part14-687◆Ftc6.YoghEさんの作品です。
男性とご縁の無かった私ですが、いつの間にか知り合い、お話をしている内にだんだんと彼に惹かれていき、
泉さん、かがみさん、つかささんにこのことを相談したら……
つかさ「わぁ~ゆきちゃん凄ぉい。私応援するよ~」
こなた「おぉ~、キョンキョンはみゆきさんフラグを立ててたのか」
かがみ「ふざけないの。みゆき、早い者勝ちとは言わないけど、本当に好きなら告白したら? キョンくん狙ってる人ほかにもいるみたいだし」
こなた「誰のことかな~?」
かがみ「なぐるわよ。不安なら一緒に行ってあげるし」
とてもありがたい言葉でした。
実際、その後泉さんがキョンさんを呼び出してくれて、物陰に隠れて見守ってくれました。
キョン「ん? 高良さん。あれ? 泉に呼び出されたんだが」
みゆき「ぁ、ぁの……」
キョン「高良さん、泉のやつ知りませんか? 人のこと呼び出しておいてあいつ……」
かがみ「(何でみゆきが呼んでるって言わなかったのよ)」
こなた「(いやぁ~、早い方がいいと思ったんだよね~。それにハルにゃんもいたしね~)」
つかさ「(ゆきちゃんするのかな、するのかな?)」
かがみ「(しっ、何か話すみたいよ)」
みゆき「キョ、キョンさん」
キョン「はい?」
みゆき「ゎ、わゎわ私と、おぉお、お、お、お、おつ、お付き合いしてくださいっ!!」
キョン「はいぃっ!?」
かがみ「(おお~言ったよ)」
つかさ「(ゆきちゃんかっこいい~)」
こなた「(いやぁ青春だねぇ)」
みゆき「ぁ……ぅぅ……」
キョン「え、あ、あのそれは買い物に、とかっていう意味じゃないんですよね?」
みゆき「……はぃ」
キョン「気を悪くしないでくれると嬉しいんだが、それは泉やハルヒ辺りに無理矢理とか、罰ゲームってことじゃないんだな?」
みゆき「……(コク)」
キョン「正直、そんな風に思われてると思ってなかったから驚いてる。俺のことを想ってくれてるのは嬉しい」
こなた「(う~んこれは残念フラグが立っちゃったかなぁ)」
つかさ「(ゆきちゃん可哀想~)」
かがみ「(ま、まだ分からないでしょ)」
こなた「(おやおや応援するんですが)」
かがみ「(本当にぶつわよ)」
こなた「(おおこわ)」
キョン「その……何だ、俺なんかで良ければ。かなり至らない男だと思うからがっかりするなよ」
みゆき「ふぇえぇ~……」
キョン「おっ、おい何で泣くんだよっ」
こなた「あ~、キョンキョンみゆさん泣かせた~」
キョン「なっ、こなた!」
かがみ「良かったじゃないみゆき」
キョン「かがみまでっ!?」
つかさ「ゆきちゃんおめでと~」
キョン「つ、つかさまで……」
みゆき「う、嬉しいぃですぅ~」
こなた「お~、キョンキョン愛されてるね~」
みなさんありがとうございます。みなさんがいるって思っただけで告白する勇気が出てきたんです。私一人じゃ絶対無理でした。
この後みなさんと、か、彼氏のキョンさんと一緒に教室に戻りました。途中で泉さんが今日は一緒に下校するようにとキョンさんに言って、私は今からそれを考えてしまって恥ずかしくなり真っ赤な顔をより真っ赤にしてしまいました。
これからキョンくんと一緒だと思うととても心が弾みます。授業中、不謹慎ですが早く放課後になってくれないかなとずっと思っていました。
キョン「そういえば妹がみゆきに会いたがってたな」
みゆき「そうなんですか? じゃあ今度お邪魔してもいいですか?」
キョン「ああいいぞ。なんなら俺の代わりにずっと相手しててくれ」
みゆき「ふえっ」
そ、それはそのつまり……ず、ずっと家にいて欲しいということですかっ?
キョン「どうした、すっとんきょうな声出して」
みゆき「い、いえ」
私は早まる心臓の鼓動を必死に抑えて彼についていきました。
前を歩くキョンさんの背中を見ながら私は少しずつ近寄って手を握ろうと頑張ります。
でもあと少しの所でどうしても勇気が出せず躊躇してしまいます。
そしてそうしていると彼が振り返って私に声をかけてくれます。きっと何か話さないといけないと思ってのことだと思います。
彼の優しさに嬉しく思う反面、せっかくここまで近づいたのにと残念に思います。彼に気付かれるのが恥ずかしくて慌てて体を離してしまいます。
キョン「でな、泉のやつが俺もオタクになれってうるさいんだよ」
みゆき「共通の趣味を持ちたいのではないでしょうか?」
キョン「そうかもな。何だかんだで周りにいないからあいつも思うところがあるのかもしれん」
みゆき「かもしれませんね。でもかがみさんやつかささん、最近では長門さんとも仲がいいんですよ?」
キョン「らしいな。何か対極にいる二人が仲良くしてると不思議な気分だ」
みゆき「人は自分に無いものを求めると言いますから、それが関係しているのかもしれませんね」
キョン「なるほど。それは面白いな。常に人間は飢えているわけか」
みゆき「そうとも考えられますね」
こうして他愛も無い会話をしながら買い物をしていきます。キョンさんは全部荷物を持ってくれます。
私が持つと言ってもいいからと言って持ってくれます。やっぱり優しいです。
そして喫茶店に入って休憩をすることにしました。
キョン「ふぅ~」
みゆき「大丈夫ですか? お店を出たら私も荷物持ちますよ。もともと私の物ですし」
キョン「あ~いやいや。喫茶店に良い思い出があまりなくてな、自然に出ちまうんだ。悪い、気をつけるよ」
その思い出に私と一緒の時もあるのでしょうか。そう思うと心が苦しくなってしまいます。
私はオレンジペコーをキョンさんはアイスコーヒーを頼みました。
キョン「みゆきは紅茶が好きなのか?」
みゆき「はい、家でも良く飲んでますよ」
キョン「家に邪魔した時に飲ませてもらってるがありゃうまいな。俺ん家で飲む時はティーバッグしかないから本格的なのを見た時は驚いたもんだ」
みゆき「ありがとうございます。今度葉を分けましょうか?」
キョン「いやいい。俺は飲む専門でね。飲みたくなったらみゆきが淹れてくれ。お前さえ良ければだがな」
みゆき「はい。飲みたくなったらいつでも言ってくださいね」
キョン「遠慮はしないから覚悟してろよ」
みゆき「ええ」
そしてお店を出ようとした時です。私が自分の足に足をひっかけて転んでしまいそうになりました。
その時キョンさんは私の手を取って抱きとめてくれたんです。
びっくりしました。驚きすぎて動けません。
キョン「おい大丈夫か? そそっかしいんだな。泉とかがそんなこと言ってたが」
みゆき「す、すすすみませんっ!」
慌てて彼から離れます。でもその時また足をひっかけてしまって、今度は後ろに倒れそうになりました。
ですがまだ手を握っていましたし、彼は荷物を持っている手を咄嗟に伸ばして私の腰に手を回して支えてくれたのです。
キョン「泉の言ってたことが本当なんだって理解できたよ。ほら、立てるか」
みゆき「すみません。重ね重ねすみませんっ」
キョン「今までこんな姿を見たことないから新鮮だな。ほら、転ばないように」
みゆき「え、あの……ぇぇ」
キョンさんはそう言って私に手を差し出してきました。こ、これはつまり手を繋ぐっていうことですかっ? そうなんですかっ?
