午前中はそのまま、みんなで調べたスポットを見て回った。とりたててすんごいモノとかはないんだけど、
こうしてみんなでワイワイ言いながら回るのは楽しい。色気も何もなくて、中学生の集団デートみたい
だけどね。
「・・・いやいや、最近は中学生も行き着くところまで行っている子もいるヨ。それ考えると私らの
青春ってちょーっと寂しくないかいや、かがみん?」
ちょっとこなた、比較対象がアレでしょうが! それに、うちの学校、彼氏彼女がいる人もあんまり
いないみたいだし、そんな中で、きちんと異性の友達がいるっていうのは、十分恵まれている方よ!
「確かにそうだな。俺もまさか、高校に入って女友達がこれほど出来るとは思わなかったし・・・」
女友達・・・か、そうか、私たち、友達なんだよね。いいのかな、このままで・・・
そっとつかさやみゆき、こなたの顔を窺って見たけど、3人とも今のキョン君の発言をどう捉えたのか、
表情からは何も読み取れなかった。
ま、こんなところで腹の探り合いをするってのも趣味よくないね。素直に楽しもう楽しもう!
「お姉ちゃ~ん、ここから河原に下りられるよ~、水きれいで冷たそうだよ~、下りてみようよ~」
そうだね。せっかく水のきれいなところに来たんだから、ちょっと涼みますか。
狭い石階段をちょっと下りると、そこには涼しげな光景が広がっていた。
「なんか心持ち、涼しい感じがしますね」
そうね。あとつかさ、下は石がゴロゴロしてるから足元気をつけ・・・って言ってる側からコケてるよ。
「いたた・・・お尻打っちゃった。みんなも気をつけてね」
「大丈夫かつかさ、立てるか? ほら、手」
お、つかさのヤツ、さりげなくポイントを稼いだわね・・・って、いつまで手ェ握ってるのよこらー!
みんなで素足になってちょっとバシャバシャしたり、ちょっとふざけて水のかけっこをして服を少し
濡らしちゃったり、浅瀬でちっちゃいお魚さんが泳ぐのを眺めたり、おっきな石の上にみんなで座って
お話したりしながら、結局お昼まで遊んじゃいました。
「ねー、そろそろお昼だし、ごはんにしない?」
お姉ちゃんの一声で、みんな靴を履いて、石階段を上って川沿いの道に戻りました。
「やはり昼は蕎麦だな」
「暑いですしね。それにここはお蕎麦名物みたいですし」
「決定だネ。旅行の話し合いに参加できなかったキョンからのリクエストだし」
あのね、私とゆきちゃんでちょっと調べてみたんだけど、多分ここからそんな遠くないところにね、地元でも
有名な手打ち蕎麦のお店があるみたい。
「よっしゃ、そこにしよう!」
「おー、食べることになった途端、俄然かがみんが元気になったヨ。色気より食欲の女はこれだから・・・」
「・・・あんたみたいな色気の欠片もないヤツに言われたかないわよ!」
もー、やめようよ2人とも! なんですぐ喧嘩するんだよー! めっ!
「ま、アレが2人のコミュニケーションってヤツだろ。いつものことだ。メシが目の前に出てくりゃ収まる」
「お2人とも、けっこう言いたい事言い合っていても、険悪にならないのはホントに仲が良いからなのでしょうね」
- 私が気にしすぎなのかな。でも、喧嘩はあんまり良くないと思うな。
蕎麦の手打ちの実演ってのは、テレビのグルメ番組じゃよく見かけるが、実は目の前で生で見るのは
初めてだったりする。おなじみの光景とはいえ、自分らの食うものが、目の前で原料から作られている
ってのは、なかなか興味深いものだ。
「さっきから熱心に蕎麦打ちを見てるネ。キョンって意外と渋い趣味の持ち主なんだ」
「男の子って、ああいうのが好きなのかもね」
「いやつかさ、それはちょっと違うと思うぞ・・・それにみゆきも一緒に見てるし」
後ろの雑音はまあいい。それにしても上手なモンだ。技一つ極めればちゃんと食っていけるのだから、
職人ってのは大したモンだな。
「そうですね・・・キョン君、職人さんなんて意外と似合うかもしれませんよ」
横で一緒に眺めていた高良が、ニコニコ笑いながら俺に言う。悪い気はしない。こなた辺りに言われたら分からんが。
香り高い蕎麦をすすりながら、蕎麦についての薀蓄を高良から拝聴したり、蕎麦と別に頼んだ天ぷら盛り合わせをめぐって
壮絶な争奪戦(主としてこなたvsかがみ)が勃発したり、蕎麦湯の美味しい作り方をつかさから聞いたりと、ワイワイしながら、
昼食を済ませた。
さて、これから午後の運命を決めるくじ引きだ。楊枝を4本抜き取ったこなたが、先に赤いマーカーを塗りながら厳かに宣言する。
