見切り発車

part39-23氏の作品です。

それは、ある何の変哲もない日常から始まったーー

俺は毎度お馴染みの長い坂を登り、その先にある我が学舎を目指して歩いている。
季節の所為か、俺のシャツは大量の汗でグショグショさ。

今は夏休みに入っており、俺以外に生徒の姿は見えない。
では、何故に俺が学校へと歩を進めているのか…?
そいつぁ俺が教えて欲しいね。

頂上まで辿り着くと俺を呼び出した張本人が、額に汗を滲ませて待ち構えていた。
他にも見知った顔が勢揃いしている…お前らは暇なのか?
あっはー、俺は暇じゃない。山の様に出された課題をこなさなきゃならんからな。

などと頭の中で無駄な独り言を高速で呟いていると、奴は俺の姿を視認した様で…
シャッキリーニと、己が眉を釣り上げるのが見てとれた。

すごく…器用です…



「遅い!バッキンガム宮殿!!」

……なんだって?俺の耳が逝かれてしまったのだろうか?
今、奴はバッキンガム宮殿と言った。間違いなく言った。
ウケ狙い…じゃないよな?じゃなきゃ、あんな恐ろしい顔をしてはいないだろう。

俺が呆けていると、奴は仁王立ちしたまま「私じゃヌェー!」と否定し、隣に居る青い小人を見やった。
俺は納得し、その生物に語りかける。

キョン「ああ、お前か…こなた」
こなた「バレたか!とゆうか、そのナレーションはあんまーりじゃないかネ?」

このブーたれてるちっさいのは、俺と同級生の泉こなただ。
こなた、お前こそ人のモノローグを勝手に読むなよ。
すると、眉を釣り上げたままの仁王が、奪われたセリフを言い直しやがった。

ハルヒ「…うっうん、遅い!罰金!!」

…わざわざ言う必要があるとも思えんがな。
なんだ?決まりなのか?俺を鬱にさせるのがお前の喜びなのか?そーですね!



何故、団長様と青い小人とを勘違いしてしまったかと言うと、あの2人の声がそっくりだからだ。
この間だってーー

ーキョン's回想ー

教室でアホの谷口達と談笑していると、携帯に着信が入った。
何気なく取った俺の耳に入ってきた一言は…

『キョン!すぐ来なさい!』

声の主を即判断した俺は、当たり前の様に聞き返す。

キョン「ハルヒ?唐突になんだ、このまま用件を仰りなさい」
『何でもいいから抱き締めてよ!熱く!激しく!バーニングそいやぁー!!』

…気が狂っとる……
何があったかは知らないが放置する訳にもいかず、ハルヒの気を鎮める為に一路部室に急いだ。
まぁ、この時点で気づくべきだったんだろう…

ー文芸部室ー

俺が部屋に入ると、待っていたのは長門が黙々と読書に勤しんでいる姿だった。
俺はその横顔に言葉を掛ける…

キョン「長門、ハルヒを見なかったか?」



長門はゆっくり顔を上げ、俺を一瞥すると首をわずかに横へ振った。
ふむ、今は昼食時だ…部室じゃなく食堂だったか?
俺は脳内でハルヒが分布していそうな場所を検索する。

だが、別の情報を開いてしまった様だ…
教室の情景が頭に浮かんでくる…

キョン「…あれ?ハルヒは教室で俺の弁当を食べてたジャマイカ」

教室を出た時…ハルヒはドコに居た?
そう、俺の後ろで弁当を貪ってた…
教室を出る時、俺はなんて言った…?
「ハルヒ、ちょっと行ってくる」…俺は馬鹿か?

俺が混迷と言うラビリンスに迷い込んでいると、後ろの扉から声が掛かったーー

「かかったな明智君!」

振り向いた先に、俺をハメた張本人がほくそ笑んでいた…忌々しい!