みゆき「ふ、不束者ですが」
キョン「いや、それは間違ってるが」
こうしてキョンさんと手を繋ぐことが出来ました。それからというもの、彼は私が転ばないようにと手を繋いでくれるようになりました。
とても嬉しくてでも恥ずかしいのですが、私、今とても幸せです。
キョン「で、なぜ俺は三人に囲まれてるのか聞きたいんだが」
こなた「両手どころから見渡す限り花だね」
かがみ「何だそれは」
キョン「何だ? カツアゲか? リンチか? いっとくが俺は弱いぞ」
こなた「それは自慢になりませんなぁ」
つかさ「ち、違うよキョンくん」
かがみ「まぁこなたならカツアゲくらいしそうだけどね、本買うお金なーいって」
こなた「むぅ失礼だなぁ」
キョン「で、本当に用件は何だ?」
こなた「それはだね~」
みゆき「(ありがとうございます、みなさん。でも、その、あの……あまり近寄られると……)」
こなた「ずばり! みゆきさんのことどう思ってる?」
キョン「は?」
かがみ「だから、こう……みゆきとデ、デートしてるんでしょ?」
キョン「ま、まぁ」
つかさ「だからどう思ってるのかなって」
キョン「ど、どうって、良い子だし優しいし勉強教えてくれるし料理上手いし妹の世話してくれるし」
こなた「めがねっ娘だしドジっ娘だし巨乳だしね」
キョン「それはお前の感想だろ」
かがみ「そ、そういうのじゃなくて」
キョン「?」
つかさ「う、うん。ほら、ね~?」
キョン「ね~? と言われても」
みゆき「(や、やっぱりキョンさんは私のこと嫌いだったのでしょうか……。私に同情して付き合ってくれてるんでしょうか……)」
こなた「だみだこりゃ。鈍感とかっていうレベルじゃねーぞ!」
キョン「何急にわけ分からんことを叫んでるんだ」
かがみ「仕方ない、とりあえず戻りましょ」
つかさ「あ、お姉ちゃん」
キョン「い、いったい何だったんだ?」
午後の授業に身が入りませんでした。ペンを動かす気力もなく私はずっと俯いていました。
休み時間にみなさんが励ましてくれるのですが、私は無理に作った笑顔で大丈夫ですというしかありません。
せっかく私のためにがんばってくれたのですから、それに応えるしかないのです。
放課後になり私はすぐにでも帰りたい気持ちでいました。するとキョンさんからメールを頂き、来て欲しいと書いていました。
お昼のことで何か言われるのかもしれないと思い、とても喜んで行く気持ちにはなれませんでしたが、
こうして書いていますし、見てしまった以上行かないわけにもいきません。
重い足取りで私は呼ばれた所へ行きました。
キョン「みゆき……」
みゆき「……はい……」
私は俯いて返事を返しました。もしかしたらこのまま別れ話を切り出されるかもしれないと思うと目に涙が溜まっていきます。
キョン「昼間な、泉とかがきたんだ」
みゆき「……はい……」
キョン「でな、みゆきのことどう思ってるか聞かれたんだ」
みゆき「……はい……」
キョン「みゆきがみんなに相談したんだろ?」
みゆき「っ!」
私は手をぎゅっと握って目を閉じました。涙がこぼれた気がします。
キョンさんにバレた。絶対に悪い印象を持たれてしまいました。絶対に別れ話です。
キョン「悪かったな、俺が不甲斐ないせいで」
みゆき「ぇ……?」
キョン「鈍感だ鈍感だと周りに言われて自分じゃそう思ってなかったんだが今日のことで自覚したよ」
わ、私のことを嫌いになったんじゃないんですか?