「当たりは2本。恨みっこ無しの1発勝負だヨ・・・時に皆さん、提案者の私めにつきましては、本提案の功績として無条件に・・・」
「却下(です)!」
「ケチ~!」
おお、3人ぴったり声が揃った。見事なハーモニー。こいつらホント息がぴったりだな。
- ま、かがみたちの言うように、やるからにはフェアにやった方がいいだろ。選に漏れた方には、個人的に後で何かフォローを・・・
「私は最後残ったのでいいヨ。残り物には福があるって言うしね。どなたからでもどうぞん♪」
こなたの言葉に促されるかのように、かがみがまず、こなたの持つ楊枝の束に手を伸ばした。
「ひ~ん、なんで言いだしっぺの私がこんな目に~っ!」
「不覚っ! 一番最初に手を伸ばして外れクジを引くなんて~」
先端に色の付いていない楊枝を握って、こなちゃんとお姉ちゃんがうなだれています。
キョン君とのデート権をゲットしたのは私とゆきちゃん・・・ふふん、昨日私を出し抜いて、キョン君とお風呂に入ったバチが当たったのかも。
神様ありがとう♪
「恨みっこなしですよ。こなたさん、かがみさん」
ゆきちゃんも嬉しそうだ。私たち、普段は2人に押されて影が薄いから、こんなときくらい活躍しないとね。
ま、私には今日、特別に夜の部もあるんだけどね。これは役得というより、昨晩まんまと出し抜かれた、可哀想な私の当然の権利!
「・・・じゃ、そういうことでオッケーだな。で、つかさ、高良、どっちが先なんだ?」
どうしようかな。お楽しみは後に取っとく方が良いかな。キョン君とどこに行くのかも決めたいし・・・2時間のデート、存分に楽しみたいしね。
私あとでいいや、ゆきちゃん、お先にどうぞ!
「それではお言葉に甘えまして、キョン君、この後、私とお付き合いください」
「キョン、私らの目がないからって、みゆきさんを変なトコに引っ張り込んでエッチなことをするなヨ!」
「このオヤジ娘! キョン君がみゆきにそんなことするはずないでしょ! 自分が外れたからって変なこと言わないの!」
あーあ、この2人また喧嘩してるよ。もう何も言わないけどね。でもこれから私も2時間、この2人と一緒だからなぁ。なんか疲れそうだよ。
がんばる。
「さて、じゃそろそろ出ようか。会計は一括して払っとくんで後で清算な・・・じゃ高良、時間がもったいないから俺たちは先に行こうか」
キョン君、あとでね。
皆さんこんにちわ。高良みゆきです。このお話も七章まで来て、ようやく私のメインパートがやって来ました。
私だってメインヒロインなのに、今の今まで放置っていうのは酷くないでしょうか。特にこのSSの作者さんは、私を粗略に扱うばかりか、
変な主題歌パロディのネタに私や朝比奈さんを使ったりして、乙女の純情を踏みにじ・・・すみません、少し取り乱しました。忘れてください。
3人を置いて、一足先にキョン君と2人で表に出ました。時間はちょうど午後1時。これから2時間は、キョン君は私だけのものです。
旅行中も、キョン君はこなたさんやかがみさん、黒井先生たちにかかりっきりで、あんまり2人だけでお話が出来ませんでした。少しでもその分を
取り戻したいです。そう思っているとキョン君が突然、私の目を見ながら、
「あのさ・・・ごめんな。旅行中、あんまり高良と喋れなくてさ。これが埋め合わせになるとは思わないけど、めいいっぱい楽しもうぜ」
と言ってくれました。私が引っ込み思案で、自分から積極的に声をかけられないのがいけないのに、キョン君はやっぱり優しいですね。
もっと勇気が欲しいです。私だって女の子です。キョン君の優しいところを、私だけが独り占めしたいです。
だから勇気を振り絞って、キョン君の腕に自分の腕を絡めて、ちょっと肩をくっつけちゃいました。頑張れ私。
「あ・・・あの高良。とても嬉しいんだが、その、腕に・・・ちょっと・・・な・・・」
うふふ、当ててんのよ、です♪
「こういうときって、どんな顔していいのか分からないな・・・」
別に笑わなくてもいいですけど、あんまり鼻の下は伸ばさないでくださいね。カッコいいお顔が台無しですから・・・って、キョン君が鼻の下を
伸ばしているところなんて、私は見たことありませんけど。
しっかりと腕を組みながら、お土産屋さんを覗いたり、ちょっと横道に入ってみたり・・・ここぞとばかり、色々とお話もしてみます。
夏休みのこととか、進路の話とか・・・あんまり色気ないですね。でも、キョン君も柔らかい表情で、受け答えをしてくれます。
