part37-757◆ugIb3.rlZc氏の作品です。
私を初めて理解してくれた貴方…
もちろん、他にも理解をしてくれる友達はいる…
しかし、それは同性の女の子だけだ。
お父さん以外…それも同級生の男の子が…私を普通の女の子として扱ってくれた……
恋愛など、二次元でしかした事がない。
それすら『恋愛』と呼べるか怪しいものである…
データ上の行動、選択肢、会話……現実とは全くの別物だ。
そんな私が恋をした…
ゲームではない、本物の恋愛…
虚構と現実はまるで違う…
人の心など簡単に分かる物ではない。
それでも…
それでも私はこの想いを大事にしたい…
ーこの想いは作り物じゃないからー
ー泉家ー
夏の日差しが暑く、外に出る事すら億劫になる季節。
私は部屋でゲームに励んでいた。
こんな暑い日に外へ出るなんて、とんでもない…
トゥルルルル…
そんな後ろ向きな姿勢でノンビリしていると、家の電話が鳴り響いた…
誰だ、私の幸せな一時を邪魔する不届き物は!
私は乱暴に受話器を取ると、第一声をこの言葉で飾る…
こなた「お前の子供は預かった!」
これだ!相手から掛けてきたのに、全てを無視した誘拐宣言!!
…しかし、電話の向こうから予想GUYの返事が返ってきた。
『お前の親父は預かった』
へ…?お父さんを預かった?
いやいや、それは無い。
いくらお父さんでも大の大人だ。
というより、電話の相手の声に聞き覚えがある…
私は自分の記憶を確かめる為に、電話口の相手の名前を呼ぶ。
こなた「キョンキョン?」
そう、学校で唯一と言ってもいい男子の友達だ。
こなた「からかわないでヨ!一瞬考え込んじゃったじゃん!」
キョン『素晴らしいまでの逆ギレだな。お前、相手が俺じゃなかったらどうするつもりだったんだ?』
そんな事…まぁ、どうでもいいじゃないか。
それより用件は何だろね?
わざわざ私の家まで電話してくるなんて、よっぽどの理由があるんだろう…
こなた「それで、要求は何だ?金か?」
キョン『まだやるか。まぁいい…要求は、遊びに行かないか?だ』
キョンキョンが…私を遊びに誘った?
私から誘う事はあっても、キョンキョンからお誘いがくるのは初めてだ…
と、とうとう私の魅力に気がついたか!?
キョン『かがみ達が、お前を連れ出してやってくれとの事だ。今もゲームをやってたんじゃないか?』
喜びも束の間、すっかり見通された私の行動…
二重の意味で悲しいね~…
こなた「えー…面倒くさい!このクソ暑いのに、外になんか出てられるかってんですたい!」
キョンキョンからの誘いは嬉しいけど、裏にかがみん達が絡んでいるのは癪だ。
断ってとっとと受話器を置こうとした私の耳に、とんでもない発言が飛び込んできたーー
キョン『そうか…デートの誘いを断られると辛いもんだな…』
…でーと?今デートって言ったよね?
キョンキョンと…デート?
私は受話器を落っことしそうになったが、なんとか持ち直し、電話の向こうの彼に聞き直す…
こなた「デート?これはデート誘いなんですかい?かがみんに言われて渋々じゃなくて?」
キョン『俺だって暇じゃないからな。頼まれて遊びに誘う程、お気楽じゃない』
いや、だってあーた…かがみんに頼まれて電話したんじゃ…
私が疑問をぶつける前に、その答えが返ってきた。
キョン『それに、元々誘うつもりだったしな。最近、お前ネトゲにINしてばかりみたいだから、心配になったんだ…』
あー…そういや、同じネトゲをやってたんだっけ…
泣かせるじゃないかキョンキョン…この廃人を心配して連れ出そうとしてくれるなんてさ…
私は前言を撤回する為に、叫ぶ様に彼に伝える…
こなた「行くっ!絶対行くっ!!どこに行けばいい!?」
恐らく、向こうでは面食らった彼の顔を拝めるだろう…
いきなりテンションが上がった声を聞いたんだ、そりゃ驚くだろね。
キョン『乗り気になってくれた様で良かった。駅前で12時に待ってる』
私は「了解しました!」とだけ伝えて電話を切った。
シャツに短パンだけという、何ともだらしない格好をどうにかしなければと、迅速で着替える。
さっきまで暑さにダラけていたのが嘘の様だ…
彼に誘われただけでここまでやる気を出せるなんて…単純だね私は。
ー駅前ー
ジャスト12時!駅前の時計で時間を確認した後、視線をその下に向ける…
時計のポール部分に彼が寄りかかっていた。
彼に近寄り、恒例のあの言葉を言うーー
こなた「ごめん!待った?」
キョン「いや、俺も今来たところだ」
コレ!コレですよ!恋人と待ち合わせた時の定番とも呼べるセリフ!!
