雨が晴れる日。

ららっく◆Q3Rf0rNBGYさんがpart24-94,128,133,533,part25-285,785に投下された作品です。


「………先輩」

私の名前は岩崎みなみ。
色恋沙汰には無縁だった中学時代とは違い、そういったものに若干の興味を抱いて高校の門をくぐった。
そこで、友達からは「キョン」と呼ばれる一人の先輩と出会う。
その出会いは先輩にとって些細な出来事だっただろう。だって、先輩の周りには沢山の女性がいる。
けれど、私はそれで充分だった。
だって、先輩の一番にはなれそうにないから。
私にとって、先輩との接点があるだけで嬉しかった。
私は、先輩を想う事で自分を慰める。

――――それぐらいの自由は私にもあるだろうから。

「先輩………」

日に日に私の中で先輩が大きくなっていく。
多分、この感情は「好き」というものなのだろう。
今まで経験したことがないから確証は無いが、多分、きっとそうだ。
いや、そうでなくては、困る。
だって、それならば、先輩に出会った日からほぼ毎夜、自室で行われている、この自分ですら若干の嫌悪感を抱く行為に対する免罪符となるから。


「………キョン、さん」

自分の口から出た言葉に自分の心が跳ね踊る。


いつか、そう呼べる日を夢見て、私の心が跳ね踊り、波を生む。
その波は身体の中心から末端へと侵食していく。
それは自分で制御する事が出来ず、ただ、律義に快楽のみを私へと与え続ける。
止められない。止まらない。終われない。

―――終わらせたくない。

自分の幻想の中だとしても、今、この世界の中には私と先輩の二人しかいないのだから。
そんな、夢みたいな夢を私の意志で終わらせることなんて出来るわけが無い。

こうして、私の一日は終わりを告げる。

夢の中の先輩の隣で眠りながら。


----
「………ふぅ。いきなり雨降ってくるなんてツイてないな、まったく」

………私の名前は岩崎みなみ。今日は、私にとって少し理解できないことが起きた。
別に、先輩の言っている事が理解できないわけでは無い。
理解できない事は、この状況。場所はマク○ナルド。店内は雨宿りの客で賑わいを見せている。私達もその中の二人だ。
先輩と私。
二人で一つのテーブルを使用して休憩している。
私からするとちょっとした、その………デート、だ。


この不思議空間はこんな感じで作られた。

「ん? 岩崎か」

本屋で雑誌を買う為にレジに並んでいたら、私の前に、先輩がいた。

「あぁ。参考書だよ。いちおう受験生だからな」

他愛もない雑談。先輩にとっては日常の一コマ。けれど、私にとっては掛け替えの無い一コマ。
先輩を見ることが出来ない休日に、先輩に会えた。
それだけで私には充分過ぎる幸福。
レジを済まして外に出ようとしたら雨が降っていた。………けっこう強い。

「岩崎、時間があるならそこのマッ○で時間潰さないか? いや、俺が奢りで構わないぞ」


……ということだ。
先輩からのお誘いを断るなんて馬鹿な話は無い。
そして、今に至る。

「……」
「……その、」

先輩が私をじっと見つめている。
嬉しいが、その、少し恥ずかしい。

「いや、すまん。なんか良いことでもあったのか? 頬が緩みっぱなしだぞ」

そんなことは休みの日に先輩に会えたからに決まって……緩みっぱなし? そんなに顔に出ていたのだろうか。……恥ずかしい。

「って、大丈夫か岩崎。顔真っ赤だぞ?」

先輩が言い終わるより早く、おでこになにかが触れた。

「―――――っ!!!(////)」


先輩の手だった。
………あったかい。じゃなくて、あの………その、

「うん………。熱は無いみたいだな。………ってさっきより顔赤いな、大丈夫か?」

大丈夫じゃありません。ちょっと身体が大変な事になってます。主に下腹部が。

「そうか? ならいいんだけどな」

けれど、そんな事言える訳が無い。
だって、この関係を壊してしまうかもしれないから。
偶然とはいえ二人でご飯を食べるまでになったのだから。
そんなのは嫌だ。
………この臆病者。


