柊かがみです。
いきなりだけど『トランプ』というカードゲームをご存知かしら?
いろいろな遊びが増えてきたわ。ポーカーにジジ抜き、ババ抜き。他にもなんたらかんたら。
なんでこんな変な話から始まるのかと言うと、ある話から始まりました。
「あ~退屈退屈~。暇で死にそう」
「オセロやるか? ハルヒ」
「嫌」
高校2年のある平日の放課後。私はSOS団に無理矢理入れられ、健気にもここへ来ている。なんで連れてこられたかは聞かないで。
そして今の会話はSOS団団長のハルヒと団員? のキョン君。
あまりの暇さにハルヒが愚痴を零していたみたい。
でもハルヒの言う事も一理あるのよね。確かに暇だし、オセロやチェスばかりじゃねぇ。
「あ~も~っ。かがみ、なんかいいアイデアないの?」
わ、私に振るな! って言ったけどそんなの関係ないわよ。と言い、通じなかった。ええと何かないかな。
「ねえ。なんならトランプで遊ばない?」
この一言で私は後に後悔することになる。どうせならこの頃に時間を戻して言い直したいくらいに。
それだっ! そう言わんばかりにハルヒは突然立ち上がった。
「それよっ。なんでこんな簡単な事に気づかなかったのかしら。いいわよ。ナイスアイデア! かがみ」
「トランプですかぁ~面白そうですね~」
この話に乗ってきたのが一つ学年が上の朝比奈先輩。その…女の私が言うのもなんだけど、可愛い顔をしてて、その上胸が大きい。なんか凄く羨ましい。
でも過去、ハルヒに散々な目にあわされたって聞いたけど。
「でもトランプって誰が持ってるんですか~?」
「あ、そういえばそうね。キョン。ちょっとそこまで買ってきなさいよ」
「断る」
「なんでよ。団長の言う事が聞けないの?」
あ~あ、また始まった。しょうがない、私が買いに……「偶然ですが僕、トランプ持ってますんでこれでやりませんか?」
「でかした古泉君。じゃこれで遊びましょ」
買いに行こうと思ったけどどうやら持ってたみたい。
この準備がいい彼は古泉君。1年前にここへ転校したって聞いたわ。古泉君の特徴と言えば、その常時笑顔なとこかな。
てか持ってたんならはやく言わんかい。そんな風に私は目で古泉君を訴えたが、古泉君はニコッと笑顔を見せた。
と、言うわけで今回SOS団のメンバーや学校の生徒達でトランプを使って遊ぶ事になった。
でも何やるの? 勢いでトランプやろうって言ったけどやることが……まあいっぱいあるし何やってもいっか。
「で、何やるんだ?」
キョン君もそう思ってたみたい。私的には七並べかダウトやりたいな。
「ふふ……そう思ってちゃんと用意しておきました。今回はこれを使って、『大富豪』をやりたいと思います」
「だ、大富豪だと!?」
「大富豪ですかぁ!?」
そんな驚くとこか…? まあいいか。大富豪も結構楽しいしね。でもこのゲームって地方によっていろんなルールがあるんじゃ。
「そうですね柊さん。地方ルールが存在し、各々によって変わります。因みに僕のところはダイアの3からスタートで8切り、ジョーカー上がり禁止。階段・革命可でしたね」
「私のとこはダイアの3からだったわね……8切りジョーカー上がりは禁止じゃなかったわ。あと縛りもありね」
「俺のとこはスペードの3からだったぞ。んであとはかがみとほとんど同じで、なんだったっけ……イレブンバックもあったな。あとクーデターも」
「え~と私のところはディーラーから始まって、あとはみんなと同じです。それから……単独のジョーカーに強いスペ3返しというのもありました」
凄い……私の知らないルールがこんなに沢山あったのね~。これ全部混ぜたら恐ろしいことになるわよね。
「ではこれらのルール全てを使うのも大変ですのでいくつか絞りません……」
「ちょっと! 団長の私をほってかないでよ」
突然吼えたハルヒ。じゃああんたのルール言ってみなさいよ。と言ってみたが、
「……知らない」
「何?」
