柊かがみの冒険

part13-371さんの作品です。


出会い方が悪かったと思いたい

 

私もあのコも、そういう性格だから

言い出したら後に退けないし、半歩だって譲れない

 

類は友を呼ぶ

同属嫌悪

 

同じ穴のムジナってのもあるわね

 

どれか一番合ってるのかしら?

 

 

ねえ、

 

あなたはどう思う?

 

 

 

こんにちは、柊かがみです

 

あの夏休み、実は私もちょっとだけ、冒険してました

 

ぎょぴが死ぬんじゃないか

この頃何度となく、そんな不安に駆られる

 

もちろんあの祭りの日からウチの家に来た巨大な金魚は、まったく元気だ

弱る気配なんて、これっぽっちもない

 

なのになんでだろう

 

ものすごく不安で、怖い

 

朝、夏休みの宿題を片付けるときも

昼、起き抜けにつかさが作ってくれたご飯を食べたときも

夜、こなたと何てことないばか話をしているときも

 

ものすごく不安で、怖い

 

 

 

そいつとは、会ったときからソリが合わなかった

たぶん、向こうもそう思ってる

 

だけど、ぎょぴのことだと、なぜだかお互い素直になれた

 

だからあいつにだけは、ハルヒにだけは打ち明けたんだと思う

 

土曜日はぎょぴの観覧日

いつの間にかそう決まっていた

 

もちろんやることなんて何もない

ただ二人で、ぎょぴを眺めるだけ

 

かがみ「ねえ」

ハルヒ「なに」

かがみ「ぎょぴ、元気だよね?」

ハルヒ「死ぬようには見えないわ」

 

いつもこいつはつっけんどん

 

ハルヒ「なにあんた。ぎょぴに死んで欲しいわけ?」

かがみ「そんなこと一言もいってないじゃん」

ハルヒ「飼い主に生を望まれないなんて、なんて可哀そうな金魚なのかしら」

かがみ「だから言ってないって」

 

でもって、何かとつっかかってくる

なにがしたいのよ、あんた

 

かがみ「ねえ、来週も来る?」

ハルヒ「頼まれなくったってね」

 

ハルヒが餌を投げた

ぎょぴは元気にはねる

 

コンビニでキョンくんと会った

Tシャツに短パンで来たことを、ちょっと後悔

 

別になんかあるわけじゃないけど・・・

何となくよ何となく

 

かがみ「キョンくん、ひさしぶり」

キョン「おお、ああ、かがみか」

 

なんか疲れてるね、キョンくん

 

キョン「SOS団の活動でな。遊び疲れた」

かがみ「ふーん・・・満喫してるみたいね」

キョン「良くも悪くもな」

 

なにそれ?

てかこの人、宿題やってるのかしら・・・

 

キョン「なあかがみ」

かがみ「なに?」

キョン「お前、虫の知らせとか信じるか?」

 

 

かがみ「神様の預言なら信じるかな」

キョン「巫女だけに、か?」

 

キョンくんは笑ってコンビニを出た

私も笑ったけど、全然笑えなかった

 

キョンくんが変なこと言うからだと思う

翌日から、ぎょぴの餌は1・5倍に増えた

 

それでも、

あげてもあげても、足りない気がする

 

つかさ「お姉ちゃん、それあげすぎなんじゃあ・・・」

 

ふと気がつくと、スプーン3杯分も池に放り込んでいた

 

かがみ「あ、ごめんごめん」

つかさ「さすがのぎょぴちゃんも、きっと食べきれないよ」

 

つかさの言うとおりだと思う

これじゃあ逆効果だと思う

 

だめだめ、

気をしっかり持て、かがみ!