キョン「あのなみゆき。俺も自分のこと全部知ってるわけじゃないが、このことで分かることが一つある」
キョンさんは続けます。
キョン「俺は好きでもない奴とは多少は会話するかもしれんが、告白されたからといって付き合ったりはしない」
え、じゃあ……。
キョン「つまりこのことから分かることはつまり、何だ……その俺がみゆきと付き合ってるのは、あー、す、好きだからだ」
その言葉を聞いた途端に泣いていました。頭の中で何度も繰り返されています。
私は顔を上げてキョンさんの顔を見ました。
キョン「な、泣いてる」
みゆき「わ、私も、っく、キョ、キョンさんのことが、うぅ、す、す、好きですぅ」
泣きながら私は言って、キョンさんに抱きついていました。涙が止まりません。嬉しくて嬉しくて仕方ありません。
キョン「そ、そうか。そいつは嬉しいな。泣き止んでくれるともっと嬉しいんだが」
ご迷惑をかけているとは分かりますが今この時だけはわがままでいさせてください。
こなた「あ~キョンキョンまた泣かせてる~」
キョン「いっ、泉! またお前ら隠れて見てたのか」
こなた「いや~、今回は勝手についてきたんだよ」
かがみ「みゆきを泣かせたら殴ってやろうかと思ってたけど……これじゃあ殴れないわね」
キョン「そ、そうかそれは良かった」
つかさ「ゆきちゃんおめでと~。これでそーしそーあいだねっ」
キョン「つかさ、お前はまた恥ずかしいことを……」
こなた「じゃ、邪魔者は帰りますよ」
かがみ「ちゃんと家まで送るのよ」
つかさ「ばいば~い」
そして帰り道。私はさきほどの出来事が恥ずかしくて恥ずかしくて顔が赤くなっていると思い見られないように俯いて歩いていました。
でもきっと全身が赤くなってるかもしれないので無駄かもしれません。夕日で気づかないで欲しいです。
キョンさんと並んで歩いて、手はしっかりと繋がれています。キョンさん、とっても大好きですよ。
いつものように皆さんとお食事をしていた時でした。泉さんが思い出したように話しかけてきました。
こなた「そういえばみゆきさん~」
みゆき「はい何でしょうか?」
こなた「キョンキョンとさ~」
みゆき「はい」
こなた「チューした?」
みゆき「へっ、えっ、あのっ、そのっ、えっとっ……」
かがみ「ちょっとこなた、何聞いてんのよ」
こなた「だって気になるじゃん」
つかさ「私もちょっと~」
かがみ「実は……私も」
こなた「なんだかがみ人のこと怒れないじゃん」
かがみ「う、うるさいわね。それで……みゆき?」
みゆき「え、ええと、それはその……ま、だです」
こなた「なぁんだ~」
つかさ「でも何かゆきちゃん一人だけ先に行っちゃったねぇ」
かがみ「そうね」
こなた「おっかしいなぁ。普通だったらもうエンディングでチューの一つもしてるしものによっちゃ……ねぇかがみん」
かがみ「わ、私に振るなっ」
こなた「キョンキョンは自分からフラグ立てようとしない割にはいつの間にか立ててるし、かと思いきや折るからねぇ」
かがみ「せめて分かる言語で話してくれ」
こなた「前もさぁ話したかと思うんだけどキョンキョンは鈍感だから、したかったら自分からじゃないとねえ」
みゆき「じ、自分から……ですか……」
で、ですが現状でも満足しているのは確かです。でも……ちょっとしたいと思うのはいけないことなのでしょうか。
こ、こんなこと思っていたらキョンさんに嫌われてしまいますっ。はぅ~、頭から消えてくれません~。
キョン「お~いみゆき~」
みゆき「キョ、キョンさん!」
キョン「ど、どうしたんだ急に」
みゆき「な、なな何でもありませんっ」
キョン「そうなのか?」
みゆき「はい、そうなのです」
キョン「? それで今日は真っ直ぐ帰るのか?」
みゆき「あのっ、今日は買いたい本が発売されたので本屋さんに寄りたいのですが」
キョン「分かった。じゃあ行くか」
キョンさんが差し伸べてくれる手を取り、本屋さんへ向かって歩き出します。
そして本屋さんに寄った後私はあることを思い出しました。キ、キスのことじゃありませんっ。
みゆき「この辺りに新しいアイス屋さんが出来たそうですよ」
キョン「へぇ~。行ってみるか?」
みゆき「い、いいんですか?」
キョン「ああ。もっともみゆきがダイエットか何かで断固拒否っていうならいいんだが」
みゆき「そっそそんなことないです。行きたいです、言ってみたいです!」
キョン「力説するくらい行きたかったのか」
みゆき「ち、違うんですぅ~」
私たちは新しく出来たというアイス屋さんに着きました。アイス屋さんだけあってターゲットは女性らしく、内装外装共に可愛らしいです。
キョン「は、入りずらっ」
みゆき「あの、でしたら無理していただかなくても」
キョン「いや問題無い。よく考えれば妹もこんな感じの店に入りたがるからな」
みゆき「あ、それなら妹さんも呼べば良かったですね」
キョン「まぁ家には居るとは思うが、さすがに来んだろう」
みゆき「あ、それもそうですね、お恥ずかしいです」
キョン「それより何食べる?」
みゆき「え、えっと……ストロベリーマンゴーにします」
キョン「うん実に女の子らしいチョイスだ」
みゆき「あ、ありがとうございます~」
キョン「顔赤いな、熱出たか?」
みゆき「ちっ、違います大丈夫ですっ」
キョン「そうか? じゃあ俺は……豆乳抹茶にするかな」
みゆき「体に良さそうなアイスですね」
キョン「ああ。それにアイスの抹茶は美味いからな」
アイスを受け取り席に着きます。とても冷たくて美味しいです。
キョン「美味いか?」
みゆき「はい。そちらはどうですか?」
キョン「ああ。やはり抹茶だな」
みゆき「本当に美味しそうですね」
笑顔のキョンさんを見ていると幸せな気持ちになります。本当に美味しそうに食べる姿は少し可愛いと思ってしまいます。
