創世記~第1章~

冷戦時代、予想されていた第三次世界大戦には至らなかった。キューバ危機も回避し
世界が核に包まれることなんて事はなかった。さらに1997年に恐怖の大王が降りてきて世界を滅ぼす
って事もなかった。ましてや2000年に何とかインパクトが起こるなんてこともなかった。
つまりなにがいいたいかと言うと、世界はそう簡単に終わらないと言うことだ。今でこそ戦争は起こっているが
少なくとも日本に住む俺たちは平和だ。これからもずっと世界は変わらない。はずだった

 5月の日射しというのはどこか人をだらけさせる。5月病なんて誰がつけた病気だ? 上手いこといいやがって
このクソキツイ坂道を上りながら歩く俺は決して本名で呼ばれることのない男だ。
何の変哲もない公立校の北高に通う、ごく一般的な高校生だ。ああ、俺は一般人のはずだ
そしてそれゆえに一般人らしいごく普通の感情を持っている。誰がこんな恥ずかしい名前を付けたか知らんが
恋愛感情というものだ。誰に? その答えは今まさに俺の目の前を歩いている。 

「それが臭くってさー」
 と一番左を歩くツインテールの柊かがみ
「お姉ちゃんまたその話?」
 一番右を歩く柊の妹、柊つかさ
「かがみはホントにそれが好きなんだね」
 真ん中を歩くちっこいアホ毛の泉こなた

その中の一人、柊かがみだ。なぜこの3人の名前を俺が知っていて、俺が柊かがみに恋愛感情を抱いているのかは
後々説明するとして、俺がこの3人の後ろを歩いているのは偶然だからな、決してつけてた訳じゃないんだぞ。
たまたま登校する時間が一緒なだけなんだ。しかし毎日こんなグッドポジションにいるのに
俺はいつまでたっても声をかけられないでいる。それは俺に恋愛経験といものが乏しすぎて
一体どう声をかけていいものか、何を話せばいいのか分からないからである。
そしてもう一つ俺の恋愛を妨げるものがある。それは・・・・・・

「遅いじゃないのキョン! 今日はミーティングがあるから、それには遅れずくるのよ」
 教室に入ると、一番に俺に話しかけてきた。言わずもがな、涼宮ハルヒである。
今日も朝から元気なこった。全く何のミーティングだ
「それは放課後のお楽しみよ」
「やれやれ」
 満面の笑みで答えるハルヒに、俺はこの言葉を使わずにはいられない。まあいつものことだ

こいつのせいで俺の日常は非日常に変わった。宇宙人、未来人。
超能力者が次々現れ、そいつらと共に世の中の不思議を探しまくってるわけだが、閉鎖空間にタイムスリップ
終わらない夏休みに雪山の遭難。十分といえるほど不思議な事が起こっている。にも関わらず
当の本人がそれに気づいていないんだからな。そして恐らくハルヒが望んだから、俺はあいつと出会って2年目の今も
あいつの前の席に座っているわけだ。まあ半分は俺が望んだんだがな、少しは俺にも自由な時間をくれ
2年で初めて同じクラスになった柊かがみと話す時間くらい。ここから少し話は遡る。

「なぁキョン。お前はこのクラスの女達をどう思う?」
 始業式から間もない4月の中旬。昼飯を頬張りながら1年からの俺の数少ない普通の友人、谷口が唐突に話しだした。
一体何だ藪から棒に、お前の頭には女のことしかないのか
「しょうがないよ。谷口は彼女にふられたばかりなんだから」
 こいつも俺の数少ない普通の友人、国木田だ
「国木田! それを言うんじゃねえ」
 国木田にキレ気味で谷口は怒鳴なった。なるほど、彼女に振られたから新しい彼女を見つけるか、ご苦労なことだな
「何とでもいえ。でもこのクラスは不作揃いだな、Aランクより上が一人しかいない」
「ほう、その一人とは?」
 別にそんなに興味はないんだが。一応聞いておいてやるか
「あいつだ。柊かがみ」

谷口が指差したのは、俺の斜め前の席で、一人で黙々と勉強をしているツインテールの女の子だった。
一見少しきつそうな顔をしているが、時折見せる髪をかきあげた時の顔は・・・・・・なるほどカワイイ。