 

かがみ「金魚のダイエット法とかないもんかなあ」

つかさ「ゆきちゃんなら知ってそうだよね」

 

そうだ、みゆきに今度聞いてみよう

 

ダイエット法も、

長生きさせるコツも

 

近くの公園でハルヒと会った

格好から見ると、虫とりをしていたらしい

 

小学生か、あんたは

 

ウチの池では多少なりともしおらしいこの元気塊女は、それ以外の場所ではやたら攻撃的になる

 

ハルヒ「なんであんたがここにいるのよ」

かがみ「ちょっと散歩よ。悪い?」

 

私ももちろん、後に退いたりしない。半歩だって、譲らない

 

ハルヒ「悪いわね。ここはSOS団の陣地なのよ」

かがみ「単なる市営の公園でしょうが・・・」

ハルヒ「今この瞬間からそうなったの!」

かがみ「どんだけガキだあんたは!」

 

この調子だ

こいつと私がいる場所は、いつも戦場

 

罵詈雑言の残弾が尽きるまで、お互い連射あるのみなのだ

 

ただ一か所

ぎょぴの池という非戦闘地帯を除いて

 

残弾は尽きた

向こうもそうだった

 

一時休戦だ

 

・・・っていうか、この炎天下、もう口げんかなんかしたくない

 

かがみ「明日、土曜日だけど」

ハルヒ「知ってるわよ」

 

まだ張り合うつもりだよ、こいつは

 

かがみ「来る?」

ハルヒ「行く」

 

急に借りてきた猫みたいになっちゃって

いつもそれだけ、おとなしかったらね

 

夏で、暑かった

 

うだるような熱気に、耐え切れなかったんだと思う

きっと私の脳みそだって、どろどろに溶けてたんだと思う

 

かがみ「今からウチ、来る?」

 

じゃなきゃ、こんなこと絶対言わなかった

 

涼宮ハルヒは、ぎょぴの池でのみ大人しくなる

 

私は心のノートに、100万回くらいその文言を書き殴った

それから心のグローブをはめて、ハルヒを1000万回くらいぐーで殴ってやった

 

両親がと上の姉二人がいなかったのは、せめてもの救いだと思う

 

ハルヒは我が家に上がりこむなり、扇風機の前に陣取った

そして大声で「ワレワレハウチュウジンダ」を繰り返し、

それに飽きると今度は朗々とした声で「U.F.O」を歌いだした

 

大声に驚いて起きてきた(もう12時なんだけどね)つかさを見つけるやいなや

こともあろうに巫女服を着せて家中をひっぱり回した

ありがたい(あはははは)ことに、つかさはSOS団の準団員として勝手に認定された

 

よかったね、つかさ?

 

境内を探検しにいくときかないハルヒをなんとか押さえつけ、ぎょぴの池に連れて行った

 

ハルヒ「境内の秘密は、絶対暴いてやるからね」

 

はいはい、そんなものありませんけどね

 

かがみ「ほら」

ハルヒ「ん」

 

私が渡した餌を素直に受け取り、ハルヒは餌を放る

ぎょぴは、まだまだ元気だ

 

ハルヒが帰った後、餌がきれたことに気づいた

もうずいぶん遅かったし、別に明日でもよかったんだけど・・・

 

何となく、今がいいかなって思って、外に出た

近くのコンビニには、いつもの餌があるから

 

コンビニに着くと、ちゃんと餌があった

 

キョンくんもいた

何かとある度に見かける、焦った顔で

 

キョン「かがみか」

 

なんだろう、今にもめまいで倒れそうな顔の、キョンくん

 

かがみ「どうしたのキョンくん、ちょっと、ねえ大丈夫?」

キョン「ん、ああ。問題ない。まったく平気だ」

 

そんな風には見えないけど・・・

や、別に、ただ心配してるだけよ?

 

でもその時、

ものすごく嫌なタイミングで、ぎょぴを思い出した

 

かがみ「ねえ、キョンくん」

 

私は、キョンくんを見つめる

 

かがみ「キョンくんは、信じてるの、虫の知らせ?」

 

夏休みがハルヒのせいで終わらなくなっている

何回も何回も、夏休みがループしている

ハルヒの周りにいる奴だけは、そのデジャビュを感じている

どうにかして終わらせなければならない

 

私の問いに、キョンくんはそう答えた

 

そんなドッキリまがいのことを言われても、普通は信じない

 

でも、タイミングが悪かった

 

ぎょぴの不安は日に日に募るばかりだし、

この夏休みは毎週ハルヒと会っていたし、

そしてそれは、ぎょぴの池でのことだった

 