「私、大富豪なんてやった事ないの」
「そうなんですか?」
「だから、みんな何話してるのか全然わかんない」
これも意外だったわ。大富豪知らない人がいたとは。でも知らないんじゃしょうがないわね。
「ハルヒ。大富豪結構面白いわよ」
「でもルールが」
「それなら私らが教えてあげるわよ。それでいいでしょ?」
「……わかったわよ」
結構すんなりと事が運んでよかった。チラッと古泉君をみるとGJ!と言わんばかりの笑みを見せた。
「随分素直だなハルヒ。ようやく少しは女らしくなったんだな」
「うっさい。あほキョン」
「では涼宮さん。申し訳ございませんが最初のほうは我々のやるところを見ていただけませんか? 知っておかない事がございますので」
「ハァ。いいわ。しっかり見てルール覚えるわ」
「では……っと、4人では中途半端ですね。あと1人」
「長門は?」
ショートヘアの物静かそうな小柄な少女は長門有希。この部屋の隅っこでいつも本を読んでいる。
その長門さんを指名したキョン君。彼女は静かに私達の所へやってきた。
「長門……お前大富豪知ってるか?」
「知っている」
「なら話は早いな。ルールとかもわかるよな?」
「うん……」
「よし。で、古泉。ルールはどうするんだ?」
「そうですね……今回はあくまで涼宮さんが大富豪のルールを理解するというのが目的ですので、僕が適当に選ばせていただきました」
「ルールは何するんですかぁ?」
「えーとですね……」
古泉君が言うには、ダイアの3からスタート。8切り、ジョーカー上がり禁止。単独のジョーカーはスペードの3に弱い。
そして革命・階段・縛りはあり。
「これでいいですか?」
「俺はいいと思うぞ」
「私も賛成です」
「私もそれでいいわ」
「異議なし」
「私……影薄くなりそう」
「申し訳ございません。すぐに済みますので」
「いいわ。私も参戦したらキョンを真っ先にぼこぼこにしてやるわ」
「どーだか」
古泉君が54枚のトランプをきる。そして私達に配り、全員にカードが配られた。
私の手札は、
スペードの3、ダイアの3、ハートの4、クローバーの6、スペードの7、ダイアの10、ハートの10、ハートのJ、クローバーのA、スペードの2
うん。まあまあね。
「さて、ダイアの3はどなたですか?」
「私よ」
私からスタート。そして順番は私、古泉君、キョン君、朝比奈先輩、長門さんで。
このスペードの3は使えるかもしれないわね。残しておこう。
「今柊さんがダイアの3を出しました。このターンの親は彼女です。次の人は席順で時計回りで…ですから僕の番です。そして出すカードは今出てるカードよりも大きな数字です。ので、僕はこれを出します」
古泉君はハルヒに説明しながらハートの6を出した。
「次は俺だな……ん? パスさせてもらう」
「早くない? キョン君」
「…ないものはしょうがない」
「今のはいいわけ? 古泉君」
「もちろんです。自分の手持ちのカードに出すものがない場合にパスする権利を得られます。因みにこのパスを使った戦略もございますが、それはやっていくうちにわかってくるでしょう」
「……」
「なるほどねぇ」
「次は私ですね……はい」
朝比奈先輩からスペードの10が出された。次は長門さんの番ね。
「……」
静かに何も言わずにダイアのJを出した。
「さて、1周しました。今出ているカードはそのまま引き継がれ、次の人は最初に出した柊さんに戻ります」
「じゃあこれにしよ」
そういい私はクローバーのAを出した。
「うーん。パスです」
「私も」
「パスする」
「どうなるのよ。次は」
「柊さんの出したカードに誰も出す事が出来ません。そして柊さんの番に回ってきました。ですのでこのターンは終了し、先程まで出したカードは流します。そして親は柊さんになり、手札から好きなカードを出せるようになります」
「う~ん」
「次のゲームは涼宮さんにもやって頂きますので、実践で覚えたほうがいいでしょう」
