MCd++b03氏の作品
ななこ×谷口
※唐突に微エロが入りますが、スルーできる程度です
十代のジャリンコどもの思い描く夏ゆうたら、青臭かったり甘酸っぱかったりするもんなんやろうが、
それもまるまる一ヶ月休みがあるからそんな雰囲気を醸し出す余裕があるんやろうな。
教職はそんなに休みもらえへん。部活があったり補習があったりで、とりあえず学校に顔を出さなあかん。
ま、周りにはナイショで学校でもネトゲできる環境に整えてあるから大して苦にはならんけどな。
で、どっかの部活の顧問でもないウチが学校に来ている理由は……消去法でわかるな?
みんな大好き、夏の特別補習や。
……これが皮肉やとわからんヤツは、悪いことは言わん。心入れ替えて勉学に励んどき。
夏は、普段から精進の足らんやつにしっぺ返しが来る季節やさかい。
成績がまずいことになっとるヤツは、せっかくの夏休みをその穴埋めに費やすことになる。ざまあないわ。
今ウチの前にも、そんなんが一人。
「先生、ここわかんないっす」
誰に見せるでもないのに、夏休みでもオールバックを貫くのは大したもんや。
むしろ暑いからその髪型なんか……しかし、この程度の問題がわからん言うなら、お前のクールビズは失敗しとるな。
てゆーか谷口、自分の友達のキョンは世界史得意やろ。何で自分はそっから吸収せんのや。
「アイツの歴史好きっぷりは異常っすよ。教わったら洗脳されちまう」
それは言えとるな。世界史教諭のウチですら、あれの知識と小ネタの量には負けるで。
これが仕事と趣味の、情熱の差やろうか。キョンのヤツ、いっそウチと同じ職についたらどないやろ。
でも、趣味人の講義はどうしても独り善がりになりがちやしなあ……。
「……キョン言うたら」
ちぃと気になることもあったんで、話題に出してみる。あくまで無理な振りにはならんようにな。
わざわざそんな小細工を使うっちゅーのは、探りを入れるのが目的ってことや。
ダシに使って悪いな谷口、しかしお前から聞き出したっちゅーことは秘密にするから安心せい。
「アイツ、誰か付き合っとるヤツでもおるんかい」
谷口の顔に、一瞬のうちにニヤケ笑いが張り付く。なんや、気味悪いな。
「先生……いくら出会いがないからって、生徒に手を出すってのは……あのテのゲームのやりすぎじゃないっすか」
「ちゃうねん。そんなんやないねん。シバくで」
確かに訊き方はまずかったかもわからんなあ。告白前にフリーなのを確認する乙女の台詞や。
しかしウチは今年で二十ン歳になるオトナのオンナ。そないな純な意図はない。
「じゃ、何だってそんなこと訊くんすか」
この際包み隠さず話すけど、ウチが危惧してるのは、この先キョンに好意を抱きそうな乙女が多すぎるってとこや。
ツッコミ役のツートップとして肩を並べる柊姉。ここ一番でフォローされている柊妹。
理系気質ってところからか気が合っている高良。驚いたことに……廃人レベルでウチに引けをとらんあの泉までもが。
その他もろもろで列挙するんが疲れるわ。ウチの目の届かんとこで、もっとひっかけとるんちゃうやろな。
とにかく、これを放置してドロドロなことになったら目も当てられへん。老婆心と言われても、なんとかせな。
「ところで、先生は誰が一番お似合いだと思うんすか?」
「ウチの見たところ、キョンの本命はいつもつるんどる涼宮っぽいけど」
「やっぱ先生もそう思いますか。ったく、こんなにもバレバレだってのに……素直じゃねえなあ」
そ、素直やない……お互いにな。ああいう連中は婚期を逃すタイプや。
「先生、実体験ですか」
「そうか、そんなにウチの拳骨が欲しいか」
谷口を威嚇しつつも、もうひとつ気になることもあるので、情報をリークしてもらうためには手荒なマネはできひん。
この手が暴れだして制御がきかなくなる前に、さっさと訊いとこか。
「なあ、気がつくとキョンがウチの方見てることが多い気がすんねんけど。これ、ひょっとするとひょっとするか?」
「……先生、自意識過剰も大概にぐほっ」
おっといかん、手が光って唸って輝き叫んだわ。
「……すんません。冗談は置いといて、キョンが先生のことよく見てるってのはマジですよ」
「ほうほう」
「俺は直にキョンからそのこと聞きました」
「確定やな」
「よく言ってますよ。『どうしても気になって目が離せない』って」
「ホンマかいな!?」
「何せアイツは、」
谷口……自分わざと焦らしとるんやないやろな? その息継ぎ、作為的な何かを感じるで。
とはいえ、そんなベタに手にひっかかっとるウチもウチや。時間がやけに長く感じられる。本人の口から聞いとるわけでもないのに。
途中からウチの中で何かがスパークした。
『先生、教えてほしいことが』
『なんや自分、世界史得意やろ。今更ウチに訊くことなんかないんちゃうん』
『黒井先生に訊かないとわからないことなんです……俺って、先生と釣り合う男ですか?』
『……キョン、ホンマかわいいやっちゃな』
『今更やけど……ウチは教師で自分は生徒や。世間様は、絶対にいい顔はしてくれんで』
『でもそんなの関係ねぇ! でもそんなの関係ねぇ!』
『ちょwwwww』
『……そうやって笑い飛ばせるようになるまで、俺待ちます。卒業したら、教師生徒じゃなくなりますよね?』
『さあ、キョン。力抜いとるから、早よ挿入れて』
『でも、いきなり……その、お尻でヤろうだなんて……』
『ウチがキョンにやれる純潔は、ここしか残ってへんのや。ゴメンなぁ……処女はもう捨ててもうたんよ』
『ウチはこんなんやし、ホンマの話お前を幸せにする自信はない』
『俺もです。まだまだ若僧だし、ななこ先生を幸せにできる自信がありません』
『……でもな、ウチが幸せになる自信はあるねん』
『俺もです。絶対、幸せになります!』
ひととおりの人生をシミュレートしてから、ようやく我に返った。いわゆる妄想や……悪いか?
