高校に入ってはじめて、私にも男の子のお友達が出来ました。
彼のことを私は「キョン君」って呼んでます。
キョン君は私のことを「高良」って呼んでくれます。
キョン君以外のクラスの男子はみんな私を「委員長」か「高良さん」と呼ぶので、キョン君が苗字を呼び捨ててくれるのはちょっと嬉しいのですけど・・・実は、それが目下の悩みでもあるのです。
キョン君と遊ぶときはたいてい、同じクラスの泉こなたさんと柊つかささん、別のクラスにいるつかささんの双子のお姉さん、柊かがみさんも一緒なのですけど、キョン君はこの3人をみんな、下の名前で呼んでいるんですよね。こなた、つかさ、かがみって。
・・・なのに私だけが「高良」なのです。
最初は「高良さん」と呼ばれていたことを考えれば、呼び捨てにされるだけ、クラスの他の男の子たちよりは、私に親しみを感じてくれているのでしょうけど、私だって・・・キョン君にこう呼んで欲しいのです。
「みゆき」って。
でも、せっかくいい感じでお友達としてお付き合いできているのに、私の方からこういうことを言い出して、キョン君に気まずい思いをさせたくはありません。男の子に、同年代の女の子を下の名前で呼ぶことを強制するというのは、あまり良くないことだと思うのです。
こういうのは最初が肝心なんですよね。そこで躓いてしまうと、その差を埋めるのが難しくなります。
バカみたいな悩みですけど、私にとっては大きな悩みなのです。こなたさんやつかささんや、かがみさんが羨ましいナ。
「ね~、みゆき。最近ちょっと元気ないね。どうしたの?」
顔や態度には出さないように気をつけてはいたのですけど、ダメですね。かがみさんに気づかれてしまいました。
「みゆきさん、何かお悩みかね。身共が相談に乗って進ぜよう」
ちょっとおどけた口調で話すこなたさん。つかささんも、「私でよければお話聞くよ~」と言ってくれました。いい機会かもしれません。
「聞いてくれますか? 実はですね・・・」
「言われてみれば確かにそうね。キョン君、みゆきのことだけは何故か名前で呼ばないわね」
かがみさんも首を傾げています。
「キョン君は・・・皆さんのようには、私に親しみを感じてくれていないのでしょうか」
自分で言っていて何ですけど、ちょっと悲しくなってしまいました。
「私もお姉ちゃんがいなかったら、キョン君からきっと、柊って苗字で呼ばれていたかもね」
つかささんがポツリといいました。労わるように、私の顔を覗き込んでいます。
「そういやキョン君は最初、つかさのこと、柊って呼んでたよね」
「双子だから、私らのことは下の名前で呼んで、って言った気がする」
「きっかけがないと、今から呼び名を変えるってのは難しいかもね。しかも相手はあのキョンだし」
こなたさん、それってどういう意味ですか。
「キョンもかがみんと同じくらい、照れ屋さんで素直じゃないからねぇ。ツンデレだし」
「おい、なんでそこで私を比較対象に出す!」
「こなちゃ~ん、お姉ちゃ~ん、喧嘩しないでよう・・・」
「済みません。私が変なことを言ったばかりに」
収拾がつかなくなってしまいました。そうですね。私が諦めれば済むことです。変なこと言ってごめんなさい。
「ダメだよみゆきさんっ! ここで諦めたら試合終了・・・じゃなくて、ずっと苗字で呼ばれることになっちゃうよ」
こなたさんがいきなり大きな声を出したので、私、ちょっとびっくりしてしまいました。
「そうだね。ここはゆきちゃんのために、私も一肌脱ぐよ」
コブシを胸の前できゅっと握り締めるつかささん。ありがとうございます。
「・・・ま、つかさみたいなお子様が脱いでも、キョン君は興奮しないと思うけどネ」
「こなちゃんのくせにー」
「ほらほら、2人とも喧嘩しないの・・・で、具体的に何をどうすれば良いわけ?」
腕を組んで、ちょっと怖い顔で考え込むかがみさん。あの、くれぐれも手荒なことだけは・・・
「とにかくキョン君にお話をしないと・・・ゆきちゃん、私たちに任せてくれないかな。それとなくキョン君に釘を刺してみる」
「ぶっとくてデッかいやつを10本ばかりネ」
「おいおい、キョン君の藁人形でも打ち付けるつもりかこなた。アンタは余計なことしなくていいよ」
ありがとうございます。私なんかのために・・・お友達っていいものですね、くすん。
「あのさ・・・」
放課後、掃除当番を終えて帰ろうとしたとき、キョン君に呼び止められました。なんでしょうか。
「かがみたちから聞いた。そのさ・・・高良がそんなに、名前を呼ばれないことを気にしてるなんて知らなかった。悪かった」
「謝らないでくださいキョン君。私の我が儘ですから」
「今更って気もするけど、俺も意識して高良のこと・・・みゆき、って呼ぶようにするよ。ただ、高良って言っちまった時は勘弁な。あんまり怒らないでくれよ」
「無理しなくていいんですよ。今みたいに仲良くしてくれるだけで、私十分ですから」
「そのさ・・・こなたたち、もう先に帰っちまったんだろ。今日は2人で帰らないか、た・・・その・・みゆき」
キョン君、顔が真っ赤ですよ。私まで恥ずかしくなるじゃないですか。もう・・・
とても嬉しいです。
作品の感想はこちらにどうぞ