Ring finger Ⅱ

キョン「失礼しやしたー」
たいした用ではなかったのだが、放課後・・・
担任のオカヤンに呼ばれて職員室に行っていた俺は
その用事を終え、職員室を出て少し行った先の階段を上ろうと、ふと上を見上げた
そこにはプリントの束に手足が生えていて、ブロンドの尻尾の生えた生物がいた
ブロンドということは、黒井先生であろう

キョン「黒井先生」
足を滑らせてはななこちゃんの危険が危ないので、
半分くらいもってやろうと声を掛けたのだが・・・
ななこ「へ??・・・あ、やばっ!!」
ふいに声を掛けられたので驚いてしまったのだろう
その拍子に足を踏み外し、
今こちらに向かってプリントオバケが倒れて来ている

ななこ「う、うわぁ!!」
キョン「先生!危ないっ!!」

ぽふっ・・・ドサドサッ!!
気持ち高めの位置からだったのが幸いしたのか
プリントの束は俺の頭上スレスレを通過し
俺は先生をしっかりと受け止めた・・・
ふんわりと、香水とシャンプーの混じった魅惑的な香りが俺の鼻をくすぐる

ななこ「・・・キ、キョン!?」
キョン「やれやれ、気をつけてくださいよ」
ななこ「ス、スマン」
キョン「怪我でもしたら大変でしょ?」
ななこ「うん・・・」

キョン「・・・」
ななこ「・・・」
キョン「・・・」
ななこ「・・・」
キョン「・・・あ、あの」
ななこ「え?・・・」
キョン「ひ、拾いませんか?」
ななこ「あ、あぁ・・・そうやな」

ついボーっとしてもうた、ウチらずっと抱きあっとったんや
こんなところを他の生徒や教員に見られたら
ついに手を出しやがったって疑われるに違いない

ドキドキ・・・ドキドキ・・・
あ、あかん・・・なんでこんなに動揺しとるんや?
こんなにドキドキしたのは教育実習ん時以来や
プリントを拾う手だけは動かしてるけど、思考が定まらない
とにかく目に付いたやつから片っ端に集めていく
キョンも手伝ってくれてるみたいやけど、二人で同じ物を拾っているということは
当然あぁいった事も起こりうるわけで・・・



フッ・・・いつかみたドラマのように
先生の、俺のより少し小さくて、そして柔らかな
(金属のリングの付いていない)手に触れてしまった
ななこ「あ・・・す、スマン」
キョン「す、すいません・・・」

なんだか妙に恥ずかしく、二人顔を赤くして残りのプリントを拾う

キョン「はい、これで全部ですね」
ななこ「うん」
キョン「半分持ちますから、あと半分お願いします」
ななこ「うん」
キョン「・・・センセ?」
ななこ「うん・・・は、半分やな」

キョン「よっと」
…ドスンッ!!
先生の机の上に自分の分のプリントを置き
残りの半分を受け取り、また置く
机の有効スペースなんてあったもんじゃないが
まぁしょうがないだろう・・・

キョン「じゃ、もう戻りますんで」
ななこ「ありがとな」
キョン「えぇ、また何かあったら言ってください」
ななこ「ん」
キョン「それじゃ」

まさか生徒相手にドキドキするなんて思えへんかったわ
キョンも顔が赤かったし、ドキドキしたんやろか?
もしそうやったらうれしいなぁ☆
ウチもまだまだイケるっちゅーことや

よしっ!さっさとこの山と積まれた宿題をチェックするとしよう

ななこ「・・・うぅ」
張り切って始めたものの、
キョンと抱き合ったときに顔を間近で見て
その上ベタドラマのように手が触れ合ってしまったから
キョンが頭から離れへんようになった

ちょっと休憩しよう・・・
こんな気持ちのままやったらきっと
生徒の宿題にひたすら「キョン」って書きなぐってしまいそうやしな

こういうときは屋上にでも行って・・・



今日は団長様は部活に参加しないそうだ
それなら別にあの文芸部室に行く必要は無いのだが
習慣というものは恐ろしいもので、何の疑問も持たずにアジトへと足を運んだ

我が部の活動は、ハルヒのハチャメチャが押し寄せてこない限り
読書と、ボードゲームと、メイドコスを楽しむという・・・なんとも ぁゃιぃ内容なのである
それが嫌なわけじゃないが、いつもこうだとちょっと気分転換でもしたくなるものだ

スッ・・・
古泉「おや?まだ勝負はついていませんよ」
キョン「どうせ勝敗はする前から分かってる」
古泉「・・・・・・で、どうしたのです?」
キョン「ちょっとした気分転換に屋上にでも行って黄昏てくるよ」
古泉「ご一緒しましょうか?」
キョン「本気でやめてくれ」
古泉「にょろーん」

学校で気分転換といえば、やはり屋上だ
別にここでタバコを吸おうなんて思っていない
俺は早死にしたくないので、あんな不健康で財布に厳しいものを
好き好んで、しかも法を犯してまで吸うほどバカじゃない
タバコを吸う人が悪いと言っているわけじゃないぞ
歩きタバコなんてのはいけない事なんだろうが
狭い喫煙所の中で、それこそ肩身の狭い思いをしながらタバコを吸い
それでも嫌な顔をされる世間の愛煙家の方々には、同情するよ
…って、気分転換をするってのに
何をわけのわからんことを考えてるんだ?俺は