キョン「この悪ふざけに何の意味があるんだ?返答次第では俺のボルテージが満たされるぞ」
こなた「ふっふっふ…己が失敗を擦り付けるつもりかネ?」

…それが呼んだ奴の吐くセリフかネ?


要約すると、どれほどハルヒと声が似ているのか試したかったんだそうな…
俺に白羽の矢が立ったのは、ハルヒの一番身近に居るから…
はた迷惑極まってるなオイ。そしてどうでも良すぎるな。

般若の顔をした俺に対する、こなたの言い分はこうだ。

こなた「真後ろに居るハルにゃんに気付かなかったキョンキョンが悪いんだヨー」
キョン「それが…泉こなたの最後の言葉だった…」
こなた「ちょ、不吉なナレーションを入れないでヨ!」

不吉も何も、今からこの俺が実行するんだ…何もおかしくは無いだろ?
俺はこなたへにじり寄り、この無意味な行為の罰を与えようとした…が!その時!俺に!命の危機が!迫っていた!
そう…このチビっ子は保険を賭けていた…

俺がこなたの腰に手を回し、子供扱いされる事が嫌いなコイツには屈辱的であろう『高い高ーい』をしようとした時だ。
部室の扉の向こうに影が見えたーー



ハルヒ「キョン~?私を呼び出すなんてどういう了見…」

現れたのは教室に居た筈のハルヒだった…
今まさに持ち上げようと腕に力を入れていた俺の手は、重力の比例に伴い少し上へと移動し、こなたの脇の下……つまりは胸の少し横辺りを掴んでいる…

ハルヒ「……何、してんの?」

表情が大魔王に変貌していくハルヒに弁明を述べようとした俺を押しのけ、こなたが余計な発言をした…終わったね。悟りを開いたね。

こなた「うぇ~ん、キョンキョンが胸を揉もうとしたヨ~」

なんという棒読み。
なんという危機感の無さ。

だが、ハルヒのレイジを誘うには十分過ぎた訳で…
俺へのハルヒによる罵倒が始まった…!

ハルヒ「この変態!ロリキョンっ!よ、よりにもよって有希の目の前でこなたにセクハラなんて…!」

その長門は本から目を離してないんだがな…



散々罵倒を浴びせた後、ハルヒは俺に大外刈りからの四の字固めで私刑を執行したんだとさ。
めでたしめでたし…

ー現在ー

嫌な…事件だったね…
最悪な出来事を思い出した俺は、更に鬱な気分になった。

気がつくと、俺が深刻な顔で物思いに耽っていた為か、皆が俺を不審そうな目で見ている…
そんな目で見るんじゃねぇ!視線が痛い!
俺は悪くヌェー!

