Snow mountain syndrome

さて、今はキョンとの幸せな日常を取り戻してしばらく経ったころ。
私達は一緒に夏、秋を過ごした。
色々、不安なこともあったのだけど、一緒に立ち向かって負けたことは無かった。
そして季節は巡り、今は冬。
場所は雪山。
服装はスキーウェア。
ここで何しているのかと聞かれれば、大抵は「スキー」や、「雪合戦」などと答えることが出来るはず。
私もさっきまでスキーをしていたもの。
でも、今の私達・・・つまり、SOS団の5人、こなた、私、つかさ、みゆきはそうは答えられない。
何故なら。
―――――遭難してるからよ。


Snow mountain syndrome


今から3日前。
キョンが学校の階段から転げ落ちて、数日経った日のこと。
私やこなた達は一緒にSOS団の部室にいた。
いや、正確に言えば文芸部室ね。もはやSOS団室だけど…。
そのSOS団室で私達が何をしているかといえば、ハルヒ達のクリスマスパーティに参加している。
無論、本来では部室で火を使うなんてことは言語道断なんだけど。
黒井先生、生徒会長が許可してしまったのだから仕方がないわけ。
という訳で、おいしく鍋をいただいてるの。
最初は私やキョンは反対したんだけど、
「ほら!先生もいいって言ってるじゃない!何か問題あるわけ?」
などとハルヒが言い出した日には止められないことを私達は学習している。
生徒会長の方は、古泉君が根を回したらしいわ。どうやったのかしら。
そして、長門さんやこなた、朝比奈さんたちみんなで鍋の材料を買いに行ったの。
「キョン!!あんた荷物もちなさいよね!か弱い女の子に持たせる気なの?!」
「確かにかがみはか弱いし可愛いが…ああ、分かったよ。」
というやり取りがあり、結局はキョンも一緒に行くことになった。
終始、私達は手を繋いでいた。バカップルって思われたかもしれないわね。
キョンとなら、いいんだけど。

そして、約10kgはあろうかという荷物をキョン一人で持って、あの地獄坂を登った。
私も手伝おうかといったんだけど、
「かがみはいいって。こけたりしたら大変だろ?」
と言ってキョンは重たい荷物を抱えながらニッコリ笑った。
「ありがと、キョン!」
「ほら!そこのバカップル!!ぐずぐずしてないで早く歩きなさい!」
もう、ハルヒ…私は良いけど、もう少しキョンには優しくしてよね。

私達が部室に戻って10分も経ったときには、すでに鍋の用意は大体整っていた。
みんなの手際がいいのかしら、はたまた…。
そして、みんなで囲んで鍋が始まる。
長門さんは物凄いスピードで食べてるし、こなたはチョココロネ食べてるし、みゆきは材料を鍋に入れてるし。
朝比奈さんはお茶くみ係りになってるし、つかさはもう眠そうだし、ハルヒはお肉しか食べてないし。
普通に鍋を楽しんでるのは、私とキョンと古泉君だけね…。
大体、こなたはどうしてチョココロネを食べてるのよ!?
「いやー、鍋を囲みながら一人だけ特別だとさ、」
「いいわ、それ以上は…。危険な気がするし…。」
やれやれ、って、もう鍋殆ど残ってないじゃない!!
あーもう…。
「かがみ、ほれ。」
「どうしたの?キョン…むぐ?!」
「うまいか?」
「美味しいわよ、キョンのだもの…って!」
私の目の前には、ニコニコしているキョンの顔があった。近いわよ!近すぎる!みんなが見てるわ!
「おやおや、仲睦まじいようですね。」
古泉君、あなたまでそんなことを言いますか。
みゆきも古泉君とずっと一緒にいるわね、そういえば。
「お姉ちゃん、顔真っ赤だよ~」
ありがとうつかさ。
私は真っ赤な顔を冷やすために、12月の空の下に出ることにした。

「ふうっ・・・・。」
私は、取りあえず屋上に来ていた。
いくらまだ完全に日は落ちてないとはいえ、今はもう12月。
このくらいの時間になれば、空気は澄み、一番星が見えるようになる。
うっすらと東の空には月も昇る。
のんびりと星を見ながら私は屋上のベンチで、何時の間にか寝ていた。


・・・・・・・
・・・・・
・・・

「起きたか?」
目を覚ますと、真正面にキョンの顔。
えぇぇ!?
「ちょっ!私どこにいる…あ、そっか。」
動揺している私を見てキョンは可笑しそうに笑う。
「部室で鍋食ってて、かがみが外に出てくるっていって、そのまま帰ってこないからな。
 心配して探してたんだよ。」
「そっか…ごめん。」
「いーや。可愛い寝顔見せてもらったしな。」
「恥ずかしいわよ…。」
ははは、とキョンが笑う。
釣られて私も笑った。
幸せね、本当に。

「それにしても、かがみ。」
「うん?」
「今日は星が綺麗だな。」
いつしか空は、一面星の海になっていた。
北高は山の上だし、この季節空気も澄んでる。
「そうね…。あれ、ベガとアルタイルじゃない?」
「すまん、分からん。」
「えっと、織姫と彦星よ。今は離れてるけど、七夕にまた会えるのよね。」
「そうか…なんか、いいのかな。俺らいつも一緒にいてさ。」
「キョンは私といるのは嫌?」
「そんなわけ無いだろ。俺はかがみといて幸せだよ。」
「私だって!」
…私達はまだ気がつかない。階段にある7+1の影に。
「それにしても、付き合いだしてもう半年ね…。」
「そうだな。そういや、ハルヒがさっき
 「今年は雪山に行くわよ!!」って言ってたぜ。」
「えぇ…つかさやみゆき達は?」
「大賛成みたいだったぞ。俺らも強制参加らしい。」
「はぁ…。」
「でもまあ、かがみとずっといられるからな。今回はハルヒグッジョブだな。」
「もうっ!」
私はまた顔が赤くなってきたのを感じる。
折角屋上にきた意味ないじゃない…。
キョン、私を困らせてばっかりなんだから…。
こうなったらっ!
「キョーン。」
「どうした…」
そう、唇を重ねた。
こういう想いは共有した方がいいのよ。
「かがみ…ビックリした。」
「ふふっ。キョンったら真っ赤よ?」
「かがみだってそうだぞ。」
「いやあ、お二人ともお暑いですなあ。」
空気が凍りつくと同時に………嫌な予感がする。
「お前ら二人、部室からおらんようになってから何しとんかと思えば…。」
………すごく嫌な予感がする。
「ほわわっ!わ、私は何も見ていませんよ、かがみさん!」
………背中が凍り付いてきた。
キョンの顔も心なしか固まっている。
これは、降参ね。
「あんたら?いつからいたのよ。」
「お姉ちゃんが起きた所からかな。
 ずっと、お姉ちゃんキョンくんに膝枕してもらってるんだもん。」
ははは…。
もう、笑うしかないわね…。

「いやぁ、本当にいい物見せてもらったよ~
 まさにエロゲでいうルート攻略の最後のほうというか…ネ。」
「こなたっっ!!変な例え方やめてよ!!」
「お姉ちゃん、何だか可愛いね~」
「キョンさんと居られる時の無防備な顔は、微笑ましかったですよ。」
み、みゆきまで・…。
「いやぁ、本当にいい物見せて頂きましたよ。
 変な意味ではないのですが、フィニッシュ寸前と言いますか…。」
「古泉!!変なたとえやめんか!!」
「キョンくん可愛かったですよ。かがみさんに惚れ惚れなんですね。」
「無防備。でも、微笑ましい。」
「な、長門…朝比奈さんまで…。」
・……ココまで似た者、よく集まったものね。
「「やれやれ。」」
キョンと私の溜息がハミングした。
私達も似たもの同士ね…。

「ああ、かがみ。言い忘れてたけど、今月の27日は合宿に行くわよ!!」
「合宿?って!明後日じゃないの!」
「そうよ。あんたも名誉団員の自覚を持ちなさいよね!」
「いつから名誉団員なのよ…。」
「あんただけじゃあないわ!こなたにつかさ、みゆきもよ!!」
「人の話をちゃんと聞きなさい!」
はぁ。これは合宿決定ね。
まつり達に何も突っ込まれなければいいんだけど・・・。
そういえば。
「合宿って、どこに行くのよ。」
「あんたと同じ名誉顧問の鶴屋さんが持ってる別荘に行くのよ!」
別荘…マジですか…。


そして、合宿の前日。
ピピピという着信音が携帯から流れる。
半年以上変えてないわね…。
まあいいわ。あ、メール一件受信。

-from キョン
-件名 明日なんだが
-本文 明日なんだが、少し速めに行って駅前でお茶しないか?

