『男』の世界。

part38-288(後の小泉の人)氏の作品です。

霧が出てきた。
服にほんの少しずつながら水滴が付着し続け、体温を確実に奪っていく。
私は今、キョンキョンの腕の内で凍えるような寒さを感じている。

季節は夏。軽井沢の山の中


      『男』の世界。


8月某日。夏休み真っ只中の私は暇を持て余していた。
黒井先生は既に新学期のテストを製作してるらしく、しばらくネットに繋げられないらしい。
かがみとみゆきさんは何が楽しいのか解らないが予備校の夏期講習を受講している。
つかさは古泉君とデートに夢中らしい。
ゆたかちゃんはみなみちゃんと旅行に行った。
「暇だヨー遊ぼうZE☆」
とキョンキョンに送ったところ
「勉強しなさい」
とそっけない返事がきた。
つれないNE。

そんな日々のさなか、ヒマを打ち破る一報がきたのだった。

[着信]:ゆい姉さん


電話を取ると三十分ほどグチを聞かされた。
要約すると「ダンナとラブラブするために軽井沢に宿を取ったのに行けなくなったぞこの野郎」
とのこと。
「あげるから彼氏でも誘って距離縮めろやー」
とも言われたが私には彼氏などいない。

恋愛は精神病の一種とまでは言わないが今は三次元より二次元の方が魅力的なのだ。
さりとてこの話を無駄にするのは勿体ないので(たぶん)唯一彼氏のいるつかさにでもあげようと思ったのサ。

そしたらなんとその日はかがみとみゆきさんも丁度空いているとのこと。

ならば四人でいきましょう→つかさ「でも古泉君と行ってみたいナ」→じゃあ五人で→古泉「彼も誘いませんか?」→六人で
宿が空いているかどうかが問題だったが古泉君にはコネがあったらしく簡単に宿の手配がとれた。やるじゃん。



…という流れでいざ軽井沢へ。


そして当日。
軽井沢に着いて少し揉めたのが部屋割りだった。
宿というのが山の中のコテージで、微妙に離れているのだ。
2人ずつに分かれることになったのだがつかさと古泉君を一緒にするのはマズい!
とかがみが主張したのだ。
妹が気になるのはわかるけど過保護ごはいけないZE☆

夜中にこっそりキョンキョンとつかさが入れ替わるという密約をして古泉とキョンキョン、つかさと私、かがみとみゆきさんという部屋割りになった。

…でもこのときに「古泉君は手出さないんだろうな」と思ったのは私だけじゃないハズ。

夜通しDSで対戦でもしようか、とでもこのときは考えていた。



夜中。大体11時頃だろうか。
こっそり抜け出したキョンキョンとつかさが入れ替わった。
「ガンバるんだヨー」
と言って見送ったがなにも起こらないだろう。

「襲ったら児童ポルノ法で訴えるZE☆」
とキョンキョンに言ってみたが
「自分の特徴をよくわかってらっしゃる」
と哀れみの視線をセットにして送ってきた。

そしてカバンの中からDSを取り出して何で勝負するか考えていた。


して2時頃かな?
私がトイレに行くから覗くなヨ?

と言ったらキョンキョンが付いてきてオイオイマジカヨって思って………





「 」

それから、


「こなた」


えっと、


「こなたっ!!」


「おわっ!?」
怒鳴り声で目が覚めた。少しばかり寝ていたらしい。
「キョンキョン…そんな怒鳴らなくても聞こえてるヨ?」
「嘘をつくな」
あのキョンキョンが…怒ってる。
いつも気だるそうにしているだけのあのキョンキョンが…。
「アタシの魅力がいけないのはわかるケド独り占めは出来ないんだZE☆」
ぐいっと手を強引に引かれて引き寄せられた。
「キョンキョンってば強引…///」
「ふざけるな」
いつもからは考えられないほど真剣な目。
「混乱してるかもしれないが今の状況はわかるな?」
辺りは暗く、湿った土と木の匂いでむせかえる。
私の前にはキョンキョン。地面は少し傾いた斜面。怒鳴り声をあげても人がこない。

…私達は山の中腹で遭難している?


暗くて良くは見えないが二人の体は泥だらけだ。
幸運なのは二人とも近くに落ちた事かな?
「とりあえず登れば元の場所に戻れるんじゃないかナ?」
「無理だ」
「何でさ?」
キョンが私の右足首に触れた。
「いったぁぁぁぁぁ!!!!???」
ちょこん、とした感じに触れただけなのに激痛が走った。
恐る恐る触れると腫れているのがわかった。
「ならサ、キョンキョンなら登れるんじゃないカイ?」
「別にいいが…今俺が行ったらたぶんお前見つからなくなって白骨死体ができあがるぞ?」
「…それはカンベンしたいネ」
「朝になればたぶん探しに来るさ」


夏だというのに山は寒い。
今年は冷夏とニュースでやっていたがそのせいもあるかもしれない、などと考えた。


「こなた」
「うん?」
「寒くないか?」
「寒いサ」
その事を丁度考えてたしね。
「ほれ」
と言ってキョンキョンがジャケットを渡してくれた。
「そんなの悪いからいいって」
「いいから」
多分さっき眠りかけたのが気になっているのだろう。キョンキョンは私を過度に心配している。
「アタシの方が体脂肪あるからサ、大丈夫ダゼ?」
多分嘘だけど。
「男の意地だ」
「今時流行んないゼ?」
「なら俺だけ帰る」
「ちょ、わかったわかった!わかったヨ!!」
さすがにこんな暗闇の中で一人で朝まで耐えられそうにはない。
しぶしぶ袖を通した。