キョンキョンは恐らく素で言ったんだろうけど…私は満足さっ!
早速、彼にどこへ行くのか聞いてみる。
駅前に来たということは、電車で遠出するのかな?
こなた「どこに行くのかネ?」
キョン「ん、この辺りをぶらつくだけだ」
んー…まぁ、良いか!お店はたくさんあるしね!
キョンキョンと一緒に遊べるだけ、私は幸せってもんさ!
こなた「んじゃ、早速行ってみヨー!!」
彼の腕を取り、頬を擦りよせながら引っ張っていく…
身長差のせいで、頬に自然と肘打ちが入るけど気にしない!
うん、まぁ…ね?当然っちゃあ当然だたよ…?
暑苦しいからと、すぐに引き離された…
そりゃ無いんじゃないかい?
私が落ち込んでいると、彼が声を掛けてくれた。
キョン「まずは飯を食おうか…どこが良い?」
お昼か…何食べよう?
ふと、視界に小さな洋食店が入る…あそこが良いね。
こなた「キョンキョン、あのお店なんてどうヨ?」
キョン「ああ、小綺麗で良さそうだな。値段もリーズナブルだ」
彼の同意も得て、2人でお店に入る。
ー洋食店ー
中の雰囲気も良い…クラシックのBGMが流れ、落ち着いた感じの内装だ。
店員に席へと通され、彼と向かい合って座る…
うーん、デートって感じだね!
メニューを一見し、なにやら気になる物が目に映った…
こなた「……特盛りラーメン?」
キョン「何故ラーメンがあるんだ?」
とりあえずラーメンは見なかった事にして、私はデミハンバーグ、彼はミートスパをチョイスした。
十数分後、それぞれの頼んだ料理が揃い、2人一緒に食べ始める。
なかなかどうして…これは美味い!
…あのラーメンはネタだったのかな?
キョンキョンの頼んだ物も、かなりの味の様だ…
美味しそうに食べてる彼の顔を見て、私は少し貰う事にした。
こなた「そこ、貰った!」
キョン「させるかっ!」
フォークとフォークが激突する…ちきしょい!見破られてたか!
大人気ない攻防を続けていると、店員に怒られた…
くじら「お客様!店内で遊ばないで下さい!」
ちょっと調子に乗りすぎたか…
再び大人しく食べ始める私と彼…
すると、彼が私をジッと見ていた…あらやだ、何か顔に付いてるのかしら?
キョン「こなた…口の回りがソースだらけだぞ?」
ホントに付いてたのね…
彼はナプキンを手に取ると、身を乗り出して私の顔を拭き始めた。
…子供扱いされてるみたいで、とてつもなく恥ずかしい!
なんとか抵抗してみるが、振り解けない…
こなた「ちょ、ぷぁっ…やめ…なにするだぁぁぁ!」
キョン「可愛い顔が台無しだろ?大人しくしてろ」
……今日のキョンキョンはどうしたんだ?
これは私を動揺させる作戦か!?
こなた「か、可愛いなんて言っても許さないんだからね!」
キョン「はいはい、ツンデレツンデレ」
うぅ…結局為すがままになってしまったよ…
キョンキョン…もう少し女心を勉強しないかい?