もちろん、OKよ。

-件名 Re:明日なんだが
-本文 分かったわ。集合一時間前でいいかしら?

返信完了、っと。
さて、そろそろ寝ようかしら?
ピピピッ。ピピピッ。
あれ?メールじゃあないわ。電話の着信音がなる。
誰かな、こんな時間に。

-着信 キョン

キョン?ピッ。
「もしもし、どうしたの?」
「ああ、何となくかがみの声が聞きたくなってな。遅くに電話してすまなかった。」
「ああ、良いのよ。別に。あたしもキョンの声聞いてからなら安らかに眠れるし。」
「照れるな。」
「言ってるこっちの方が恥ずかしいわよ…。でも、キョンならね。」
「はは、ありがとな。」
「こちらこそ。」
…今の、分け分からなかったわね。
「あー、明日、一時間前に駅前でいいんだよな?」
「キョンがいいなら、私は良いわよ。」
「じゃあ決定だな。」
「うんっ。楽しみね。」
「はは。それにしても、合宿って何するんだろうな?」
「あのハルヒのことよ。まともな事は考えてないわね。」
「だろうな・・・。常識的にまともなことも起こりそうに無いが・・・。」
「ん?どういうこと?」
「ああ、去年の合宿で物凄く苦労した奴の独り言だ。気にしないでくれ。」
「そう・・・。気にしないでっていうなら特に何も聞かないけど。……そろそろ寝る?」
「それが良いかもしれないな。明日うっかり寝坊したら駄目だしな。」
「頼むわよ。じゃあ、寝よっか!」
「そうだな。じゃあかがみ、お休み。」
「お休み、キョン!」
ピッ。
ふう…なんだろう。
この、「お休み」って言い合える幸せ。
この幸せに浸っている内に、何時の間にか意識は夢の中に沈んでいた。


気をつけて。

声が、聞こえた気がした。

その声はきっと長門さん。

これは感覚なんだけど…きっと、未来の。

そして、過去の。

あの時と同じ感覚が蘇える。

この旅行、大丈夫なのかしら――――。


ピピピ。
いつもの無機質な電子音に私は起こされる。
もうこんな時間……って!
やば、急いで支度しなきゃ!

物凄い勢いで着替えを済ませ、朝食を食べバスに乗り駅前に。
集合1時間15分前。何とか間に合ったわ。
本当に私の家のあたりのバス会社は定刻遵守ね・・・ある意味恐ろしいわ。
渋滞してたらどうするのかしら?
DIO様みたいに?……いや、恐ろしい想像はよしましょう。
さて、今日もいつも通りポニーテールにしましょうか。

「おーい、かがみ!」
「おはよう、キョン。」
「ああ、待たせてすまないな。」
「良いのよ、別に。いつものことでしょ?」
「はは、そうかもしれないな。あ、そうだ。」
「なーに?」
思わず笑みがこぼれる。
「似合ってるぞ、そのポニーテール。」
「ありがとっ。」
本当に、キョンはポニーテール好きよね。
私も好きなんだけど…。
「かがみって、本当に似合うよな。ポニーテール。」
「そう?」
「ああ。この世の誰よりも似合ってる。」
「こ、こんなとこで照れるようなこと言わないでよ!は、早く喫茶店に行くわよ!」
「はは、本当に可愛いな。」
「もおぉ!!」
真っ赤になる顔。
本当にキョンは……。
大好きなんだからね!

喫茶店に入った私達は、適当に何か注文しようとしたんだけど。
「じゃあ、うな重ちょうだい。」
「今は無い。」
「じゃあえびピラフで。」
「今は出来ない。」
「えー!じゃあ、このミートスパで。」
「今は無理。」
「これも駄目なの?!じゃあ、もう何でも良いです……。」
「お勧めはこの、ワカメスープのナイフ入り。黄緑色の髪の店員が届けるオプション付き。」
「じゃあ、それにしてくれ。」
「所要時間はワカメ。許可を…」
隣の客の注文が気になって手元のメニューに集中できない!それにナイフ入り!?
キョンを見ると、同じように頭の上に”?”マークを浮かべている。
私はクエスチョンマークを頭に浮かべている。
同じよね、と突っ込みを自分に入れつつ私はメニューに向き合った。

「じゃあ、ホットを2つ。だよな、かがみ。」
「そうね。」
「所要時間は5分。・・・・許可を。」
「よし、やっちまえ!」
……キョンまで意味不明なんだけど……。
これは仕様なの?ドリームっていう喫茶店は…。

「ホット2つになります。」
黄緑色の綺麗な髪をしたウェイトレスさんが届けてくれたホットを飲みながら、私はキョンの話を聞く。
「すまん、信じてもらえないかもしれないんだが・・・。」
そういってキョンは話し出した。
常識では考えられないことを。
「そう、あれは去年のSOS団の冬合宿のことだった―――。」

「………というわけなんだ。信じてもらえないかもしれないが……。」
「ううん、キョンのいうことなら信じるよ、私。」
「ありがとな。」
でも……雪山で遭難?長門さんの力も使えない?
それ以前に、長門さんの……力?
「やっべ!集合5分前だ!」
「わぁ、本当!急がなきゃ!」
「会計は任せて、かがみは先に行っておいてくれ。」
「駄目よ!遅刻するなら、一緒にね。」
「そうか、じゃあ少し待っててくれ。」
「うん、わかった。」
私の疑問は時間とハルヒに消された。

「遅い、罰金!といいたいところだけど、今日はこれから電車だから許してあげるわ。」
「そりゃどうも。」
予告どおり、集合時間に3分遅れていった私達。
待っていたのはやはりハルヒの怒号だった。
「本当にもう!今度遅れたら校庭30周の刑だからね!」
「やれやれ……。」
「では行きましょうか、皆さん。向こうでは執事の新川さん、森さんが待ってくださっています。
 電車に遅れると、彼等を待たせることになりますので。」
「楽しみですね、旅行。」
「キョンキョンとかがみんの仲はどれくらい進展するのかな・・・。」
「雪山で、おもちうにょーん。」
やれやれ、古泉君以外本当に何も考えてないわね。
そう思いながらふと、長門さんを見てみると。
「………。」
何やら本を読んでいる。
ハイベリオンの没落・・・知らないわね。
今度、フルメタでも貸して読んでもらおうかしら。


