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触れ合う距離

part38-527氏の作品です。

ゆたかが本当に嬉しそうにあの人と喋っている。
教室移動をしている時に偶々顔を合わせただけの事。
それでもゆたかはこれ以上無いくらいの笑顔でいた。

…私はあの人のことを好きじゃない。
いつも気だるげで、周りに流されてばかりで、それなのに人望があって。
ゆたかや泉先輩達、あまり交流があるとは思えない田村さんやパティまであの人に好意を寄せている。

…自分でも分かっている。これはただの醜い嫉妬だ。
人付き合いがどうしようもなく苦手で、思ったことも口に出せなくて。
私が歩けない場所をあの人は軽々と飛び越えてしまう。
私は本当にごく限られた世界の中でしか生きていけない。
だからきっと広い世界で生きているあの人が羨ましい。


放課後になっても私の気分は憂鬱なままだった。
あの人を好意的に思っていないことがゆたかを裏切っているようで、いたたまれない。
だからゆたかが一緒に帰ろうと誘ってくれても、委員会の会議があるからと言って断ってしまった。
本当は会議など無かったので保健委員の当番を代わってもらって、しばらく保健室で何をするでもなく過ごしていた。

当番の時間が終わって帰り支度をしていると、外から雨音が聞こえてきた。
瞬く間に雨脚は強くなり、私が昇降口に出た頃にはザーザーという擬音が相応しいほどの降りになっていた。
今朝の天気予報では雨が降るとは言っていなかったから私は傘を持ってきてはいない。
このまま濡れて帰るのも忍びないけれど、しばらくは止みそうにも無い。
どうしようか思案していると、後ろから「お、岩崎?」という声が聞こえてきた。
間違えようも無い。あの人だ。

キョン「お、岩崎?」
みなみ「先輩…」

もう時間は五時半を回っている。
学校内でも騒動を起こすことで有名な例の部活だろうか。

キョン「今帰りか?って見ればわかるな」
みなみ「はい…先輩はSOS団の活動ですか?」
キョン「我らが団長様がいきなり『学校の七不思議を探すわよ!』なんて言い出してな。結局こんな時間まで残ることになっちまった」

涼宮先輩はいつも唐突に物事を始める。
私も泉先輩に連れて行かれたゆたかの付き添いで何度か関わったことがある。
キョン先輩は涼宮先輩の度重なる思いつきに付き合わされているようだ。
もう慣れたのだろうか、諦めたような目で遠くを見ている。
私が所在なさげにしているとキョン先輩は急に私のほうを見て、おもむろに折り畳み傘を取り出した。

キョン「ほら、入れよ」
みなみ「…え?」
キョン「傘、忘れたんだろ。相合傘になるのはアレだが濡れるよりはマシだろ?」

キョン先輩は私が傘を持っていないことを見て傘に入るように促した。
私は少し戸惑ったけれど、濡れるよりはマシだと思い御厚意に預かることにした。


キョン「………」
みなみ「………」

会話が続かない。
というより、会話が無い。
傘に入れてもらったのはいいが、居心地の悪さを感じて少し私は後悔していた。
雨脚が弱まるのを待ってそれから帰るべきだったかもしれない。
この時期、この時間帯の雨だ。
最初の大振りからは考えられないくらい、今は雨は弱まっている。
三十分ぐらいなら待っていたほうが良かったかもしれない…
そう思っていると、先輩がこの帰り道初めて言葉を発した。

キョン「あー、なんだ。やっぱり迷惑だったか?」

先輩もこの沈黙を気にしていたらしい。
私は元々無口だけれど、雰囲気というものがある。
それを察して言ったのだろう。
私は先輩の顔を見ようとして…

みなみ「いえ、そんなことは…」

ありません、と言いかけて気付いた。
私が全く濡れていないのに対して、キョン先輩の右肩はずぶ濡れになっていた。


私は急に視界が広がったように感じた。
何で今まで気付かなかったんだろう。
この人は親しい交流のない私に傘に入るように促してくれた。
この人は自分が濡れてまで私が濡れないようにしてくれた。
今まで気付こうともしなかったけれど、これまでも先輩は私達に色々と気配りをしてくれていた。

そうか…こんな人だからゆたかが好きになったんだ…

キョン「ん?どうした?」

いつも気だるげで、周りに流されてばかりで、でもこの人はこんなに優しい。
肩がくっつくかくっつかないか程度の私と先輩の距離。
私は先輩の胸元の辺りまで、肩を近づけた。
今までとは違う、先輩との距離。

みなみ「こうすれば、先輩も濡れません…」

キョン先輩は少し照れたように「そうだな」とだけ言った。


雨は傘を差す必要が無いぐらい小降りになってきている。
それでも…もう少し、このままで…

ーおわりー

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最終更新:2007年09月04日 20:16
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