恋敵と書いてともだち

part39-362に投下されたパイン飴◆4Z3SPBo0bM氏の作品です

最近みなみちゃんのキョン先輩に対する態度が変わったように思う。
前までは私やキョン先輩の話している内容に相槌を打っているだけのような話し方だったけれど、最近はみなみちゃんから積極的にキョン先輩に

話をしようとしている。
みなみちゃんはどちらかといえば無口なほうだから、きっとキョン先輩と話をしようと一生懸命なんだ。
そういえばこの前、みなみちゃんが珍しくキョン先輩と帰っているところを田村さんが見たと言っていた。
夕方から短い時間だけれど強い雨が降った日で、どちらかが傘を忘れたのか相合傘で帰っていたと田村さんは言っていた。
みなみちゃんのキョン先輩への接し方が変わったのは、もしかするとその日からなのかもしれない。
けれど私にはその日何があったのか、なんてみなみちゃんに聞く勇気は無い。
もしみなみちゃんがキョン先輩のことが好きだと聞いてしまったら私はこれからどうみなみちゃんに接すればいいのか分からなくなってしまう。
学校を休みがちな私は昔から仲の良い友達が少なかったけれど、みなみちゃんは高校に入って初めて出来た仲の良い友達。
キョン先輩のことは好きだけれど、そのことでみなみちゃんとの関係がなくなってしまうなんて私には耐えられない。

けどもしみなみちゃんと恋のライバルになってしまったらどうしよう。
みなみちゃんは美人だし、スタイルもいいし、性格だってすごく優しい。
あんまり喋るのが得意なほうじゃないから人には誤解されやすいけど、キョン先輩はみなみちゃんのことを悪く思ったりするような人じゃない。
それに比べて私なんか背は小っちゃくて子供っぽいし、体が弱いからすぐに皆に迷惑をかけたりする。
みなみちゃんと私とじゃ、魅力が違いすぎるよね…

私は帰ってから思いっきり泣いた。
みなみちゃんと私じゃ、比べるべくもない。
私は一歩下がって、みなみちゃんの応援をするのがきっと一番いい。

ゆたか「けど、それでも…キョン先輩のことが好きだよ…!」

夕飯時、伏せがちな私をこなたお姉ちゃんもそうじろう叔父さんも心配していたけれど、私はなんでもないから、と言い張った。
二人とも、心配をかけてごめんなさい…

次の日から、私とみなみちゃんの関係は少しギクシャクし始めた。
キョン先輩と会っても、私は一歩離れてみなみちゃんとキョン先輩がもっと会話できるようにする。
それを見てるのはすごく辛かったけど、みなみちゃんのためだと思って我慢した。
けれど、みなみちゃんもそんな私の態度に気付いたみたいで「どうしたの…?」って声を掛けてくれた。
みなみちゃんはやっぱり優しいけれど、その優しさが今は辛かった。

お昼休みはいつも通りみなみちゃん、田村さん、パティ、私の四人で食べたけど、私はみなみちゃんと顔を会わせ辛くてなんだか気まずい雰囲気

になってしまった。
田村さんたちにも迷惑を掛けてしまってすごく申し訳なく思って余計落ち込んでしまった。
そんな私に二人は小声で「みなみちゃんと何かあったの?」と心配して聞いてくれたけど、私は答えようもないから「なんでもないよ」とだけ言

った。

帰りもSOS団で連れて行かれたり、委員会の会議が無い限りいつも私とみなみちゃんは一緒に帰っていたけれど、今は一緒に帰ろうと言えるだ

けの勇気が無かった。
だからホームルームが終わったら急いで帰る準備をして、声を掛けてもらう前に帰ってしまった。
みなみちゃんが私のほうを見て悲しそうな目をしていたから余計に辛かった。
ごめんなさい、みなみちゃん…
その日も帰って、枕に顔を埋めて泣いた。

そんな状態が数日続いた日、キョン先輩が一年の昇降口のところで所在なさげにしていた。
先輩に会えて嬉しい反面、みなみちゃんに悪いと思って挨拶だけして帰ろうと思ったら先輩のほうから声を掛けてきてくれた。

キョン「よう、ゆたか。一緒に帰らないか?」

その時私は、現金だけれど一瞬すごく嬉しく思ってしまい、そのことに気付いてまた余計に落ち込んでしまった。
そんな私を気にしてか、先輩は「あ、嫌ならいいんだが…」とバツの悪そうな顔をしていたけれど、先輩のお誘いを断るわけにもいかずに一緒に

帰ることになった。

帰路に着いてしばらくの間、先輩と私との間では無言が続いていた。
こんなのじゃ、先輩に悪いな…と思いながらも、今は先輩になんて喋ればいいのか分からない。
そんな中、唐突に先輩が私の顔を見て言った。

キョン「最近なんだか元気がないみたいだが…何かあったのか?
    俺でも良かったら相談ぐらいには乗れると思うが…」

急な先輩の質問に言うべきか言わないべきか戸惑ったけど、先輩ならきっと本当の思いで答えてくれると思って、私は先輩に打ち明けることにし

た。

ゆたか「あの…もしキョン先輩が一番の友達と同じ人を好きになっちゃったりしたら、どうしますか?」

キョン先輩は予想外の質問だったのか少しビックリしたみたいだけど、私が真面目に聞いていることを察して私のほうを真摯な眼差しで見つめて

言った。

キョン「そうだな…どうもしないさ」

キョン先輩の言葉は私にとって完全に予想外のものだった。
どうもしない、って…
キョン先輩には私の気持ちは分かってもらえないんだろうか。
恋をすると嬉しくて、楽しくて、けどとても辛い。
それが友達と一緒の人を好きになってしまったというなら、その辛さはもっと大きいものになってしまう。
けど先輩は私の方を見ながら続けて言った。