「…にしても寒いネ」
少し歯の根が合わない。
「ああ…って大丈夫か?本当にやばそうだぞ」
確かに、ちょっと異常かも、しれない。
「おい!?大丈夫なのか!!」
聞こえてるヨ。
「目ぇ開けろ!!」
ぐいっと今度は体ごと引き寄せられた。
「冷てぇ!?おい!!」
強引な男は引かれるヨ。
「やばそうだな…」
うん。ちょっとね。
「オイ!!!聞こえてるならせめてまばたきしてくれ!!」
パチ。
こんなキョンキョン始めてみたよ。
「やましい魂胆がある訳じゃないからな。それを解ってくれ」

パチ。



ここら辺で私の記憶はとぎれた。



次に目を開けたら朝だった。
「うぇ?」
私はキョンキョンに抱き抱えられていた。下着姿で。
しかもキョンキョンの服の中で。
「えええええ!!!???キョンキョン何した!!??」
私の叫び声で目を覚ましたらしい。もぞもぞと背後で動き始めた。
「………おはよう。こなた」
ちょ、何があったの私昨日!?
「キョンキョン」
「なんだ?」
「懲役三年は固いヨ」
うええ、と変な声をキョンキョンはあげた。
「一晩を共にした仲になっちゃったネ」
「誤解を招く言い方するな」
「事実ジャン」
まぁ私の腰の下にあるモノはピクリとも反応はしてませんが。


私はやっぱ魅力ないのかナ…と考えながら体を見てみる。
と、言ってもキョンキョンの服に隠れて……?
「……キョンキョン!!!??」
「なんだ?騒々しい」
「脚!!!あしぃ!!!!」

キョンキョンの左脚はふくらはぎに新たな関節を作っていた。

「きゅ、救急車…」
「圏外だろ」
「痛くないの?」
「痛いね」
「何で黙ってたのさ!?」
「お前が心配するからさ」
「馬鹿?!」
「今頃気づいたか」
「ば、馬鹿…後で聞かされたら余計に心配するじゃん!!」
「わかったわかった」
「キョンキョンの馬鹿!!」
「わかったから」
キョンキョンはスッと私の目元に指を寄せた。
「そんな泣くな」
そう言って私の涙をぬぐった。


携帯を開くとまだ朝の五時半だった。皆が起きて気付くにはまだ少し時間がかかるだろう。
「キョンキョン」
「なんだ?」
「ありがとう」
「何が?」
昨日は混乱していて思い出せなかったが今思い出した。
「ちょっと恥ずかしいケドさ、アタシ生理だったんだよネ」
「それで?」
「昨日、トイレに行った後少し貧血になっちゃって」
「バランスの取れた生活をしないからだ」
「…それで柵から落ちて。そこにキョンキョンが通りかかって助けてくれたんでショ?」
多分一緒に落ちたんだろうけど。
「かっこいいじゃん」
「そうか」
「………反応薄いなぁ」
「………グゥ」
「なんと」
寝てらっしゃる。
大物になれるぜアンタ……


「こなたぁー!!」
「キョンくぅーん!!」

おや、もう迎えですか。


「……………」


……………キョロキョロ………チュッ


「ごちそうさまです」
うむ。これで堂々と初めての相手と公言できる。

「こなたぁー!!!」

少し名残惜しいけどそろそろ呼ばないとネ。
「かがみぃー!!!!ここだよぉ!!!!!」



かがみ「なんでつかさとキョン君が入れ替わってたのかしら?」
こなた「愛の力?」
かがみ「アンタの仕業でしょう!!!」
古泉「病院ですので静かにお願いします」


あの後キョンキョンは入院した。単純骨折で全治3ヶ月。
まぁ、二百メートルほど森の中転がって骨折一つってのは奇跡ダヨネ。
つかさ「キョン君大丈夫?」
キョンキョン「やることがなくて暇です」
みゆき「夏期講習で使ったテキストですがどうぞ」
キョンキョン「…ありがとうございます」
キョンキョン目が泳いでるヨ。


古泉「では僕たちはこの辺で」
つかさ「またねぇ」
かがみ「お大事に」
みゆき「今度は解答もってきますね」


「キョンキョンは愛されてるネェ」
「ところでだな…こなた」
「なんだい?」
「男と個室に2人っきりのときは危機感くらいもったほうがいいぞ」
「なんで?」
「男は羊の皮を被った狼だって知らないのか?」
「女は狼を狙ってる狩人ってことは知らないカイ?」
ふふん、と笑う。

けど、あれ?………ってことは
「アタシに欲情してた?」
「……一つ良いこと教えてやる」
こいこい、と手招きをする。
トテトテと近づく。
「男が意地を張るのは好きな女の前だけだ」
キョンキョンにキスされた。
「この前のお返し。お粗末様でした」
一気に顔が赤くなるのがわかった。
狸寝入りだったんだネ……



「キョンキョンの馬鹿!!」



男の世界(意地)終わり

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最終更新:2008年01月11日 18:24
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