ああ、ココからは少しだけ俺が語り手になる。
かがみがもう寝ちまってるからな。
とはいっても、まるで話すことなど無いのだが。
敢えて解説することがあるとすれば・・・・。
ハルヒや朝比奈さん、泉につかさはのんびりとUNOをしている。さっきまでトランプだったんだが。
長門は乗車からずっと本を読んでいる。
高良は古泉の隣で微笑を浮かべながらまどろんでいる。
かがみは・・・言わずもがなだが、俺の隣ですやすやと寝息をたてている。
可愛い寝顔だよな、本当に。
「それにしてもです。今回のSOS団の旅行なのですが…。去年みたいなことがなければ良いのですが。」
「その意見には大いに賛同する。去年は人数も少なかったし、長門が何とかしてくれた。
 今年は人数も多い。長門に負担かけたくないし、俺達には守らなきゃいけない人もいる。」
「確かに彼女を失えば、世界は破滅したも同然でした。しかし、…これはいずれお話しましょう。
 それとは別、僕は…みゆきさんをお守りしますよ。必ず。」
「それ以前に、去年みたいなことがなければ良いって話なんだが…。」
「そうなのですが…。妙な胸騒ぎがするのです。」
俺たちを乗せた列車の車窓から見える景色は、いつしか雪山に変わっていた。


………

何時の間にか私は寝ていた。
そして、目が覚めた私は体に触れる暖かさと、空気の冷たさを感じた。
「起きたか?かがみ。」
キョンがずっと私をおぶってくれてたみたい。
「あぁ、ごめん!今すぐ降りるわ!」
「そうか。ちょっと待ってくれ。」
よっ、というキョンの声と同時に私は地面に足をついた。
「ごめんね、キョン。おぶらせちゃって。」
寝起きの目を擦りながら私は謝る。
「いいんだよ。気持ちよさそうに寝てるかがみを起こすのもあれだったしな。」
「そう…。ありがとね!」
「はは、じゃあ行くぞ。」
みんなから少し遅れて私はキョンについて行った。

「では、こちらへ。」
6ヶ月ぶりくらいに新川さんと会う。
未来を変える前に一度、新川さんに会ったことあるんだけど…。
向こうは無いわよね、その未来はなくなってるんだから。

新川さんの案内で、鶴屋先輩の別荘にお邪魔する私達。
広いわね……、というのが最初の感想だった。
本当に広い。
しかも、別荘に専用ゲレンデがついている豪華さ。
信じられないわ…何をしたらこんなに儲かるのかしら?
「申し訳ございません、皆様。去年よりも人数が多く、部屋が2つほど足りないのです。
 4名様が、2つの部屋に泊まって頂かなくてはいけないのですが…。」
!!!
嫌な予感がする。すごく嫌な予感がする。
「じゃあ、キョンキョンとかがみんペアはけって~い!」
こなたぁぁぁ!!!
「え~?何、かがみん。変な想像しちゃったの?」
「そ、そそそんなことしないわよ!」
「キョンキョン、どうするよ?かがみんは妄想しちゃったみたいだけど?」
「何故そこで俺に話を振る…。それに変なことを言うな。
 俺は別にかがみと一緒で構わないんだが。」
「キョン…。分かったわよ。それで?もう1つのペアは?」
「じゃあ、僕とみゆきさんでどうでしょう?」
「私は構いませんよ、一樹さん。」
「申し訳ございません。ではその4名様はこちらに。
 後の方々は、森についていってください。」
はあ、本当にキョンと一緒に寝ることになっちゃったわね…。
変なことは何も考えてないわ!考えてないんだから!

部屋に案内されたんだけど、部屋もこれほど広いとは思わなかった。
ベットも2人並んで寝られるほど。
流石に少し狭いけど…。
「なあ、かがみ。」
「どうしたの?」
キョンはちょっと寂しそうな顔をしている。
「去年の遭難の話の続きなんだが、いや…補足と言うべきだな。」
「他にも何かあったの?」
「ああ。吹雪の中の建物で幻影が現れたんだ。」
「…?」
「つまりだ。俺のところには朝比奈さんの幻影が現れたんだよ。
 いつもの朝比奈さんじゃあなかった。おかしかったんだよ。
 勿論、本物じゃあなかった。」
「そうなんだ…。」
としか答えることができない。
「もし。これはifの話なんだが…今年も遭難したとして。
 そうなったら一緒の部屋にいたいと思うんだが、いいか?」
「キョンがそれがいいなら、私は構わないわよ。」
「ありがとな。」
結局、どうして寂しそうだったのかは分からない。
でも。
いくらなんでも遭難はしたくないな…。

その後ハルヒの号令がかかり、みんなでスキーをすることになった。
まだ疲れてるんだけど、ここで逆らえばまたうるさいのは分かりきっている事だから何も言わずに黙々と着替える。
そして、着替え終わり直ぐにゲレンデに移動。別荘から2分とはどんな便利さなのよ。
「さあ、滑るわよ!!」
ゲレンデにつくと同時にハルヒが大声で叫ぶ。
雪崩が起きないか少し心配になるくらいの音量。
「ハルヒ、そんなに大声出さなくてもいいから。」
「うるさいわね!いいのよ、そんなこと!」
「あんまり良くないと思うんだが…取りあえずかがみ、行くぞ。」
「そうね。滑りましょ!」
「では、僕達も行きましょうか。」
「私…こういうの初めてなので、よろしくお願いしますね。」
「ちょ!あんたら!待ちなさいよ~っ!」
私達は、ハルヒの声を華麗に無視してリフトに乗り込んだ。


さて、ここでまた俺が語り手になる。
毎度たいした長さを喋らないのは許して欲しい。
メインはかがみだからな。
これと言って語ることも無いので取りあえずみんなのすべりを解説しようと思う。
ハルヒは暴走。ただ直滑降しているだけ。止まれるのか?
朝比奈さんはふらふらとスノーボードで滑っている。
長門は…重力が働いているのか分からない。
つかさはうにょーんとか言いながら朝比奈さんの後ろをのんびりと付いていっている。
泉も上手いな。どこで習ったんだかな…。
古泉と高良は一緒にスノーボード。
俺とかがみは、一緒にゆっくり滑っている。
あいつらみたいに暴走はしないのさ。
ふう、もう直ぐ一番下か――――。

さて、3回ほど滑り降りてそろそろスキーの感触にもなれて来たとき。
後ろから朝比奈さんとつかさも降りてくる。
そして、少し風が強く吹いた時…

―――私達は何時の間にか吹雪の中にいた。


そして、今に至る。
目の前は真っ白、雪しか見えない。
「お い、かが  大  」
キョンの声が聞こえるんだけど、風の音で殆ど聞き取れない。
もう少しキョンの近くに寄れればいいんだけど、吹雪で前に進むのが精一杯。
「キ  !  な  こ ! 」
キョン、なんなの、これ!とキョンに叫んだのに、キョンには聞こえてないみたい。
そろそろ、歩いていて足が痛くなってきた。


―― Side:Yuki nagato ――

「おい、長門。これは去年と同じか?」
彼の声が聞こえる。風の音を情報操作で無理やり聞こえ難くしている。
情報検索…適合。
「そう。今回の吹雪も前回と同じ。全く出口が見つからない。
 勿論、ここは異次元空間。恐らく私達を閉じ込めたのは。」
「誰だ?!」
「―――天蓋領域。」

それに、今回の目的は涼宮ハルヒではない。古泉一樹も分かっているはず。
朝比奈みくるは恐らく禁則が掛かっているが、一部は知らされているだろう。
…後少しで涼宮ハルヒが館を見つけるはず。

