最後に見た彼女の笑顔は眩いほどに美しかった。
俺は何も出来ずにそれを見送る事しか出来ない。ただ――――――泣く事しか出来ないんだ。
なんて無力なんだろう、俺は・・・惚れた女一人守る事が出来なかった。
「キョンさん・・・ゆっくりしていって下さいね」
みゆきの葬式が終わった後俺は彼女の部屋に来ていた。
お義母さんから何か思い出に残る物を持っていって欲しいと頼まれたからだ。部屋中を見回してみる。
そういえば、初めてこの部屋に来た時は凄く緊張したっけな。みゆきが紅茶を淹れに行っている間、自分の理性を保つのに必死だったな。
あいつは少しボーッとした部分があるから男が部屋に入ってもまったく動じてなかったけど。
初めてキスをした時も、初めて結ばれた時もこの部屋の中だった。ここには俺とみゆきの思い出が一杯詰まっている。
机の上を見てみると初めてのデートの時に俺と一緒に取った写真が飾られていた。真っ白なワンピースを着て恥ずかしげにピースをしている姿は彼女は世界中で誰よりも可愛く見えた。
あれ・・・目がぼやけて良く見えなくなってきたな・・・・・・
「み・・・ゆき」
写真を抱きかかえて蹲った。
それだけでみゆきを抱きしめている気分になれたから。それはただの妄想だと分かっていても。
もう二度と会えないのだと・・・理解はしているんだ・・・けど・・・
それから十分ぐらい経っただろうか、動き始める決心がついた。
この写真を貰っていこう。そう思って写真をポケットの中にしまう。
そして――――――"それ”は俺の視界の中に入ってきた。
一本のビデオテープ。無造作に床に投げ捨てられていた。綺麗好きだったみゆきにしては珍しいと思いつつそのビデオテープどうしても気になった。
何の変哲も無い。それでいて何か嫌な予感がする。
取り合えずこれももって帰ろうと鞄の中に押し込めた。
この時もっと考えが及んでいたら後の惨劇を防げたのかもしれない。これから始まる狂気の宴を。
「キョンくんいる~?」
部屋をノックしてみたけど反応が返ってこない。
居ないのかな?ドアを開けてみたけど案の定部屋の中には誰もいなかった。
シャミも今はリビングで寛いでるし、キョンくんの部屋の中は私一人だけだ。
みゆきお姉ちゃんが死んで落ち込んでるキョンくんを励まそうと思ったんだけど・・・いないんならしょうがないかぁ。
踵を返して自分の部屋に戻ろうとした時、ベッドの傍に落ちているビデオテープが見えた。
何だろうと思ってそれを取ってみる。タイトルにはラベルも貼られていなくて少し古ぼけていた。
もしかして、これが学校で聞いたAVってビデオの事かな?
前に四つ年上のお兄ちゃんが居る友達が部屋の中から女の人と男の人が裸で遊んでいるビデオを見つけた事があるって話を聞いたの思い出した。
キョンくんもそういうビデオを見てるのかな・・・?
想像すると顔が真っ赤になってきた。キョ、キョンくんだって男の子だもんね。
背徳感と好奇心の入り混じったなんともいえない気分になった私はそのビデオを持ったまま自分の部屋に走って戻った。
私だってちょっとくらい興味はあるし・・・・・・でも家にはリビングにしかビデオデッキはないんだよね。
家族にバレたら恥ずかしいどころの話じゃないから・・・そうだ!確かミヨキチは自分の部屋にテレビとビデオデッキがあった!
「いらっしゃい」
あれからミヨキチに電話をした私は一緒にビデオを見る約束をして彼女の家までやってきた。
ミヨキチの家はとっても大きくて洋風の豪邸みたいな所だ。
やっぱり育ちがいいのもこういう環境で生活しているからなのかな・・・?未だに背の順で並ぶ時はいつも一番前の私とは違って身長も胸もあるし。
そんな事を考えながらミヨキチの部屋に向う。
部屋の中は小奇麗に片付けられていてお洒落な小物がセンス良く並べられていた。
ぬいぐるみばかりの私の部屋とは大違い、なんでこんなにも違うかなぁ・・・?
「それで・・・・・・お兄さんの部屋から見つけたビデオって・・・」
少しだけ頬を赤らめながら聞いてきた。
やっぱりミヨキチも年頃の女の子だから興味はあるよね。
私は鞄の底にしまっていたビデオを取り出す。その時――――――
「い、いやっ・・・!」
ミヨキチは何かに怯えたかのように後ろに後ずさった。
どうしたんだろう?
近づくとミヨキチは身体を震わせながら部屋の隅まで逃げていった。
「な、なんだかそのビデオ・・・怖い・・・・・・」
顔を真っ青にしながら首を横に振るミヨキチ。
私は何も感じないから別に怖いなんて思わないんだけどなぁ・・・
ミヨキチはガタガタと震えながら動かないので業を煮やした私は勝手にビデオを見る事にした。
「あ!待っ――――――」
何回か遊びに来た時に使い方を教えてもらっていたからすんなりと動かす事が出来た。
どんな物が入ってるんだろと好奇心で一杯になる。
でも――――――映ったのは気味の悪い井戸だけだ。
「見ちゃ駄目っ!」
ミヨキチが私に覆いかぶさって画面から目を反らさせる。
でも遅かったみたい・・・・・・だって
画面の中から気味の悪い女の人が出てきていたのだから。
なんでこんな事になってしまったんだろう・・・?