何もかものタイミングが悪かった

 

かぐや姫のお爺さんだって、竹の中から娘を取り出したんだ

じゃなきゃ、月に帰るなんてトンデモ告白、信じるはずない

 

だから私も、キョンくんを信じるしかなかった

 

だけど、

 

どうしたらいいかなんて少しもわからなかった

 

土曜日だから、ハルヒが来た

私は何も言わなかった

 

ハルヒ「なによ」

 

ハルヒがジャブを撃ってくる

打ち返す気になれない

 

ハルヒ「言いたいことあるなら言いなさいよ」

かがみ「・・・ないわよ」

 

ハルヒの目がつりあがった

 

ハルヒ「ないこたないでしょ。何かあるでしょうが」

かがみ「・・・ないったらっ」

 

ハルヒのしつこさに、少しだけトゲを出してしまった

でも、ハルヒは怒らなかった

 

ハルヒ「・・・・・・どうしたってのよ?」

 

今まで聞いたことないくらい、柔らかい声だった

 

言葉にするのが怖かった

でも、ぎょぴの前だと、なぜだかお互い素直になれたんだ

だから、こいつに打ち明けたんだと思う

 

かがみ「ぎょぴ、死んじゃうかも」

 

ハルヒ「なにいってんの?」

 

ハルヒの声が、冷たくなった

 

ハルヒ「誰が死ぬって言ったの、いま」

かがみ「ぎょぴが、死ぬっていったの」

ハルヒ「なんでよ」

かがみ「なんでもよ」

ハルヒ「根拠は?証拠は?」

かがみ「どうしてもよ」

ハルヒ「だから理由を言いなさい」

かがみ「そんなのない。でも死ぬの」

ハルヒ「あんた馬鹿じゃない?」

 

別にその言葉が引っかかったわけじゃない

自分で、自分の言葉に混乱してたんだと思う

 

かがみ「死ぬったら死ぬの!ぜったい死んじゃうの!!」

 

この言葉は自分でも引っかかった

どうしようもない言葉だった

 

           パンッ

 

そりゃあハルヒだって、殴らなきゃ気がすまなかったよね

 

ハルヒが帰った後も、ぎょぴは元気に泳いでいた

死ぬ気なんて、これっぽっちもなさそうだ

 

なのに私は、

目を閉じればすぐにでも、不吉なぎょぴの姿が見える

池の上に、おなかを見せたぎょぴの姿を

 

 

ぎょぴは元気にはねる

 

私は餌をやり、もう一度だけ、目を閉じる

 

キョンくんたちは、きっとこの事件を解決するだろう

それは正しいことだし、当然のことだと思う

 

私はどう思うだろう

 

夏休みの終わり、池に浮いている金魚を見て

そしてもう二度と戻って来ない、夏休みとぎょぴを

 

そんなのは嫌だ

 

私は、嫌だ

 

夏が終わろうとしてるなら、追いかけてやる

 

夏休み最後の日のことだった

私は物置から水槽を引っ張り出し、丹念に掃除し、新鮮な水を入れ、

自転車のカゴにセットした

 

 

夏が逃げるのなら、追いかけてやる

 

脚力には、ちょっとは自信がある

ぐんぐんと自転車は進んで行く

 

夏だから、自転車でも暑い

 

 

きっと南へ南へ走れば、ずっと夏でいられる

ずっと夏休みでいられる

 

今思っても、ばかみたいな理屈だ

 

そんなわけないのに

そんなこと、あるはずないのに

 

きっとそのとき、私は追いかけていたんじゃない

 

逃げていたんだ

 

朝9時に家を出た

お父さんには、友達の家に泊まるって言ったから大丈夫だと思う

 

今は、夜の11時

 

もう市内じゃないと思う

どこかの公園だ

 

ほぼ半日、ぶっとおしで自転車を漕いだ

・・・私、意外と体力あるかも

 

おなかがすいたので、スーパーで買ったカロメを食べる

もちろん、ぎょぴの餌も忘れない

 

疲れた。さすがに疲れた。

疲れることで不安をごまかせるのが、本当に幸いだった

 