―― Side:Yuki nagato close ――


「館があるわ!」
先陣をきって歩くハルヒの叫び声が辛うじて聞こえた。
何とかキョンの右に並んで歩いている私はキョンの顔を覗いた。
寂しそうな、悔しそうな顔をしている。
どうしてそんなに寂しそうなの?
「館に入れてもらいましょ!このままじゃあ凍え死んじゃうわ!」
私のそんな疑問も、ハルヒの声によってかき消された。
「しかし、ハルヒ。去年もだったが…勝手に入っちゃあいけないと思うんだが…」
「そんなこと言ってたら、ここで凍え死んじゃうわよ!?」
「そうですよ。このままでは、守るべき人と一緒に凍ってしまいます。
 ここは、この館に入らせていただきましょう。」
「…問題ない。この館には誰も居ない。」
「ほら、有希もこういってるんだし!入るわよ!」
「ちょ、ちょっとまて!」
「お邪魔しまーす!」
ハルヒを先頭にみんな入っていく。
でも、キョンは入ることを渋っている。
「おい、古泉。入ったら出れるか分からないんだぞ?」
「しかし、このまま体力の消耗を待つだけでは本当に凍え死んでしまいます。
 それなら、この館に入ることを誰でも選択するでしょう。これは緊急事態なのです。
 …それに、あなたと話したいことがあります。」
「…分かったよ。」
古泉君の説明でキョンは渋々了解したみたいで、館に入っていった。
私は最後に入った。館の中の暖かさが身をつつむ。
そして、ドアを閉める。
後ろ手にドアを閉めたんだけど…、ドアが閉まったその瞬間に手からドアノブの感触が消えた。
私は恐る恐るドアを見る。
そこには、ドアノブのついていないドアがあった。

「この館、去年と同じね!」
「ああ…嫌な予感も同じだな。」
青ざめた顔をしたキョンがいう。
「…そう。貴方の考えは間違っていない。」
「やはりそうか…。」
「取りあえず今年こそ誰かいるかもしれないわ!探しに行くわよ!
 今年は、つかさとこなた付いて来て!バカップルの2人はほっときましょ!」
「ほーぃ。」
「分かった~。」
バカップルの4人、ね…。

「さて、涼宮さんがいなくなりました。早速お話しましょうか。
 まず、かがみさん、みゆきさん。落ち着いて聞いてください。」
「古泉、かがみにはもう粗方話してある。」
「では、みゆきさん、皆さん。
 これは僕の感覚なのですが、ここは普通の異次元空間ではありません。敵意が存在しています。
 僕と朝比奈さん、長門さんに。」
「い、異次元空間ですか?」
「みゆきさん、信じられない気持ちは十分に分かります。しかし、これは本当なのです。ね、長門さん。」
「そう。貴方なら理解できるはず。こんなに歩いてもロッジに到着できず、雪が止まないことからも。
 この旅行…合宿に来る前には、これほどの吹雪を起こす大きな低気圧は日本近海に存在していなかった。」
「じゃあ、どうしてこんな事に…なったのでしょうか。」
「ですから、ここは異次元。言ってみれば、何でもありなのですよ。」
「そういうことなんだ、高良。かがみも信じられないかもしれないが、これは事実だ。
 SOS団唯一の一般人が言うんだから間違いないぜ。」
うん、キョンのいう事なら信じるわ。
でもさ…ちょっと引っかかるんだけど。
「キョン、キョンだけが一般人ってどういうこと?」
「それは…古泉、長門、朝比奈さん、いいのか?」
「僕は問題ありません。聞いておいて頂いた方がいいでしょう。」
「これは規定事項なので大丈夫です。」
「問題ない。」
「そうか…なら話すぞ。
 かがみ、信じられないかもしれないがこいつらは普通の人間じゃあないんだ。
 古泉は超能力者。朝比奈さんは未来人。長門は宇宙人…だ。」
「正確には、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。
 私の目的は、涼宮ハルヒを観察して入手した情報を情報統合思念体に報告することだった。
 しかし…今は違う。」
「どういうことだ、長門。」
「今の涼宮さんにはもう力は無いのですよ。ですから僕は閉鎖空間に行くことも有りません。
 力はまだ残っていますが…。」
「ハルヒに力が無いって…じゃあ、長門も朝比奈さんも誰を観察してるんだよ?」
「それは禁則なんです。少なくとも私は……。」
「私が話す。問題ない。
 涼宮ハルヒから6ヶ月と14日前に力は別の人間に移った。
 一度は戻ったが、あなたと柊かがみが3回目のキスをしたときに完全に力は消滅した。
 一度目に消滅した力は、貴方を生き返らせるためと柊かがみを2週間時間遡行させるのに使われた。
 二度目に消滅した力は、半分ずつあなたと柊かがみが保持した。
 だから、私達の観察対象はあなたと柊かがみ。」
「「…」」
私とキョンは黙りこむ。
だって、いきなりこんな話されても俄かに信じがたいじゃない。
キョンも流石に意表をつかれたらしく、呆然としている。
「かがみ…お前、時間遡行したのか?」
え、そっちですか?
「うん、キョンが事故で死んだときに。でも、長門さんの協力で何とかなったの。」
「俺、死んだのか?」
「そう。貴方と柊かがみがファーストキスをした直後に。
 貴方の記憶にある事故の発生時間とほぼ同じ。」
「それは僕も知りませんでした。」
「そうだったんだ…あの物凄い時空震と未来への波紋的影響力の波はそれだったのね…。」
「…?」
うん、みゆきは話がわからなくて当然よね。私だって半分しか理解できてないわ。
「…あなたを生き返らせたのは涼宮ハルヒと柊かがみ。
 柊かがみと閉鎖空間にいったのも涼宮ハルヒが望んだから。貴方達に生きて欲しいと。」
「そうか…。ところで、この館はやっぱり…」
「貴方の考えは間違えていない。時間の流れが違うことを感知している。」
…私も理解できなくなったわ…。

「と、言うわけなんだ。」
キョンから詳しい説明をしてもらった。
お陰でみゆきも私も理解できた…と思う。
それにしても、ハルヒやつかさ…帰ってくるの遅いわね。
「ああ、それなら後2時間くらい待たないと駄目だろうな。古泉?」
「去年と同じなら、恐らく。」
「私の体感時間では、この館に入って3時間49分52秒が経過している。
 前回の貴方の体感時間は約30分。今回もそれくらいかもしれない。」
「じゃあ、ここでは時間の流れが全く違うからそれぞれの体感時間も違うって事?」
「それは違います。まとまって行動すれば問題ありません。
 ですから、正確にどこで時間の流れが変わるという事は分からないのです。」
「STC理論も無茶苦茶になっている。朝比奈みくるには感知できるはず。」
「ところで、ハルヒやつかさ、こなたはまだ15分くらいしか経ってないってこと?」
「そういうことなんだろうな、多分。」
…大丈夫なのかしら。
でも、ここで私達の誰かが探しに言って遭難しては話にならない。
怖いしね。
待つしかないのね…。
「一樹さん…私、少し怖いです。」
「大丈夫ですよ。貴方は僕がお守りします。」
……。
「かがみ、俺はお前を守るぞ。絶対。後、長門は無理をしないでくれ。
 今年こそはマジにやばい気がする。」
「大丈夫。今年は事実を知っている神が2人いる。貴方達が何とかしてくれると信じている。」
それって、プレッシャー大きいわね。
神って言われても実感ないわよ…。

「ただいまーっ!!
 探したけど誰もいなかったわ。」
大声を出しながらハルヒは元気に帰ってきた。
「なあ、ハルヒ。ちょっと聞きたいんだが…。」
「何よ?つまらないことだったらぶっ飛ばすわよ?」
「お前、ここを離れてどれくらい探した?」
「へ?20分くらいだけど。去年と違って探すのが3人だったからかもね!」
「そうか。」
ってことは、去年より時間の流れが無茶苦茶なのね…。
本当にどうやって脱出するのかしらね。

「とりあえず、寒いからお風呂入りましょ!
 キョン、かがみ。あんたたち先にお風呂入ってきなさい。
 次は古泉君とみゆきね!」
ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとと待ちなさい!突然何を言い出すのよ!
「何よ、そんなに真っ赤になって。付き合ってるんだから問題ないでしょ?」
「あのな、ハルヒ。」
「も~ぅ、ツンデレかがみんとキョンキョン可愛い~」
「こーなーたー!!」
「泉ーーー!!」
「ってことで決定ね。分かったらさっさと入ってきなさい!」
「そーそー!ツンデレ同士、仲良く入ってきたまへ~!」
「…。」
私とキョンは何も言い返せず、風呂場に叩き込まれた。
もう…あんただって女なんだから恥ずかしいの分かるでしょ!!