キョン「ん? 食べたいのか? ほれ」
みゆき「ふえっ!? あのあのあのっ」
キョン「あれ、違ったか」
みゆき「いえ、それもそうでもなくてですねっ」
キョン「いやどっちなんだよ。ほれあーん」
あ、あーん……凄く凄く恥ずかしいです。他のお客さんが全員こちらを見ている気がしてなりません。うぅ、こっちを見ないでくださ~い。
みゆき「あ、あ~ん……」
キョン「どうだ?」
みゆき「ぉ、ぉぃしいでした……」
キョン「言葉がおかしいぞ、おい。じゃあ代わりにそっちのも食わせてくれ」
みゆき「えええぇぇぇぇぇえええ!」
キョン「そ、そんなに嫌か。そうか……」
みゆき「い、いぃぃぃいいいぃぃ嫌じゃないですっ!」
キョン「力いっぱい言わなくても良いから。じゃあ貰うぞ」
みゆき「あ待ってくださいっ、あのあ、あ~ん」
キョン「……やられると恥ずかしいな。あん。……うん、甘酸っぱくて美味いな」
あうぅ~、恥ずかしいですぅ~。ほ、本当に恋人同士なんですね私たち。じゃ、じゃないとできませんよね。
……あ、こ、これってか、かかか間接キ、キキキ、キスってやつですよねっ、ですよねっ。
みゆき「ぁぅぅぅ~」
キョン「おいアイス溶けてるぞ」
もうキョンさんの顔が見られません~。キョ、キョンさんこっち見ないでください~。気にしてしまいます~。
そうしてようやくアイスを食べ終えた私は、手を繋いだだけで先ほどの光景が何度も思い浮かべられて、今日も俯いていました。
そして次の日。私は昨日の出来事をみなさんにご報告しました。
こなた「えぇ~、それってカウントする~?」
かがみ「こなたっ! みゆきにとっては大きな一歩なんだからねっ」
つかさ「ゆきちゃん大人~。いいなぁ、私もしてみたいなぁ」
こなた「っていうかさぁ……こういう話したらみゆきさんがドジってキョンキョンの体を押し倒してうっかりってパターンなんじゃないの?」
かがみ「みゆきだっていつもそんなことしてるわけじゃないでしょ」
こなた「だってさぁ、誰だってそう思う、私だってそう思う」
みゆき「あの、恥ずかしいのであまり大きな声で」
こなた「こんなにスローペースじゃ怒られちゃうよ」
かがみ「誰によ」
こなた「誰かに」
みゆき「うぅ~、今日もキョンさんに会う度に思い出してしまいました」
かがみ「ま、まぁみゆきにはこのくらいがちょうどいいのよ。次がんばって」
みゆき「は、はぃ……」
次、ですか……。想像しただけで顔が赤くなってしまいます。か、間接キスですけど……初めての味は抹茶の味でした。
ま、また一緒に行きましょうねキョンさん。
こなた「そうそう」
かがみ「次って何よ」
こなた「何って……ナニ?」
かがみ「なぁ!?」
こなた「かがみんエッチ」
かがみ「あ、あぁあ、あんたが変なこと言うからでしょ!」
こなた「それは置いといて。まぁもうすぐ連休だし一泊二日くらいで旅行行ったら? あまり贅沢しなかったら二人で五万くらいで行けるし」
みゆき「で、ですがそんなお金は……」
こなた「実はウチの店でぱにぽにフェアやるんだけど、キャラ多くて人足りないんだよね」
かがみ「アンタ、みゆきに体の良い理由つけて人足にしようとしてるだけでしょ」
こなた「バレた~」
みゆき「わ、私やりますっ!」
こなた「やた~!」
かがみ「だ、だったらみゆきだけじゃなくてキョンくんにも話して」
みゆき「キョンさんにはいつも優しくしていただいてるので、今回はお礼にご招待したいのです」
つかさ「ゆきちゃん頑張って~」
こうして私は泉さんの紹介で働くことになりました。
こなた「玲ちゃん、三番テーブルよろしく~」
みゆき「は~い」
お仕事を始めて一週間が経ちました。最初は勝手が分からず大変でしたが、少しずつ理解していきました。
ところで泉さんはベッキーさんという方の衣装で、私は橘玲さんという方の衣装です。泉さん曰く私のままでいいとか。ただ黒髪のかつらを被っていますが。
みゆき「いらっしゃいま……せ」
キョン「よ、よぉみゆき……こんな、所で働いてたんだな」
みゆき「キョキョキョキョ、キョンさんっ!!!」
キョン「みゆき! しー! しー!」
みゆき「あ、すみません」
キョン「みゆきが働いてる姿が想像出来なくてちょっと意外だな」
みゆき「ど、どうしてここにっ? 教えてませんのに」
キョン「いやな、泉のやつがどうしても来いって」
みゆき「い、泉さんが?」
私は泉さんの方を見ると、泉さんは親指を立てて微笑みました。い、泉さ~ん……。
キョン「しかし何だってこんな所でバイト始めたんだ? 何か欲しい物でもあるのか?」
みゆき「そ、そういう訳じゃないんですが」
キョン「そうなのか? でもみゆきのすることなんだから、何か意味があるんだろう。頑張れよ」
みゆき「は、はい」
キョン「じゃあとりあえず注文していいか?」
みゆき「な、何しますか?」
こなた「玲ちゃん、そこは『何にすんの?』だよ」
みゆき「ひゃっ、泉さん」
こなた「今はベッキーだから」
みゆき「は、はいベッキーさん。えと、何にすんの?」
キョン「……みゆきにそんな口調を言われると何か新鮮だな」
みゆき「はうぅ~」
キョン「えっと、じゃあオレンジジュースで」
みゆき「はい」
こなた「そこは『分かった』でしょ」
みゆき「わ、分かった」
キョン「……大変そうだな」
キョンさんに見られていると思うと何だか緊張してしまって、初日のようなミスばかり繰り返してしまいました。
お客さんからは『あの玲ちゃんが』とか『ドジっ娘萌え~』とか聞こえてきましたが、それどころじゃありませんでしたっ。
それから数日が過ぎて、フェアが終わり短期アルバイトのみなさんと共にお給料をいただきました。
