つかさ「ね、ねえキョンくん」
キョン「どうしたつかさ」
つかさ「きょ、今日ね、家に誰もいないの」
キョン「何でまた」
つかさ「お父さんたちと上のお姉ちゃんたちは温泉に行ってるの」
キョン「かがみもか?」
つかさ「ううん、お姉ちゃんはこなちゃんのお家」
キョン「なるほど正しく誰もいないな」
つかさ「だからね、そのね、キョンくん家に来ないかなって」
キョン「? 俺に一人で留守番しろってことか?」
つかさ「あ、ち、違うくって、私はいるの」
キョン「泉ん家に行くんだろ?」
つかさ「私は行かないの」
キョン「何でだ? のけ者にされたのか? 俺が言ってやろうか?」
つかさ「ちっ違うの。私から行かないって言ったの」
キョン「どうして? 行ったらいいじゃないか。誘われたんだろ?」
つかさ「そうなんだけどね、怖い映画見るから……」
キョン「あ~、なるほど。確かにつかさ一人じゃ不安だな。犯罪もそうだが、お前も」
つかさ「で、でしょう?」
キョン「でしょうって少しは反論しろよ。んじゃあまぁ夜までいてやるか」
つかさ「ありがと~キョンくん!」
つかさ「はいキョンくん。バルサミコ酢の酢豚にエビマヨだよ」
キョン「お~美味そうだな。つかさはホント料理が上手だな」
つかさ「えへへへ~」
キョン「いただきます」
つかさ「めしあがれ」
キョン「…………」
つかさ「ど、どうかな?」
キョン「ああ美味いよ。つかさは良い嫁さんになるな」
つかさ「ふえっ!?」
キョン「急に大声だしてどうした?」
つかさ「な、何でもないよ」
キョン「そうか? ならいいが」
つかさ「わ、私お風呂入ってくるね」
キョン「了解」
つかさ「の、覗いちゃ駄目だからね」
キョン「何分かりきったこと言ってんだよ。そんなことはしない」
つかさ「そっか、そうだよね。何言ってるんだろ私。あははは~」
テレビを見てしばらくすると突然暗闇なった。
キョン「……うわっ!? な、何だ停電か? ここ……だけじゃないみたいだな」
つかさ「ふえええぇぇぇぇえええ~!!!」
つかさの声が叫び声が聞こえ、携帯電話をライトがわりに風呂場へ向かう。言っとくが中には入らんぞ。
つかさ「キョンく~~~~ん!」
キョン「うわっと」
なんだ、ちょうど上がったのか。走ってきた所を見ると転んだわけでもなさそうだし、突然の停電で驚いただけか。
キョン「おちつけつかさ。ただの停電だ。すぐ直る」
俺の言葉に耳をかさずにずっとしがみついてくる。いや、それだと結局目の前が真っ暗で停電と変わんないんじゃないか?
しばらくしてようやく部屋に明かりが戻ったが、つかさはしがみついたままだった。
キョン「もう明かりもつ……って何て格好してるんだお前はっ!?」
よりにもよってバスタオル一枚でいる。しかもちゃんと巻かれておらず、所々乱れている。
つかさ「だ、だって怖くて」
キョン「だからってその格好はないだろう。さっさと着替えてこい」
つかさ「こ、怖いよぉ」
キョン「電気点いてるだろ」
つかさ「キョ、キョンくん。着替えるからドアの外で待ってて、お願い!」
キョン「なぁっ!? い、いいわけないだろうがっ」
つかさ「お願いキョンくん」
キョン「~~~~、わ、分かったからあまり動くなっ。ほら歩け」
つかさ「う、うん」
つかさがようやく着替えた所でそろそろ帰ろうかと思っていた時間になった。
キョン「じゃあそろそろ帰るかな」
つかさ「ええっ!? だ、だめっ」
キョン「何でだよ」
つかさ「怖いもん、またいつ停電するか分かんないし~」
キョン「そんな日に何度も停電なんかしないって」
つかさ「お願いキョンくん。今日泊まっていって」
キョン「今度は何言い出してんだよ……」
つかさ「キョンくん……」
キョン「はぁ……分かったからそんな目で俺を見るな」
つかさ「ありがと~キョンくん。嬉しい!」
とか言って抱きついてくる。ええい風呂上りだけあって熱いっ!
