泉どなた
◆Hc5WLMHH4E氏の作品です。
エジプト神話のラー、日本神話の天照大神、ギリシア神話のへーリオスなど、
古代において人々が信仰の対象とみなし、神と崇めていた太陽であるが、
ただ一人、夏真っ盛りな部室に居る俺にとっては、忌まわしき自然の脅威としか思えない。
神を前にHPを削り取られた俺は、机に突っ伏して暑さに耐えることしか出来なかった。
不意に部室の扉が開かれても、誰が入ってきたのか確認する余裕も無いくらいだ。
「アヅイ~」
やる気の欠片も感じられない、テンションの低い声の主は、泉こなたその人だった。
額には汗を滲ませ、口をアングリと開け、気だるそうに手をブラブラと揺らすこなたは、
席に着くなり鞄から半透明の下敷きを取り出し、一心に扇ぎ始めた。
「ねぇ~キョンキョ~ン……ねぇってば~」
前述のとおり俺のHPは殆どゼロで、こなたの猫なで声にそう簡単には反応できないのだが、
俺を呼ぶ声は途切れることを知らず、余りのしつこさに根負けをしてしまった。
「どうしたん……だ」
返事をしながら、今一度こなたに目を向けた俺は思わず言葉を失った。
俺の異変に気付いたこなたは若干眉を顰め、さらに首をかしげている。
夏服に自分の下着が透け、それを見た俺が動揺していることには気が付いていないようだ。
「そっちこそどーしたの? 暑さでヤラれた?」
「なんでもない。 それより何の用だ?」
「ジャンケンで負けた人が勝った人を扇ぐってのはどう?」
「あぁ、いいぞ」
「じゃーいくよ、ジャンケン……」
力強く振り下ろされた二人の手は、既に勝者と敗者に別れていた。
結果は言わずもがな、自分の勝負運のなさにホトホト嫌気がさしてくる。
「ほらほら、もっと強く扇いで」
「無理言うな」
「そうだ! これで少しは涼しくなるかな」
こなたは勢い良く立ち上がり、何の迷いも無く前屈みになると、
何故かその手はスカートの裾へと伸びており、そのままヒラヒラとはためかせた。
流石にこれ以上見続けるのはマズいと、目を逸らそうとした瞬間、それは起こった。
「じゃーん!」という声と共にスカートが風を切り、こなたの下半身があらわになる。
咄嗟に顔を背けたが、俺の脳は一瞬だけ見えたその光景をバッチリと記憶していた。
まったく……普段は使い物にならないくせに、こういうときだけ抜群の記憶力を発揮する。
それにしても暑さでヤラれたのは、何食わぬ顔で俺に微笑みかけるこなたの方じゃないのか?
「バ、バカ! 何やってんだ!」
「大丈夫だって、ちゃんと短パンを穿いて……穿い……あれ?」
何かに気付いたこなたは、先程よりも数倍速いスピードでスカートを下げた。
その透き通るように白い肌をした顔は、見る見るうちに真っ赤に染まっていった。
「ドラゴンボールのブルマと同じような過ちを……」
いつの間にか部室の隅に移動し、何やらブツブツと独り言を呟きながら、
こなたは窓の傍にある白いカーテンに巻きついてユラユラと揺れている。
雲の隙間から、まるで後光のように射す太陽の光がその姿を照らした。
天然のスポットライトを浴びたこなたは「もぉー! 暑い!」と太陽に八つ当たりを始める。
俺はその理不尽な怒りの矛先が自分に向かなかったことを幸運に思いつつ、
未だ脳裏を離れぬこなたの姿を掻き消そうと、頭を数回振った後で、窓の外に視線を向けた。
空には縞々のパン……太陽が浮かんでいる。