もう少し薄暗くなった屋上は、なんだか寂しいようで
それでいて心地良い静寂だ・・・
生ぬるい風が、俺の体を通り抜けて行く
暑くもなく寒くもなく・・・
黄昏るには、もってこいのシチュエーションかもしれないな

ふと、さっきの出来事を振り返る
不慮の事故で抱き合ってしまった時のことを

先生の華奢な、それでいて凹凸のある身体
綺麗なブロンドヘアーの、サラサラとした感触
そして、俺の男としての本能をくすぐるあの魅惑的な香り

そう・・・俺は先生にトリコじかけになってしまった
まるで女郎蜘蛛の糸に捕らえられたかのように



普通は生徒が屋上に行くのを注意しなきゃいけない立場なんやけど
そない硬いこと言わんと、そのくらい許して欲しいもんや
久々やなぁ屋上に行くのも・・・あっ

せっかくずぅ~っと頭の中に居座ってるキョンに
そろそろお暇してもらおうかと思とったのに
なんでおるんかいな?この男は・・・

ななこ「キョン」
キョン「??・・・黒井先生」
ななこ「さっきはスマンかったな」
キョン「いえいえ」
ななこ「なにやっとんや?こんなとこで」
キョン「隠れてタバコやアンパンと称される物を吸うつもりでも
     ましてや自殺願望があるわけでもありませんよ
     ただ気分転換に、ここで黄昏てるんです」
ななこ「なんか妙に落ち着いてると言うか、若さが足りひんな」
キョン「先生に言われたくないなぁ・・・なんつって」
ななこ「うわひっど」
キョン「冗談ですよ」
ななこ「わかっとるわ!うちはまだ20代やで!?」
キョン「そうでしたね」
ななこ「そうでしたよ!」

キョン「先生」
ななこ「なんや?」
キョン「昨日、何で俺にあんなこと聞いたんです?」
ななこ「何でやろーな、それがウチにもわからんのや」
キョン「・・・」

ななこ「ウチな、いつも能天気でヘラヘラしとるやろ?
     せやから普段はそんな気持ち紛れてんねやけどな・・・
     たまぁにやけど、この何にも付いてへん薬指が寂しかったりするんや」

キョン「えっと・・・俺みたいな青二才が言うのもなんですけど
     そんなに焦る必要は無いんじゃないですか?
     焦んなくても、先生は先生が思っている以上に魅力的な女性です
     結婚なんて、すぐできますよ」

まさか生徒に慰められるとはな・・・

ななこ「よくまぁそないハズイことを平気で言えるもんやな、嬉しいけど」
キョン「別に、本当のことを言ったまでですよ」
ななこ「なるほどなー、せやからキョンはモテんねや」
キョン「自分ではモテた例がないように思えますけど」
ななこ「あんたが気付いてへんだけや」
キョン「俺はどうもそういうのがわからない男のようですね」
ななこ「ホンマや、何にもわかっとらん」
キョン「なにがです?」
ななこ「はぁ・・・ったく、誰のせいで変な気持ちになっとる思てんねん」
キョン「え?誰か気になる人でもいるんですか?」
ななこ「まぁ、そんなところやな」
キョン「それなら上手くいけば、薬指が寂しくはならないんじゃないです?」
ななこ「それがなぁ、この気持ちがホントに恋だったとしても、上手くいくことは無いんや」
キョン「どうしてですか?」
ななこ「教えへん」
キョン「そうですか・・・」

ななこ「なんや、ただのお悩み相談になってしもたな」
キョン「たしかに」
ななこ「んじゃ、仕事にもどるわ」
キョン「俺はあと少しここにいます」
ななこ「帰りはもう会わんやろうから、明日また会うとき笑いながらハミングやで」
キョン「そうですね」
ななこ「ばいにー☆」
キョン「ば、ばいにー」

キョン「あっ、先生」
ななこ「なんや?」
キョン「先生が誰の事で悩んでいるかは知りませんが、先生ならきっと大丈夫ですよ」
ななこ「あんたが・・・あんたが言うな」
キョン「??」
ななこ「なんでもない!!・・・ありがとな」

もう確定や・・・
生徒に、キョンに恋してしもーた・・・
一度そっちに動いた心はもうどうしようもない
それまでどんな関係だったとしても、
一度恋に落ちたらもうそれしか考えられない
他の人は知らんけど、ウチはそういう女や
でも、それでええんやろか?

やっぱり教師である私が、生徒に恋をしちゃいけないだろうか・・・
この恋は、上手くいくことはないんだろうか・・・
教師としてじゃなく、一人の女としてキョンのことを想っているのに



なぜ俺が別れ際あんなことを言ったのかというと
先生の糸に巻かれてしまったから
つまり通俗的な言い方を用いると、
俺が先生に対して「恋心」というものを抱いていたからかもしれない

それで先生から想いを寄せている人がいると聞いて
普通なら自分じゃないことを残念に思うはずだが
俺はその時、正直ホッとした・・・
ただの若さゆえの、先生に対する憧れから
危うく本気で好きになってしまうところだったからだ

いくら俺が先生に行為を抱いていたとしても
先生が俺に好意を抱いているとは限らないわけだ
というかそうじゃないってことを、たった今知ったんだが・・・
もし抱いていたとしても、さすがに教師と生徒の恋愛はマズイだろ
そういうことを考えていたから、俺はホッとしたのである

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最終更新:2007年09月04日 00:38
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