ぎょぴは、

 

 

 

 

 

 

ぎょぴは、元気じゃなかった

 

いつものように元気にはねない

いつものように餌にがっつかない

いつものようにすいすい泳いでいない

 

ぎょぴは、ぷかぷかと浮いていた

 

かがみ「ぎょぴ?ぎょぴ?」

 

私は声をかけることしか出来ない

ぎょぴは、浮くことしか出来ない

 

かがみ「ぎょぴ?ぎょぴ?」

 

自転車で揺らしたからだろうか

何もない水槽に入れたからだろうか

 

 

夏が、終わろうとしているからだろうか

 

誰もいない真っ暗な公園で、私はぎょぴを呼び続ける

ぎょぴは、応えない

ずっと、応えない

 

 

私に応えてくれたのは、携帯だった

 

着信:涼宮ハルヒ

 

ハルヒ『あんた今どこにいるの』

 

ハルヒの声はぶっきらぼうだった

ほんとはその中に、少しだけ心配してる気持ちが混じってたけど、

そのときには気づかなかった

 

かがみ「ハルヒ、ぎょぴがっ、ぎょぴがっ!」

ハルヒ『・・・・・・だめなの?』

かがみ「だめっていうな!なんとかする!」

ハルヒ『・・・・・・』

かがみ「ハルヒのばかぁ!だめってい、いっな・・・!」

 

ハルヒは黙っていた

 

私の泣き声が収まるまで、ずっと黙っていた

 

ハルヒ『ねえ』

かがみ「・・・っなに」

ハルヒ『帰って来なさいよ』

かがみ「帰らないっ」

 

ハルヒのため息が聞こえる

 

ハルヒ『夏休み、もう終わるよ?』

 

 

携帯を見た

 

8月31日 午後11時57分

 

ぎゅっと目を閉じる

 

そうすれば、みんななかったことになると思った

 

夏休みは終わらない

きっとキョンくんたちは事件を解決できない

目を開けたらまた夏休みの暑い朝

ああ、また宿題やりなおすんだ

ハルヒと炎天下にけんかするんだ

でも土曜日にはけんかしないんだ

一緒にぎょぴを眺めるんだ

ぎょぴも元気なんだ

 

きっときっと、元気なんだ

 

 

ゆっくりと、目を開ける

 

 

 

 

9月1日 午前0時02分

 

 

私の意識は、落ちた

 

携帯の着信音で目を覚ます

つかさからだ

 

つかさ『お姉ちゃん、どこにいるの?』

 

どう言ったらいいかわからなかったし、考えたくなかった

 

つかさ『ハルちゃんがさっき来たよ』

 

夜も遅いのに、あいつは何しに来たんだろう

 

つかさ『ずっと境内に向かってさ、ぎょぴがんばれって大声で叫んでる』

 

キョンくんの言葉が蘇る

あいつのせいで、夏休みが終わらない

 

つかさ『近所迷惑だよって注意したけど、全然やめてくれないの』

 

もし、あいつが世界を変えられるなら、

 

つかさ『ねえー、お姉ちゃんからも言ってあげてよー』

 

私は、自転車のカゴを見る

 

 

目に、はねた水しぶきがかかった

 

夏休み最後の夜は、全然眠れなかった

つかさの電話があった直後、タクシー(自転車乗っけてごめんね、運転手さん・・・)を拾って家に帰った

 

 

私が帰ってきたときには、ハルヒはもういなかった

 

だから新学期一日目の朝、いま

私は眠気と戦いながら学校に来ている

 

サボってもよかったけど、用事があるのだ

絶対にはずしちゃいけない用事が

 

あいつに言ってやらなきゃいけない

 

「ありがとう」と

 

それからついでに、こうも言ってやろう

 

「うちの神社、縁結びの神様なんだけど?」と

 

それから、いつもの罵詈雑言の撃ち合いだ

言い出したら後に退けないし、半歩だって譲れない

 

 

毎週土曜日の、休戦日までは

 

終わり

そして・・・「おまえは今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」

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最終更新:2007年09月10日 21:52
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