第10章 キョンとハルヒ、閉鎖空間の性戦

1

「……おっといけません。話に夢中になって、渡すものがあるのをつい忘れていました」
いざ決戦の場へ! と雄々しく第一歩を踏み出そうとした俺に、古泉が慌てたように声をかけてきた。
「これです、どうぞお持ちください」
紙袋の入ったビニール、温かくて、そしてこの匂い……これはハンバーガーだな。幾つ入ってるんだ?
古泉、わざわざメシまで持たせるとは、晩飯の時間までに俺が帰れないと踏んでいるのか?
「いやいや……帰れないどころか、貴方のやり方次第では二度と出てこれないかもしれませんが……
というのは冗談で」
おいこら、今のはとても冗談には聞こえなかったぞ、クソ古泉。
人にハルヒの説得を頼むだけ頼んでおいて、自分は高みの見物を決め込むつもりか。この役立たずめ!
「いえ、僕はこれから神人退治に行かなくてはならないので」
そりゃ結構だ。てめえだけ大変な思いをするとなりゃ腹も立つが、他人も道連れなら少しは溜飲も
下がるってもんだ。
「涼宮さんは昼食をとられていないようですのでね。貴方から差し入れとして持って行ってあげて
下さい。あと……」
まだ何かあるのか、厄介ごとならあらかじめ早く言え。
「昇降口に長門さんがいます。彼女に会ってから、部室に向かってください」
今回の一件は宇宙人もグルなのか……ま、長門はお前なんぞよりずっと役に立ちそうだし、言われん
でも助言は仰ぐさ。
古泉が背を向けて、車の方へ戻っていくのを確認しつつ、俺も校舎へと歩を進めた。
後は野となれ山となれ、あれこれ気に止んでも仕方ない。

「よ、長門。久しぶりだな」
「待っていた。貴方とは終業式のとき会った。久しぶりというほどでもない」
古泉の言う通り、昇降口で長門が待っていた。お前も、何か俺に言いたい事があるんだよな。
「まず1つ。今回の件は、涼宮ハルヒが見た夢の中の出来事として収めることは出来ない」
……夢オチはなし、ということか? なんで今回に限ってそうなんだ。
アイツを必要以上に刺激しないためには、「全部夢でした」で収めた方がいいんじゃないのか?
「夢ということにすると、涼宮ハルヒのストレスは解消しない。むしろ増大する。
涼宮ハルヒを完全に満足させることが出来なければ、この空間は消えない」
つまり今回は、全て現実の出来事として、どうにかハルヒを満足させて事態を収拾しろということか?
「そういうこと。だから……」
長門は俺の目を見つめ、言葉を一旦区切ると、
「いつものように、貴方が唐突に目の前に現れると、整合性が取れない」
そりゃそうだ。俺はこなたたちと違って、アイツに呼び出されてきたわけじゃないからな。
……だとすると、どうすりゃいいんだ?
「簡単。涼宮ハルヒが貴方を部室に呼び出したことにする。情報操作は得意」
別に悩むこともなかったか。お前の力をもってすればお手のものだしな。
「貴方の携帯電話と、涼宮ハルヒのそれを操作。呼び出しのメールを出したことにする……
情報操作完了。確認して」
長門の声に促され携帯を確認すると、あるはずもないハルヒからのメールがしっかりとそこにあった。

「キョン。やっぱり今日、話を聞くわ。すぐ部室に来なさい。
あたしお昼食べてないから、何か差し入れ持って来なさい。
あたしの質問に納得いく答えをしなかったら帰れないから覚悟しなさい。
来ないと死刑だから」

……偽メールと分かってても嫌なモンだな。で、ハルヒのヤツは今、部室で何してんだ。
「涼宮ハルヒは疲れて部室で眠っている。貴方が部室に入れば起きるはず」
分かった。いろいろありがとうな長門。
「要件はこれだけ。あと、最後に1つ……」
次に来る台詞は「また図書館に」だと思った俺の耳に入ってきた言葉を聞いて、俺は呆然とした。
「……スケベ」

しばらくして気が付くと(おそらく1分も経ってなかっただろうが)、長門の姿はもうそこになかった。
そりゃ……長門は知ってるだろうな。こなたたちとのことを。
朝比奈さんにまで知られていたら死にたくなるが……今はそんなことを考えている場合ではない。
長門の思わぬ一言にやや動揺しながら、俺は上履きに履き替え、まるで死刑台に向かう死刑囚のような
心持ちで、足早に文芸部室へと向かったのだった。