「しかし俺としてはAマイナーといったところかな、妹の方がランクが高い」
「妹?」
 そう聞き返した時に一瞬うちの妹が頭をよぎった。
「ああ、柊には別のクラスに双子の妹がいるんだ。柊つかさ。Aプラスだな」
 双子の妹か、ハルヒは双子という特殊な人間に興味はないのだろうか? それよりなぜ妹の方がランクが高いんだ
「姉のかがみの方を見てみろ。あきらかに性格キツそうな顔してるだろ? ああいうのは間違いなく付き合ったら女天下になる
それに対して妹のつかさの方はおっとりと優しそうな顔をしてる。守りたくなるような、そう、女は男が守るものなんだ!」
 なるほどな、お前がどういう基準で女をみているのか非常によくわかったよ。勝手にそのまま妄想してろ
「谷口はちょっと古いよね。前の彼女だってそういうのがウザイって言われて・・・・・・」
 大人しそうな顔してこの国木田という男は言うときは言う男だ
「くぅにぃきぃだぁー!」

そんな谷口と国木田という1年の時から変わらない男メンバーで昼飯を食べているときに
俺は初めて柊かがみの存在を知った。まあそのときはそんな女がいるな、としか思っていなかったが。

 高校の2年生というのは非常にだるみやすい時期だ。2年目の学校生活になれ、特に目標もなく何となく
学校に来て、何となく授業を受ける。さらに4月の陽気ときたもんだ。俺も授業を聞いてるつもりが
俺の瞼は意に反し静かに閉じていく

「・・・・・・! 起きや!」
「む・・・・・・は、はい」
「何や、そんなにうちの授業はつまらんか?」
 しまった、俺としたことがいつの間にか寝てしまった。あの黒井ななこ先生の授業中に、恨むぜ春の陽気
「いえ、黒井先生の授業のつまらないなんてとんでもない」
 黒井先生というのはすぐに体罰やら、わけのわからん罰とかを出してくる。ここは一つ
こんなことでも言って機嫌をとるしかない
「ほうーそんなに好きなんか、じゃあこの問題も当然解けるやろな」
「な・・・・・・」

墓穴を掘るとはこのことだろうか。やっちまった。しかしなぜだ黒井先生
なぜ俺の後ろで堂々と寝ている女に何も言わないんだ。これもハルヒパワーってやつか?
いや、今はそんなことどうでもいい、問題だ。これに答えなければ俺は職員室まっしぐらコースだ
しかし当然寝ていた俺にはわかるはずもない。アケメネス朝ペルシャの全盛の頃の王の名前?
俺は日本人だ、日本語で頼む。といってもどうしようもない、ここは素直に諦めるか・・・・・・

(ダレイオス1世)
 え? 今どこからか声が
「なんや、答えられんのか?」
「いや、そのですね・・・・・・」
(ダレイオス1世)

間違いない、どこからか声がする。微かだが聞き取れる程度の声で。これは答えか? 信じていいのか?
駄目で元々だしな。ええい、ままよ!

「ダレイオス1世です」
「な! よ、ようわかっとるやないか。授業聞いとるなら聞いとるらしい姿勢とってくれや」
やはり正解か。黒井先生は悔しそうにぼやきながら授業に戻った。

ふう、どうやら難を乗り越えたようだ。助かったぜ声の主。でも誰だ? あんな微かな声が聞き取れたってことは
俺の席の近くの人のはずだ。俺のピンチに全く気がつかず爆睡してるハルヒではないし・・・・・・
キョロキョロ辺りを見ていると、ある人物と目が合った。俺の斜め前で、後ろを向いて微笑んでいる
柊かがみだった。

(あぶなかったね)

柊は口パクで俺にそう言うと、くるりと向きをかえ授業を聞く体勢に戻った。
なぜ柊が俺を助けてくれたかはわからん。しかし俺は助けてもらって礼のひとつも言わん非常識人ではない
授業が終わると真っ先に柊の席に向かった。

