夏――七月始めのうだるような暑さの中、私とキョン先輩はクーラーのよくきいたコンビニの中にいた。といってもSOS団絡みではなくプライベートで、だ。
キョン『おっ、みなみ』
みなみ『こんにちは、先輩』
愛犬の散歩の途中、暑さに参ってしまいこのコンビニに退避してきた時キョン先輩に会った
キョン『コンビニの前にデカイ犬がいたんだが…あれはみなみの家の犬か?』
この人はいやに鋭いところがある――裏を反せばそれで気遣いが出来るのだろうと思う。そして、今に至る
みなみ「はい…ちょっと暑さに参ったらしくて…それで水を買いに散歩の途中寄ったんです。……先輩は?」
キョン「アイスを買いにちょっとな……あっ、そうだ」
手にしたアイスをレジに持って行こうとした時、キョン先輩が思い出したように振り返った
キョン「そろそろハルヒのやつが合宿を始めるとか言い出すからな、ある程度の覚悟をした方が良いぞ」
それは……どういった意味ですか?
キョン「いやいや、毎年この時期になると合宿をするんだが何も起こらないで合宿が終わるって事が無いんだよ。それでちょっとな」
その時は先輩に守ってもらいます………言いたかったけど、止めた。出会って三ヶ月の人に何て言おうとしてるんだろう。……馴れ馴れしい自分に腹が立つ
みなみ「…わかりました。気をつけておきます」
キョン「ん、じゃあな。そろそろ雨降りそうだからホレ」
そういうと先輩はバッグから折りたたみ傘を取り出し
キョン「これでも使ってくれ。俺が帰りつくまでには降らないと思うし、もう少しここにいるんだろ?」
全くこの人は――
みなみ「ありがたく使わせていただきます」
そしてその傘は今でも手元にある。返してくれとも言われていないし、何より返す必要は無いだろうと判断したから。――あの後先輩は私に別れの挨拶をし、コンビニを出ていった
一人コンビニに取り残された私は『この夏彼を悩殺させるクールビューティ水着☆ほかの子と差をつけちゃお!』といった雑誌を手に取った。――いやいや///、あくまで参考…参考…
店員「ありがとうございました~」
暑い……もう少し涼んでおけば良かった……
みなみ「ごめん、暑かった?」
日陰で舌を出して暑さに参っていた愛犬に水をかけ、そしてゆっくりと飲ませた。水をかけられて少しは楽になったようだ
みなみ「そろそろ行こっか」
そう言うと待ってましたと言わんばかりにサッと起き上がった。――そして先輩の忠告通り――雨がぽつぽつと降り出してきた、折りたたみ傘を使う時が早くも訪れた――
――岩崎宅――
先輩の傘のおかげであまり濡れる事なく家に帰りつく事ができた。ウチの犬はというと、リードを外した瞬間脱兎の如く小屋に走っていった……小屋のリードに付けないといけないのに。
――小さくため息をついて首輪を小屋のリードに付けておく――これでよし。そろそろ部屋に戻ろう……
ガチャッ
みなみ「ただいま」
誰もいないみたい……みるとキッチンのテーブルに書き置きがあった。『ちょっと買い物に行ってきます』そうか……今一人ぼっちだ。少し寂しい気持になりながらも、部屋に戻った。コンビニで買った物を持って
――みなみの部屋――
ついコンビニで買ってしまった雑誌、参考程度に立ち読みで済ませようと思ってたのに……
ベッドに投げ出した雑誌をみる。今まで水着なんて着るかも分からないし、縁が無いと思ってた
――けど、今年は何か着なきゃいけないと思った。無論キョン先輩に言われた合宿の事もあるし、何より……キョン先輩を意識している……から
みなみ「……」
雑誌のページを捲ってみる、色鮮やかな水着を着たスタイルのいい女の人がポーズをとっている。
私もこれぐらい……胸があれば。無駄だと知りつつも自分の胸を触ってみる――これじゃあ似合わないよ……
みなみ「フゥ…」
ため息をついて、私の意識はまどろんだ。――少し眠ろう……
――???――
夢を見ている――青い空、駆けていく雲、愛しい想い人、だけど……場面が変わって雷鳴、悲鳴、悲しくて切ないそんな夢を見ている。あそこで泣いているのは私?倒れてるのは誰?こんな場面に……何で?もう……こんなの……
――みなみの部屋――
夢から覚めた後、無性に喉が渇いた。時計を見てみる――一時間も経っていないようだった
みなみ(嫌な夢だった…)
汗もかいていた、何か飲んでシャワーでも浴びよう……着替えを持って、カチャッとドアを開けて廊下を歩き――階段を下る、ゆっくりと、夢の続きのように
みなみ(牛乳あったかな…?)