2

文芸部室の扉を開く音に気づいたとき、あたしは自分がいつの間にか眠っていたことにも気づいた。
そして、そこにいるヤツの顔を見たとき、完全に眠気は吹っ飛んでしまった。
「なんであんたがここにいるのよ!」
「……おいこら、人をメールで呼び出しておいて、なんでここにいるのもクソもあるか!」
は? あたしメールなんかしてないわよ。
怪訝そうなあたしを一瞥すると、キョンは自分の携帯を開いて、私の目の前にかざした。
「じゃ、このメールはどこのどなたさんからのものだ。明らかにお前のアドレスからだが」
キョンの携帯の画面には、あたしが出したと思しきメールの文面が映し出されている。
席に戻って鞄から携帯を取り出してチェックすると、確かに送信記録が残っていた。あたし……
無意識のうちにキョンにメールを出していたの?
「ほれハルヒ。お前、昼飯食ってないんだろ。お望みの差し入れだ」
そのキョンの言葉で、あたしは自分が酷く空腹だということに気づいた。
……ま、いいわ。どうせキョンとはきちんと話をしなきゃいけないし。
キョンの手からビニール袋をひったくって、紙袋を取り出すと、あたしはまだ温かいチーズバーガーに
かぶりつきながら、キョンをどういう手順で尋問するか、考えをめぐらした。
「……せわしないヤツだな。俺はちゃんと昼食ったし、寄越せなんて言わんから落ち着いて味わえよ」
やけに落ち着いているキョンの声。あんた、自分が置かれている立場を理解しているのかしら。
それとも、いずれバレると分かっていて、覚悟済みってことかしらね。
どっちにしても容赦はしないけどね。腹が減っては戦は出来ぬというし、直ぐに戦いの準備を
整えるから、神妙に待ってなさい。


3

碌に味も分からぬだろう食い方をするハルヒを横目で見つつ、俺は今更ながら、この場で自分がどう
振舞うべきなのかを考えてみた……が、結局のところ、結論は1つしか出せなかった。
この期に及んで取り繕うだけムダだ。
こなたたちは俺に対する気持ちも含めて、一切合財、ハルヒのヤツに話しただろう。ハルヒもまた、
自分が聞きたいことを容赦なく、あいつらから聞き出したに違いない。
俺も同じように、ハルヒに対峙すべきだろう。
古泉のヤツは俺に「涼宮さんにきっちりと、貴方を諦めさせてあげてください」なんてことを言って
いたが、具体的にどうすりゃいいんだ。ハルヒの方から告白してくれば、そりゃ……お前とはそういう
関係になる気はないと断わることはまあ……出来るといえば出来るが、まさか俺の方から、
「ハルヒ。お前、俺のことが好きらしいが、俺はそんな気はないんで諦めてくれ、頼む」
なんてことを言うわけにはいくまい。イタいことこの上ないし、俺の思想信条にも著しく反する。
それにこれを聞いたら、間違いなくハルヒのヤツは怒り狂うだろう。こんな風にな。
「自惚れんな、このアホキョン! あんた何様のつもり?
だいたい、いつあたしがあんたを好きって言ったのよ! そんな記憶はどこをどう探してもないわね」
と。

それでは……もしハルヒが今日、この場で俺に告白してきたら、俺はどうしたら良いのだろうか。
誠心誠意、理路整然と理由をあげて断わったら、それで万事オッケーなのだろうか?
どんな方法にせよ、ハルヒの告白を断わったら、この閉鎖空間から出られなくなりました。
愛しき俺の世界よさようなら、フォーエバー! なんてことになったら目も当てられん。
だからといって、命惜しさにハルヒの告白を受け入れるなんてことをしたら……ハルヒはあれで
鋭いヤツだから、俺の言葉の真意を即座に見抜くだろう。そっちの方が危険かもしれん。
それに、仮にそれで無事に帰れたとしても、こなたたち4人に合わせる顔がない。というより、
俺自身が自己嫌悪で首を吊りたくなるか、樹海に行きたくなるに相違ない。
それよりも何よりも、俺自身がハルヒのことを好きなのか嫌いなのか、という問題がある。
俺はこれまでハルヒを、そういう目で見たことがなかった。
「恋愛なんて気の迷い、精神病の一種」なんて公言する女を、誰が彼女にしたいと思うものか。
たいたい俺に対する普段の態度にしても、好きな男にとる態度とはとても思えん。
あれで喜ぶのは真性のマゾくらいだ。
もしかしたらハルヒのあの持論は本心ではないのかも知れんが、俺がその可能性をわざわざ斟酌して
やる義理などないわけで、妙な気を起こすよりもさっさと恋愛対象から外して、お守役、ないしは
更正役に徹するのが、賢い身の処し方なのだ。それが俺の出した「解答」だった。
……では、もしハルヒのその持論が今日、ヤツの本心ではないということが判明した場合に、俺は
どうしたら良いのだろうか。
その事実を無視して、これまで通り「涼宮ハルヒは恋愛対象外」という解答を貫くべきなのか、
あらためて彼女候補の1人として、問題を真剣に考え直すべきなのか……
俺はどうすべきだ、俺はどうしたい……
宿題を伸ばし伸ばしにした挙句、にっちもさっちもいかなくなり、正誤はともかく提出しなければ
ならない立場に今、自分が追い込まれているのははっきり分かるが、それでも俺は答えを出しかねて
いる……
こんなときですらメタな分析に走り、自分のことすら他人事のように考えてきた、今までの生き方に
対するツケを払わされる時が来たのだな。


