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引越し当初は1人で住むには広すぎると感じた14畳のワンルームも、こうして見ると非常に使い勝手の
良い代物であると分かる。
そう……こうやって布団を繋げれば、悠々と5人並んで寝られるわけだからな。
……それにしても昨日はちと、ハメを外しすぎたな。身体が重い、そしてダルい……
台所から漂う匂いにつられ、朦朧としながら身体を起こすと、その気配に気づいたのか、隣で寝ていた
ハルヒが目を覚ましたようだ。
「んー、キョン……今何時?」
「10時半だな……なんだかんだで、6時間くらいは寝てたのか」
「そうね。そろそろみんな起こした方が良くない? つかさなんて起こさないといつまでも寝てるわよ」
そうだな……ってつかさ、お前下着のまま寝るなよ。風邪引くぞ。
「あと5分ー、お願いー」
「もうすぐ朝ごはんができますよ」
「朝ってより朝昼兼用ね。ごめんみゆき。1人で任せちゃって」
「かがみ、アンタ相変わらず寝癖凄すぎ」
「髪質なのかしらね……あんたも横、寝癖ってるわよ。シャワー借りるね。キョンも一緒に入る?」
5人で過ごした週末の朝は、いつもこんなもんだ。
どことなく緩んだこの雰囲気が、俺は好きだ。
……決して褒められたもんじゃないことは分かっているがな。
わざわざ説明するまでもなくこの状況を見てお分かりのように、結局俺は……この5人から1人を選ぶ
ことが出来なかった。
恋人同士にならないうちから、あまりに濃厚な時間を共有しすぎたせいで、誰か1人を選んで、
その他
全員とは関係を切る、ということが考えられなくなってしまったのだ。
決断期限は「SOS団の卒業旅行の時まで」と決められてはいたが、いくら考えても、俺は自分を納得させる
答えを導き出すことはできなかった。
結局俺の出した結論は……
「考えに考えたが、現時点では誰と付き合うかは決められない。出来ればもっと時間が欲しい」
というものだった。
2
どうなるかはハルヒやこなたたち5人次第……情けないことに、結論を女性陣に委ねたのだ。
この答えを考えた時点で、俺は5人全員から愛想を尽かされ、絶交されるだろうと覚悟していた。
事実、卒業旅行最終日に皆の前で結論を迫られ、こう答えた時、朝比奈さんと鶴屋さんに責められたしな。
「キョン君は卑怯です。なんできちんと答えてあげないんですか。それでも男ですかっ!
ここで涼宮さんたちに問題を丸投げしてどうするんですかっ!」
「いやいやキョン君、優柔不断もここまで来ると立派な病気っさ! こんなのは優しさでも何でも
ないにょろよ」
長門は何も言わなかったが、目を見れば、俺を非難しているのは分かる。
そして古泉はというと、相変わらず表向きの表情からは真意が見えないが、さぞかし呆れていること
だろう。
が、この場でそんな、にこやかなスマイルを浮かべているというのも不自然だぞ。何か言ってくれ。
3
「朝比奈さんと鶴屋さんの仰ることも、よく分かります。
ですが、これは彼と涼宮さん、泉さん、かがみさん、つかささん、高良さんたち6人の問題です。
彼の意向が明らかになった今、最終的には彼女たちの判断に委ねるべき問題かと」
……彼の性格を考えれば、この答えは十分想定できるものではありますが、流石に積極的に擁護は
出来かねます。この程度が精一杯です。
ただ、彼の「何か言え」という視線を感じましたので、とりあえず一言、言ってはおきます。
正直、僕に振られても困るんですよ。特にこんな話題はね。
やはり当事者の意見が一番尊重されるべきでしょう。特に涼宮さんの……ね。
「選ぶだけなら、やろうと思えば今のキョンにだって出来るでしょ。どんな理由でもよければ、だけど。
ただ、今のキョンがどんな理由で誰を選んだところで、選ばれた子も、選ばれなかった子も、とても納得は
出来ないし、当のキョン自身も結局は、後悔する結果になるのは目に見えてるわ!