キョン「相手に譲ろう、なんてことを二人とも考えてそれで関係がギクシャクしても嫌だからな。
    その友達にはっきりと同じ相手が好きだ、って伝えて正々堂々と争えばいい。
    それで関係が悪くなるようなら、言葉は悪いがそいつは本当の友達とは言えないと思うぞ。
    少なくとも、その女の子とその子の友達の関係なら心配ないと思うけどな。」

はっきりと相手に伝える…かぁ。
けど確かに、今みたいに相手のことを考えすぎて関係がギクシャクしちゃってるのは嫌だ。
みなみちゃんにはっきりとキョン先輩のことが好きだって伝えて、正々堂々と勝負して、精一杯頑張ったんなら結果キョン先輩が誰を選んでも恨

みっこなし、ってことなのかな。
そうだ。今みたいな関係が続いちゃったらきっと私とみなみちゃんは離れてしまう。
そんなことになるぐらいなら、キョン先輩の言うとおり私が先輩のことが好きだってみなみちゃんに伝えて、みなみちゃんからも先輩のことをど

う思ってるのか聞けば良い。
きっとみなみちゃんなら答えてくれる。

ゆたか「あの、キョン先輩。いきなりの相談に乗ってもらってありがとうございます!」
キョン「あぁ、気にするな。俺でよければいつでも相談に乗るさ。その女の子にも良かったら俺の言ったことを伝えておいてくれ」
ゆたか「はい!」

先輩はやっぱり、私とみなみちゃんとの関係のことだと気付いてたみたい。
それでも私たちのことだろ、って言わないのは先輩なりの優しさなんだと思う。
その優しさが、すごく心地良い。
ぶっきらぼうな物言いだけど、先輩は私たちのことを本当に考えていてくれている。
私、やっぱりキョン先輩のことが好きで良かった…


あ、けど…好きな人が先輩だっていうのは、ばれてない…よね?


次の日、私は久しぶりに(と言っても一週間も経ってないけれど)みなみちゃんを帰りに誘った。
私もみなみちゃんも、相手のことを考えて上手くいってなかったんだ。
同じ思いをぶつければ、きっと元の関係に戻れるはず!
私はみなみちゃんを商店街のマク○ナルドに有無を言わさず連れて入った。

ゆたか「えへへ、無理に連れてきちゃってごめんね。予定とか無かった?」

そう聞くと、みなみちゃんはいつも通り言葉少なに「ううん…大丈夫…」とだけ言った。
しばらく無言で二人でポテトを食べて、少し気まずい雰囲気だったけど勇気を出して言いたかったことを口にすることにした。

ゆたか「あ、あの!みなみちゃんは好きな人っている?」

みなみちゃんは私の言いたいことを察したのか、少し曇った表情でコクリと首を縦に振った。
これを言ったらみなみちゃんとの関係が崩れるかもしれない。
それでも、このままみなみちゃんと離れていくのは嫌だ。
自分に出来ることはしっかりとやっておきたい!

ゆたか「私は…私はキョン先輩のことが好き!みなみちゃんは、キョン先輩のことどう思ってる?」

数秒の間が何時間にも思える。
きっとみなみちゃんの答えは決まっている。
けど、それでも私はみなみちゃんと友達でいたい。

みなみ「私も…キョン先輩のことが、好き…ごめん、ゆたか…」

みなみちゃんの曇った表情は相変わらず。
でも、好きっていう言葉を聞けてよかった。
私は私に出来る限りの笑顔で、こう答えた。

ゆたか「謝ることなんて無いよ。私もみなみちゃんもキョン先輩のことが好き。恋敵で、仲間だね!」
みなみ「ゆたか…うん、そうだね…仲間だね」
ゆたか「そうだよ、仲間だよ!一緒に頑張ろうね!」

みなみちゃんはやっと私の目を見て笑ってくれた。
なんだか嬉しくて少し涙目になってしまう。
みなみちゃんの目も少し潤んでいるみたい。
私たちはやっと、本当の友達になれたんだ。

そうして、私とみなみちゃんとの関係は元に戻って、ううん、前よりももっと仲良くなった。
先輩とは学年が違うからあんまり会う機会はないけど、今日も先輩に会えるかな、なんて二人で笑って話せる。
今度二人で両方から腕を組んで困らせちゃおうか、なんてちょっとした悪戯も二人で考えてみた。
そのときの先輩の反応が楽しみだね、なんてね。

ちなみにあの日、私たち二人のわだかまりが解けたあと、キョン先輩が鈍感すぎる、っていう話題で盛り上がった。
先輩が卒業してしまうまでもう一年も無い。
それまでに、私たち二人とも先輩に告白できればいいね、みなみちゃん。


P.S.
先輩が私のことを待っててくれていたあの日、実はみなみちゃんが先輩に頼んでいたみたい。
『ゆたか、きっと大きな悩みを抱えています…けど…私じゃ力になれないから…先輩、ゆたかの悩みを聞いてあげてください』って。
きっと何のことで悩んでたか、みなみちゃんは知っていたはず。
だからこそ関係が少しおかしくなっていた。
それでも私のことを思いやってくれるみなみちゃんのことを考えたら、少し涙が出そうになった。
みなみちゃん、私の友達でいてくれてありがとう。

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最終更新:2007年09月07日 00:05
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