「柊。礼を言う、助けてくれてありがとう」
「え、あ、キョン君。いいの、大した事じゃないし」
 いきなり話しかけたからか柊は少し慌てている答え方だった。しかし柊、お前もその名で呼ぶのか
「え、だってみんながそう呼んでたから。ダメだった?」
「いや、別にダメじゃないんだが。誰も本名で呼ばないからな」
「みんなキョン君って呼んでるよね。誰がつけたの?」
 あれはそうだな、数年前に会った叔母につけられたのが最初で、それを妹が広めたと
「そうなんだ。」
「ああ、そうなんだ」
「・・・・・・」
 なんだこの間は、何か話さないと気まずいぞ。でも何を? 初対面の柊と俺は何を話せばいいんだ
「じゃ、じゃあありがとな柊。」
 それで出てきた言葉がこれだ。会話を終わらせちまったじゃねえか
「あ、うん。また何でもいってよ。こういうのには慣れてるから。あと・・・・・・」
「ん? 何だ?」
「ううん、やっぱりいい」
 柊は何かを言おうとしたが、俺の顔を見て言うのをやめた。俺の顔に何かついてるか?

それよりも何だこの感覚は。自分の席に戻る途中、俺は変な感覚に囚われていた。俺はそんなに神経質ではないと思う。
どっちかといえば、無神経と言われるタイプだ。しかし柊と話す時、次に何を言おうか慎重になって考えてる俺がいた
結果、うまく話せなくて沈黙。俺らしくない。なぜだ、何が俺をそうさせているんだ

「ちょっとキョン! 何を話してたのよ」
 席に戻ると眠りから覚めた猛獣が噛みついてきた
「別になんだっていいだろ。お前には関係ない」
「何よそれ! 団長に隠し事なんて許さないわよ」
 それじゃ俺はクラスメートと普通に話すこともできないじゃないか
「ふん、まぁいいわ。何かあったら死刑だからね」
「はいはい」

ああそうか、分かった。俺はこいつらといることに慣れすぎたんだ。毎日が俺にとっては非日常的な生活だ。
ハルヒは俺の事をそんな風に見ていないだろうし、朝比奈さんだって自分から拒否してきた
長門にいたっては、あいつにはそういう感情がない。いや、芽生えてきたのかもしれないが・・・・・・
何が言いたいのかというと、俺は今いたって日常的な生活でおこる感情。恋愛感情を持ったんだ。
それは非日常的生活の中で俺から離れていた感情。それを柊と話すなかで俺は取り戻したんだ。
だいぶ回りくどい言い方をしたが一言で言っちまえばこうだ。俺は柊に恋をした。

 そして話は舞い戻り、今に至る。といっても結局あれから柊とは特にこれといった会話もしていない。
さっきも言った通り、俺には恋愛経験が乏しい。それを相談できるやつだっていない。例えば谷口なんかに

「俺、柊かがみの事を好きになったみたいなんだ」

なーんて言ってみろ。すぐに爆笑と非難の嵐だ。国木田は論外だし、古泉に言ったってあいつは俺に賛成的じゃないだろう
あいつはハルヒを一番に考えてやがる。つまり俺がハルヒにこの事を言うのと同じような反応が返ってくるということだ。
想像したくもないな。ま、自分の手で何とかするしかないってこった。
やらないで後悔するよりやって後悔したほうがいいと、いつか俺を殺そうとした宇宙人が言ってたな。
とりあえず話しかける事から全ては始まる。いざ、柊の元へ! で柊はどこだ?