4

今日はこなたたちに激しく当たっちゃったけど、あれってやっぱり、お腹が空いていたのも原因
なのかもしれないわね。満腹の状態で激怒するのって難しいし……って、これからキョンを尋問
しなきゃいけないのに、落ち着いていてもしょうがない。まずは機先を制することね。
キョン……今日、こなたたちからあんたとのことを、洗いざらい聞いたんだけど、話を総合して
1つはっきりと分かってしまったことがあるの。
「……何だ?」
「あんたってやっぱり変態だったのね!」

「な……」
思ったとおり、キョンは一つ声を上げて絶句している。キョンが目を白黒させているうちに、一気に
畳み掛けてやる。
「つかさから聞いたんだけど、あんた、つかさのスカートの中に無理矢理顔を突っ込んで、舌で
つかさの<禁則事項>を舐め回したり突っ付いたりしたんだってね。つかさが『漏らしちゃうから
キョン君止めてよ』って泣いて頼んでるのに、あんた、こなたとかがみが止めるまで興奮してつかさを
責め続けて、つかさ、あやうく漏らすところだったって……
あんた、黄金水を顔に浴びる趣味があったのね。知らなかったわ」
「おいこら、話が微妙に違うぞ!」
「それにあんた、みゆきにパイズリさせて胸と顔を汚したり、かがみに<禁則事項>を根本まで咥え
させて、口の中に出した上に飲ませてるらしいわね。あと、こなたに足コキさせたなんて話も聞いた
わよ。パイズリに口内射精に足コキ……あんたAVの見過ぎ! いかにもモテない男のしそうな事ね!
女の子相手に、それも処女相手にそんなプレイを強制するんじゃないわよ。この変・態・野・郎!」
「ハルヒ、それじゃ俺が嫌がるこなたたちに、無理矢理してるみたいじゃ……あと、足コキは
してねえ!」
……ディテールが違ったところで、大筋はあってるから、きっちり反論は出来ないみたいね。
「生娘4人を弄んで傷物にしたなんて、世が世なら打ち首獄門よ。実際、うちの学年の男共に
バレたら、あんた本当にぶっ殺されるわよ!」
「俺は弄んだつもりはねえぞ……俺とこなたたちとの関係を、不当に貶めるんじゃねえ!」
一応怒ってはいるみたいだけど、いつかの映画撮影のときみたいな爆発力はないわね、キョン。
今のこなたたちとの関係について、後ろめたいっていう気持ちはちゃんと持ってるみたいなのは、
少し安心したけど、ここで甘い顔はしないわよ。
徹底的に叩いてこいつの本心を確かめないと、あたしも前に進めないしね。


5

ハルヒに出会ってから、今日この日に至るまで、こいつのいきなりな物言いには十分に慣れている
つもりだったが、開口一番
「あんたってやっぱり変態だったのね」
の一言から始まる言葉の奔流には、流石の俺も抗うことが出来なかった。
思えば今日は、古泉にはハーレムの王様呼ばわりされ、長門にはスケベと言われ、ハルヒには
変態呼ばわりされるなど散々だ。
これで朝比奈さんにまで何か言われようものなら、その場で首を吊りたくなるか、樹海に直行したく
なりそうだ。気分的に、な。
ま、それに対してきっちり言い返せないのだから、我ながら情けなくもある。
まあ、とりあえずハルヒの腹の中に溜まってるものは、ここで全部吐き出させた方が良さそうだ。
俺のターンはまだ、回ってきそうにはないし。
お小言を頂戴する覚悟を決めた俺の耳に、次なるハルヒの言葉が飛び込んできた。