「………先輩って、彼女さんいるんですか?」

愛でるべき他愛もない雑談の中、そんな事を聞いた。

「いないぞ、そんなの」
「涼宮先輩とかは違うんですか?」

端から見ても先輩の周りには美人が多い。涼宮先輩に長門先輩や朝倉先輩。みゆきさんに泉先輩、かがみ先輩、つかさ先輩、日下部先輩に……ゆたか。
全員、先輩に好意に近いものを抱いている。
その中でも先輩に一番近いのが涼宮先輩だ。

「……なんでそうなる。ハルヒには振り回されてるだけだよ。そもそも、俺なんかの彼女になりたいやつなんていないだろ?」

この朴念仁。
あなたの目の前にいます。少なくとも一人は。

「そういう岩崎はいないのか? その………彼氏とか好きな人とか」
「えっと…………。いま、せん」

嘘です。
いますよ。その人は今、私の目の前でポテトをつまんでいます。
………そんな事は言えないけど。

「そうか……もったいないな、美人なのに」
「え………////」
「ほら、スタイルだって良いし、顔だって整ってる。
  そこらのグラビアと比べても………って、スマン。
  アイドルとかと比べるものじゃ無いな」

美人……。今、私の事を美人って?
言葉を頭で理解すると顔がさらに赤くなるのが解る。

「やっぱ、どこか悪いんじゃないのか?」
「い、いえ……大丈夫です」

心臓が早鐘を打つ。
……さらっとこういう事を言う先輩ははっきり言ってずるい。

「そうか? ならいいんだが……。
  ……っと、雨、止んだみたいだな」

先輩の視線を追うと雲の隙間から太陽が顔を覗かせていた。
……雨宿りもこれでおしまい。

マクドナ○ドを出て帰路につく。
残念ながら、家のは反対方向。先輩とはここでお別れだ。

「それじゃ、明日な」


「………明日は祝日で休みですよ」
「なに? そうだったか? 」
「はい」
「………じゃあ、火曜日な」
「………はい。今日は……その、ごちそうさまでした」
「気にするな。奢る事には悲しいかな慣れてる。岩崎みたいな可愛い後輩に奢るならどうってこともない」