いいわよ、私は……キョンの言うように時間をあげてもね」
……意外でした。
僕は流石に今のキョン氏の言葉で、涼宮さんは彼に愛想を尽かして、すっぱり訣別するかと思ったの
ですけどね。
「ん~、私もハルにゃんに同意、かな。出来ればこの場でスパッと決めてもらいたいって気はあるけどね」
「私もキョン君に拙速な決断は求めません。選ばれるにしろ、選ばれないにせよ、きちんと納得したい
ですから」
泉さんと高良さんも、涼宮さんに同意ですか。
「……正直、今までの付き合いで、私ら5人の間に有意な差が出来たとは思えないわね。
ここで無理に決められると、私ら5人の間にも遺恨が残りそうだし、私もハルヒの意見に賛成」
「キョン君がそう言うなら、私はいいよ。選んでもらえるように頑張る」
柊姉妹もそれぞれ、涼宮さんの意見に追随します。
おやおや……これはまた、予想外の展開ですね。
「ただね、キョン。これだけは言っておくわ。
アンタが今日、この場で答えを出さなかった以上、結論には私たち自身の判断も入ることになるからね。
もし今日、アンタが私たち6人のうちから誰か1人を選んだら、選ばれなかった5人は有無を言わず身を引く
つもりだった。
それを引き伸ばそうって言うんなら、私たちの方からも、アンタを改めて選ぶかどうか考えさせて
貰うから!
……せいぜい、意中の子に愛想尽かされないうちに、結論を出しなさい!」
涼宮さんの一言で、こうして何ともすっきりしない展開のまま、SOS団卒業旅行は幕を閉じたのでした。
まあ、彼のこの結論を聞いたのが、旅行の終わりであったというのが、せめてもの慰めでしょう。
最初にこれをやられたら、せっかくの卒業旅行が気まずいものになったであろうことは、間違い
ありません。
現に帰りの列車内では、朝比奈さんも鶴屋さんも、そしてあの長門さんでさえも、明らかに分かるほど
憮然としていました。
キョン氏は今回の一件で、完全に彼女たちの株を下げてしまいましたね。
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「5人揃ったのって久々よね。午後からみんなで、どっかに遊びに行かない?」
そうね。言われてみれば、5人揃ってお泊りってのは、ほぼ2ヶ月ぶりかしらね。
あたしはちょくちょくここに顔出したり、泊まったりしてるけど、みゆきは流石に医学部だけあって
忙しいみたいだし、つかさやかがみ、こなたは実家住まいで、そうそう外泊も出来ない。
「ハルヒ、あんたの家って、ホント放任主義なのね。こんな頻繁に外泊して、ご両親は何も言わないの?」
……うち、両親共働きで、海外に出ることも多い仕事なんで、年に半分は家空けてるからね。
連絡は携帯にしかこないし、かかって来た時ちゃんと出れば、それで元気だって安心するみたい。
「うちはおとーさんが結構うるさいからなー。いい加減子離れして欲しいヨ」
「まあ……あんたんとこは、男親1人で1人娘なんだから仕方ないわよ」
「私はお姉ちゃんと一緒だって言えば、お父さんもお母さんも安心するみたい」
「ま、その点便利ではあるわね。まさか2人で、同じ男の部屋に泊まっているとは思わないだろうし。
みゆきんちは大丈夫?」
「うちは特に何も言われませんね」
「心配してないんだろうな。ゆかりさん、なんだかんだでみゆきのこと、信頼してそうだし」
「……その親御さんの信頼を裏切って、娘を毒牙にかけている男が何を言うかネー、キョン」
こなたの一言にみんな思わず爆笑。当のキョンも釣られて苦笑している。
ま、その辺りはお互い、アリバイ作りで協力し合って、なるべく時間を作りましょう!
1日は短いの。有効に使いましょう。夜は夜で、ちょっと趣向を変えて楽しみましょう!