キョン「うん、それは置いといて…用件は何だ?」

ようやく本題に入ると、待ってましたと言わんばかりに、ハルヒが声高々に宣言したーー

ハルヒ「ここに居るみんなで映画を撮るわよ!」

あー…ここに居るみんなを紹介しておこうか。

ハルヒ、こなた、柊姉妹、みゆきさん、古泉、朝比奈さん、長門、鶴屋さん、そして俺だ。
おまけで谷口と国木田も合流する模様…
やれやれ、この暑い中ご苦労様で…

ハルヒ「さぁ!まずは全員分のジュースを買ってきなさい、キョン!」



時は流れ、あらかたのシーンを撮り終えた俺達…
いや、数シーンを撮っただけで、ハルヒが編集に取り掛かっただけなんだがな。
メーンシーンは明日からだそうだ。


案の定ハルヒ監修の元、他の皆が休んでる間に俺が編集をしている訳だが…何だコレ?
皆が短いセリフを言ってるだけじゃないか…
これで何を作るんだか。

だが、ハルヒの注文でテキストをシーン毎に載せていってると、その理由が分かった…分かりたくもなかったがな。

俺はハルヒに問うてみる事にした。

キョン「なぁ、ハルヒ?これは本当に撮るのか?とゆうより、本当に考えてあるのか?」

自信満々な顔で、ハルヒは俺の質問に答えた。

ハルヒ「今から考えるのよ!人数が多いから、みんなの意見も取り入れながらね!」

そうか…去年に比べたら成長したんだなハルヒ…計画性の無さは相変わらずだけど。



チャララチャララ!チャンチャry


こなた「キョンキョン…本気、なんだネ?」
 ー決断ー
長門「…貴方は私が守る」
 ー決意ー
かがみ「先に行きなさい!ここは私が食い止める!」
 ー友情ー
古泉「どうやら…ここまでの様ですね…残念です…」
 ー別れー
キョン「なんでだよ……なんでなんだよハルヒィィィィッ!!!!」
 ー嘆きー
つかさ「バル・サミコスゥゥーッ!!」
 ー希望ー
ハルヒ「ぶるるぁぁぁぁぁぁッ!!」
 ー終焉ー

ー今夏送り届ける最後のスペクタクルズー

映画『涼宮ハルヒの恋愛』

ー貴方は…最後まで見届ける義務があるー

みゆき「あれ?キャストに私の名前無くね?」
谷口「俺と同じでスタッフ欄にあるぞ?」

乞うご期待!!



キョン「色々ツッコミ所が満載なんだが、一言で言うぞ?どうなってやがる」

繋げたシーンを通して見た俺の感想だ。
何を目指しているのか分からない…
…まぁ、あっけらかんとハルヒが説明してくれたさ。

ハルヒ「客を呼ぶ為の予告よ予告!嘘でも何でも、これなら見に来そうでしょ?」
キョン「嘘かよ!とゆうか、何でお前が出てるんだ?今回は参加するのか?」
ハルヒ「んーん、出ないわよ?」
キョン「出ないのかよ!なら何であのシーンやタイトルに出てんだよ!とゆうより、お前はあのセリフで良かったのか!?」
ハルヒ「良いじゃない!タイトルは横に小さく(仮)って書いたでしょ!セリフは意気込みよ!超監督にケチ付ける気!?」

ああ、コイツは俺の意見を1つもまともに聞いてはくれないんだな。
それにしても、『涼宮ハルヒの恋愛』て…何を思ってそんなタイトルにしたんだか…


嘘とは言え、予告の内容と掠りもしないタイトルじゃねぇか!!



その後、予告?を仕上げた俺は、皆と一緒に再び見たさ。

こなた「いや~、かがみん、良いセリフを貰ったもんだネ!」
かがみ「ちょっと恥ずかしかったわよ…」
つかさ「へー、背景に効果を入れると、印象が違うねー」
鶴屋「あっははは!お腹が苦しいっさ…っ!」
長門「…ユニクロ」
谷口「俺のセリフ…ありゃなんだ?俺と高良は戦力外通告か?」
国木田「これは嘘予告だから、谷口だけが戦力外だよ」
みゆき「ですね~」
谷口「WA!?」
古泉「ふもっふふんもっふ!」

なかなか好評の様だ…冗談だと分かってるからこそだな。
監督も満足そうだし、今回はまともな物になりそうだ。

キョン「まぁ、何だ…結局は作者の見切り発車だったんだよ…オチが無いのは仕様さ」

ーENDー

みくる「見切り発車でも私の出番は無いんですね」

以下は、part39-41氏による、勝手に続きです。

ゆたか『え、えと、感動でスクリーンが見えませんでした』
古泉『本当に見に来てよかったです』
こなた『ハルヒ超監督最高ー!』

キョン「……おい」
ハルヒ「何よ?」
キョン「なんだこれは」
ハルヒ「何って、CM」
キョン「上映前に流す気か!寒いシナリオが余計寒くなるわ!つーかこれ全員出演者じゃねーか!!」



作品の感想はこちらにどうぞ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年09月13日 13:58
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。