自問してみるが答えなんて返ってくる筈が無い。みゆきが死んでまだちょっとしか経ってないってのに。
妹の親友だったミヨキチが死んだ。
その場には妹も居たんだが、彼女は助かった。しかし何かショックな物を見てしまったのか極度の自閉症になってしまって、まともに会話すら出来ない。
今は精神病院で治療を受けている。
どうして俺の周りで立て続けにこんな事が起きるんだ!
ハルヒの神がかりな力も疑ったんだが、アイツが人が死ぬ事を望むようには思えない。仮にそうだとしても長門や古泉が何らかのアクションを起こしている筈だ。
だけど、こうなってしまっては何か俺の考えの及ばない力が働いているとしか思えなかった。
みゆきもミヨキチも死因は同じショック死。それも何の危険性の無い部屋の中であまりにも状況が似通っている。
長門に連絡を取ってみる事にした。アイツなら超常現象だろうが人為的な殺人だろうが一発で解決できるだろう。
だが――――――メールや電話をしても連絡が取れなかった。
何か用事があるのかと思ったんだが今日は非番みたいな事を言っていたのでありえないだろう。
それに一応電話は繋がるんだが誰も出ない。
何か嫌な予感がしたんだが・・・明日もう一度連絡を取ってみようと思った時、唐突に電話が鳴った。
誰からだ?ディスプレイを見てみると普段見慣れない文字が映っていた。
喜緑恵美里
生徒会書記で長門と同じで対有機生命体なんたらインターフェイスとかなんとかいう宇宙人の一人だ。
長門を通じて番号だけは知っていたんだが、今まで掛かってきた事なんて一度も無かったのに。
電話に出ると前に聞いた御淑やかな声ではなく何処か切羽詰っているような感じだった。
「落ち着いて聞いてくださいっ!」
同時に荒々しい息遣いも聞こえてきたので走りながら電話をかけているようだった。
生徒会会長の横でいつもニコニコしながら立っている普段の彼女からは想像も出来ない。
「地球上に居る全てのインターフェイスに・・・・・・・・・」
ツーツー
彼女が言葉を言い終える前に唐突に電話が切れた。
物凄く嫌な予感がする。万能宇宙人である喜緑さんや長門の身に何かあるほどの状況が起こってるって事なのか・・・?
言いようの無い悪寒が背中を駆け抜けた。
状況は良く分からないが長門のマンションに行ってみよう。何か分かるかもしれない。
家から飛び出して愛用のママチャリを漕ぎながら全速力で向かった。
私は上機嫌で夜道を散歩してた。
あの雌ブタが死んでから私の機嫌は上々だ。一時はどうしようかと思ったけどようやくこれでキョンを取り戻せるわ。
まったくキョンてば浮気性があるのね。でも大丈夫、本当にキョンが好きなのは私に決まっているんだから。
この前の文化祭で歌った『God Knows』の鼻歌を歌いながら道を歩いていると、向こう側から必死に自転車を走らせているキョンの姿が視界に入った。
なんて偶然。やっぱり私とキョンは結ばれる運命にあったのね。
声をかけようと思って近づくが唐突に彼は止まった。そこは前に来た事があった有希のマンションだ。
なんでこんな時間にこんな所まで来ているの・・・?少し気になったから近くにあった電柱の影に隠れてみる。
「はぁ・・・はぁ・・・長門居るか!?」
マンションの前にあるインターフォンを押しながら懸命に話しかけているようだけど反応が無いみたい。
有希に急ぎの用事でもあるのかしら・・・?
「くそっ!」
「あれ・・・キョンキョン?」
苛立ちながら壁を叩いていたキョンの後ろからひょっこりと小さな女の子が出てきた。
確かあの娘は・・・あの雌ブタと仲の良かった泉こなたって言ったかしら?
私の許可も無く馴れ馴れしくキョンに話しかけるなんて。ああ・・・少し腹が立ってきたわね。
「泉・・・?どうしたこんな時間に」
「それはこっちの台詞だよ。なんかストーカーっぽい行動しているからびっくりしたよ」
キョンがストーカーですって・・・何を言っているのかしら?
もうキョンには私という生涯を共にする伴侶が居るんだからそんな事する必要は無いわ。
まったくあの雌ブタの仲間だというだけで許しがたいのにそんなくだらない冗談で私のキョンを困らせるなんて。
「いや、急に長門と連絡が取れなくなったんでな。不安になって来て見たんだ」
「そうなんだ。私も今日はながもんと遊ぶ約束をしてたんだけど、いきなり連絡があって来るなって言うもんだから何かあったのかなって・・・」
なんだか分からないけど無性に腹が立ってきたわ。あのチビ娘、私のキョンに気安く喋りかけないで!
「そうか・・・でも居場所が分からないんじゃどうしようもない。取り合えず明日まで待ってみよう」
「うん」
「送っていくよ。女がこんな時間に一人で帰るのは危ないだろ?後ろに乗ってけ」
「良いの?じゃあ、お言葉に甘えて」
な、何をしているのかしら・・・?あの自転車の後ろ荷台は私専用の、私だけが座る事を許されてる筈なのに!
あのチビ娘・・・・・・私の聖域に土足で踏みあがるなんて――――――――――――
許せないわ、許せない、許さない・・・・・・・・・ユルサナイ・・・・ユルサナイ!
ペタ ペタ ペタ
私の背後で何か足音のような音が聞こえた。
貞ハルヒ「・・・・・・」
END