翌日if

――Cattiva fine:キョン視点――

 午前授業を締めくくる鐘が鳴り、ようやく待ちに待った昼休みだ。固まった体をほぐすように背筋を伸ばす。
 それにしても、だ。後を振り返る。万年元気を核融合で供給しているようなあのSOS団団長涼宮ハルヒの席は、空席だった。風邪でも引いたのか? あのハルヒが? ははは。あり得ないね。風邪菌だって寄生する相手を選ぶだろう。風邪で倒れるなら……そうだな、SOS団んの中でなら朝比奈さんが一番似合いそうだろう、いや、そんな事になられたら一大事だが。風邪菌がハルヒの体に入ったら最期、ドーベルマンのように獰猛な白血球に根こそぎ食い殺されるのがオチだ。万能宇宙人である長門は、そもそも風邪をひくかどうかすら怪しい。最も、こいつが倒れるときは未来大宇宙超能力的な脅威が迫っているということでもあり、これはこれで洒落にならないんだが。古泉? 知らん。自分の身は自分で管理しろ。

 じゃあ何故ハルヒは休みかというと、まあ、おそらくは何か面白いものでも見つけたんだろう。あいつはそーいう奴だ。いつだったかも授業をサボって益体もないチラシを刷っていたしなあ……まあ、ハルヒの欠席が危機的なものなら、長門あたりが知らせに来るだろう。心配するだけ野暮ってものだ。

「キョン―! 奥さんが呼んでるよー!」
 やかましい国木田。大声で恥ずかしい事を叫ぶな。
「っかー! ホントに羨ましい奴だよおまえはよお! なあ、泉に頼んで友達紹介してくれよ!」
「頼むのはいいが、あいつの友達ならそこに居るだろ?」
 柊姉を指す。こちらを向いて手でバッテンを作ってから教室を出て行った。恐らく「谷口お断り」のサインだろう。……哀れな。

 チクショーと叫びながら出ていく谷口たちと入れ替わって、こなたがこちらへと駆けてきた。手には相変わらずチョココロネに牛乳。偏食ここに極まれりだな。
「やあキョンキョン。ご飯に来ましたヨ?」
「珍しいな? いつもは柊たちと食べてるんだろ?」
「たまにはいいじゃん。夫の素行調査は妻の役目だしネ!」
 さらっととんでもない事を口にする。こなたの目は「キョンキョンをからかってますヨ」と言いたげに細まっていた。まあ、いつもの事だ。特に反応することもないだろう。
「……好きにしろ。で? どこで食うんだ?」
「そうだねー。あれ、ハルにゃんは? 今日休みなの?」
 こなたはハルヒの席を指す。やっぱりこいつが休むのは誰の目から見ても意外なことなんだな。
「ああ、珍しいこともあるもんだ。どうせなにか変なものでも探しに行ったんじゃないか?」
「そっかー。そりゃあ大変だ。日曜辺り駆り出されるかもヨ?」
 くふふと目を細める。まあ、その推測はあながち外れじゃないだろう。頼むから普通の怪異にしてほしい。現代物理学に喧嘩を売る様なトラブルに巻き込まれることだけは避けたいところだ。
「いつもの事だ。あいつに巻き込まれて以来、まともな日曜なんか過ごしたことないね」
「はっはっは。まあいーじゃん? キョンキョンの活動報告は聞いてて面白いし、何よりあたしはその間にLv上げたりクエストに出たりできるわけだヨ」
 こいつ、俺が右往左往している間そんな優雅に過ごしていたのか。できることなら代わって欲しいくらいだ。
「ったく、人事だと思いやがって。さっさと座れよ」
「ん?勝手に座っていいのかな?」
「休んでるんだし構わないだろ。もし気が変わって午後から出てきたんなら、その時に退けばいいだけの話だ」
「それもそだね」

 こなたと向かい合っての昼食は、谷口たちと囲むよりも若干味がわかるような気がした。

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最終更新:2007年07月28日 18:32
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