「あんたのその性格は、やっぱり矯正するべきね。今のまま高校を卒業して大学に行ったりしたら、
虫も殺さぬあんたの顔に騙されて、泣きを見る女が絶対出てくるに違いないわ!
そのうち、そんな女の一人にぶっ刺されて、マスコミの格好の餌食にされるのよ。
で、当然あんたの過去は洗いざらい晒されて、真っ先に高校時代に所属していた我がSOS団の存在が
スクープされ、好事家たちのいいおもちゃにされるわけ! ここの生徒や教師にインタビューが
殺到すれば、あたしらの団のことをよく思っていない奴らが、好き勝手なことをあれこれ、背びれや
尾びれをくっつけて喋るに決まってるし、男2人に女7人の集まりなんて、下種なマスコミの連中から、
乱交サークル呼ばわりされて、結果、SOS団の名声は、地に落ちて泥に塗れる事になるのよ!
そんなことは許さないわ!」

……おいこら、勝手に人の未来を予想すんな。なんで俺が女を食い物にするジゴロになるんだよ!
俺が女に刺されることは確定事項なのか。おまえが言うと現実になりそうだから止めてくれ。
だいたいSOS団に、地に落ちたり泥に塗れたりする名声なんぞあるものか。
流石にこんな物言いでは、黙って聞いていることも出来ず、こっちも反論してみたりするが、
団長さまはどこ吹く風、さらりと聞き流して言葉を続ける。
おまえ、俺とコミュニケートする意思ないだろ?

「キョン……あんた、高校卒業するまでに彼女、作りなさいよ。
あんたがこなたたちの事、遊びだと思ってるわけじゃないことは認めてあげるけど、こういうことは
ちゃんとしないとダメよ」

勝手に人の未来予想図を作り出して、仮定のシチュに怒り狂っていたかと思えば、いきなり諭すように
こんなことを言うのだから、ハルヒというのは本当にわけの分からん女だ。
「今日、こなたたちにもあんたとの関係についてちょっと怒ったんだけど、その後少し考えてみたの。
こなたたちが身体を張ってまであんたと向き合う理由……あたしには分かる気がするわ」
ぜひお聞かせ願いたいね。

「前から思っていたけど……キョンってさ、女の子からの好意に対して異常に鈍いわよね。
元々鈍感なのは間違いないにしても、あんたのは、純粋な鈍感さとはやっぱり、違う気がする。
なんていうか……あんたって、女の子からの好意を、是が非でも好意ととらないように頑なに
自制している感じがするのよ」
なんでそんなことが言えるんだ、それに、恋愛否定論者のお前が言うことじゃないよな。ハルヒ。
「……図星か。あんたって図星を突かれると、割りとムキになるわよね。
キョンって女の子から面と向かって『好きです』って言われても、『なんで俺みたいなヤツを』とか、
『お前にはもっと相応しい相手がいるはず』とか、マジ顔で相手を諭しそうだもん。
多分これまで、告白する前に脈なしと見て、あんたの事を諦めた女の子、結構いるはずよ。
ホント、勿体無いわね。バカじゃないの」
それはまた随分と買い被られたものだ。まさかハルヒからこんな言葉を頂戴できるとは……

「ほら、キョンはすぐそういうこと言って、自分の本心を隠そうとする! 
こなたたちは、あんたに自分の気持ちを分かって貰うためには、言葉や態度で示すだけじゃ、
到底ムリだって分かってるから、身体まで許したんじゃない!
あんたも分かってるとは思うけど、こなたたちは、そんなに簡単に男に対してそういうことを
平気で出来る子じゃないわよ。あんたの不甲斐なさが、こなたたちを焦らせている面もあるの!
そこんとこよく考えなさい!」

最初に一方的にまくし立てて怯ませておいて、後で理路整然と畳み掛ける。
ハルヒは思うが侭に振舞っていると見せかけて、実はちゃんと考えてやがるんだな。忌々しい。

「ま、これもしょせん理屈付けで、あの子達の本心はもっとシンプルなのかもよ」
どういう風にシンプルなんだ。俺が好きだっていうことか?
「ちょっと違うわね。好きな人とはエッチしたい、ってことよ」
思わず絶句した俺に、ハルヒがさらに言葉を続ける。
「一つ聞いてみるけどさ、キョン、あんた私とエッチ出来る?
ここであたしに迫られたら勃起する?
やりたいと思う? やれる?」
ちょっと待てハルヒ。話が何やらおかしな方向に向かってるぞ。今はこなたたちのことを……