そう考え冷蔵庫を開ける、……やっぱり無かった、この前のが最後だったんだ
みなみ(まぁ…いいか)
牛乳を飲み始めたキッカケは、飲むと身体が成長すると聞いたからだ。それ以来毎日牛乳を飲んでいる――おかげで背だけは伸びた。
………胸は小さいままだけど
みなみ(シャワー浴びなきゃ……汗がべたついて……)
そして重い足取りで風呂場へと行く。着替えを置いて、服を脱ぐ。いつみても貧相なこの胸が恨めしい。揉めば大きくなるとか言うがそんな事は無い、せいぜい胸に痛みが残る程度だ。バカバカしい情報だ……
キュッ…キュッ…シャァァァ…
温かい……シャワーから出てくるお湯は、身体を伝って下まで落ちる。それより――さっきの夢の事を考える、最初のまま終われば良かったのに……最後のアレは何だったんだろう。泣いている私、暗い場面、悲鳴……全てが嫌だった
みなみ(最後に倒れていた人は……キョン先輩かな?)
身体を洗いながら考える――もし、そうだったら……自分で考えて嫌になる。もしそうだったら自分に何か出来るだろう、あの場面で、何が
みなみ(もう…こんな考えやめよう)
身体を一通り洗い流し、シャワーを止める。汗も流れて……それでも良い気分とは、言えなかった――身体を拭いて、下着を着ける。胸は……Bしかない……これも考えるのをやめよう。考えてどうなるというものでもないから
みなみ(……お母さん帰って来たかな)
風呂場から出て、キッチンへと向かった。どうやら帰って来ているらしい。今日の晩御飯が楽しみだ
――それから時を早回しして、月曜日――
三ヶ月も経つと学校にもなれ、友達も出来た。SOS団のメンバーの他に、田村さん、日下部さん、峰岸さん。日下部さんと峰岸さんは先輩だが、同年代と同じように扱ってくれる。日下部さんは元気の象徴とも言える人で――いつも明るい
峰岸さんはそんな日下部さんを抑える役、保護者みたいな人だ。田村さんは――いつも漫画を書いていて、三年の泉先輩と仲がいい
ゆたか「おはよーみなみちゃん!」
ぼーっと一人で歩いていたらゆたかに会った。三ヶ月前には名字で呼んでいたのに今では下の名前で呼んでくれる
みなみ「おはよう、ゆたか」
それから私達は学校までの長い長い坂を喋りながら歩いた――凄く長い坂だけど、私達にとっては短く感じた
――教室――
ゆたか「……でね、凄く大きくって」
みなみ「ゆたかもそういうのが良い?」
ゆたか「うん!」
教室に着いてからも私達は延々と話していた。他愛もない話だけど――話題は尽きない
ひより「おはようお二人さん!」
ゆたか「おはよー」
みなみ「おはよう」
朝から元気な田村さんが会話に加わり、また話が弾んだ。最近では昼ごはんも一緒に食べる仲だ。楽しい時間もすぐに過ぎてしまうもので、チャイムが鳴った
岡部「おーいHR始めるぞ、席つけー」
――それから時を早回しして放課後、SOS団部室――
かがみ「そろそろ合宿の季節ね…」
ギターを手入れしながらかがみ先輩が呟いた。この部室には私とゆたかが入部した時から椅子が二つ増えた
キョン「あぁ……今年はどうなるんだろうな」
同じくキョン先輩もギターの弦を張り替えて呟いた
ゆたか「去年は合宿何をしたんですか?」
つかさ「去年はねぇ、みんなで文化祭のライブの為に練習したんだよ」合宿――どんな感じだったんですか?