つかさと一緒にテレビを見ているんだが、停電の原因は一時的なトラブルだったらしい。
そのトラブルとやらを教えて欲しいもんだ。おかげで俺は一泊することになったんだからな。
隣でドラマを熱心に見ながらもなぜか俺の服のすそをつかんで放さない。伸びるんだが……。
トイレにでも行こうかと立ち上がるとつかさは慌てていた。
つかさ「キョ、キョンくんどこ行くのっ?」
キョン「トイレだトイレ。すぐ戻る」
つかさ「つ、ついていく」
キョン「……もういい。ついてくるんだったら勝手に来てくれ」
トイレに入るまでつかさはすそを掴んだままだった。ドアの外にいると思うと出るものも出ない、かと思いきや
そういえば妹にも同じことされてたなと思い出すとなんてことはなかった。
済ませてドアを開けるとすぐ横に体育座りで待っていた。妹も同じことしてたな。
つかさ「わ、私も」
キョン「そうか、じゃあ俺は部屋に戻るから」
つかさ「ま、待ってて!」
キョン「……はぁ」
つかさ「行っちゃ駄目だよ」
キョン「はいはい」
とはいえこのまま突っ立ってるわけにもいくまい。俺は耳を塞いで背を向けて待つことにした。
しばらくすると水の流れる音がして、もう一度した。
つかさ「キョンくんっ!」
キョン「ぐふっ……」
出てきた所で振り返った俺につかさは体当たりをかました。いや実際には抱きついてきただけなんだがその速度たるや遠慮のかけらもなかった。
キョン「い、いったいなんだ……嫌がらせか……」
つかさ「だってだって何回も名前呼んだのに返事してくれないんだもんっ。一人で戻っちゃったって思ったんだから~」
と涙声で語る。
キョン「あ、悪い。耳塞いでた」
つかさ「もぉ~、キョンくんのバカ~」
とても紳士的な行動かと思ったんだがバカときたもんだ。俺の苦労ってやつは報われない運命なのかね。
それからというものつかさはすそを掴むのを止め、腕にしがみついてきた。ますます妹と同じである。
キョン「ほらうつらうつらしてるぞ」
つかさ「ん~……じゃあ寝ようよ」
キョン「俺もか……。まぁいい。布団とかいいから、俺適当に寝るし」
起きた後の体の痛さを思えば本当は欲しいんだがな。
つかさ「だめだよ~、そういって私が部屋に行ったら帰るんでしょ?」
おおその手があったか。って違うっ!
キョン「そんなことしないから」
つかさ「じゃ、じゃあ……わ、私の部屋で寝て?」
キョン「お前はバカかっ!」
つかさ「ふえっ」
キョン「あ、悪い。でも寝られるわけ無いだろ常識的に考えて」
つかさ「じゃ、じゃあ寝るまで手繋いでくれるだけでいいからぁ」
キョン「……まぁそのくらいなら」
というわけで暗い部屋の中でつかさが寝るまでという条件で手を繋いでいる。こんな暗闇では本も読めず暇だ。
つかさ「おやすみキョンくん」
キョン「はいはいおやすみ」
つかさが目を閉じたらしい。物音を立てるのは悪いかなとじっと寝息が聞こえてくるまで待つ。
十分もしない内に呼吸が寝息に変わった。寝つきは良い方らしい。どこまで妹そっくりなんだろうな。
さて居間へ行って俺も寝るかなと思い手を離そうとするが離れない。起こさぬように弱い力だったからか。
今度は先ほどより強く引っ張り離そうとするがやはり離れない。というか引っ張ったせいでつかさの位置がずれた。
キョン「マジかよ……」
今日の出来事のせいで精神的に疲れきっていた俺は諦めてそのままここで寝ることにした。もうどうとでもなれ。
???「……っと!」
誰かの怒声のようなもので少し覚醒する。
キョン「ん……」
???「キョンくんっ!!」
キョン「ん……つかさか?」
???「違うわよ! かがみよ!」
キョン「あ~? かがみがどうして俺ん家にいるんだぁ?」
かがみ「ここは私の家よっ。そ、れ、よ、り!」
キョン「ん~?」
かがみ「何でキョンくんが私の家にいて、しかもつかさの部屋で手を繋いで寝てるのよっ!!」
そこで思い出した。そうだ、俺は昨日……。
キョン「色々あってな」
面倒なのでそう言ったら、かがみの顔が真っ赤に染まった。おい赤面症だったのか?
かがみ「こら~~~!!! つかさに変なことしてないでしょうねっ!」
キョン「はぁ? 何言ってるんだ? つかさと一緒に飯食ったり、風呂場に行ったり、トイレ行ったり、部屋で寝てただけだぞ」
かがみ「な、な、なぁあああああぁぁぁ!!!」
かがみはそばにあったティッシュ箱を投げつけてきた。慌てて空いている方の手でガードする。
かがみ「出てけ~! 今すぐ出てけ~!」
なぜそんな結論に至ったのか皆目検討もつかないが、つかさの手がちょうど離れていたので帰ることにする。
まだあれやこれやと俺の背中に投げつけてくるが、別段痛くは無い。むしろ床で寝たせいで痛い。
キョン「あ~、腰痛いなぁ~」
かがみ「なあぁっ!?」
俺の一言になぜか過剰に反応してタンスでも投げるかの勢いで物を投げつけてくる。だんだんと痛くなってきた。
キョン「お邪魔しました~」
かがみ「もー来るな~!」
キョン「つかさの相手をしてやったのにそんなこと言われるとは」
かがみ「あ、相手ぇ!」
声が裏返っている。
キョン「ああ。つかさが離さないからな」
かがみ「っ……っ……っ……」
金魚みたいに口をパクパクさせている。金魚運動か? でも金魚運動は足だったと思うぞ。
これ以上いたらかがみに言われもない非難を浴びそうなので帰った。
そして昼過ぎにかがみからメールが。
『ごめんなさい』
なんのこっちゃ?
最終更新:2007年08月01日 00:57