そんな俺の言葉を遮るように、ハルヒは話を続ける。
「私は出来るわよ。今日もね……こなたやかがみたちの話を聞いてて、すごく興奮したし。
4人を帰した後、あたしがここで何してたか分かる? キョン。
こなたたちの話を思い出しながら……指を使ってた……オナニーしてたの。キョンとエッチなことを
してるのを想像しながら……ね」
やめろハルヒ。おまえ、自分が今、何を言ってるのか分かってるのかよ!
「何が『やめろハルヒ』よ。あんたこそ、あたしが何を言いたいのか理解してるの?」
少し赤い顔で涙を浮かべながら、ハルヒは俺のことを睨みつけた。
「あたしは悔しかった! キョンはこなたたちのことを、きちんと女の子として意識してる。
なのにあたしは……2年間も同じクラスにいたのに、キョンから女の子として見て貰えなかった。
今日、こなたたちから話を聞いて、はっきりと悟ったわ。
あたしはこなたたちに、女として負けたんだ、ってね」
俺が今まで見たこともない悲しそうな顔をしながら、ハルヒは笑っていた。

「もうあたし、意地張るのも、我慢するのも疲れちゃった……
あんたとこなたたちが仲良くなって、4人のうちの誰かがキョンの彼女になっても、それで良いって
無理矢理納得しようとしてた。どうせあたしは選んでもらえないんだから、どうでもいいやって。
でも、やっばりダメ……女として負けたくせに、それでも諦められない。
あんたは私のこと好きじゃないかもしれないけど、あたしはあんたのこと好きよ、キョン」


6

まさかあのハルヒが……こんな形で俺に告白してくるとは思わなかったぜ。
あのハルヒにここまで言わせておいて、やっぱり黙っているわけにはいかないよな。男として。
事態を収拾するためにも、俺はここできちんと、ハルヒの告白に応えなくてはいけない。
「ふふっ。キョン、あんた今、すんごい間抜けな顔してるわよ。あんたの顔は一応、辛うじて
イケメンに入るくらいのレベルはあるんだから、もっとしゃきっとしなさい!」
流石に照れたのか、憎まれ口を叩くハルヒ。不覚にも可愛いと思ってしまった。
気が付くと、おれはこう答えていた。

「こなたたちに女として負けた、とお前は言うが、俺が思うにそれは違うぞ、ハルヒ。
告白された当人が告白したヤツにこれを指摘するのも何だが、おまえ一体いつ、誰と戦ったんだ。
負ける事が出来るのは戦ったヤツだけだ。戦わずして負けるのは、ただの不戦敗だ。
そんな負け方は、おまえの主義信条に著しく反するものだと俺は思うが」

俺の言葉を聞いたハルヒは、「ハァ?」とでも言いたそうな表情で、しばらく何やら思案していたが、
何やら感じ入った様子で一言、
「あんた……最近真面目に勉強してるせいか、少しは頭が良くなったんじゃない」
などと、褒め言葉ととるには幾分努力を要する、微妙な返答をしやがった。かと思うといきなり、
俺の首下を締め上げて怒鳴り始めた。
「……ってことは、何? キョン、あんたあたしに、あんたのハーレムに入れって言うわけ? 
このスケベ! あんたやっぱりあたしとやりたいんじゃない!」
いや、別に嫌なら構わんが、女としてこなたたちと戦うなら、同じ条件でやるのが筋じゃないのか。
当人の俺が言うのもなんだが。
「ホントに『おまえが言うな』よ。でもまあ……惚れた弱みってことなのかな」
何の弱みだ、よく聞こえなかった。
「聞こえないならそれで良いわ。ま、あたしに病気をうつした責任はきちんと取って貰わなきゃね。
覚悟しなさい、キョン」
……ハルヒ、病気をうつした云々という言い方は、人が聞くと別の意味に取るから勘弁してくれ。


7

あんたが争奪戦に参加しろと言った以上、覚悟は出来ていると見なしていいのね?
参戦が遅かった分、少し差を詰めさせて貰わないとフェアじゃないしね。少なくともこなたたちと
しているレベルのことは、あたしもさせて貰うわよ。
あたしも女だってことを、物分りの悪いキョンに身体で分からせてあげるわ。
幸い、今日は校舎には人はいないみたいだし、校内で制服プレイってのも悪くないわよね。
……っていうか、今気づいたけど、あんたなに私服で部室に来てるのよ! ここは学校よ。
TPOはちゃんと弁えなさい、まあ……いいわ。
それはそうとキョン……あんた、こなたたちともまだ、学校でしたことないんでしょ。
あたしが高校時代の思い出に、制服プレイをプレゼントしたげるから、感謝なさい!
「ハルヒ……その、いいのか?」
なに聖人ぶってるのよ、こなたたち4人相手にしてるくせに。それにあんた、童貞じゃないんでしょ。
黒井とこなたの従姉に2人がかりでやられたんだってね。
ま、チンポが勃ったからセックス出来たんだろうし、同情はしないわよ、このエロキョン!
「あいつら……そんなことまで話したのか!」
あたしはキョンの手を引っ張って、文芸部室のドアを開いた。時間が勿体無いし、なんかもう
我慢出来なくなってきた。
「どこに行く気だ、ハルヒ」
……まずはトイレね。あんた、夏休みに行った温泉旅行で、目の前でつかさにオシッコさせたん
だってね。女の子が用を足しているところを見るのが好きなんて、ちょっと人としてどうかと
思うけど、異常性欲は矯正するのは難しいし、ストレスを溜めてどっかでトイレの盗撮とかされても、
困るから、あたしがきちんと見せてあげるわ。
「おい、俺はつかさに無理矢理そんなことさせたりしないぞ。あれは……」
はいはい、一々弁明しなくていいわよ。変態でもあたし、キョンのことが好きよ。