こうして、あたしたち6人の週末は過ぎていく。
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「すみません、お待たせしてしまって……ああ、ホットを1つお願いします」
「大丈夫。私たちが約束の時間前にきただけ。気にすることはない」
「ごめんなさい、古泉君。私、実習が入ってて、週末は今日しかきちんと時間、取れそうも無くて」
月に1回の情報交換は、高校を卒業した後も、こうして続いています。
とくに朝比奈さんは、僕や長門さん、涼宮さんとは別の大学に進学されているため、涼宮さんと直接
接触する機会が激減しています。
さらにプライベートでは……なにせ涼宮さんが彼とあんな状態ですから、なおのことです。
今のところ、涼宮さんについて、僕らが憂慮すべきような事態は認められません。
ただ、これから先、その「憂慮する事態」が引き起こされる可能性は、実は結構高いのではないかと踏んで
います。
……彼がきちんと、お6方から1人を選んで、涼宮さんをきっちり振ってくれさえすれば、涼宮さんも
きっぱり彼のことを諦め、自分の足で歩き出すことが出来たでしょう。
そうすれば、僕たち3人も晴れてお役御免となった可能性は高いです。
それを考えると、彼に恨み節の1つ2つ唸りたくもなるのですが、なぜかそんな気にはなれません。
「……なんか、今が今の状況だけに、キョン君とも涼宮さんとも、連絡とか取り辛くて」
そういって俯く朝比奈さん。
「朝比奈みくる。貴女の気持ちは分かる。けど……任務に私情を交えては、ダメ」
労わるように長門さんが、朝比奈さんに声をかけます。
「まあ、今のところは彼も涼宮さんも、至極楽しく過ごしておられるようですし、朝比奈さんがそんなに
萎縮して、済まなそうにする必要もないとは思いますが……
キョン氏はともかくとして、涼宮さんとは一度、連絡を取ってみてはいかがです?
涼宮さん、たまに貴女の話をしますよ。『みくるちゃんは元気でやってるかしら』とね」
僕のこんな言葉など、さして慰めにもならないでしょうが、彼女みたいな人に悲しげな仕草をされると、
男としては何か、言わねばならぬという気持ちにもなるものです。
「今のような関係が、果たしてどこまで継続しうるものなのか、私には分かりかねる。
古泉一樹、貴方の意見を聞きたい」
そう言って、メロンソーダに口をつける長門さん。それに答えて僕も口を開きかけたとき、注文していた
ホットが届きました。
シュガーとミルクを入れて混ぜつつ、僕は改めて口を開きます。
「いつまで、と確たることは言えませんが、今のような関係が、未来永劫続くことなどないと思います。
どんな形であれ必ず、いずれは崩壊するでしょう」
「私は涼宮さんや泉さんたちも、いずれキョン君に愛想を尽かすんじゃないかな、と思います」
……そうですね、朝比奈さんのそのご意見、将来展望としては一番可能性が高いでしょう。
ありていに言えば、僕はそうなってくれるのが、一番良いと思います。
「そうすれば、流石に彼も反省して、目を覚ますから?」
それもありますが、そういう終わり方が一番、後腐れがない気がするからです。
彼の性格からして、自分から心が離れてしまった相手を、無理に追いかけて振り向かせようとは
しないでしょうしね。
僕が一番心配しているのは、「彼に他に好きな女性が出来て、5人との関係を解消しようとする」
というケースなのです。
「その可能性は?」
……ないとはいえません。事実、彼は大学でも結構、女性にモテるみたいですしね。
幸い、友人以上の関係の女性はいないようですが、今がそうでもこれから先、そのような関係になる
女性が出てこないとも限りません。
もし彼が、5人との関係を清算して、そのような方とお付き合いをするということになれば……
「涼宮ハルヒの力が暴走する危険が、一気に増すことになる」
そうです。それに、泉さんたちも黙っているわけはありません。泥沼になります。
そして実はもう1つ……心配といえば心配なことがありまして……
「それは何ですか? 古泉君」
それはですね……佐々木さんです。
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えっと……佐々木さんって、確かキョン君に告白して、振られたって聞いたんですけど……
まさかキョン君、佐々木さんとよりを戻したんですかっ! うう浮気しているんですかっ!
「まあ、落ち着いてください朝比奈さん。彼は佐々木さんとはれっきとした友人同士です。当然、
身体の関係などはありません。ただ……結構学外で、頻繁に2人であったりしているようですが」
告白して振られた相手とすんなり友人関係に戻って、普通にお友達づきあい出来るものなのでしょうか?