「早くやりたいわ~。キョンあんたさっさと負けなさい」
「俺はそう簡単には負けんぞ」
さて、私が親だ。何出そうかな~。これにしようっと。
「クローバーの6ですか。では……」
「ダイアの7。そろそろいくか」
キョン君は怪しげな呟きを言いつつ、クローバーの8を出した。
「さて、クローバーの8がでました。これは『8切り』と言うもので他の方がこれより強いカードを所持していても強制的に流せます。そして親は彼になります。最低限これだけは理解してないと勝ちに繋ぐのは難しいでしょう」
「へぇ~8切りねぇ」
「では行くぞ」
キョン君が出したのはスペードとクローバーのQ。た、高いわね。しかもダブルとは。
「この場合はQより大きな数で且つ2枚同時に出さなければいけません。因みに3枚、『トリプル』で出すケースもございますがこれも同じく3枚で返さなくてはいけません」
「なんか、なかなかルール多いわね」
「奥が深いでしょう。さあ、次は朝比奈さんです」
「え、え~と、パスです」
「パスする」
「私も無理」
「同じく」
誰も出せずに流れたので親は再びキョン君に。
「悪く思うなよ」
は!? ハートとダイアの2!? ジョーカー2枚ない限り出せるわけないじゃない。もちろん誰も出せないからこのターンも流れる。
「もしや」
「気づいたか、古泉。俺はここで『革命』をする!」
「嘘っ! 5を4枚で、か、革命!?」
「そ、そんなぁ~」
「……」
「え? なになに、何が起きたの?」
「今のは『革命』でして、同じ数字、若しくは同じ絵柄が4枚揃うとでき、カードの強さが逆になるルールです。先程まで2が最強でしたが今では最弱です。かわって3が最強になりました」
「そ、そうなの。キョンにしてはなかなかやるじゃない」
「さて、ここは安全に」
キョン君はハートのAを出した。ってもうキョン君あと1枚じゃない。これは不味いわね。
「じゃあ私は、これを」
朝比奈さんはハートのQを出す。このままの流れでは。
「……パス」
ここはしょうがないわね。キョン君が3を持ってる可能性はあるかもしれないけど、大富豪だけは阻止しなきゃ。ハートの4を出すわ。
「おや、飛びますね。パスします」
「……パスだ」
「う~ん。パスします」
おっ。キョン君パスなんだ。と言う事は3を持ってないということね。親は私。キョン君は1枚しか持ってないから。
「ダイアとハートの10を出すわ」
「まあ、彼を上がらせないためにはダブルは当然ですよね。ん~パスです」
「見てのとおり、パスだ」
「じゃあ~これを」
朝比奈先輩はダイアとクローバーの4を出した。あ、朝比奈先輩も強いわね。
「パス」
「私もパス」
私も長門さんも出せないので、このターンは流れ、親は朝比奈先輩に。
「じゃあ~これを出します」
出たカードはクローバーのJ。一瞬キョン君の顔に笑みが見えたのを私は逃さなかった。
「……」
次の長門さんは…8切り。このターンは流れ、親は長門さん。
「残念……」
長門さんがそう呟いた瞬間。
「なっっっ!? 革命だとっ!?」
「なるほど、そうきましたか」
「あ、あれ~」
こ、ここでKを3枚とジョーカーで革命ですか長門さん。2残しといてよかった。キョン君のあの様子から見ると革命されるのは厳しかったみたいね。
「ねえ。何が起きたの? しかもKは4枚揃わないと革命出来ないんじゃ」
「今起きたのは革命です。ですが先程のまた逆になる。つまり平常に戻ったと言うわけなのです。それから今革命出来たのはジョーカーのおかげです。ジョーカーは3から2までありとあらゆるカードに変化できる能力があります今回のはKに化けたと言う事です」
「んが~。ルール多すぎるわよっ! よくあんたら覚えてられるわよね」
「まあ慣れですからね」
再び革命が起き、親は長門さん。スペードとダイアの6を出した。
「ダブルかぁ~パスね」
「では行きます。8のダブルで流します」