みゆき「六泊七日の長い合宿でしたが、とても短く感じました。みんなでスタジオで練習したり近くの海に行って遊んだり、夏休みの課題をしたり……実に様々な事をしました」
そうですか……それにしてもよく六泊も出来ましたね
キョン「それに関してはスポンサーがいたからな。旅費やら何やらは全てスポンサー負担だ」
弦の張り替えを終えたキョン先輩がみゆきさんの代わりに答えた。そういえばキョン先輩ってギターやり初めて長いんですか?
キョン「いや…去年の五月からだから一年だな。我ながら無謀な事をしたもんだ」
かがみ「あの時は一日十時間練習って感じだったからね」
キョン「死にもの狂いだったな」
一年足らずであれだけのライブができるなんて普通じゃない……この人達は本当に必死で練習したんだ……
かがみ「今年もライブしたいわねぇ…」
キョン「もう無理かもな、朝比奈さんは卒業したしスポンサーはいなくなったしな」朝比奈さんとは…?
キョン「去年ハルヒ達のバンドでドラムを担当してくれた人だ。もう居ないからな」
ハルヒ「ふっふっふ……だったらみなみちゃんやってみない?」
!?いつの間にいたんですか?!こなた「スポンサーが完全にいなくなったわけじゃないよ!去年のライブ見てスポンサーのオファーが何件かきたからね」泉先輩まで……
キョン「文化祭には間に合わんだろ…」
ハルヒ「それなら文化祭にはキョンのバンドが出なさい!その間みなみちゃんを鍛えとくわ!」もしかして合宿はバンドの練習…?
ハルヒ「いや、今年は遊ぶだけよ。去年と同じような事しても飽きるだけだろうし」
かがみ「じゃあ合宿っていうより旅行ね。今年は何泊何日にするの?」
凉宮先輩はふむ…と考え始めた。見るとゆたかは目を輝かせていた、旅行を楽しみにしてるのだろうか?だとしたら似たもの同士だ
ハルヒ「じゃあ三泊四日にしましょう。今年は旅行だけじゃなくて色んな事したいしね」
三泊四日か……けっこう長いと思うんだけどな
つかさ「今年も水着必須?」
その時部室の空気が張りつめた……ような気がする
ハルヒ「もちろんよ!海に行くのに水着が無くてどうすんの?」
見るとかがみ先輩とキョン先輩が暗い顔をしている
キョン「また今年も水着か…」
かがみ「去年は色んな事あったからね」
色んな事……?一体何が
ハルヒ「あと一回だけじゃないわよ、まずは海で三泊四日、そして山で二泊三日よ!海と山!これこそ王道でしょ」
海と山、山か……あの夢みたいにならなきゃ良いんだけど……心配でキョン先輩を見つめる。絶対に……そんな事にならないで、そんな願いも込めて
キョン「ん?大丈夫だぞみなみ、もしなんかあったら全力で何とかしてやる」
違います……あなたに何かあるかもしれないんです。こういう所は鈍感なんですか?
ハルヒ「じゃあ今年は七月二十六日から海ね。山は八月三日から!どちらも場所は駅前に七時集合、持ち物は各自判断して持ってくる事!以上」えっ、もしかして今日の部活はこれで終了ですか?
キョン「どうやらそうらしい。お疲れさん、また明日な」
そういうとキョン先輩はそそくさと帰る準備を始め、出ていった。キョン先輩が帰った後凉宮先輩が怪しい顔をし始めた。泉先輩も、だ
こなた「ではでは…今週の日曜日は女子だけで水着を買うって事で」
ハルヒ「よく分かってるじゃないこなた!」なんという強引な……
かがみ「ハルヒはともかく幼児体型のアンタが何言ってんのよこなた」
グサッと鋭い言葉が小さい胸に刺さる……ゆたかも気にしているらしく、顔が笑顔のまま固まっている
こなた「うっ…かがみん自分がちっとは持ってるからって生意気だぞ~」
みゆき「まあまあ落ち着いてください……」
この時ばかりは部室に緊迫した空気が走りました……小さい争いをしていたところにレベルが全く違う人が入ってきたんですから
こなた「何を~!自分が一番デカイからって上から目線になりおって!つかさ、何か言ってやれ!」
つかさ「ええと、……牛!」
それは酷すぎますつかささん!
みゆき「ふえ…ヒドイです!」
こんなゴタゴタが部活終了まで続いた……無論みゆきさんを慰める為。こんなどたばたが続けば……続きますように。
最終更新:2007年09月08日 11:39