みなみ~夏の奇跡~

part37-309◆ugIb3.rlZc氏の作品です。

ー夏、私は1人の男性と出会ったー

きっかけは、私と友達になってくれた少し病弱な女の子…
彼女自身との出会いも、私にとっては奇跡とも呼べる出来事なのに……その彼女が更なる奇跡を運んできてくれた…

私の奇跡は止まらない。
私の喜跡は終わらない。

そう…

ーあの人と会えたからー



ー岩崎家ー

高校での初めての夏休みに入り、私は山の様に出された課題を黙々とこなしていた。

だが、異様に気が乗らない…
この暑さが気を滅入らせてくれるせいだ…こんな時に限って、クーラーは故障して使い物にならない…

普段、周りからクールなどと言われてはいるが、結局は人間…夏の暑さに勝てる筈もない。

気だるさの中、携帯に着信が入った。
画面に表示されているのは、私の一番の友達…

みなみ「…ゆたか?どうしたの?」

私の大切な人の1人である小早川ゆたかの声を聞き、少しだけ活力がみなぎる…
可愛いらしい声を弾ませ、彼女は私にこう言った。

ゆたか『みなみちゃん、私の家で一緒に勉強しない?お姉ちゃんの友達が遊びに来てるから、分からない所を教えて貰お!』

お姉ちゃん…泉先輩の事か…先輩の友人なら、恐らく柊先輩達だろう。
みゆきさんが出掛けたのは、泉先輩の家だったのか。
それなら私も教えを乞いたいな…

みなみ「…分かった。今から向かうよ」
ゆたか『待ってるね~♪』


携帯を切り、すぐさま身支度を整えて家を出る。
急がなければ、先輩達がいつ帰ってしまうか分からない。
ああ、外は家の中以上の暑さだ…


ー泉家ー

私は一先ずチャイムを押し、ゆたかに来た事を間接的に伝える。

だが、インターホンに出た声は、知らない男性のものだった…

『はい?』
みなみ「あ、あの…小早川さんに呼ばれた岩崎です…」

年の近そうな声の感じからして、ゆたかの叔父では無いよね…?

『おお、遠慮なく入ってくれ』

「お邪魔します」と一声掛け、玄関の扉を開ける…
すると、目の前に現れたのは、背の高い若い男性だった。

キョン「いらっしゃい。上がりなよ」
みなみ「あ、すみません…」

この人は誰だろう?ゆたかにいるのは姉だけの筈だし…
私が疑問に思っていると、奥からゆたかの声が届いた。

ゆたか「みなみちゃーん!上がってきてー!」



私はゆたかの声と、出迎えてくれた男性に誘導され、部屋へと入る。

ーゆたか部屋ー

扉を開けると、ゆたかが笑顔で出迎えてくれた。
そして、周りには先輩達が鎮座している。

ゆたか「ゴメンね、私が出なきゃいけなかったのに…」

表情を曇らせ、申し訳なさそうに謝るゆたかを怒れる筈もない…
いや、元より怒ってなどいない。

ゆたか「キョン先輩もすみません…」
キョン「いや、気にするな。俺が勝手に出ただけだからな。あー…悪かった」

キョンと呼ばれた先輩に、何故か謝られる私…
恐らく、何気なく出たは良いが、私が戸惑った表情を見せたせいだろう…

みなみ「い、いえ…気にしないで下さい…」

キョン先輩に「スマンな」と、もう一度謝られて、私は座る様に促される。


ああ、この人は根が良い人なんだなと、アバウトながらにそう感じた…



どうやら、私が来た時にちょうどキョン先輩がトイレから戻る途中で、何気なしにインターホンに出た様だ。
よくこの家に来てる為か、何度か出てしまった事があるらしい…
泉先輩の恋人かな…?

憶測が行き着いたところで、部屋の外から泉先輩の声がした。

こなた「やふー、みなみちゃんいらっしゃーい!早速私の部屋でゲームでもしないかネ?」

いきなりゲームの誘いを受けた…
私が困惑した顔をしてたのだろう、柊先輩が助け舟を出してくれた。

かがみ「お前はゲームをしてないで宿題を終わらせろ!何の為に私達が来たと思ってんのよ!」

どうにも、泉先輩に呼ばれて来た様子だけど、当の本人はゲームに勤しんでる模様…
本末転倒ですね…

こなた「後でやるヨ~。……皆の宿題を写すのは」
かがみ「おいコラ」



そして、私はゆたかと共に課題の消費に係った。
分からない箇所は柊先輩やみゆきさん、そしてキョン先輩に教えて貰う。

家に居た時とは嘘の様に勉強がはかどる。
ゆたかと一緒に居るのも勿論だが、先輩達が自分の課題をこなしながら、懇切丁寧に教えてくれている賜物だ。

つかさ「うぅ…お姉ちゃ~ん、ここの答え何~?」

1人の先輩…いや、2人の先輩を除いて…

ー隣室ー

「アッー!また落ちたヨ!」

ーゆたか部屋ー

…あの人は大丈夫なんだろうか?