さて、脱衣所の前についたんだけど。
「あー…かがみ。かがみが先に入ってくれ。俺はここで待ってるから。」
「いいわよ、もう。見つかったらただじゃすまないだろうしね。
 一緒に入りましょ。」
私は恥ずかしいのを我慢して言う。
「わかった…。」
キョンは渋々頷く。
初めての一緒のお風呂よね。
ちょっと、楽しみかも。

「キョンって、背中大きいね。」
「そうか?」
キョンの背中を石鹸で擦る。
もしゃもしゃと音を立てながら、キョンの背中を真っ白にする。
「うん、とっても大きい。」
「そうでもないだろ…普通だと思うぞ?」
「そういうのじゃなくて、存在がって。
 うーん、存在の力が零時迷子でどんどん大きくなってるような。」
「零時迷子とは何だかよく分からないが…ありがとう。」
「いいえ、どういたしまして。」
流石にシャナは読んで無かったかな。今度貸して読んでみてもらおう。
それ以前に、どうしてこんなに落ち着いてるのかな。初めてのお風呂なのに。
「かがみは体洗わなくてもいいのか?」
「キョンに洗ってもらうからいいのよ。」
「そうか…って、マジか?」
「マジよ。」
勿論、すこしからかっているけど本気よ。
「…。分かったよ。」
「ありがと。じゃあ、これはお礼ね。」
「ん…って、真に申し上げにくいのですが。」
「何よ?」
「そのー…あの。当たってるんだが…。」
「当ててるのよ。」
「………。」
っもう!何か言ってくれないと物凄い恥ずかしいじゃない!
「かがみ、そろそろ大丈夫だぞ。」
「ん。分かったわよ。」
ちょっと残念だけど、キョンから離れる。
「じゃあ、今度は私の背中お願いね。」
「わ、かったよ…。何だか無性に恥ずかしいが…。」
「もー!私だって恥ずかしいわよ!」
「分かった分かった。じゃあ、向こう向いてくれ。」
「ん。」
そういって私とキョンはひっくり返ってポジション交代。
「そういや、かがみって綺麗な髪してるよな。」
「そう?今日なんか結構もそもそになってるわよ?」
「ああ、多分猛烈な風の吹雪で水分無くした髪の毛がずっとほっといたから痛んだんだろうな。
 キューティクルが痛んだんじゃあないか。」
「そういえば、夏にみゆきも言ってたわね。キューティクルがどうのって。
 本当、キョンって博学よね。成績は普通だけど…。」
「はは、ありがとな。」
のんびりとキョンは私の背中を洗う。
「あー…気持ちいいわ。」
「どこか痒いところは有るか?」
「無いわねー…。ついでに、髪も洗ってくれると嬉しいな。」
「分かったよ。」
そういって、私はキョンに髪を洗ってもらう。
「キョン、髪洗うの上手ね。男の子なのに。」
「小さい頃、お袋に言われて妹の髪洗ってたからな。まだ感覚が覚えてるのかもしれない。
 妹、うるさかったしな。ここがかゆいー!って。」
「仲よかったのね。小さい頃から。」
「まあな。もう小6なのにまだお袋と風呂に入ってるぞ。」
「そういえば、つかさも中学1年くらいまでお母さんにべったりだったわね。
 だから良い子なのかもしれないけど…。」
「はは、そうなのかもしれないな。」
「ふふっ。」
本当にのんびりと話す。
だって、ここでの10分はハルヒ達から見れば1分だから。
こういうときは便利よね。
「ふう、かがみ。終わったぞ。」
「じゃあ、次は前ね。」
「ぬなぁ!?」
「冗談よ!もう、キョンったら面白いわね!」
「ったく…。」
キョン、多分真っ赤よね。
取りあえず私達は前を自分で洗う。
流石にキョンにしてもらうのは冗談抜きで恥ずかしい。
冗談にしたら恥ずかしくないけどね。
そして、洗い終わって。
「キョン…。」
「かがみ…。」
「「どうしてこんなに湯船が小さいんだろうね(な)?」」
うん、どうしてか分からないけど…湯船が二人が密着してぎりぎり入れるくらいの大きさしかない。
でも、一人ずつ入ると片方の前が見えてしまう。
「仕方ないわね、諦めて一緒に入りましょ。」
「…わかったよ。」
ここで大きな誤算があった。
どうして、お互い前向きで入る大きさしか底が無いの!?
一人ずつ入れば余裕だけど、見せ合うほどの度胸は私達には無い。
という訳で、私達は向き合って入った。恥ずかしい…。これならぎりぎり見えないんだけどね。
「あー…その。」
「うん…えっと。」
「は、早く出たほうが良くないか?」
「そうだけど…後30分はここに居ないと、速すぎるってハルヒ達に怪しまれるわよ?」
「そりゃあ不味いが…俺にはこのシチュエーションがきつ過ぎる。
 いや、嫌じゃあないが恥ずかしすぎる。」
「わ、私だって恥ずかしいわよ!!」
ああもう!ほんと、なんでこうなるのかしら…。

「あらあら、お二人とも顔が真っ赤ね?何かお楽しみでもあったのかしら?」
「お風呂でのプレイって、エロゲだと良くあるシチュだしね!かがみん~?」
だーっ!!ハルヒもこなたも何を言ってるのよ!!!
キョンと私だけじゃなくて、これからお風呂に行くみゆきも真っ赤じゃない!
古泉君は足が凍ってる。比喩じゃあなくて本当に固まって見える。
朝比奈さんは言うまでもない。真っ赤っかっかくらい赤い。
長門さんは、少し微笑んで見える。
つかさ…何かフォローしてよ…。
「とりあえず、ハルちゃん、こなちゃん。ご飯つくろ?おなかすいちゃったよ…。」
つかさ、ナイス!
「そうねー…。みんな、おなか減った?」
「あたしも腕を見せようかね。」
ふう…何とかハルヒとこなたはどこかに行ってくれるみたいね。
いや、この場合キッチンしかないと思うけど。
「では、僕は速めにお風呂を出てきます。」
「わ、私もです!それでは、申し訳ございませんがよろしくお願いします。」
「あ、ゆきちゃん、そんなに急がなくてもいいよ。美味しいもの作るから、時間掛かるし。」
駄目だ、やっぱりフォローできてない…。
「そうねぇ…古泉君!みゆき!ゆ~っくりしてらっしゃい!」
「うん、ゆ~くりゆ~くりね。りら~くすした方がいいよ。」
「はあ…古泉君、みゆき。この馬鹿二人はほっといて早くお風呂行っておいで。」
本当にこの二人の思考形態は変態中年親父か。
と、ここで。
「あ、古泉待ってくれ!」
「どうされたのですか?」
「何か、問題でもあるのでしょうか?」
「あのな…」
キョンは古泉君とみゆきに耳打ちする。
すると…。
古泉君は真っ青になって冷や汗を一滴。
みゆきは真っ赤になっておろおろ。
多分、時間が10分の1ってことを伝えたのよね。
古泉君、みゆき…大変だと思うけど頑張って。
何となく思ったことだけど、笑顔で真っ青冷や汗一滴ってすごい表情よねー…。