想像していたよりも多く貰えたので良かったです。その日は泉さんと一緒に帰りました。
こなた「いや~みゆきさん目当てのリピーターが多かったらしくて売り上げが良かったらしいよ」
みゆき「そう、なんですか?」
こなた「うんうん。店長がね、本気で働いてくれるように言ってくれないかって」
みゆき「えっ、そ、それは無理です~」
こなた「私も一応そうは言ったんだけどね~。まぁ本人の口から聞けたし店長も納得してくれるでしょ」
みゆき「ご期待に添えず申し訳ありません」
こなた「いんや~いいんだよ。でもまぁまたあったら頼むね」
みゆき「はい、時間に都合がついたら問題ありませんよ」
こなた「うんうん、それが分かっただけでいいよ」
みゆき「はいっ」
こなた「じゃあ今日はお疲れ様ってことで何か食べてこー」
みゆき「そうですね、お給料も出たことでしす」
こなた「いやいや、それはキョンキョンとの旅行に使いなよ。今日は手伝ってもらったんだし私が出すよ」
みゆき「そ、そんな悪いですよ」
こなた「いいからいいから。素直に受け取んないとキョンキョンにバイト中のあることないこと言っちゃうよ?」
みゆき「ひ、卑怯ですぅ」
こなた「アハッ」
結局泉さんにごちそうになりました。その後も何度か申し出たんですが、その度にキョンさんの話題を出され引くしかありませんでした。
泉さんに旅行の予定を立てた方が良いと言われましたが、やはり急ではキョンさんも困ってしまうでしょうし、キョンさんにはキョンさんの予定があるかもしれません。
みゆき「キョンさん」
キョン「お、みゆき。もうバイト終わったのか?」
みゆき「はい、短期契約でしたから」
キョン「そっか。で用は?」
みゆき「あ、あの今度の連休なんですけど、キョンさん予定とかありますか?」
キョン「ん~……今んとこないな。何でだ?」
みゆき「あ、あの……も、もしよろしければ、い、一緒にりょ、旅行などに……」
キョン「そ、それは魅力的な提案だがさすがに俺はそんな金ないぞ」
みゆき「ですからその、私アルバイトをして……」
キョン「あっあのバイトってそのためだったのか?」
みゆき「はい……」
キョン「おいおい、一言相談してくれれば俺だってバイトしたのに」
みゆき「そ、それじゃダメなんですっ」
キョン「えっ?」
みゆき「キョ、キョンさんはいつも私に優しくしてくれます。で、ですが私は何もして差し上げることができていません」
キョン「そんなことないぞ。勉強教えてくれたり、料理作ってくれたりするだろ」
みゆき「そういうのではないんです。それだけでは到底返しきれないのです」
キョン「そ、そういうもんなのか? じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。その代わり道中で飯食ったり土産買ったりする時は俺が払うからな」
みゆき「はいっ、分かりました」
キョン「何もしてないが喜んでいただけて何よりだ」
みゆき「じゃあ予定が決まりましたらすぐにご連絡しますねっ」
キョン「ああ。しかしハルヒに何て言って予定をねじこまれないようにするか……」
まるで子供のようでお恥ずかしいのですが、私はその日が来ることが待ち遠しくて仕方ありませんでした。
持ち物の確認もしましたし、電車の中で食べる食事の食材も確認しましたし、宿の予約もばっちり。
早く当日になって欲しいです。
そして待ちに待った当日。キョンさんが遅れて来ることも考えて電車の時間より少し早い時間に待ち合わせをしました。
キョンさんは本当は今日、団の活動があったらしいのですが、前倒しですることで無理に空けてもらったそうです。とても申し訳ないです。
キョン「お~い待ったか?」
みゆき「いえ今日は本当に今来たばかりですよ」
キョン「何だか俺の返しが見透かされてる感じだな」
みゆき「はい、慣れましたから」
キョン「すまん、慣れるほど俺は遅れて来てたわけだな」
みゆき「あ、そうじゃなくて」
キョン「いやいや。でも今日は一応時間通りだろ?」
みゆき「ええ。でもキョンさんが遅れてくるつもりで少し早い時間で待ち合わせたんですが」
キョン「や、やっぱりそう思われてたのか」
みゆき「あっ、す、すみません」
キョン「ああ、いい、いい。俺が悪いんだから。じゃあまぁ時間までのんびり待つとするか」
みゆき「はいキョンさん」
キョン「そういえば今日はどこに行くんだ?」
みゆき「今日は少し離れた温泉宿に行くつもりなんです」
キョン「ほお温泉か。いいなぁ。団長殿のせいで疲れてるからちょうどいいな」
みゆき「そんな。涼宮さんが」
キョン「いいんだよ、このくらい。みゆきが俺の愚痴を聞いてくれてるって思うだけで少しは負担が軽くなるよ」
みゆき「も、もうっ」
キョン「で、話は変わるが朝飯食わないで来たんだが、みゆきも食って来なかったのか?」
みゆき「はい。でもちゃんと用意して来ましたよ」
キョン「おお、さすがみゆきっ! 何だ何だ?」
みゆき「サンドイッチとセイロンティです。お口に合うといいんですが」
キョン「みゆきの作ってくれたもんで今まで合わないことがなかったって。じゃあ早速一つ貰うぜ」
みゆき「どうぞ。じゃあ私も」
私とキョンさんは電車がくるまでお話をしながら朝食を摂りました。いくつか電車は通りましたが、それは私たちの乗る電車ではないのです。
食べ終わる頃と同じくして電車が来ました。混んではいなかったのですが、座席はほとんど埋まっていました。
キョン「お、あそこが一つ空いてるな。みゆき座れよ」
みゆき「え、キョ、キョンさんが座ってください」
キョン「いや俺は立ってられるし、それにみゆきは女の子だからな」
みゆき「わ、私も立ってられますから」
キョン「そこは俺を立てて座ってくれると嬉しいんだが。毎度格好のつかない俺にたまには格好つけさせてくれ」