勢いでキョンを女子トイレの個室(洋式)に引っ張り込んだけど、いざとなると流石に恥ずかしい。
物心ついてからというもの、人に<禁則事項>を見せたことなんかないし。
「な、ハルヒ……恥ずかしいならムリしてこんなことしてくれなくても……」
良くないわよ。あたしはすると言ったら絶対にするの。
あんたも長い付き合いなんだから分かってるでしょ。
便座を下げて、パンツを足首まで下ろして腰掛ける。普段はそこまでパンツを下ろさないけど、
足を開かないと、出るところがきちんと見えないしね。
「ハルヒ……可愛いの穿いてるんだな」
ちょ……いきなり何行ってんのよ! あと、さっきオナニーしてちょっと汚れてるんで、あまり
クロッチの部分とかまじまじと見ないで欲しい……って、キョン!
何もう興奮してんのよ、エッチ。


8

緊張しているからなのか、なかなか出ずにハルヒも、もじもじしながら焦っていたが(そんな様も中々
可愛かったが、本人に言うと殴られそうなので黙っていた)、ようやく催したのか、チョロチョロと
始まったときは、正直大興奮してしまった。なにせハルヒのヤツ、良く見えるように、指でわざわざ
<禁則事項>をおっ広げているのだから……それを見た俺の<禁則事項>が青筋立てたからとて、
誰が責められよう。
ガキの頃、妹の下の世話をさせられたことはあるが、それとは全然違う……って、そりゃ当たり前だ。
全然違わなかったら人としてヤバいしな。

で、問題が勃発したのは事が済んだ後……つまりアレだ、紙がないというやつだ。
ハルヒに言われ、他の個室や隣の男トイレ、用具入れを探してみたが、なぜかトイレットペーパーは
見つからず。
女は大も小も紙を使うんだから、ちゃんとストックくらい用意しとけよな、と一人怒った後、
致し方なくその旨、ハルヒ様に言上すると、
「いいわ。じゃ、キョンが拭いて」
と仰る。だがなハルヒ、俺に拭けといわれても、俺もポケットティッシュなんぞ持っていないぞ。
「紙なんて要らない。キョンの舌で舐めて拭いて」
……はい? ハルヒさん、貴女今なんと仰いましたか? あるまじき言葉が聞こえたような気が……

「だ・か・ら、舌であたしの<禁則事項>を舐めて拭いてって言ってるの。出た直後は雑菌もほとんど
ないし、飲尿健康法なんてのがあるくらいだから、少しくらい飲んでも大丈夫よ。あたし別に病気も
もってないし、匂いもそんなにきつくないしね。
だいたい、こなたたちのも散々舐めまわしてるんでしょ。あたしのだけ嫌だなんて言わないわよね、
キョン? 女の子があんな恥ずかしい所を、目の前で見せてあげたんだから、あんたもこれくらいの
ことはしなさいよ……」

ここまで言われると、相手がハルヒであれ、到底嫌だと言えないのが男としての悲しい性だ。
……箇所が箇所なだけに「舌で拭く」だけで済むはずもなく、延々10分もグチョグチョと舌でご奉仕
させられ……もとい、ご奉仕させていただくことになったのは、当然の帰結といえよう。
「キョン、あんた舌技上手いわね。さすがにこなたたちが絶賛するだけのことはあるわ。すごく
気持ち良かったわよ」と褒められたあとで、
「あと……ちゃんと口を濯ぎなさい。その口でキスしたりしたら殺すわよ!」
と言われ、余韻を壊されたのもまあ、ご愛嬌ということで。