そして7分後。
恐ろしく疲れた顔をしている古泉君と、顔を紅潮させたみゆきがでてきた。
よく70分(私達の時間では7分)持たせたわね…。
私達は50分が限界だったわ。
ハルヒとつかさとこなたはキッチンに行った。
美味しいものを作るっていってたから、ここに残されているのはいつもの6人となる。
「みゆき、お疲れ様。」
「古泉も大変だったな。」
「いえ…みゆきさんのお話を聞かせていただいてたら、直ぐに時間は過ぎましたよ。」
「つまらない話だったのですが、聞いていただいて嬉しかったです。」
本当に、この二人はベストカップルね。
「時間の流れが違うことが、こんなに大変だとは思わなかったわ。」
「ああ、いろんな意味でな…。」
もう既に4人が疲労している。
あ、そういえば。
「朝比奈さんと長門さんはお風呂入らなくていいの?」
「あ、そうですね。」
「…失念していた。」
「では、お二人で入ってきたらどうでしょうか。湯船は少々狭かったですが…。」
本当に狭かったわよね。
「そう…。朝比奈みくる、それで良い?」
「わ、私は構いませんよ!」
「じゃあ、二人で行って来い。時間の流れが著しく遅いがな…。」
「問題ない。朝比奈みくるの時空間デバイスを使用し時空間を調整してこちらの時間と整合性を持たせる。」
なら私達にも始めからそうしてよ――!!
そう突っ込みたくなる気持ちを抑えつつ、私達は二人を見送った。

「…なあ、古泉。」
「…どうされました?」
「お前、あの狭い湯船…どうやって入ったんだ?」
「みゆきさんと向かい合って入りました…正直、すごく恥ずかしかったです…。」
「やっぱり、それしかないわよね…。」
「そうですね…そういえば、かがみさんも髪を洗っていたいただいたのですか?」
「うん。キョンって髪洗うの上手だったのよ。」
「一樹さんも、上手でした。」
「「ははは…。」」
男二人は笑うしか出来なかったみたい。
そろそろ30分経つから二人も出てくるかな。

そして、私達の時間で60分たった頃。
いつもより少し無表情度が上がっている長門さんと、顔を青くしている朝比奈さんがでてきた。
「遅かったわね、どうしたの?」
「…。」
長門さんは口を開こうとしない。
「た、大変なんです…。」
「どうしたんです、朝比奈さん。」
キョンが聞くにつれ、朝比奈さんは青ざめ度が上昇する。
「長門さんの情報操作能力が…去年の10分の1しか使えなくなったみたいなんです…。」
「だから、この館から脱出できる可能性は去年の10%に減少した。」
……それは青ざめるわね。
「どうして、情報操作できなくなったんだ?後、去年の10%…ということは、マジでやばいんじゃあないのか?」
「敵性勢力によって、確保していた10個の情報通過可能空間を封鎖された。発見されていないのは1つだけ。
 とても小さな情報通過可能空間のため、殆ど情報操作は使えない。」
「…マジか。」
「そう。脱出するときは、貴方達の力を借りるかもしれない。」
「それで脱出できるなら、いくらでも使ってくれ。後、無理はしないでくれ。
 しかし、去年の10%…ということは、マジでやばいんじゃあないのか?」
「そうですね…ここでは僕の能力も使えません。ですから僕は何も力の無い一般人という事なんです。ここでは…。」
「とりあえず、これからどうする?一まとまりになるか?」
「それを推奨する。これ以上、個人の体感時間にタイムラグを作らない方が良い。」
「そうか…。なら、一まとまりになるか。」
「それがいい。」
よく分からないけど…大変な事態だという事は理解できる。
これからどうなるのかしら、私達…。

「おーい、ご飯できたわよ!!」
ハルヒがご飯が出来たことを伝えにきてくれたんだけど。
「「「「「「…。」」」」」」
みんな顔が真っ青に近くなっている。
「どうしたのよ、みんなのそんな暗い顔して。折角ご飯作ったんだから、早く食べに来なさいよね!」
「ハルちゃん!手伝って~」
「分かったつかさ、今行くわ!」
このまま真っ青でいても仕方ないわね。
私達は直ぐに食堂に向かった。少しは手伝った方がいいと思ったしね。

「それでね、すごいのこの館!欲しかった材料が、何でも大きい冷蔵庫に入ってたんだよ~」
つかさがのんびりと話す。
「でないと、これほど手の込んでいるものは作れないでしょうね…。」
「そうですね。これはバルサミコ酢ですか?」
「そうだよ!本物のバルサミコ酢があって、興奮しちゃった!」
本当にハイテンションよね。そんなにバルサミコ酢がいいのかしら?
何となく気になったので、本人に聞いてみる。
「ねえつかさ、どうしてそんなにバルサミコ酢が好きなのよ?」
「あのね、この前くじらっていう人がしてるお料理番組で紹介された料理がすっごく美味しそうでね、それでね!
 私も作ったんだけどすっごい美味しかったの!」
「それがバルサミコ酢って分わけだったんだ…へぇ。」
なるほど、確かにいろいろと美味しいものもあるけど際立っているのはサラダね。
バルサミコ酢…恐ろしい美味しさね。

とりあえず私達は食事を終え、またさっきの3人が食器の後片付けをしてくれている。
残っているのは事実を知っているメンバーだけ。
「あの…、これから私達どうなるの?」
見れば、私にわかるほど長門さんは顔色が悪くなっている。
「私が最後の情報操作で、3日後の未来の私と同期した。
 その時の私達は、この館から脱出し…」
「それで?」
「なんとか全員無事だった。しかし、脱出できるのは私の体感時間で今日の深夜。
 しか…」
「どうしたの?…長門さん!?」
長門さんが、体を支えていた芯が氷解したかのように、崩れ落ちた。
「有希さん!?」
「長門さん!?」
「くそっ…長門!大丈夫か!?」
「あ…わ…長門さん、だ、だいじょうぶっですか?」
「大丈夫。このインターフェースは無事。敵性情報に圧迫された。
 これ以上情報操作は出来ない。…あなたと柊かがみに情報操作能力を…渡す。貴方達に賭ける。
 力を、使って。」
長門さんがそう言った瞬間、頭の中が物凄く広くなるような感触が私の中を駆け抜けた。
何となくいろいろな物を感覚だけど、感知できる。キョンも目を丸くしている。
「これで最後。あなたは…彼女を恐れないで、味方。柊かがみ、彼女に力を借り、貴方が助けて。」
長門さんはそういって、床に完全に横たわった。くっ…どうして、長門さんが…。
「長門…さんは、貴方とかがみさんに託したのですよ。
 TFEI端末にとって、情報操作能力を失うことは存在を失うことに近いのです。」
私とキョンは黙り込む。
何かしなきゃいけないのは分かってる。でも、何をすればいいのか分からない。
「あ、あのみなさん。有希さんを、ベットで寝かせた方が…すごい熱なんです。」
「そうですね、みゆきさん。取り合えず、貴方は氷枕を用意してくださ…?」
古泉君がそう言いかけた時、突然キョンの手が光った。
まるで空中から現れた光る粒子がキョンの手に集まるような感じ。
「…Selecting…make…complete.なるほど。長門の情報操作、わかったぜ。」
キョンは氷枕を手に乗せて微笑んでいた。
…私だけじゃあなくて、他の人も呆然としている。
それは、今まで一般人だった人間が手で氷枕を作るんだから当然よね。
「……あ、長門さんに氷枕を取りあえず使ってもらいましょう!」
朝比奈さんがそういって、やっと私達は自我を取り戻した。