ふと、キョン先輩が立ち上がり、部屋を出ようとした。

みゆき「どこに行かれるんです?」
キョン「ちょっと近くのコンビニまでアイスでも買ってくるよ。そろそろ一息入れよう」

気配りの出来る人だ…来た時の事を考えると、単なるお人好しなのかもしれないけど…



ービニビニコンビニー

キョン「ついて来なくても良かったんだぞ?」
みなみ「いえ、お世話になってばかりですし…」

私はキョン先輩とコンビニにまで来ていた。
気になったから…
コンビニを出た瞬間、その疑問を直接聞いてみる。

みなみ「あの、先輩…泉先輩とは付き合っているんですか?」
キョン「ぶっ!」

もの凄く驚いた表情で私を見やると、次の瞬間に全力で否定された…

キョン「アイツと俺が?断じてないな、ありえん!」

そこまで否定する事でも無い気が…
私がそう言おうとしたら、すぐさま二の句を紡がれた。

キョン「あんな人を呼んでおいてゲームをしてる様な奴だぞ?俺がアイスを買いに行くと報告したら、『あ、私バーゲンダッシュネ』とか指定する奴だぞ?そんな奴と付き合ってたら身が保たん」

全力で泉先輩を否定すると、特に意識をした様子も無しに、とんでもない事を口にしたーー

キョン「まぁ、付き合うとしたら、岩崎みたいな子だな」



…?この人は今何て言った…?
私の思考が既に停止しているにも関わらず、先輩は次々に私の思考を奪っていく…

キョン「初めて会った俺に、わざわざついてきてくれる様な優しい子だしな。俺の周りには俺を振り回しはしても、俺の為に動いてくれる女の子は極僅かだ」

優しい…?私が?優しいのは先輩の方じゃ…

キョン「何より美人さんだ。世の男共に自慢するには十分過ぎる要素だな」

…美人?私…が?

キョン「…ん、どうした?顔が赤いぞ?」

先輩に指摘され私の思考能力が一気に戻る。
…この人は、何でこれほどまで無自覚に、直球に人の心を動揺させるのか…
私は何とか声を振り絞り、先輩に問うてみる。

みなみ「…美人、って私が…ですか?」
キョン「もちろんだ。スタイルも良いし、顔立ちも整ってる……美人と言わずに何と呼ぶんだ?」

恐らく、私の顔はハッキリと分かる位に赤くなっているだろう…
私は何も返せず、ただ黙って先輩について歩く…



そう、黙ってついていこうとしたのに…
先輩は、まだ私の心を追い詰める…

キョン「大丈夫か?顔がさっきより赤くなってるぞ?熱でもあるのか…?」

心配そうな顔で私を見つめると、私の額に手を当てる…
真正面から見つめている先輩の顔は、真剣そのものだ。

みなみ「……っ!?」

先輩の大きくて優しい掌から、ひんやりした感触が伝わる…
大量のアイスが入った袋を両手で持っていたからだろう。

この暑さで体が火照った事も一因だろうけど、それ以上に自分自身の体温が上がってきている…
それを悟られない為に、私は一歩足を引き、先輩の手から離れ「だ、大丈夫ですから…」と断りを入れた。

先輩は不思議そうな表情をし、「アイスも溶けるから、急いで戻ろうか。岩崎も心配だしな」と、まだ私の事を思ってくれている…
本当に…優しい人だ…



ー泉家ー

空がオレンジ色に染められ、私や他の先輩達は帰る事にした。

こなた「そいじゃネ~」
ゆたか「みなみちゃん、今日はありがとう!」

2人に見送られ、私達は帰路へ着く。

私とみゆきさん、そしてキョン先輩が同じ方向へ向かう。
キョン先輩は、どうやら私達を送ってくれる様だ…
最後まで人の為に動く先輩に、感じた事の無い感情が芽生え始めていた……

みゆき「わざわざ送って下さらなくても結構でしたのに…」
キョン「いや、みゆきさん達の家に着く頃には、日が完全に落ちているだろうからな。しっかり送り届けさせてもらうさ」

この人は誰にでも優しい…私だけに優しい訳ではない…なのに…

素直に嬉しい…

先輩にとって、特別な存在になりたいとさえ思える…
これが恋…なのかな?


ー岩崎家ー

みゆきさんとは先程別れ、この場に居るのは私と先輩だけ…
私は玄関の前で立ち止まり、先輩の方を振り向いた。

みなみ「今日は…ありがとうございました…」
キョン「こちらこそ。俺も楽しかったよ」

そう言い、先輩は穏やかな笑顔を見せて帰ろうとした…

私は勇気を出して、先輩に頼んだーー

みなみ「あの、良かったら…今度は私の家で勉強を教えて貰えませんか…?」

先輩はキョトンとした顔で数秒私を見つめた後、再び微笑み…

キョン「構わないぞ」

私の期待した言葉を言ってくれたーー

去っていく後ろ姿に願う…いつか…
いつか勉強を教える為じゃなく…
別の形で……大切な人として……


ー私の部屋に来て下さいー

ーENDー

作品の感想はこちらにどうぞ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年09月10日 22:27
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。