9

ちょっと腰に力が入らない状態で、それでも強引にキョンを引っ張って、次に来たのは保健室。
当然鍵が掛かっているんだけど、ドアをこう、少し前にずらしてから開けるとあら不思議、鍵が
かかっているのに開けられちゃうのよね。
「お前……こんなことをどこで覚えたんだ」
まあいいじゃないそんなこと。それよりも、キョンのそのおっ勃ったの、何とかしないとね。
キョンをベッドの上に座らせ、あたしも横に腰掛けると、ズボンの上から擦ってみる。
「カチカチじゃない。あたしが今すぐにラクにしてあげる」
キョンをベッドに寝かせると、ちゃっちゃとズボンとトランクスを脱がせる。キョンはされるがまま、
息遣いが少し荒くなっているのが分かる。
ちょ……かがみのヤツ、ホントにこれを根本まで咥えてるの? こんなの口の中に納まるはずないじゃ
ない。顎が外れたりしたらどうするのよ!
「大袈裟な……俺のモンは、そんなに並外れてデカくはないぞ」
キョンの謙遜はともかく、実際問題、かがみの真似をするのは無理そうね、悔しいけど。
フェラチオなんて当然したことはないけど、あたしも年頃の女だから、そのテの雑誌記事なんかは
読んで日々、イメージはしている。けど、キョンを気持ちよくしてあげられるかは分からない。
……亀頭の部分って勃起しても柔らかいけど、竿の部分はこんなに固くなるのね。
竿を手で擦りながら、先っぽの部分を舐めてみたり、吸ってみたり……男の子のオナニーって
こんな感じなんだよね。どう、キョン、気持ちいい?
この透明のヌルヌルしているのってカウパーだよね。もう少し頑張れば白いのが……
そんなことを考えながら手と口を動かしていると、
「ハルヒ……そろそろ出そうだ……このままだと口に……」
服や髪に飛ぶと後始末が厄介そうだし、保健室の布団やシーツを汚すのも……となると、口で受ける
しかないじゃない!
こなたやつかさは「精液は味がアレだから口では……」なんて言ってたけど、かがみは「美味しくは
ないけどキョン君のだから飲める」って言ってたし、みゆきも「慣れれば飲み込めないことはないと
思います、私はまだムリですけど」と言ってたっけ。
あたしは属性的にみゆき・かがみ組だろうから、頑張れば口で受けられるはずだ。
「キョン、いいよ……口の中に出して」
口内射精なんてAVの見過ぎ、とキョンを窘めておきながら、いさ自分がキョンとする側に立つと、
要らぬ対抗心が湧いてきて、結局あたしも、キョンに口内射精を許してしまった。
結論、精液は不味い。好きでもない男のを口で受けるなんて絶対嫌! 飲むなんてもっての外ね!
「ハルヒ……あのな、飲み込んでから本人の目の前で文句を……いや、文句じゃないのか」
悪かったわね、素直じゃなくて。


10

男というのは悲しい生き物だ。
いや、悲しいとか何とか言うより、所詮はこんなものなのだろう。
ハルヒのプロポーションが抜群なのは、バニー姿やら水着姿を見てよく分かってはいたが、正直、
抱いてみたらどうかなんてことは考えたことがなかった。
そういうことを微塵でも考えようものなら、知らず知らずのうちに態度に出そうだという心配も、
確かにあったが、ハルヒとそういう関係になるということ自体が、たとえそれが妄想上のことだ
としても、俺にはてんで想像が出来なかったのだった。
そんな苦悩?も、ハルヒと肌を合わせたら、あっという間にすっ飛んでしまった。
ハルヒの口の中に放出した後、しばらくハルヒを抱っこしてベッドに横立っていたが、回復すると、
俺はもう我慢出来んとばかりにハルヒの服を脱がせ、ハルヒに服を脱がされ、一糸纏わぬ姿で激しく
絡み合ったのだった。
俺はこんな中でもなんとか理性を保って、最後まではやるまいと心に決めていたのだが、ハルヒの、

「キョン。あたしもう我慢出来ない。処女をあげたからあたしを選んで、なんて言わない。
あたしの初めてをキョンにあげたいの。キョンが初めての相手じゃないと、あたし一生後悔しそう」

という言葉に負け、ハルヒに怒張した自分の一物を突き立ててしまった。
「痛い……けど、嬉しい、キョン。あたし、今日のこと一生忘れないから」
俺もハルヒの感じている痛みとは若干違う痛みを心で感じながら、ハルヒの様子を気遣いつつ腰を
動かし、そして……
ハルヒの引き締まった腹の上に、ハルヒの血の混じった白いモノを放出したのだった。
いや、出すまでにいろいろと言ったり触ったりしたのだが、自分の口から詳細を語るのは恥ずかしい
のでこのくらいで勘弁してくれ。