「彼の方はもう、気にはしていないのでしょう。問題は佐々木さんですね。
これは僕の勘ですが、彼女はまだ、キョン氏のことを諦めていないのではないか、という気がします」
「具体的に彼女は、何をする気なのか?」
そうですよね。キョン君に取り入って、涼宮さんたちとの仲を割こうとか考えてませんよね。
「彼女は基本的に受け、待ちのタイプです。自分から積極的に物事を変えたり、関わっていこうとは
しないでしょう。
彼女はおそらく、待っているのですよ。時間と共に、彼と涼宮さんたちとの仲にヒビが入るのを、ね。
そして泥沼劇の末、ボロボロに疲れ果てた彼の一番近くに寄り添い続けて、結果的に彼を自分の所に
引き寄せよう……というのが狙いではないかと思います。
まあ、下種の勘繰りの類かもしれませんが、注意するに超したことはないでしょう」
……こういうお話を聞くと、私、キョン君って人がますます分からなくなります。
キョン君って基本、優しくて面倒見が良くて、とてもいい人なんだけれど、人として、男性として、
大切な何かが徹底して欠けていますよね。
だいたい、キョン君は極端すぎます。女の子の好意に全然気づかないニブチンさんかと思ってたら、
一転して自分のことを好きって言ってくれた女の子全員とエッ……とっ、とにかくキョン君は変ですっ!
長門さんも古泉君もそう思いますよね。
「同感」
「……」
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まあ、彼の行状は男としては褒められたものではないですが、僕はそれでも彼を嫌ったり憎んだり
する気にはなれないんですよ。
彼は口ではああだこうだと言いつつも、僕が涼宮さん絡みで困ったときには、必ず正しい解答を導き
出して、僕のことを助けてくれましたし、こんな僕を色眼鏡で見ず、友人として遇してくれた高校時代
唯一の"親友"ですしね。
「古泉君もやっぱり男の子なんですね。キョン君に甘いなぁ……
キョン君の今住んでるワンルーム、あれ、古泉君が口利きで提供してあげたんですよね。
きっと、今では女の子たちの溜まり場になってますよ。
だいたい大学生の1人暮らしに、14畳のワンルームなんか必要ないじゃないですか!
それも都内23区内ですよね。いったいお家賃いくらするんですかっ! 学生には不相応ですっ!」
いやはや、思わぬところでとばっちりを受けてしまいました。このツケは彼の方に回しておきましょうか。
あそこは機関関係の物件の1つです。僕のみならず、機関も彼には恩がありますし、その恩に対するホンの
お礼のつもりで提供したのです。家賃は同条件の物件相場の3分の1ということで……タダでも良かったの
ですが、それでは返って彼に気を使わせてしまいますしね。
彼もお父上の転勤が急で、当然一人暮らしの準備もしておらず、3月下旬では手ごろな物件も探すのが
難しいようで、とても困っていましたので、お手伝いして差し上げたまでです。
「私なんて……こっちに来てからずっと6畳ワンルームで、お洋服収納する場所にも困っているのに……」
「貴女は何に怒っているの? 彼? 自分の住まいの狭さ?」
こんなお2人のやり取りを微笑ましく見つめながら、ホットに口をつけます。とりあえず矛先が僕から
外れてくれたのがありがたいです。
「古泉君は正直、キョン君に愛想尽かしたくなることってないんですか?」
長門さんとのよく分からないやりとりを終えた朝比奈さんが、僕に向かって口を開きました。
どうしても朝比奈さんは、僕の口から、彼に対する非難の言葉を聞かないと気が済まないようですね。
僕も人間ですから、彼の態度や言動に、これまで腹が立つことは当然ありました。喧嘩もしました。
でも、愛想尽かして見放そうと思ったことは、一度もありません。
たとえばこの先、彼が別の女性を好きになって、涼宮さんたち5人から死ぬほど責められて助けを求めて
来たら、僕はきっと彼を叱るでしょうが、それでも自分の出来る限り、彼を庇うと思います。
……僕は何だかんだ言って、結局、彼のことが好きなのです。
「こ……古泉君?」
「……!!」
え……えっとですね、お二方。
出来れば今の言葉に対して、その反応はやめて貰えないでしょうか。
大変不本意ではあるのですが、そのようなタイミングで絶句されますと、貴女方が今ここで何を想像
したのか、知りたくなくても分かってしまいます。
「失礼。情報の受信に齟齬が発生した」
「そ……そうですよね。そんなはず……ありませんよね」