―――――プチン、と私の中で何かが弾けた。

「あ………の、」

踵を返して帰ろうとする先輩を呼び止める。

「ん? どうした、岩崎」
「明日の予定とか………ありますか?」
「いや、たった今白紙になったぞ」
「その………私と……買い物に、行きませんか?」

言ってしまった。
先輩は少しの沈黙の後、

「………構わないぞ。10時に駅前でいいか?」
「は、はい!」

柄にもなく大きな声が出てしまう。
先輩もちょっとビックリしたみたいだった。

「それじゃ、改めて、また明日な」
「はい、また明日」

私は手をふり、その場で背中が見えなくなるまで先輩を見送る。
先輩が見えなくなってもずっとそこに立っていた。

まだ、この余韻を失いたく無かったから。

「…………」

ベッドの上に並べられた服の数々。
………何を着て行けばいいだろう。

ペタペタ

悲しいけどこの胸では武器にならない。
………揉むと大きくなるってよく聞くけど………。

ムニムニ

……無理だよ。自分で揉んだところで、
………思い出した。今日、先輩におでこ触られたんだ。
意識しだすと、先輩の温もりがそこに感じられる。

「………」

………先輩、今日は眠れなくなりそうです。

「…………」

四回に及ぶ《自主規制》のおかげでなんとか心の方は落ち着いた。

仰向けでベッドに力無く寝転がって《自主規制》の余韻に浸かっていると、大切な事に気がついた。

「………何を買いに行こう」

洋服は先週、ゆたかと買いに行ってしまった。靴も買ったばかり。
ふとカレンダーに視線を向けると、挿絵に水着の女の子がいた。

「…………水着」

今持っている水着は、スクール水着と競泳用水着。

「………」

先輩は受験生だからありえないだろうけど、もし、一緒に海やプールに行く事があれば………。

………思い切ってビキニとか。

ムニムニ

「………」

この胸じゃあ………あまり意味が無いかも………。
……そ、そうだ。恥ずかしいけど先輩に選んでもらおう。
……そっちの方が先輩の好みに近くなる筈。

「////」

想像しただけで顔が真っ赤になっているのが分かるけど、決めた。
そ、それになにより、デ、デートみたいだし………。
明日は、二人で、み……水着を買いに行って、お昼ご飯………お弁当作って持っていこうかな。
その後は………ウインドウショッピングとか出来るかな………。

……楽しみ、だな。

―――翌日

「待ったか?」
「………いえ、待ってません」

約束の時間まであと5分。
私がここに来たのは1時間前だけど、それは別に私の勝手だから関係ない。
それに、待っている間も……その、デ、デートだから。

「それで、今日は何を買うんだ?」
「えっと………ず……を」

ちゃんと考えてきたけど、いざ、言うとなると詰まってしまう。

「え?」
「あの……水着を」

先輩の顔が固まった。
……ちょっと可愛いかもしれない。

「……その、男の人からのアドバイスとかお願いしたくて」


「いや、頼られるのは嬉しいんだが……それだと、俺の個人的な趣味が反映されてしまうぞ」

むしろ、それが狙いです。とはもちろん言えません。

「ん、わかった。それじゃ、行こうか」
「はい」
「っと岩崎、その荷物持つぞ?」
「いえ、大丈夫、です」
「いや、ここは男を立ててもらえるとありがたい」
「……わかりました」

トートバッグを先輩へと委ねる。

「ん? 意外と重いな。なに入ってるんだ?」
「……あの、お弁当を」
「……大変だったろ?」

先輩の為にお弁当を作る事が大変なわけがない。

「なんか、気を使わせたみたいだな」
「……いえ、平気です」
「っと………」
「? ………どうかしましたか?」
「いや、その………その服、似合ってるぞ、岩崎」
「あ……////。………ありがとうございます」

不意打ちだ。確かにその……お気に入りの白いワンピースを着て来たが、こんな急に言うなんて。
………やっぱり、ずるいです。

「えっと、行こうか」
「は、はい」

二人で並んで歩きだす。
先輩との距離は曖昧三センチ。
いつもはあんなにも遠かった先輩がこんなに近い。
それだけで私の心は晴模様。


電車を乗り継ぎ20分。
お目当ての水着屋さんに到着した。

「………」

先輩が呆気に取られている。
壁一面に掛けられた色とりどりの女性用水着。
その八割ぐらいがビキニなどの際どいもの。
男性にとっては居心地が悪いだろう。

「……先輩?」
「えっと……すごいな、ここ」
「……そうですね」

それを試着して、買うのだと思うと私も少し恥ずかしい。
……違う。恥ずかしがっちゃ駄目。
今日の私はいつもより大胆に、積極的にって決めたんだ。


…………よし。

「先輩、どれがいいですか?」
「……そう、だな。とりあえず、この『夏のお勧め』辺りにしてみればいいんじゃないか?」

先輩が指差す先にはボーダー柄のビキニや黒のシックなビキニ。

………。

いざ、手に取ってみると流石に恥ずかしい。

「いや、なんだ。無理しなくても、」
「……試着、してきます」

近くにいた店員さんに話し、先輩を残して試着室に入っていく。

――――――その途中、

「高校生?」
「……はい」
「彼氏と水着のお買い物かな?」
「あ、あの……まだ……」

店員さんに先輩の事を彼氏と間違えられてしまった。

……嬉しい。(////)