さて、何とか長門さんをベットで寝かせて、また私達がさっきの部屋に戻った。
「キョン、どうなってるの?これ…。」
私は、さっき突然頭の中が広くなったような感覚のことを聞いてみる。
「俺は、情報を構成するやり方…というか、感覚が頭の中に突然浮かんできたんだ。
 こう、色々物体をだすやり方みたいな。全て記憶されてる感覚。
 さっきはゆっくり構成したんだが、最高速度の1000分の1にも満たないと感じてるんだ。」
「そ、そうなんで。私は、うーん…広くなったように感じただけなの。どういう事なのかしら?」
これの問いは、意外な人が出した。
「そ、それなんですけど…私がTPDDを始めて頭の中で感じたときもそうだったの。
 突然頭の中が広くなるような感覚でしたよ。
 その後、TPDDの起動スイッチを入れたとたん、頭の中が一気に情報だらけになりました。
 ですから、どこかにスイッチがあるのかも知れないんです。よく頭の中を感じてください。」
……そんなことを言われましても。
感じるって言っても、どんなことを感じればいいのかさえも分からない。
「TPDDの場合は…えっと、どう伝えればいいのかな?脳内デバイスの伝え方なんて分からないよぅ…。
 あ!えっと、手を出してもらえますか?」
「えっと、これでいいのかしら?」
「じゃあ、少し待ってくださいね。んっ…。」
朝比奈さんが目を閉じた瞬間、私の広くなったような頭の中で物凄い何かが感じられるようになった。
その何かが情報だと気が付き、私はその突然の衝撃に思わず声をあげた。
「っわぇ!?」
「だ、大丈夫ですか?!ごめんなさい!TPDDを利用して情報を送信してみたんですけど…。」
「え、えっと。私も良く分からないんだけど、突然頭の中に情報が浮かんできたというか…。
 膨大な情報の整理がつくの。えっと…。」
「そ、それですっ!」
「えっと、今情報の整理が終わったのかな…?例えるなら、1万種類の百科事典の全ての項目を一字一句間違えずに全て記憶しているような。
 何でもこの近くの空間?のことが分かっちゃうの。時間のゆがみもわかる…。」
「かがみ、何か構成してみてくれ。」
「えっとー…。どうすればいいんだろう。こうするのかな…いや、これかな…うん、これね!
 makeing-card,high speed speak mode.」
私がこういった瞬間、目の前に真っ白のカードが出てきた。キョンと同じように、粒子が集まって。
正確に言えば情報が集まって結合していく。こういう表現が正しい気がする。
「これで、いいのかな、キョン…。」
「ああ、これでいい。俺にも感じられるから分かるぞ。」
良かった、これで何とかなるかも。何が何とかなるのかわからないけど…。
「あ、あのですね…かがみさんもなのですが。
 長門さんが情報操作できない空間でどうして何かが構成できるんです?僕には理解できないのですが…。」
「私のTPDDもあまり動作してないんです。なのにかがみさんには時空間のSTC理論のゆがみが分かるなんて…。」
「「いや、俺ら(私達)に言われても…。」」
私とキョンは息をそろえていった。…やれやれ。
「あの…もしかすると何ですけど。何も分かっていない自分がこんなことを言うのがいいのかも分からないんですが、よろしいでしょうか?」
「みゆきさんには何か考えがあるのですか?」
「ええ。さっき、この二人が神だと言われたじゃあないですか?涼宮さんの力が移ったって。
 この二人がそれほどの力を保持しているのなら、ここでもその力を使っていろいろ不思議なことが出来るのではないでしょうか。」
「なるほど、確かに彼らほどの力なら出来るのかも知れません。僕には分かりませんが、それが正解なのではないでしょうか?」
みゆきの理解力に感心しつつ、私達は脱出の時を待った。

しかし、ココで思わぬことが起こった。
「お久し振りね、みなさん?」
突然、青い髪の長い女の人が現れたのよ。
同時に私はこの女に人が何者かわかった。頭の中の情報が自動的に出るような感覚…で、長門さんと同じTFEI端末だと分かった。
「あっ、朝倉?!」
キョンは恐ろしく狼狽している。昔に何かあったのかしら?
「心配しないでよ。私は主流派にうつったの。急進派の無理なやり方についていけなくなって。
 長門さんと同じ派閥。だから私が貴方達に危害を加えることはないわ。」
「あ、あの…」
「何?柊かがみさん。」
「あなたはどうやってここに?異次元空間なのは分かるでしょ?」
「情報統合思念体の力を最大限に使ってね。敵が天蓋領域――つまり、情報統合思念体の敵。
 それらが貴方達に攻撃しようとしてた。黙ってみているわけには行かないわ。
 それに。天蓋領域からの攻撃が始まる前に貴方達には戦い方を覚えてもらわないといけないしね。」
「朝倉さん。申し訳ないのですが…僕の力はここでは使えないのですよ?」
「大丈夫よ。戦うのは、彼と私と柊かがみだから。」
えぇぇぇぇぇ!?
「どうしたのよ?貴方にはもう情報操作能力も備わってるわよ。心配しないで。
 長門さんは攻勢情報を彼に、防御情報を貴方に渡したみたいね。これなら話が早いわ。」
「訳がわからないわよ!」
「朝倉、戦うってどういう事だ?」
「前、私と長門さんが戦ったことあったでしょ?それのスケールアップ版と考えればいいわ。
 勿論、今回は1対1じゃあないわ。多分、1001対3位じゃあないかしら?正に情報戦争ね。」
「1001!?絶対俺達勝てないじゃないか!」
「大丈夫よ。貴方の攻勢情報は統合思念体の10倍、高速詠唱能力は1.5倍。余裕よ。
 かがみさん、貴方の防御情報は統合思念体の20倍。高速詠唱能力は3倍位かしら。
 ちなみに私は統合思念体と同じレベル。思念体から貴方達の補助を任されているから。
 …かがみさんは皆を守るの。ついでに私のダメージも回復してくれると嬉しいな。」
朝倉さんはキョンに振り向き、
「貴方は私と一緒に攻撃よ。」
私達、いや私とキョンはどうやら宇宙的未来的に大変なことに向き合わなければいけないみたい。
朝倉さんが嘘を言ってなどいないことは簡単に分かる。
どうするのかしら。
――――戦争開始まで、後1時間。