いや、嬉しかったけどさ…
その後、2人共食べ終え、店を後にする事にした。
もちろん、お勘定はキョンキョンが払ってくれたよ。
キョン「さて、次はどこ行く?」
私達はその後も、至る場所を廻った。
洋服を見たり、ゲーセンに行ったり、書店でコンプを買ったり…
充実した1日だった。
日も暮れ始め、私達は駅前を後にする…
そんな帰り道、私は彼に尋ねた。
こなた「ねぇ、キョンキョン?どうして私と友達になってくれたの?」
実のところ、これが一番気になっていた…
私は普通の子とは少し違う…性格も容姿も…
彼は不思議そうな顔をし、逆に尋ねてきた。
キョン「友達になるのに理由がいるのか?」
こなた「だってさ…私は自他共に認めるオタクだし、容姿だって子供みたいだし…変な子だと思わないの?」
何でだろう?今日は楽しかったのに…何でこんな事を聞いてるんだ?
ううん、楽しかったからこそだ…
彼の本当の気持ちが気になって…知りたくなった…
楽しそうにしてるのは表面上だけではないかと…
キョン「一つもおかしな事じゃないだろ?」
彼はいつもと変わらぬ微笑みを浮かべていた。
そのまま私の頭に手を置き、撫で始める…
キョン「お前が変なら、俺の周りは変な奴だらけだ。俺を含めてな」
嘘偽りの無い瞳が、真っ直ぐ私を見つめている…
我ながら馬鹿な事を聞いたものだね…
彼の言葉を聞いて、私の視界がぼやけていく…
こなた「あれ…?」
涙が目に溜まり、今にもこぼれ落ちそうになっていたーー
キョン「ど、どうした?大丈夫か?」
嬉しくて、切なくて…恋しくて……
衝動的に彼の胸に飛び込んでいた…
私は思っていた事を隠さず吐露する。
こなた「…ホントはね?怖かったんだ…キョンキョンが私と仲良くしてくれているのは、表面上だけなんじゃないかって…仕方なしに付き合っているんじゃないかって…っ!」
彼は静かに聞いているだけ…
こなた「私が無理に誘うから、嫌々ついて来てくれてたんじゃないか…周りとの関係を壊したくないから、私と一緒に居るんじゃないか……そう思ったら怖くて…」
溢れ出した涙が止まらない…
彼は背中をポンポンと叩き、私の顔を上げさせると、指で涙を拭ってくれた…
キョン「馬鹿だな…俺がそんなに器用に生きれると思うか?嫌いな奴を誘うと思うか?」
なんだか怒られてる気がして、申し訳ない気持ちになる…
スッと彼が腰を屈め、目線を私と合わせ…
次の瞬間、私の唇に柔らかい感触が伝わり、キスされたのだと気づくのに時間が掛かった……
こなた「……っ」
急な事で声が出ない…
唇に残った彼の唇が触れた感触…
私はそのまま彼に抱き付くーー
キョン「まぁ、何だ…これが答えじゃダメか?」
顔は見えないが、恐らく相当赤面しているだろう。
彼の鼓動が速まるのを感じる…
ハッキリと彼の口から聞きたいから、私は彼に望んだ…
こなた「ちゃんと…言葉にして欲しいヨ…馬鹿な私にも分かる様に……」
彼は深呼吸をすると、私を抱き締めたまま言い切った…
キョン「お前が…泉こなたが俺は好きだ…1人の女性として…大好きだ」
再び涙が溢れ出す…
ずっと彼から聞きたかった言葉…
嬉しくて嬉しくて…しばらく泣き止む事が出来なかったーー
キョン「落ち着いたか?」
こなた「うん…ありがと」
彼は私が泣き止むまで、ずっと抱き締めていてくれた。
彼の温もりが伝わってくる…大事にしてくれると断言出来る程に……
ー泉家前ー
私の家に着き、彼と別れる…
名残惜しくて寂しくて……
握ったままの手が離せなかった…
こなた「キョンキョン…明日も会えるよネ?」
当たり前の事を確認するのは、少しでも彼と居たいから…
キョン「お前が望むなら、いつでも駆けつけるさ」
彼が微笑み、手を離す…
そのまま後ろを向き、手を振りながら去っていった…
ーこなた部屋ー
今日は一番幸せな日だった…
彼との距離が一気に縮まり、想いが成就した記念すべき日…
この想いを抱きながら、私は目を瞑る。
明日が少しでも早く来るように…
彼と少しでも早く会えるように…
ー貴方の隣に居られるようにー
ーENDー
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