「キョン……シーツ、少し汚しちゃったわね」
極力汚さないよう気を使っていたのだが、することをすれば、各種体液が飛び散ってしまうことは
避けられぬわけで、これはまあ致し方ないと言ったところだろうか。
「気休め程度だろうけど、窓空けて少し換気しましょ」
冷たい風が吹き込んでくる。汗ばんだ身体には心地いい。
「やっぱり……すこし匂うわね。水泳部の部室にシャワーがあるから軽く流しましょ」
「ハルヒ、やっぱり痛かったか。歩き方が……」
「痛いし、まだなんか挟まってる感じがする。キョンのってやっぱり大きいと思うわよ」
ハルヒの肩を抱いて、俺たちは保健室を後にした。
「キョン、言っとくけどシャワーを使うだけ、今日はもうダメよ、ていうかムリ」
分かってるさ。ぶっちゃけ、俺ももう出ないし。

「……こなたたちには悪いことしちゃったわね。明らかにルール違反だし。ま……団長のあたしに
黙って、キョンとそんな関係になっていたことに対するペナルティということにするわ。
それにさっきも言ったけど、これはあたしの気持ちの問題で、別にキョン争奪戦を優位に進める
ためじゃないしね。
あ……あと、今日はありがとね、キョン」
ハルヒとセックスしたことは後悔してないが、俺もこなたたちに対しては、正直後ろめたい。
それに……古泉のヤツになんて説明したら良いのやら。

その後、シャワーを使った俺たちは、どちらからともなく寄り添いつつ、学校を後にしたのだった。
校門を無事出ることが出来た時は正直、胸をなでおろした。ハルヒを「満足」させたことで、
閉鎖空間も消失したようだ。
手段の是非については、立場によって判断は異なるだろうが、とりあえず課せられた任務は果たした。


11

「いやはや……確かに無事、閉鎖空間を消失させていただいたわけですから、文句を言う筋合いは
ないのですが、まさかそんな形で、事態を収拾なさるとはね」
電話の向こうの古泉の声は、俺にはやや皮肉混じりに聞こえた。いや、実際に皮肉がかなり多めに
入っているのだろう。6.5対3.5ってところか?
「好きな人に思いを伝えられない辛さを身を持って知っている貴方ならば、涼宮さんに対して
よもや同じことはしないだろう、と信じていました。その点については貴方を信用して、涼宮さんの
説得を任せた甲斐があった、と思うのですが……」
ここで言葉を切り、一つ咳払いをすると、古泉一樹は言葉を続けた。

「泉さんたち4人だけでは飽き足らず、涼宮さんまでご自分のハーレムに入れるという暴挙……もとい
決定については、まあ、何と言いますか……先に申し上げたことはこちらの一方的な考えですし、
貴方が何としてもそうすると仰るなら、僕は何も言いません。せいぜい血の雨が降るような事態を
招かないようお願いします。まあ……もう手遅れかもしれませんが。
機関の思惑とはまた別に、貴方がどのような結論を出されるのか、個人的に楽しみにしていますよ。
……それではおやすみなさいませ」

電話は切れた。
まあ古泉にしてみりゃ、嫌味の1つ2つ言いたくなるのは分かるし、俺もその程度は甘受しよう。
問題はこれからだ。勢いに負け、ハルヒと最後まで致してしまったのだ。
こなたたちがこれを聞いたら、なんというだろうかね。
ハルヒは別れ際、俺を目の前にしてはっきりとこう言った。
「こなたたちに宣戦布告するわ! 年明けから進軍を開始するから覚悟して待ってなさい!」
いったい何と言ってあいつらに「宣戦布告」するのだろうかね。もしやとは思うがまさか……
「あたしもうキョンと、することしちゃったのよ。お先にごちそうさま。
あんたらがモタモタしてんのが悪いのよ!」
なんて言ったりしないだろうな? 口止めしとくべきだったか?
そういや古泉のヤツも、もう手遅れかもしれませんが、なんて不吉なことを言ってやがったな。
今からでもハルヒに電話して、口止めしとくべきなのだろう。
もし、そうなりゃ急ぐに越したことはない……が、そう考えたときにはもう、既に遅かった。
俺が携帯を取り上げたちょうどそのとき、俺の携帯が音を立てて鳴り出してしまったからだ。
……一番乗りはかがみのようだ。

どうやら本格的に、観念しなけりゃならないみたいだ。とんだ年末年始になりそうだ。
やれやれ。

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最終更新:2010年04月25日 22:05
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