「ありゃ、まだ付き合ってないの?」

店員さんのその言葉に私は伏し目がちに首を縦に振る。

「じゃあ……片思いとか?」
「……はい」
「そっかぁ……。でも、一緒に水着買いに来るぐらいなんだから脈はあると思うよ。頑張ってね」

私は首を縦に振り、水着を手にして試着室へ入る。

改めて見ると……布、小さい……(////)
けど……先輩に見せる為なら………(////)

……モゾモゾ

「着替え終わったかな?」
「は…はい……」

………き、着替え終わったけど……その、やっぱり……布……小さい……(////)
店員さんが試着室の中を覗いてくる。

「うん、似合ってる似合ってる………ってそれは私の台詞じゃないか。
 それじゃ、彼、呼んでくるね」

あ……まだ、心の準備が…………行っちゃった。

「………」

試着室の鏡で簡単にチェックをする。
……胸のボリュームが足りないけど………うん、………恥ずかしいけど、大丈夫……かな?
………顔、真っ赤だ……(////)

「おーい、彼、連れて来たけど………カーテン、開けてもいい?」
「あ、………はい」

………すごい、緊張する。本当に顔から火が出そう………。

「いや………その、岩崎。すごく似合ってるぞ」
「本当……ですか?」

……先輩が私の水着姿を似合ってるって言ってくれた……(////)

「あぁ。こう……脚線美というのか?

その、こうやって見ると……スタイルいいっていうのが再確認できるな」

「あ……(////)
 ありがとうございます……(////)」

私の顔が真っ赤なのは分かってた事だけど、先輩の顔も真っ赤だ………。
恥ずかしいけど……私の水着姿で……だと思う。

「……えっと……お買い上げになります?」

先輩が見てる……(////)

「……あの…………」

店員さんがいること忘れてた……(////)

「いやいや、良い感じだったよ?」
「……本当ですか?」

……ちなみに先輩はお店の外で待ってもらっています。……やっぱり、居づらいみたいです。

「そだよ。彼、ずーっとあなたの身体見てたもの」
「……(////)」
「頑張ってね?」
「は……はい」

水着を受け取り、お店を出る。

「次はどうするんだ?」
「えっと……そこの公園でお弁当……食べませんか?」
「そうだな。そうするか」

お店に目を向けると店員さんが頑張ってね、と手を振っていた。

……うん、頑張る。









「ふぅ……ごちそうさん。料理も上手いんだな、岩崎は」
「……そう、ですか?」
「ああ。このクオリティなら毎日でも食べたいぞ、俺は」

………あぅ……(////)
真顔でこういう事を言われるのは……嬉しいけど……やっぱり、ずるい。

「この後はどうするんだ?」
「えっと……あの……」

どうしよう……かな。何も予定……立ててなかった。

「予定がなければ買いたい物があるんだが、ちょっと付き合ってもらって良いか?」
「は、はい!」

……先輩からのお誘い……断るわけない。

「よし、じゃあ行くか」




「いや、少し遊び過ぎたな」
「……そうでもないです」

あの後、先輩に連れられて先輩の買い物に付き合った後、街中をブラブラしたり、ゲームセンターで遊んだり……ヌイグルミ……取ってもらっちゃった……。

……………たから、もの。

「岩崎、道、どっちだ?」
「……次、左です」

そろそろ帰ろうか、という話しになったら、先輩が「送っていくぞ」って。
それが男のマナーだそうです。

「………」
「………」

沈黙が心地良い。いつもは嫌な沈黙でも、今日は少し違う。
多分、先輩と心が少し近づいたから。

「そういえばさ、岩崎」
「はい?」
「それ、着る予定でもあるのか?」
「……新調、しただけです」

……というか、先輩に見せただけで元は取りました。

「いやな、今朝、男の意見を聞きたいって言ってたから好きな男にでも見せ………って、そういえば好きな相手はいないって言ってたな。
 すまん、忘れてくれ」
「……いいえ」
 