「キョン君、ちょっといいかな?」
「うお! 柊、何だ」
 これは驚いた。話しかけようとした相手を探していたら、後ろからその本人が話しかけてくるんだからな
「いや、そんな大した事ないんだけどね。あとかがみでいいよ」
「ああ分かった。で、何だかがみ」
「その、キョン君って涼宮さんと付き合ってるの?」
「はぁ?」
 思わずアホ顔で聞き返しちまった。一体何をいうんだ。どっからそんな話に? 俺とハルヒが? ありえん。
「そうなの? いつも一緒に行動してるから付き合ってるのかと思ってさ」
 なるほど、俺はハルヒと付き合うなどとは考えもしないんだが、他人から見れば俺たちはそう映っているのか
「残念ながらキョンはSOS団の平団員。それ以外の何者でもないわよかがみ」
 直感的に俺たちが話しているのを察知したのだろう。どこからともなく不気味な笑みを浮かべ、ハルヒが現れた。
「す、涼宮さん! いつから?」
「そうね、かがみでいいよ。からかしら」
「う・・・・・・そ、そのSOS団ってのは何?」
 かがみは少し顔を赧らめながら、なぜか少しハルヒに反抗するように聞き返した。
「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。略してSOS団。
目的は宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことよ」
 何度聞いてもこの発言を聞いただけじゃ、一体何をする団なのかわかりづらい。しかしそれはこいつにとっては
どうでもいいことなんだ。自分さえ分かっていればそれで十分なんだ
「そう、なるほどね」
 かがみは手を顎にあて、考えるポーズをすると、必死に理解しようとしているようだった。何がなるほどなんだ?
もしかしてこいつも天然タイプか
「他に何かききたいことは?」
「あ、もういいわ。ありがとキョン君、涼宮さん」
「ハルヒでいいわよ?」
「な・・・・・・」
 かがみは顔を真っ赤にして少し怒るように去っていった。ハルヒめ、やっぱりこいつが一番の障害のようだ

その日は一日中後ろから鋭い視線が突き刺さっているような感じだった。もちろんその後かがみと話せるわけもない
しかし今日の会話は俺としてはかなりの進歩だ。かがみと気軽く呼べるようになったし。と前向きに考えるしかない
どう考えてもこれからかがみと話す機会は少なくなるだろう。はぁ、ロマンスの神様も酷だぜ

授業も無事終わり、さぁて行くか部室へ。別に今日がミーティングだからというわけではない。もうこれが
俺にとっての日課なんだ、自然と足が部室へ向かう。そしてこのドアをノックすれば

「はぁい。どうぞ」
「どうも」
 ちゃんと着替え中でないか確認して中に入ると、そこにはお決まりのメイド姿の朝比奈みくるさんが立っていた。
「今、お茶いれますね」
 にっこりと微笑むと朝比奈さんはお茶を煎れてくれた。まさにこの街に降りた天使。この姿をみるためだけに
ここに来る価値はあるというものだ。かがみがこんな格好をしたらどうだろう
「何ヘラヘラしてんのよ!」
 妄想を膨らませていた俺の顔が気にくわなかったんだろう。先に部室に到着していたハルヒは俺に怒鳴ってきた。
「なんでもない」
 俺達のこのやりとりをおどおどしながら見ている朝比奈さん、そして奥には何事にも反応しない宇宙人
長門有希の姿があった。そしてあと一人の・・・・・・
「古泉はまだきてないのか」
「そうよ、だからミーティング始められないじゃない」
 あいつが来ていないとは珍しい。あいつはハルヒが一番のはずなのに。
なんて事を考えていると部室のドアが勢いよく空いた
「ヤフー! ハルにゃんにながもんにみくるさんにキョンキョン、あれ? いつきーはいないみたいだね」
 俺の予想に反し入ってきたのは泉こなただった。そいうえばこいつの話を忘れていたな

こなたはあのコンピ研とのコンピューターゲーム勝負の後ぐらいに、このSOS団に現れるようになった
理由は、こなたは元々ちょくちょくコンピ研に顔を出してたみたいで、あの勝負の後にコンピ研に
たまに行くようになった長門と知り合い、意気投合してSOS団に遊びにくるようになったという訳だ。
長門と意気投合とは理解しがたいが、まぁそれは置いておこう。そしてこいつはもう鶴屋さん、谷口、国木田、
コンピ研と並ぶくらいのSOS団準団員だ。

「ちょっとこなた、今日はちょっとミーティングがあるから・・・・・・って何であんたがいるの?」
 ハルヒはこなたを嫌がってるわけではない。いや鶴屋さんにしてもなぜハルヒは正式な団員として
受け入れないのだろうか? というかあんたって誰だ?
もう一度ドアの方に目をやると、そこにはここに来るはずのない人物が立っていた。柊かがみだ。

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最終更新:2007年09月08日 14:37
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