に気取るから、あたらチャンスを逃すのよね」
……やれやれ、これでどうやら追及の山場は超したみたいだネ。そう思ったのが間違いだった。
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「でも、アイツだって男なわけだから、絶対にやりたいとは思っているはずよね。
4人も居るのに何もしないなんて、インポでない限りありえないわ。意外と攻めやすい所から
落とそうなんて考えているんじゃないかしら……た・と・え・ば、つかさ辺りをね」
ビシッと私に指を突きつけるハルちゃん。え、私? キョン君が私に何かするのー?
「つかさって可愛いし大人しいし、正直、この4人の中じゃ一番、強引な押しに弱そうじゃない。
もしかしたらもう既にキョンに迫られて、無理矢理ヤラれてたりして……アンタら3人の知らない
ところでね」
「ちょ……アンタなに言ってるのよ! キョン君がそんな……」
酷い……酷いよハルちゃん。キョン君のことをそんな風に……
「キョ……キョン君はそんな乱暴なことしたりしないもん! すごく優しくしてくれたもん!
夏の時だって、強くすると私が痛がるから、舌で優しくしてくれてすごく気持ちよかったし、
こないだだって、押し倒されてスカートの中に顔突っ込まれたけど、痛いことなんてしなかったし、
私も興奮しちゃったし、すごくすごく良かったもん! ハルちゃんのバカ!」
私は思わず、無意識のうちにそう叫んでました。
そしてハルちゃんを睨むと……なんかちょっと怖い笑顔を浮かべています。えっ……えっ?
「つかさ……貴重な証言をどうもありがと。やっぱりキョンとエッチなことしてたのね!」
えー、今のってもしかして……誘導尋問? 動転した私は、思わずまた叫んでしまいました。
「キョン君とエッチしてるのって、私だけじゃないもん! こなちゃんもお姉ちゃんもゆきちゃんも
みんな一緒だもん! みんなでエッチしてるんだもん!」
「うわ……私らまで自爆テロに巻き込みやがりましたヨ。恨むよつかさ」
「つかさ……アンタ、こんな単純な誘導尋問に引っかかるんじゃないわよ! 全部台無しじゃない!」
「……という割には、かがみんも今のハルにゃんの挑発で、キレかかってたけどネ♪」
私、やっちゃった……気をつけようって思ってたのに……
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……あたしの目を欺こうなんて、甘いのよあんたら! 百年早いわ。
「ハルヒ……アンタ一体、いつ頃から疑ってたのよ?」
女の勘……というのは嘘で、冬期講習初日の昼、あんたと佐々木さんの会話を聞いたときからよ。
佐々木さんに「キョンはあんたら4人の中に意中の子がいるのか」って聞かれたとき、かがみ、あんた
動揺して答えをはぐらかして、逆に佐々木さんに、彼氏が居るのかって聞いて誤魔化してたでしょ。
バレバレなのよ、あたしの人間観察の眼力を舐めないことね。
で、今日こうして話をしても、あんたら微妙に答えをはぐらかすしね。それで確信したわよ。
……このままチンタラやってると攻防は平行線を辿るだけなんで、最後につかさをちょろっと挑発して
みたら見事、釣り針に引っかかったってわけよ。
……悪かったわね、つかさ。大好きな「キョン君」のことを悪く言って。
断わっておくけどあれ、あたしの本心じゃないからね。キョンは仕様もないヤツだけど、嫌がる女の子に
無理矢理乱暴するような下種野郎じゃない事は、良く知ってるから。
だいたいそんなヤツならとっくに……ってのはまあともかく、もうネタは割れてるのよ、アンタたち!
4月から今まで、キョンとあんたらがどれだけ爛れた関係を楽しんでいたのか、白状してもらうわよ。
SOS団団長として、団員の行動には責任があるからね。
あと、この期に及んで、ごまかしや自己保身は一切認めないのでそのつもりで……事実を簡潔かつ
詳細に喋りなさいよ。
「簡潔かつ詳細って……どんな喋り方すればいいのよ!」
余計なことは簡潔に、重要なことは詳細に、よ。
時間はたっぷりあるわ。さあ、じゃ最初に、なんであのキョンとそーんな関係になったのかについて
洗いざらいゲロってもらいましょうか!
……あたしの聞くことに全部答えるまで、うちには帰れないと思いなさい!
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もはやなすすべなく、夏の温泉合宿に端を発するキョンとの関係について、私たちは洗いざらい
ハルにゃんに喋る羽目になってしまった。
災難は思わぬところからやってくる、という言葉を今日ほどしみじみと噛み締めた日はありませんヨ。
おそらくキョンのところにも、この後でっかい火の粉が降りかかるんだろうネ。
ごめんよ、キョン。死ぬときは……一緒だヨ。
最終更新:2010年04月25日 22:04