なんとも微妙な雰囲気を醸しだしつつ、僕たち3人の週末は過ぎていきます。
僕はノンケです。普通に女性が好きです。あらぬ疑いは勘弁してください。
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「えっとハルにゃん、なにかな、この箱は」
週末の休日集団デートを楽しんだその日の夜、2日目のお泊り会、「趣向を変えて夜を楽しむ」と宣言
したハルヒが取り出したのは2つの箱。それを見て首をかしげるこなた。
「まあ、これってクジの箱みたいだから、引いて何かをするってのは分かるけど……」
「くじ引きでえっち?」
「つかさ、なかなかいい線いってるわね。それでは説明します」
えへん、と胸を張ったハルヒが、今回の趣向について説明を始めた。
「こっちの箱にはあんたらの名前を書いた紙を入れます。1人……そうね、とりあえず3枚ばかり入れて。
で、そっちの箱には、なんかエッチな内容を書いてね。ノーマルなのからマニアックなのまでバリエを
つけるのがコツよ」
ほうほう、それで分かったぞハルヒ。そして2つの箱から1つずつ引いて、当たったヤツに当たった行為を
すりゃいいんだな。
「具体的にはキョンが、当たった人に、当たった行為をするかしてもらうのよ!」
「ほうほう。これは面白い。それじゃお嫁にいけなくなるような恥ずかしいヤツを1つ……」
「こなちゃーん。痛いのとばっちいのはメッ! だよ」
「ええっと、えっちいのじゃなきゃダメ? 精神的にかなりクル奴とかは?」
「夢見るかがみんは、またな~んかロマンティックなことでも考えてるのかナ、ぐふふ」
「うふふ、楽しいですね。こんなのはどうでしょう?」
「ゆ……ゆきちゃん、何か怖いよー」
俺も男の願望を書くとするか。これは
お約束だな。
9
さて、それじゃ誰が最初に引く? キョン君?
「あたしが引くわ!」
……なんでも1番でないと済まない女、ハルヒが真っ先に手を挙げる。
でもねハルヒ、あんたが引いても、あんたが当たるとは限らないけどね。
「よっ……と。ふふ、喜びなさいかがみ、しょっぱなはアンタよ」
……いきなり来たか。ま、一番バッターのノリで、この手のお遊びの面白さは決まるからね。どんと来い!
「それじゃ次は私が引いて進ぜようかがみ。来い、アブノーマルプレイ!」
そういって2つ目の箱に手を突っ込むこなた。しばらく中でガサゴソ音がしてたが、意を決したように手を
引き抜く。そして……
「うわー、これはまた、最初から結構強烈なのが来たネ……『おしっこしてるところを見せる』だってサ」
げっ、いきなりルッキングプレイかよ! 誰よこんなこと書いたの。人としてどうかと思うわよ。
「すまん、書いたの多分俺だ……」
キョ……キョン君の変態、スケベーっ! ハルヒやつかさの見たことあるんでしょ。なんで私まで……
「拒否権はないわよ、かがみ、覚悟なさい!」
くっ……わわ分かったわよキョン君。一緒におトイレ行きましょ。
……うう、恥ずかしい。キョン君のバカ。
「かがみーん、ちゃんと指で広げて、中までキョンに見せながらするんだヨ!」
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目の前で用を足してるかがみに、変態だのバカだの罵られて、不覚にもそのまま襲いたくなったのをこらえ
つつ、真っ赤なかがみを抱きかかえながら席へと戻る。
「おかえり。激しくお楽しみでしたナ。キョンを罵倒する声がここまで丸聞こえでしたヨ」
「うう……こんなことしたら、マジでお嫁にいけないわ……」
「夜半に大きな声、出して大丈夫でしょうか」
……ああ、このマンション、防音は万全なので大丈夫だ。隣の部屋の声はおろか、生活音もほとんど
聞こえないくらいだからな。
「次は私が引いてやる。こなた、覚悟なさい!」
照れ隠しか、こなたを睨みながら箱に手を伸ばすかがみ。さて、果たして誰が当たるのやら。
「来たーっ。こなた、あんた来たわよ」
「すごーい。本当にこなちゃん当てちゃった」
……いやいや、こりゃ面白くなってきたな。さっそく逆襲ってところか。
「じゃ、みゆき。2つ目の箱から1枚引いて……ふふ、何が当たるかしらね」
「それじゃ、引かせていただきますね。うふふ、泉さん、楽しみですね」
なにやら楽しげなハルヒに促され、箱に手を伸ばし、すっと紙を1枚抜くみゆき。
そしてそれを凝視したみゆきの表情が、なにやら笑いを必死でこらえるものへと変化していく。
一体何を引いたんだ?