みゆき「で、ですが……」
周りの視線も大分気になってきたので私は申し訳ないと思いながら座りました。
な、なぜでしょう。周りの方がこちらをちらちらと見て笑っているみたいです。
キョン「そこまでの駅は真っ直ぐなのか?」
みゆき「いえ、二回ほど乗換えがあるんです」
キョン「そうか。俺乗換えとか苦手だから頼んだぞ」
みゆき「ええ、分かってますよ」
キョン「微笑みながら言われると俺がもの凄い不甲斐ない感じだな」
みゆき「そっ、そんなことはありません! キョンさんは素敵ですっ!」
キョン「……とても嬉しいんだが、電車の中だってことを忘れないでくれ。死ぬほど恥ずかしい」
みゆき「はっ、あうぅうぅ~……」
私は恥ずかしくて顔から火が出るかと思いました。見なくても顔が真っ赤なのは分かります。周りの人のくすくす笑う声がますます恥ずかしくなります。
私たちはしばらく無言のまま電車に揺られ、電車はある駅で停止しました。
乗ってきたのは一人の女性と抱きかかえられた赤ちゃんでした。座席は誰も乗り降りしないままだったので埋まったまま。
みゆき「あの、ここに座ってください」
私が席を譲ると女性は何度もおじぎとお礼を言って座り赤ちゃんをあやしていました。
とても可愛い赤ちゃんです。女の子でしょうか。人見知りしない子なんでしょう、私とキョンさんに微笑みかけてきます。
みゆき「赤ちゃん可愛いですね」
キョン「そうだな。妹にもこんな時期があったはずなんだがさっぱり覚えてない」
みゆき「それは妹さんに失礼ですよ」
キョン「だったら妹に俺をあだ名で呼ばず、敬称で呼んで欲しいもんだ」
みゆき「きっと恥ずかしいんですよ」
キョン「外でもあだ名で連呼される俺はいいのか」
みゆき「そ、それは……」
キョン「冗談だ。ちょっと意地悪を言いたくなっただけだ」
みゆき「もう、キョンさんっ」
キョン「い、いやぁ赤ちゃんは可愛いなぁ」
みゆき「も~。でも本当そうですねぇ。わ、私もこんな可愛い赤ちゃんが欲しいです……」
キョン「…………そ、そうか……」
みゆき「は、ぃ……」
私たちはまた黙ってしまいました。女性が微笑みながらこちらを見ているのに気付き、もっと恥ずかしくなりました。
女性と赤ちゃんが降りる駅に到着し、女性は改めて私たちにお礼を言うと赤ちゃんはなんと手を振ってくれたのです。
きっとただの偶然だったのでしょうが、とても嬉しかったです。キョンさんの表情も和らいでいました。
それからしばらくして電車の乗換えもして目的地の最寄り駅に到着しました。
キョン「ちょっと早いが昼にするか? 宿に荷物を置いてからの方がいいか?」
みゆき「えっと、宿まで少し歩くのですが、先にお昼にしましょうか?」
キョン「それを聞いたのだが?」
みゆき「キョ、キョンさんが決めてください」
キョン「う~ん、じゃあ先に食うか。実は立ちっぱなしで結構足にきてたんだ」
みゆき「い、言ってくだされば席を変わったのに」
キョン「いや、最後の電車はお前も立ってただろ。一緒だよ」
みゆき「ですが、途中までは私がずっと座らせて貰ってたんですから」
キョン「まあまあ過ぎた話は置いといて。適当な店を見つけて入ろうぜ」
みゆき「キョ、キョンさんっ」
キョン「みゆきに口では勝てんからな。どこがいいかな」
みゆき「キョンさんったら」
キョンさんは私の手を握り歩き出しました。こういう時に限って強引なんですから。
キョン「ここはどうだ? 飯屋にしては綺麗だ」
みゆき「はい私は良いですよ」
入った定食屋さんはお昼ということもあって少しお客さんがいましたが、私たちが座る分はありました。
キョン「んと、俺は……野菜炒め定食にするかな。みゆきは?」
みゆき「あ、私もキョンさんのと同じので」
キョン「そっか。じゃあそれ二つ。みゆき頼んだ後だが同じので良かったのか?」
みゆき「ええ。キョンさんこそお肉系じゃなくて良かったんですか?」
キョン「そんなの食ったら腹いっぱいになって宿着いたら動けなくなるからな」
みゆき「そういうことだったんですか」
キョン「そういうことだったんだ」
そうして宿に着くと、キョンさんは荷物を置いて早速のんびりしていました。
キョン「こういう所来るとなんかむしょうに体伸ばしたくなるよな」
みゆき「ふふっ、そうですね。あ、お茶淹れますね」
キョン「ああサンキュー」
みゆき「ここ、内風呂も温泉らしくて広いそうですよ」
キョン「へぇ。じゃあ動くのが面倒だとしても温泉に入れるわけか」
みゆき「そうなりますね。お夕食は六時ということでしたから、それまでに一度温泉に入っておきたいですね」
キョン「そうだな~。あ、そうだみゆき。話があるんだ」
みゆき「な、何ですか」
キョン「大きな声じゃ言えないからちょっとこっちに」
みゆき「は、はい」
キョン「実はな……」
みゆき「は」
い、と私が言おうとした瞬間、キョンさんの顔が近づいてきて、私たちは唇を重ねていました。
みゆき「ふえっ」
キョン「あれ、やっぱいきなりは嫌だったか?」
みゆき「ち、違いますっ。で、でもどうして」
キョン「いやな、今日こうして移動とか宿とかみゆきは色々してくれたのに俺がしてやったことって昼飯代奢ったくらいだろ。最近してなかったし、今日もしてなかったからな。お礼ってわけじゃないがな」
みゆき「す、凄く……嬉しいです……。も、もっとして、ほしい、です」
キョン「前にもかなりした時があったが、みゆきって意外とキス魔なのな」
みゆき「そっ、そんなこと……ない、と思います」
キョン「悪い意味で言ったんじゃないぞ。ほら、みゆき」
みゆき「キョン、さ……ん……」
そ、その後時計を見たら一時間くらい経ってまして、けっ決してずっとしていたわけではなくてですねっ!