ぴったりくっついて、キョン君の体温を感じながら、ちょっと夢見心地な感じでほわほわしてましたけど、こんな機会です、以前からちょっと
気になっていたことがあるのです。今の雰囲気なら言える気がします。
「キョン君・・・前からちょっと気になっていたんですけど、なんで私のこと、名前で呼んでくれないんですか? こなたさんやかがみさんやつかささんは、
名前で呼び捨てなのに、なんで私は苗字なんですか? 私も・・・名前で・・・呼んで欲しい・・・です・・・」
言えた、言えました! でも、ちょっと詰問口調になってしまったでしょうか? キョン君、気を悪くしないで下さいね。
高良がいきなり腕を組んで、身体をぴったりと寄せてきたときはちょっとビックリしてしまった。いや・・・俺だって、まあ人のことは
言えないが、高良はあの4人の中でも飛び抜けて奥手で、3年友人付き合いをしていて、ほとんどそういう方面でのアプローチというのを受けた覚えがない。
まあ、こなたやかがみやつかさのことだって、黒井先生から指摘されて、ようやく今までの行動の一部の真意が分かったくらいだから、高良のそれも、
知らず知らずのうちにスルーしていたという可能性も、なくはないのだが。
それにしても、腕に伝わるこの素晴らしい感触はどうだろうか。しかも・・・俺が一応エチケットとして、不都合の申し立てをしてみたらその答えが、
「うふふ、当ててんのよ、です♪」
と来たもんだ。あの高良でも、旅行気分でリラックスすると、このテの冗談の1つ2つは出てくるんだな。楽しんでくれているのは嬉しいことだ。
それにしても、あの4人の中でも際立って目を引く美人なのに、高良って告白されたとか、男関係の話を全く聞かないのがとても不思議だ。
高良は積極的な性格ではないにしろ、顔はとても可愛いし頭も気立てもいいし、プロポーションも完璧だし、優しいし、黙っていてもアプローチ
されていそうなものだがな・・・まあ、俺が知らないだけかもしれんな。いい機会だから思い切って聞いてみようか・・・
黒井先生からも、もう少しあの4人を女の子として見てやれって釘を刺されたしな。自分の気持ちをきちんと確かめるためにも、ある程度、このテの
関心を相手に持っても良いと思うんだ。お互いにな。そんなことを思案していると、高良が突然、俺に向かって口を開いた。
キョン君、なんで私のことは名前で呼んでくれないんですか?
こなたさんやかがみさんやつかささんにしているみたいに、私も・・・名前で・・・呼んで欲しい・・・です・・・
- 俺ってダメなヤツなのかもしれん。相手に気を使うにせよ、気の使い所を間違えているみたいだ。
もっと女の子として相手に関心を・・・という以前に、高良にこういうことを、面と向かってお願いされてしまうとは・・・実のところ、これまで
それで通してきたので、不感症になってすっかり忘れてしまっていた。
高良は1年の頃から学級委員長をしていることもあって、友人になる前はクラスの男どもと同様に俺も「委員長」と呼んでいた。
こなたやつかさを介して友人になったとき、役職名ってのもあんまりだと思って高良と苗字を呼ぶようにしたのだが、他の3人はその後スムーズに、
苗字読みから名前呼び捨てに、時を経て移行したのだが、高良だけはどうも気恥ずかしくて、そのままになってしまった。
こなただって高良のことだけは「みゆきさん」と、ヤツには珍しくさん付けで呼んでいるわけだし、俺も今以上に「馴れ馴れしい」呼び方はしない
方が良いと愚考していたのだが、高良からすれば、名前を呼んでくれないのは「馴れ馴れしい」というより「よそよそしい」という感情の方が
強かったわけか。
- その高良から、勇気を振り絞ってのお願いと来ては、俺も誠実に答えなければならないな。それに、これからのことを考えたら、潮時でもある。
キョン君はしばらく、私の言葉に何か考え込む様子でしたけど、何かを決意したのか、私の目を見ながらこう言いました。
「ごめん・・・俺、高良がそんなに呼び名のことを気にしているって気づかなかった。無神経、だよな。
分かった。これからは意識して、ちゃんと名前で呼ぶようにするよ、その・・・みゆき。でもいつものクセでまた『高良』って言っちまうかも
しれないけど、頼むからそんなに怒らないでくれな」
とても嬉しいです・・・勇気を出して、言ってみて、良かったです。ホッとすると同時に、ムラムラとちょっと、意地悪心が湧いてきます。
ダメです。高良って言ったら、怒って泣いちゃいます!