「…。」
誰も何も言えずに、時間は刻々と過ぎていく。
時間の流れのゆがみが少しずつ無くなっているのを感じる。
「…取りあえず、最低限のことを説明するわ。」
朝倉さんがようやく口を開く。
「さっきも言ったとおり、貴方と私は攻撃。だから最前線につくの。
 かがみさんは、少し後ろで私達以外全員をカバーできる大きいバリアを構成して。
 私がダメージを受けたら回復して。力が余っているようなら、必要最低限の敵の攻撃を迎撃して。」
「俺がダメージを受けたらどうするんだ?朝倉。」
「それは心配ないわ。長門さんと同じように、貴方も高速機動ができるわ。
 それで回避すれば大丈夫。高速詠唱できるんだから、敵の攻撃もしっかり見えるわ。」
「僕やみゆきさん、朝比奈さんや長門さんは…。」
「かがみさんの後ろでバリアの中にいて。彼女ならとても強度の高いバリアが構成できるわ。」
「分かりました。」
何となく私もどうすれば良いか分かった。
高速詠唱モードをオンにすればいいのね。
「みんなーっ!」
ハルヒやこなた、つかさが戻ってきた。
「あれ?どうしてココに朝倉がいるのよ?」
「雪山で遭難しちゃってね。貴方達に近い山でスキーしてたのよ。日本の雪は良かったわ。」
「そう。」
そのとき、館の時間の流れのゆがみが完全に消失した。
そして、大きな揺れが全員を襲う。
「きたわよ!!」
朝倉さんの叫びで、戦争が始まった。

即座に朝倉さんが巨大情報操作空間を構成する。
「これで、長門さんもここに来られるわ。能力が無いから貴方が守ってあげてね。」
分かってるわよ。
「随分と余裕ね?どうしたのよ。」
「……全てを感じ取って理解できるからよ。」
「俺もだよ。」
「そう…。そろそろ本番よ。」
何時の間にかキョンの顔から寂しさは消えていた。
そして。
――――戦争開始。
朝倉さんが高速詠唱を唱える。勿論、私はそれを聞き取ることが出来る。
「Reference from infomation database eject weapon and emergency genocide mode.
 天蓋領域インターフェースの情報連結解除開始!」
朝倉さんは敵の攻撃を受けつつ、敵インターフェースの情報連結を解除する。
取りあえず私は、直ぐ後ろにいる7人に対してバリアを張り、朝倉さんの援護をする。
「Select personal name from memory "Ryoko-Asakura" has damage care started.
 And make a wide area defence barrier.
 High speed closeing enemy weapon destroy start.」
高速詠唱を唱え、一気に敵の攻撃を迎撃する。同時に、バリア内を時間凍結した。こんな光景、誰も見てられないわ。
…すごい量の攻撃ね。とてもじゃあないけど全ての攻撃は迎撃できないわ。
キョンは、既に攻撃の鬼と化している。
「Powormode to enemy interface release from be hostile by infomation connection.
 敵対している広域宇宙情報存在に属するインターフェースの有機情報連結の完全に解除する。」
同時に、32体のインターフェースが連結解除されたのが分かる。
言い忘れてたけど、後ろからも攻撃は来る。
「敵性攻撃の情報連結解除開始。」
私はさっと唱え、朝倉さんを援護する。
そのとき、キョンが物凄い高空から大量の爆発する火の玉を構成して落としてきた。
「かがみ!俺たちにもバリアを張ってくれ!全ての敵性インタフェースにダメージを与える!」
「分かったわ!!」
私は敵性攻撃の迎撃を止め、同時に朝倉さんと私とキョンの周りも情報バリアを構成した。
そして、キョンの攻撃が一気に敵を襲う。
…これで敵性インターフェースは大ダメージね。
「よし、バリアを解除してくれ!一気に勝負を仕掛ける!」
「解いたわ!」
「かがみさん、私のインターフェースを少し再生してくれないかしら!」
「了解!」
今ごろ、外では巨大情報爆発が観測できると思うわ。

そして、私達の情報戦で残りのインターフェースが10体を切った。
「おい、アイツはなんだ?」
キョンが指差す方には、今までのインターフェースを遥かにしのぐ情報量のインターフェースがいた。
「あれが…九曜周防よ。1000体倒して、ラスボスみたいなものよ。
 あのときの長門さんと同じくらいの強さだと思うわ。でも…油断しないで。」
「ああ、分かってるさ。」
「―――――敵を――――見つけた―――攻撃開始―――」
九曜周防がそういった瞬間、物凄い量の攻撃が飛んできた。
私は、一気に情報封鎖して、今までの数倍の強さのバリアを構成する。
構成直後、攻撃が一気に情報バリアに突撃する。
くっ…保つのが精一杯ね。
「くそ、このままじゃあ負けちまうぞ!!」
「私にいい案があるわ。私に任せてて。
 かがみさん…私のことは、貴方が助けてね!」
その瞬間、長門さんの言葉を思い出した。


気をつけて。


「朝倉さん…まさか。」
「うん、でも、貴方達が再構成してくれるから大丈夫よ。」
「おい、朝倉。待て。おい、待てっ!!!」
「うん、それ無理。だってこのままじゃあ、皆やられちゃうわ。大丈夫。私を信じて。」
そういった瞬間、朝倉さんは弾幕の中に突っ込んでいった。
「おい!!!」
キョンが叫んでいる。
「Cool-Edition mode. 私に接触しているインターフェースを私と一緒に永久情報凍結する。」
「朝倉ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
私は訳がわからず、ただ呆然と見ていた。
その刹那、敵性インターフェースからの攻撃が止んだ。
そして私が見たもの、それは…
朝倉さんが、九曜周防と一緒に情報凍結した瞬間だった。

朝倉さんが情報凍結し、私達だけが取り残された。
「キョン…これからどうすればいいの?」
「取りあえず、最後の敵は朝倉が倒してくれた。ここを脱出して元の空間に回帰できたら、朝倉を何とかしよう。」
「どうやって、脱出するのかしら…。」
「それについては問題ない。貴方達の情報操作能力を私に渡して。後は私が何とかする。」
長門さんは何時の間にか、いつもの表情で私達に話し掛けていた。
「長門…もう大丈夫なのか?」
「貴方達のおかげ。貴方達が天蓋領域からの情報圧迫を解除してくれた。平気。」
「そうか。じゃあ、渡すぞ。」
「私も。」
私とキョンは、同時に長門さんに情報操作能力を渡した。
「ありがとう。それでは今からスキー場に回帰する。目を閉じて。」
ありがとう、長門さん、朝倉さん。
私達は目を閉じた。
そして、目を閉じているのに目の前が真っ白になったとき。
私達はスキー場に帰ってきていた。


 Epilogue


「どうして、私達そろって記憶が無いのかしら?」
「うーん、夢の中でバルサミコ酢を使った料理を食べた気がするんだけど…。」
「それに関してなのですが、涼宮さん。」
ここからは、去年の解説と同じだ。
事実を知ってるのは、俺とかがみと長門だけだ。
まあ、知ってても仕方が無いが。
長門によれば、
「事実を知っている神がいることは、とても頼もしい。」
との事だ。
やれやれ…俺とかがみが神だとはな。


そして、雪山での一件が終わって。
朝倉さんを何とかしたいという強い要望を長門さんにお願いして、朝倉さんは情報統合思念体本体に送られた。
永久凍結したのを解除するのは、なかなか大変な作業みたい。
でも、
「必ず朝倉涼子は元に戻ることが出来る。心配しないで。」
と長門さんが言ってくれてるし、大丈夫なんだと思う。

そして、迎える新年。
私は巫女服で神社にいる。もちろん、家が神社だからなんだけど。
散々まつりたちに冷かされながらも、私はキョンを待っている。
今年はお父さんが、
「巫女の仕事、休んでもいいぞ。」
といってくれたんだけど、私は巫女の仕事をすることにした。
そして、いつものようにキョンは少し遅れてやってくる。
「すまん、待たせたな。」
「いいのよ。」
ポニーテールの巫女って珍しいな、とのんびり考えつつも私はキョンと一緒に神様にお願いに行く。

「今年も一緒に幸せでいられますように。」
と、お願いをするために。

 

Fin

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最終更新:2007年08月09日 14:39
ツールボックス

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