ハートとスペードの8が出され、流れる。親は古泉君。
「ではこれを」
出たのはクローバーの10。そして悔しがりながらパスを言うキョン君。次は朝比奈先輩。
「えと、これを出します」
スペードのAか。一応いけるけど様子を見ましょ。
「パス」
「私も」
「行かせませんよ。はい。ジョーカー」
あっ、ジョーカー来たわー。ならこれを。
「おや、柊さんがスペードの3を持っていましたか」
「まあね」
「ジョーカーは3に弱いわけ?」
「違うわよ。ジョーカーに強いのはスペードの3だけ。しかもジョーカーが単独で出された場合だけよ」
「ふぅ~ん」
さて、親は私。おっもしかして私上がれるかしら?とりあえずスペードの7を出そう。
「では僕は」
古泉君からスペードのJが出された。
「パスだ」
「わ、私も」
「……」
長門さんからクローバーの2が出た。もうジョーカーはないし最強のカードね。だからこのターンは流れる。長門さんはあと2枚か…。なんて考えた束の間。
「上がり……」
なんとっ!?長門さん上がっちゃった。しかもクローバーとハート7のダブルで。
「おや、流石長門さんですね」
「くそっ」
このゲームの大富豪は長門さんに。あーあ、折角大富豪になれると思ったのに。
長門さんが上がったので7のダブルは流れる事に。そして私はスペードの2を出し、ジョーカーはもうないので流れ、最後のハートのJを出し、上がった。
うーん。富豪か。悪くはなかったんだけどね。あれこれ躊躇うんじゃなかったかなぁ。
「かがみ……意外と強い手札だったんだな」
「困りましたね……とはいっても平民は僕確定ですから」
「言うじゃないか。なら俺と朝比奈さんを倒して平民になってみろよ」
「……では」
まあ順番的に次は古泉君だしね。でも古泉君の言った事は強がりでも何でもなかった。
「はい。ダイアのQ、K、Aの階段です」
「なんですとっ!」
「ひゃあ!」
へぇ~階段か。凄い物持ってたのね古泉君。
「今の何? かがみ」
「ああ。階段って言ってね。同じスート、このマークのことね。これが3枚以上続いてたら出せるルールなの」
「つまり、4枚でも5枚でも出していいわけ?ジョーカーも使ってもいいの?」
「もちろんいいわよ。でも簡単に言うけどそう簡単にいくもんじゃないわよ。運だってあるんだし」
「クローバーの3を出して上がりです」
「くそおおお。大富豪になれると思ったのに」
結局流れ的にキョン君が上がって貧民。残った朝比奈先輩が大貧民となった。
「あ~あ負けちゃったぁ」
「はは、すみませんね朝比奈さん。俺の所為で」
「ううん。気にしないで……」
「さぁー! 次は私もやるわよ。覚悟しなさい!」
突然叫びだしたハルヒ。いつもの事だけど。って、6人で大富豪やるの? まあ出来ない事もないけど。
「これは楽しみになってきましたね」
ハルヒが参加した大富豪は面白い事になった。だって10が出てるのになぜか9を出したりするのよ。皆で大爆笑だったわ。
それから他にも階段の時に1つだけ違うスート出しちゃうし。あれ、わざとなのって問いかけたわね。
そういうわけで今日の活動が終わりを告げ、なんとか無事に過ごせた。
ただ、最後のハルヒの言葉がなければ……。
「ねえ。もっと人を集めてみんなでやらない? 題して『大富豪大会』ってのはどう?」
うーん。皆さん流石に唖然としてらっしゃる。キョン君なんて「何考えてんだこいつ」と言わんばかりの顔してたし。
というかあんた結構ミスしてたのにいきなり大会とかやっちゃうわけ。
「精々2週間後くらいにしましょう。ていうかやるわよっ!」
もう止められませんね。はい。そんなわけで2週間後、ハルヒ案『大富豪大会』が開かれる事になったとさ。
「やれやれ」
「ははっ。涼宮さんらしいですね」
「私、ひょっとして何かやらされるんでしょうか……」
「……」
まあやるのはいいけどハルヒ。それまでにルールくらいは覚えておいてね。