中にはかなり不埒なモンもあったが、そういう関係になるなら避けては通れん道や。
置き去りにしといて悪かったな。再びウチの視界に復活した谷口はようやく口を動かし――
「無類のポニーテール好きっすから」
そっちかい。
顔とか、何気に自信のある胸とかやのうて、割と誰でもよさそうな髪形かい。
ウチの中で広がった世界は、ビッグバンを巻き戻すかのように萎み、小さな火の玉になって……消えた。
「……ま、そんなオチやろうと思っとったわ」
「ホントっすかぁ? なんか期待丸出しみたいな反応ぶほっ」
おっといかん、手が真っ赤に燃えて轟き叫んだわ。
「マジすんません……しかし、羨ましいなーキョンのヤツ……俺も彼女欲しいぜ」
その話題転換能力の高さは評価したるわ。特に、自虐ネタに持ってってるあたりをな。
そういや谷口、お前、涼宮とかれこれ4年間同じクラスの付き合いなんやてな。
「……なんでそこで、あのアーパーの名前が出てくんスか。一応そうスけど」
「んー? そらお前、アレや。そんだけ一緒にいたら………………ぐふふ」
「ねーっスよ! 俺が涼宮を好きなわけないでしょ!」
そもそも見た目はいいし成績優秀で気も強くてこれなんてエロゲないい女ってのは認めますけど、それは孔明の罠!
実際につきあってみたらわかるけど、あれは中身が最悪です! なんたって、仮にも彼氏を五分で振っちまうんスから。
本気だったのに……告白もきちんとして、初デートだから張り切ってプラン練って……それが、五分!
五分スよ五分! デート待ち合わせて、出会い頭につまんないとか言って帰りやがって、ひとり残されてどんなに恥ず……
い、いや知り合いから聞いた話っスけどね。いやー、恥ずかしかっただろうなー、そいつ。
以上、谷口のオンステージでござい。自分、辛い恋をしとるなあ。
「先生、表に出ますか」
「いや、スマンカッタ。もうこれ以上つっこまへん」
ウチも学生時代、自分ぐらいの積極さが欲しかったわ。そんぐらい全力投球やったら……
少なくとも、今よりはマシなことになっとったかもしれん。恋人とかもちゃんとおってな。
「黒井センセはネトゲが恋人でしょ」
「ええこと言うたな谷口。しかし表へ出ろや」
どっかの誰かが流行らせたんか知らんが、「情熱を持て余す」なる台詞をよく耳にする。
それの同類か「性欲を持て余す」なんてのもあるらしいが……ナメた口きくんやないジャリンコども。
ウチの方がな、自分らなんぞよりよっぽど持て余しとんねん。切実に。
でもまあ、情熱うんぬんに関しては考えを改めんでもない。バイタリティちゅーもんは、いつの時代も若い方のもんやしなあ。
情熱を持て余す谷口、性欲を持て余すウチ。
「……独りモン同士が寄り添うってのもありかいな」
不覚にも、そんな妥協案を独りごちてもうた。
言ってしもうたことの内容に気づき、谷口をチラ見すると……固まっとった。
お、落ち着け。落ち着くんやウチ。今なら取り返しがつく。関西弁キャラを活かして冗談ということに――
「いやいやいやいや、なれそめが補習だなんてゴメンっすよ」
「……アホ、ウチかてお断りや」
どっと力抜けたわ。谷口が冗談の通じるヤツで良かった……果たして冗談だったかどうかは置いといて、や。
「だいたい俺じゃ黒井先生の相手は役不足でしょー」
「ほう、それは役不足の本来の意味で解釈してええんやな、自分?」
「い、いやいや。もっといい男が見つかるってことすよ!」
「それでよし! でも谷口、自分をそんなに卑下したらいかんで。ウチよりええ女はぎょーさんおるわっ」
せや、ウチと谷口がどーのこーのなんてありえへん。それは妥協策でしかないんやから……今のところはな。
もっといろんな出会いをして、そん中から1人を選んで、所帯を持つ。そうあるべきなんや。
「よし、谷口とは絶対くっつかへんで!」
「よし、先生とは絶対くっつかねえぞ!」
「でも、まあ」
「どうしても相手が見つからなかったときの、最後の身元引受人ってことなら」
それぐらいの保証がないと―――恋なんてできねえよ、夏。
最終更新:2007年11月04日 23:38