……だから、見せましたよ、先輩。

「告白された事とかも無いのか?」
「無いです」
「……岩崎の事だから告白に気付いてないとかはありそうだな」

……先輩がそれを言いますか。

「いや、すまん。気を悪くしないでくれるとありがたい」
「大丈夫です」

……先輩との会話で気を悪くする訳が無い。
気を悪くする事があるなら、それは私が先輩に振られたときだ。

「……しかし、岩崎なら告白すれば誰でもOKすると思うんだがな」
「本当……ですか?」
「あぁ、その点に関しては俺が保証する」

………。

「っと、次どっちだ?右か?」

………………。

「……岩崎?」

………………………。

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――先輩です」






「いや、俺じゃなくて、次どっちだ?左か?」
「……私の、好きな人は、キョン先輩です。
 キョン先輩の事が好きなんです。
 初めて見たときから、ずっと好きなんです」
「えっと……」

言ってしまった。
ずっと、ずっと……心に秘めておこうと決めてたのに。
ほら、先輩だって困ってる。
あ…私……涙……出てる。
……うん。わかってるから。この恋心が叶わないって知っているから。
だから、泣いてるんだ。
……先輩との接点を壊してしまった。

「………」
「………」

さっきとは違う、重い沈黙。きっと先輩と心が離れたから。

「……ここまででいいです。……さっきのは忘れてください」

この沈黙を作ったのは私なんだから、私が終わらせないと。
それに、先輩を見るのが辛い。

「……今日は……ありがとうございました」

先輩の横を過ぎて逃げるように駆け出し―――

「待て、岩崎」

……先輩に、腕を掴まれた。

「……離してください」
「いや、言い逃げはずるいと思うんだがどうだろう?」

……ずるいって分かっているけど、聞きたくない。

「いや、離さないぞ。少なくとも、俺の答えは聞いてくれ」

先輩に掴まれた腕が少しだけ痛い。

「その……確認なんだが、俺なんかで良いのか?」

今更、何を言うんだろうか。そんなの駄目に決まっている。

だって――――――――――――――――――

「―――――――――――――――――先輩じゃなきゃ、嫌なんです」
「そうか……。告白されたのなんか初めてだったから、少し放心していた。
 本当に俺でいいのか?」
「……くどいです」

先輩の胸に抱きしめられる。
すごく……あたたかい。

「……先輩?」
「みなみ」

先輩が顔を近づけてくる。私も顔を近づけ―――――

「これが答えなんだが……駄目か?」
「……足りません」
「そうか……。分かったが……天下の往来でキスというのも恥ずかしいんだが」

……(////)
今した事を理解したら顔がすごく熱い。

「……その……右です」
「?」
「……私の家」
「……いいのか?」
「今日は……親、いません」
「……それだと止まれなくなりそうなんだが」
「私は……大丈夫……です」
「……分かった。ここ、右だな?」
「……はい」

先輩と手を繋いで歩き出す。
行き先は私の家。
先輩との距離は0センチ。私の心は――――ずっと晴れ。




『Epilogue』

サンタクロースをいつまで信じていたかって……今の俺はサンタクロースだ。
まぁ、なんだ、その……そういうことだ。

「……あなた?」
「あぁ、任せておけ。ばれないように上手くやるさ」

手にするプレゼントはポケット○ンスターアンバー。
いや、このシリーズもかなりのロングランだよな、実際。………たしか図鑑は全部で2826匹だったか。

「……これ……」

傍らに立つ彼女が差し出した物は一枚の紙。
中を開くと見覚えのある可愛いらしい難解な文字でこう書かれていた。



『さんたさんえ―――おとおとがほしいです』



「まいったな……これ、無駄か?」
「……それも欲しがってたから大丈夫」
「そっか……。とりあえず置いてくるか」

息子の部屋に忍び込み、枕元にプレゼントを静かに置いて離脱する。
………よし、気付かれてないな。

「……お疲れ様」
「あぁ……」
「………」
「……みなみ。……二人目、頑張るか?」
「……うん(////)」

さて、俺とみなみの物語はこれで終わりだ。
これからは息子の……息子達の物語を応援していこうと思う。

 