みゆき「……私、温泉行ってきます」
キョン「……行ってらっしゃい。俺も少ししたら行くから入れ違いになるかもな」
みゆき「あ、はい。分かりました」
キョン「ゆっくりしろよ~」
温泉にはまだ誰も居なくて貸し切り状態でした。こんな広い所を一人で入れるなんてとても贅沢な気がします。
か、顔は後で洗いましょう。さっきキョ、キョンさんにたくさんしてもらったばかりですし。
空がとても澄んでいて、空気も綺麗で、風は静かに吹いていて。キョンさんと一緒にお泊りが出来てとても良い一日です。
あ、隣の方で音がしました。キョ、キョンさんでしょうか。でも違ったら恥ずかしいですし、声はかけないでおきましょう。
で、ですがもしキョンさんだったら、い、今一緒のお湯に入ってるんですよね。
隔たりがあってお互い見えないだけで一緒の可能性もあるんですよね。
何だかそう思ったら体がとても暑く感じます。た、確かめる方法はないでしょうか。
キョン「(隣に誰かいるっぽいんだが、みゆきだろうか。いや、みゆきはいるだろうが他にも人が居たら声かけない方がいいよな)」
う~ん、何か、何かないものでしょうか。
キョン「(まあ風呂場まで一緒って思ったらみゆきも落ち着かないだろうしな。あ、やべ、くしゃみ出そう)」
あ、普遍的な声を上げてみるのはどうでしょう? ふぅ~、とかはぁ~、とか。
キョン「ふえっくしょん!!!」
みゆき「っ!? キョ、キョンさんですかっ?」
キョン「あ、おう。いや明るくてついくしゃみが」
くしゃみの仕方、声、それですぐ気付きました。
みゆき「ど、どうですか? こちらは誰もいないので貸し切り状態なんです」
キョン「そうなのか、実はこっちもなんだ」
じゃ、じゃあ今ここには私たち二人しかいなくて、ほ、ほとんど混浴なんですかっ!?
キョン「う~ん、まるで混浴だな」
みゆき「そ、そう、ですね……」
キョン「いや~、こんな広い温泉を二人で貸し切りってのはいいもんだなぁ、みゆき」
みゆき「そ、そう、ですね……」
キョン「? みゆき?」
みゆき「そ、そう、ですね……」
キョン「みゆきっ、みゆきっ!?」
みゆき「はうぅ~……」
キョン「……き。……ゆき」
みゆき「ぁ……ん……」
キョン「良かった、目を覚ましたか」
みゆき「キョン、さん。あれ、私……」
キョン「お前のぼせたんだぞ。まったく、本当にのぼせるやつ見たことねえよ」
みゆき「す、すみません」
キョン「いいから寝てろって。仲居さん呼んだり、着替えたお前を運んだりしたんだからな」
みゆき「重ね重ねすみません。お恥ずかしい限りです」
キョン「のぼせるくらい入ってたとは思えんが、あんまり無理するな」
みゆき「無理をしたわけじゃないんですが」
キョン「これに限ったことじゃなくてな。今回の旅費のこととか、な」
みゆき「はぁ」
キョン「気を落とすつもりじゃなかったんだがな。夕食が来るまで横になってろ。ずっとついててやるから」
みゆき「ありがとうございますキョンさん。一つ……わがままを言っても良いですか?」
キョン「ああ。何だ?」
みゆき「手を、握ってほしいんです」
キョン「いいぞ。ただそれってわがままって言うのか?」
みゆき「私としてはわがままなんです」
キョン「人それぞれ基準があるしな。ほら」
みゆき「こうしてキョンさんと手を繋いでいると安心します」
キョン「は、恥ずかしいことを言うな」
みゆき「ふふっ、いつも私が恥ずかしい思いをしてるからお返しです」
キョン「何だか語弊のある言い方だな」
しばらく寝ていると体も大分回復して起こしても大丈夫なようになりました。
そしてタイミングよく夕食が運ばれてきました。仲居さんに体の心配をされました。着替えはこの方がしてくれたんですね、ありがとうございます。
キョン「おお美味そうだな」
みゆき「私のとどっちが美味しそうですか?」
キョン「意地の悪い質問をするんだな」
みゆき「ふふ、すみません」
キョン「何か吹っ切れたのか?」
みゆき「そういうわけじゃないんですが、少し舞い上がってるのかもしれません」
キョン「おいおい、また倒れるんじゃないだろうな」
みゆき「キョンさんひどいです」
キョン「俺がひどいのか?」
みゆき「ええ、キョンさんはいつもひどいのです」
キョン「みゆきにそんなことを言われる日が来るとはな」
みゆき「落ち込まないでくださいキョンさん」
キョン「いや落ち込んでるわけじゃないんだが、そうした本人に励まされてもな」
みゆき「すみません。あ、元気の出る魔法を教えて差し上げましょうか?」
キョン「ああ是非教えて欲しいもんだね。そんな便利な魔法」
みゆき「では失礼して……」
キョン「ん?」
みゆき「……ちゅ」
キョン「……それが魔法か?」
みゆき「げ、元気出ませんでしたか? わ、私はキョンさんにされると、その、とても元気がでますよ?」
キョン「いや、元気は出たが。……お前ちょっとおかしいな。……もしかしてお前」
みゆき「あ、それ私のジュース」
キョン「これ酒、いやカクテルじゃねーか。何でこんな物が」
みゆき「お酒じゃないです、ジュースです」
キョン「まさか間違って? いや今そんなこと考えても仕方ない。みゆきこっちを飲め」
みゆき「これ、キョンさんの水……」
キョン「ああ。というかもっと飲まないと」
みゆき「あの、じゃあいただきますね」
キョン「飲め飲め。体のアルコール分を薄めてくれ」
何だかとても楽しい気分です。いえ、もともと楽しかったのですが、私の中で何かたがが外れた感じでしょうか。