「ええとですね……その……お気の毒なのですが……」
みゆきがこんなになるのは珍しい。いったい何事か、と期待する面々の耳に聞こえた言葉とは……
「その……キョン君にパイズリをする、と、書いてあります」
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「ぷっ……あははははは!」
隣にいたお姉ちゃんが笑い出したのをきっかけに、私も思わず噴き出しちゃった。ごめんねこなちゃん。
「いや、こなた。アンタ見事にやり返されたわね!」
ハルちゃんなんか、おなか抱えて転げまわっている。そこまで笑ったらちょっと可哀想だよー
「あんたの胸でどうやってキョン君の<禁則事項>を挟んで扱くのよ。洗濯板で無理矢理擦ったりしたら、
キョン君の擦り切れて、火でも付くんじゃない! あははは」
「かがみさん……それはちょっと……うふふ」
「うー、みんなして私をバカにしたなー。いいともさ、やってやりましょうさ!
キョンの<禁則事項>からたっぷり、火じゃなくて白いモノを噴火させてやるー。
さー、キョン、分かったらはやく股間の鉄棒を出せー」
半ば自棄になったこなたが、上に着ていたものを脱ぎ捨てると、キョンのズボンを脱がそうとする。
「いやいや、自分で脱ぐぞこなた。お手柔らかに頼む」
で、結局、キョン君のを約20分、無理矢理胸で擦ったものの何の反応も無くこなたがションボリしたり、
「ハルヒに熱い愛の言葉を囁く」なんてのを引いて、耳元でキョン君にそれをやられたハルヒが興奮して
鼻血を出したり、「みゆきがキョン君に言葉責めをしながら足コキをする」なんてレアな光景が見られ
たり(どSなみゆきに、キョン君はメチャクチャ興奮して、あっという間に出してた)、「つかさが
キョン君のオナニーのお手伝いをする」なんてのが出て、手コキでなかなかイカないキョン君に
つかさがキレて、私たちの目の前でいきなり服を脱いで、キョン君に顔面騎乗+手コキで対抗したりと
(みゆきの足責めで出したばかりで、結局出なかった)など、私たち6人は、夜遅くまでおバカな痴態を
繰り広げたのだった。
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本当は今週末、キョンと会いたいと思っていたのだが、先約があるからと断わられてしまった。
先約ってのは涼宮さんたちだろう。土日両方ダメってことは、全員でキョンの部屋にお泊りかな。
結局キョンが、あの5人の中から1人を選ぶことをせずに結論を引き延ばした挙句、5人とも実質彼女状態、
と聞いたときには、正直、はらわたが煮えくり返りそうになったよ。
君はそんなに女性にだらしない男だったのかい、キョン。
それに……君から唯一、切り捨てられた僕の立場がないじゃないか。女としてのプライドはボロボロだよ。
正直、これを機に君と絶交しようと思った。けど、早まって君との縁を切ったりしなくて良かったよ。
そんな関係がいつまでも続くはずはない。君はいつか、涼宮さんたちに捨てられるだろう。
夢は甘ければ甘いほど、目覚めたときの虚しさも、また大きくなるものさ。
最後まで君の側に居続けられる女は、"友人"の僕だけなのさ、キョン。
それに、友人関係とはいえ、僕は女で、キミは男だ。
友人から恋人にシフトしたって、何ら不都合はないし、世の中にはそんな例は珍しくもないのだよ。
君が誰を好きになろうが、誰とセックスをしようが、僕はもうそんなことは気にしない。
最後に僕の横にキョン、君が立っていてくれれば、それでいい。
僕は短絡的に、自分の願望や欲望を見たそうなどと、愚かな事は考えない。
物事は長期的な視点から見なければ、ね。それが人間関係ならば、なおさらだよ。
待っててね、キョン。
終末の日は、近いのか?
完
最終更新:2010年04月25日 22:19