 

 

 

 

 

―――余談になるが。息子に『涼宮』という友達が出来るのはまた別の話―――





『余談』

「………あなた、これ」
「なんかあったのか、みなみ」

最愛の妻から手渡された数枚の写真。
どうやら息子が京都近辺に修学旅行にいった時の写真のようだ。

「へぇ……、もう現像終わったの………」

一枚一枚写真を見ていた手が止まる。
その、手渡された写真の最後の一枚。
そこに、俺のよく見知った少女が写り込んでいた。

「―――――――――――――――――――――――――――――――ハルヒ?」

そう、涼宮ハルヒ。俺が学生の頃の同級生。そして、高校を卒業してから音信不通となった彼女が、そこにいた。

「……………いや、別人だよな?」
「……あの子に聞いたら、『涼宮』って名前らしいよ……」
「………つまり、ハルヒの娘って事か?」

他人という選択肢は無い。この写真の少女が持つ独特の存在感には共通するところがある。……ハルヒと付き合いの浅かったみなみもそう感じているみたいだ。
しばらくの間、みなみと二人で写真と睨めっこしていると、

trrrrrrr、trrrrrrr、
と電話が鳴り響いた。

「………はい、岩崎です。
 !! ……はい。………お久しぶりです。………幸せ、です。はい、少し、待ってください」

受話器を手にしたみなみの様子が少しおかしい。電話の相手に驚いているように見える。
……誰からだ?
みなみが驚く相手?

「あなた、代わって?」
「あ、ああ………。
 ――――――――もしもし?」
『……久し振り』
「………もしかして、長門か?」
『元気そうでなにより』
「いや、確かに元気だが、急にどうしたんだ? というか、お前、今、何をしてるんだ?」

長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹の三人はハルヒが音信不通になるのとほぼ時を同じくして音信不通になっていた。
………おかげで、結婚式には呼べずじまいだった。

『積もる話はまた後で。
 もう、気付いていると思うけれど貴方の息子に『涼宮』が接触をしている』
「あぁ……ついさっき知った。彼女はハルヒの娘か何かなのか?」
『違う。……驚かないで聞いてほしい。
 彼女の名前は『涼宮ハルヒ』。正真正銘、貴方が知っている彼女に間違い無い』

――――――え?

長門の言葉が胸を衝く。

『彼女は学生時代に貴方の事が好きだった。しかし、貴方が選んだのは自分ではなく岩崎みなみだった。
 彼女は自分の好きな人への幸せを祝福しつつも貴方への好意を捨てきれなかった』
「………」
『彼女は、新たな恋愛を求めた。
 過去、現在、未来。全ての時間軸に置いて彼女が恋愛感情を抱く可能性がある相手は二人しかいなかった』
「……それが、俺と―――」
『そう、貴方と岩崎みなみとの間に生まれた息子。
 そして、世界は改変された。新しい恋愛を求めて。
 ―――彼女は学生時代をやり直している』
「………」
『安心してほしい。私達もサポートはする。おそらくは彼らも』
「………そうか。スマンな、わざわざ」
『構わない。貴方の子供を見るのは楽しい』
「………お前、何処にいるんだ?」
『三枚目の写真、右から四番目。グレーのベスト』

長門が言うとおりに写真を見てみると、確かにグレーのベストを着た少女が写っていた。

『それが、今の私』

…………胸、大きくなってはいやしませんか、長門さん。

『近いうちに詳細な説明をしに行く。それじゃあ』
「あ、ああ………」

電話は切れた。

「あなた?」
「ああ、いや、近いうちに遊びに来るってさ」

ハルヒのトンデモパワーには驚かされたものだが………今度は息子が振り回されるようになるわけか。
………頑張れ、我が息子よ。強く生きてくれ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――完。


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最終更新:2007年09月10日 22:27
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