夕食を終えて、片付けも済むと後は基本的に仲居さんは入ってきません。
私は椅子に座ってテレビを見るキョンさんの体に寄り添いました。
キョン「……何か用か?」
みゆき「いえ、特に」
キョン「そうか」
みゆき「そうです」
キョン「…………俺、内風呂に入ってくるからみゆきはのんびりしててくれ」
みゆき「はい、ごゆっくりと」
キョン「…………一つ聞いて良いか?」
みゆき「はい?」
キョン「みゆきまでついてくる理由が皆目検討もつかないんだが」
みゆき「あ、あの、お、お背中を流してさしあげようかと」
キョン「いやいいから。そんなサービスいいから」
みゆき「そう、ですか」
キョン「俺が上がった後にでもゆっくり入ってくれ」
みゆき「そうすることにします……」
何だか恥ずかしいという気持ちより残念という気持ちの方が大きいです。
キョンさんが上がった後私も入ることにしました。キョンさんから長湯はせずにすぐ上がるように言われました。
体や頭、顔を洗って少しお湯に使ってシャワーを浴びてすぐ上がりました。
浴衣に着替えて、髪をアップにまとめると部屋に戻りました。
キョン「っお、上がったのか」
みゆき「はい。良いお湯でした」
キョン「そうか、良かったな。今度はのぼせなくて」
みゆき「はい」
キョン「み、みゆきは風呂上りはそんな髪型にするのか?」
みゆき「これですか? たまにしますね。髪型が気になりますか」
キョン「いや、まぁちょっとな。似合ってるぞ」
みゆき「ぁ、ありがとうございます」
キョン「いや」
みゆき「……」
キョン「あ、明日帰るんだし、早く寝て早く起きて色々と見て回った方がお得だよな」
みゆき「そ、そうですね。私髪を乾かしてから寝ますね」
キョン「ああ。俺は先に布団に入らせてもらうよ」
みゆき「おやすみなさいキョンさん」
キョン「おやすみみゆき」
私の髪は量があるので乾かすのに時間がかかってしまいます。乾かすのに十分くらいかかったでしょうか。
寝室に入ると部屋は真っ暗で二つの布団がついたてを挟むようにありました。先ほど私が寝ていた方の布団は少し乱れています。
私は静かに布団に入りました。
キョン「……みゆき」
みゆき「はい?」
キョン「……俺の記憶が確かならこっちは俺の布団でついたての向こうがみゆきの布団だったと認識しているんだが」
みゆき「私もそう認識しています」
キョン「じゃあ聞くが、なぜお前は俺の布団に入ってきた?」
みゆき「ダ、ダメですか?」
キョン「一般的にはあまり良くないと思ってるんだが」
みゆき「で、ですが……今日は一緒の部屋ですし、滅多にないことですから」
キョン「い、言っておくが良心に誓って俺は何もしないからな」
みゆき「キョンさんのことは信じてますから」
キョン「そ、そうか。ま、まぁみゆきが良いなら……良い、のか?」
みゆき「ありがとうございますキョンさんっ」
キョン「頼むからくっつかないでくれ。寝るなら静かに、な?」
みゆき「はいっ。あの、手を繋いで、寝てくれますか?」
キョン「う~ん、まぁそのくらいなら」
みゆき「おやすみなさいキョンさん」
キョン「おやすみ……俺寝れるかな……」
私はすぐに幸せな気持ちで寝てしまいました。隣にキョンさんがいるだけでとても安心できます。
明日、一緒に見て回りましょうね。
みゆき「……さん。……ンさん」
キョン「ん、んん……」
みゆき「おはようございますキョンさん」
キョン「ん~、ふぁ~あ。そうか家じゃなかったな。おはようみゆき」
みゆき「はいおはようございます。ご気分はどうですか?」
キョン「ああ悪くはないな。むしろ朝からみゆきの顔が見れて良い感じだ」
みゆき「そ、そんな……お恥ずかしいです」
キョン「みゆきはどうだ? 慣れない酒を飲んだんだ頭痛とか昨日のこと覚えてないとか。俺的には後者は嬉しいんだが」
みゆき「あの、お恥ずかしながら全て覚えてます」
キョン「そうか。で、振り返ってどうだ?」
みゆき「はうぅうぅ~……」
キョン「よしよし、それでこそみゆきだ」
みゆき「ご迷惑をおかけしました」
キョン「迷惑ではないさ。さて、朝飯は?」
みゆき「あと少しで来ますよ」
キョン「そっか。じゃあ顔でも洗って待ってるか」
みゆき「分かりました。お茶用意して待ってますね」
キョン「サンキュー」
キョンさんが顔を洗っている間にお茶の用意をします。そうしているとキョンさんが来るより先に朝食が運ばれて来ました。
キョン「あら、もう来たのか」
みゆき「ええ。聞いていたより早かったですね」
キョン「まぁ来たもんは仕方ない。食おう食おう」
みゆき「いただきます」
キョン「いただきます」
みゆき「美味しいですね」
キョン「そうだな。それで今日はどうする? 昨日は見て回るって予定にしたが」
みゆき「そうですね、朝食後少し落ち着いてから出ましょうか」
キョン「了解。今日も天気が良いし歩き易そうだな」
みゆき「本当ですね。キョンさんはお土産を買っていかれるんですか?」
キョン「まぁいくつかな。そういうみゆきは?」
みゆき「私も買う予定です」
キョン「まあ帰りの予定に遅れないように見て回るか」
みゆき「はいっ」
そしてキョンさんと一緒にお土産屋さんを見て回ったり、ご当地ストラップという物を見たりと非常に楽しく充実した一日でした。
私も少し無理して元気に振舞ったせいか、帰りの電車の中でキョンさんの肩にもたれかかって寝てしまいました。
キョンさんが隣にいる安心感と電車の揺れのせいですよね。
また一緒に旅行に行きましょうねキョンさん。