「・・・それは勘弁してくれよ。たか・・・みゆきを泣かせたりしたら、あいつらからボコボコにされそうで・・・」
キョン君、今また高良って言おうとしましたね・・・なんかちょっと涙が・・・
「いや・・・分かった、気をつける、その・・・あの、みゆき。だから勘弁してくれ」
練習しましょう。私の名前を呼ぶたびに、その、とか、あの、なんて言ってたら、こなたさんやかがみさんに、からかわれますよ。
「いや、もう大丈夫だ、みゆき。それはそうと、このあたり、町外れじゃないか。そろそろ引き返さないとヤバいんじゃ・・・」
ああっ・・・夢中になっていろいろ考えたりお喋りしていたら、つい・・・
「ま、俺も人の事言えないけどな。みゆき、少し急いで戻ろうか。確か集合場所は昼メシ食った蕎麦屋の前、だよな」
そういうとキョン君は、私の手を握って歩き出しました。私もいそいそと後に続きます。キョン君の手、大きくて、暖かいな・・・
「おーい、2人ともここだよー」
キョン君とゆきちゃんを見つけたので、私は手を振って声をかけました・・・って、キョン君とゆきちゃん、何で手を繋いでるの?
「いや、ちょっと遠くまで足を向けちまって、集合時間に間に合わないと思ったんで引っ張ってきた・・・大丈夫だったか、みゆき」
「ええ、大丈夫ですよキョン君」
そっか、それなら仕方ないね・・・じゃお姉ちゃん、こなちゃん、私行くね。そう言って2人を見ると、こなちゃんもお姉ちゃんも、目を
まんまるくして、口を( ゚д゚)ポカーンと空けています。2人とも、キョン君とのデートに外れちゃったの、そんなにショックだったんだね。
「・・・違うわよっ。キョン君・・・今みゆきのこと、何て言ったのっ!」
「こらー、何でキョンがみゆきさんを名前で呼び捨ててんだヨ! みゆきさんに何かしたなー、ケダモノっ!」
え? え? なんで2人ともそんなに怒っているの?
「つかさ。今までキョン君、みゆきさんのことは『高良』って呼び捨ててたでしょ。それが2時間して帰ってきたら『みゆき』になってるの!」
「一体何階級特進だヨ! 何回殉職したんだよ!」
そっかー。良かったねゆきちゃん。前からちょっと気にしてたもんね。キョン君も偉い偉い。女の子はね、同年代の男の子から名前で
呼び捨てられるとキュンキュンしちゃうんだよ。
「ふふ、ありがとうございます。つかささん」
「ささ、じゃみゆきさん。この2時間の間に何があったのか、たっぷりと聞かせていただきやしょう。つかさ、さっさとキョン君連れてどっか行けっ!」
「キョン君、つかさにあまりオイタしないでね。それじゃごゆっくりー」
こなちゃんとお姉ちゃん、ゆきちゃんの肩を抱くと、さっさと私たちから離れてどっかに行っちゃった。ゆきちゃんも大変だねー。
さて、次は私の番だねキョン君。行きたいところがあるんだ、付き合ってくれる?
「ああ、お付き合いいたしますとも。どこへなりともお連れ下さい」
さ、乙女の戦い、はじまるザマスよ。ゆきちゃん、私も負けないから!
「それにしても、地方都市って言うのも、独特の雰囲気があって面白いですね」
そやろゆいさん。首都圏もええけど、こういうビミョーにうらぶれた感じがして、せやけど何にもないってわけでもなく、そんな
雰囲気を味わえるのも、旅行ならではってもんや。
ちょいとあちこち冷やかしてみるか。思いがけん掘り出し物が見つかるかもしれんよ。
「そうですねー。あ、なんかあそこの店、怪しそうですねぇ。骨董品屋ですか、お土産物屋でしょうか」
そやな、じゃちいっと覗いてみるか。
「あの子たち、今頃何してるでしょうね」
あはは、まさか外でやったりはしてないやろ・・・もしかしたら、こっそりと混浴の温泉に入りに行ったりしてるかもしれんけどな。
「え、そんなところあるんですか?」
あの近くの有料の温泉の中に、いくつか混浴の風呂がある。ま、穴場やしなかなか見つけられんけどな。
それはそうと、今晩、楽しみやな。柊のヤツがキョンの<禁則事項>見てどんな反応を示すやら・・・それに・・・
「またキョン君を絞り上げるんですか? ホントに好きですねぇ」
なに言うてんのや。あんたかてエッチ好きやろ。昨日のあのイク時の声なんぞ、女のウチが聞いても変な気に・・・
「ちょ・・ちょっとやめて下さい。そういう話はまた後で」
そやな、ま、今はウチはウチらで楽しもうや。そして夜も燃えるで!
最終更新:2007年08月12日 04:58