創世記~第2章~

「・・・・・・」
 何だこの沈黙は。空気が完全に凍りついてるじゃないか。おい、お前ら何とか言え。
そこのなぜかSOS団の入り口に立ち、ずっと我らが団長を睨んでいるかがみ。
そしてそれに対抗するかのように睨み返しているハルヒ。さっきの事を引きずっているのか?
そんなに敵対心むき出しにしなくてもいいだろうよ。というかかがみ、お前は何か用があってきたんじゃないのか?

「か、かがみはちょっとキョンキョンに用があってきたんだよ」
 この空気に耐えられなくなったのか、こなたが口火を切った。て俺に用事だって? かがみが?
一体なんだっていうんだ。今までほとんど話したことなかったというのに・・・・・・今日はあれか、かがみデーか
俺にとっては喜ばしいばかりなんだが、それをハルヒが易々と許すわけないだろうな
「はぁ? キョンに用? ダメよ! キョンはこれから大事なミーティングがあるんだから」
 予想通りの反応と言えるだろう。ハルヒという女は、わざわざ誰かのために自分の予定を崩すなんて事は絶対にしない。
「ちょっとくらいいいじゃない」
 とようやくかがみが口を開いた。しかしなかがみ、言うだけ無駄だと思うぞ。
「ダーメ! ほら、わかったらとっとと出て行きなさい!」
「うぅ・・・・・・」
 怒鳴るように出て行けというハルヒにおされて、かがみは口をつぐんでしまった。しかしその目はこっちを向いている。
なんだ? 助けを求めているのか? まぁわざわざ部室にまで来てくれたんだしな、ここで助けないわけにはいかないだろう
「ハルヒ、まだ古泉が来てないからミーティングは始められないだろ? すぐ戻ってくるからいいじゃねえか」
「な・・・・・・ダメよ、ダメに決まってるじゃない!」
 痛いところをつかれたのか、ハルヒは少し口ごもったがダメの一点張りだ。どうしても行かせたくないらしいな。
「いいじゃんハルにゃん、本当にちょっとだけだから!」
 こなたはそういうと、俺の手を引っ張って外に連れていこうとした。意外にこいつも強引なんだな。
「あ、コラ! 待ちなさい!」
 その言葉を言い終える前に、こなたと俺は部室を出ていた。猛スピードでこなたは俺を引っ張っていく。
ちっこいくせいこいつは意外と力があるんだな。足もなかなか速い。後ろからついてくるかがみもついてくるのに必死だ。
しばらく走ったり階段をあがったりして着いた先は、屋上に続くドアの。物置と化している場所だった。

ここならおそらく人はこないだろうな。というかなんだ、人に聞かれちゃまずい話なのか?
「いやぁまずいようなまずくないような・・・・・・とりあえずハルにゃんも怒っちゃってるから、ちゃちゃっと説明するね」
 ようやく俺の手を話したこなたは軽快に言った。俺はかなり走ったせいかそうとう疲れてるんだが、何だこいつの
元気さは。ほらみろ、かがみなんて今にも死にそうじゃないか。
「はぁ・・・・・・大丈夫、大丈夫だから・・・・・・続けて・・・・・・」
 何をもって大丈夫だというのだろう。しかしあまりそんなにはぁはぁ言うな、変な趣味に目覚めてしまいそうだ。
「へ? 何か言った?」
「何でもない」
 それよりも早く続けてくれこなた、俺の妄想が膨らんでしまう前に。
「そうだったね。じゃあ一言で言っちゃうと、今度の日曜日、つまり明後日買い物に付き合ってもらいたいんだよ」
「買い物? 俺が?」
「私とかがみとキョンキョンの3人で! 実はかがみのお父さんの誕生日が近くて、そのプレゼントを買いに行きたいんだよ」
「状況はわかったが、そこになぜ俺が必要なんだ」
「いやぁほらお父さんだから男の意見もききたいわけんだよ」
 なるほど。それで近くにいた、そういった事に使いやすそうなのが俺だったってわけか。
「うーんそういうわけでもないんだけど、まあそういうことにしといていいよ」
 何だその歯切れの悪い答え方は。とういか本当に俺でいいのか?
「うん、もちろんよ。ていうかキョン君がいいの・・・・・・」
 少し息も落ち着いてきたかがみはボソッとそういった。最後の方かなり聞き取りづらかったんだが何て言ったんだ?
「な、何でもないのよ! 気にしないで」
 顔を真っ赤にしてかがみは慌てだした。そういうことをされると余計気になるのが人間の性である。
「で、どう? 一緒に行ってくれる?」
 横でその様子をニヤニヤしながら見ていたこなたが聞いてきた。唐突な話だが特別断る理由はないし、かがみの頼みだからな
「ああ、いいぞ」
 二つ返事でOKというやつだ。それを聞いて安心したのか、かがみはほっとしたような顔で笑った。

俺はしばらくその笑顔に見とれていた。今まで人の笑顔に見とれるなんて事はなかった、それが例えハルヒの笑顔でも。
でもかがみの笑顔を見ると心臓が大きく鼓動して、ずっと見ていたかった。こんな気持ちは初めてだな。

「キョンキョン? 時間は10時くらいがいいんだけど大丈夫?」
「あ、ああ大丈夫だ」
 しばらく見とれていたのがバレたのか、少し不振者を見るような目をしながらこなたが聞いてきた
「じゃあ決定ね! 場所は駅前で。絶対くるんだよキョンキョン」
「わかってるよ」

用も済んだので、俺たちは解散することにした。別れ際に、かがみは微笑みながら「じゃあね」と言って帰っていった。
同じ言葉でも使う人によって感じ方は違うもんだな。こんなに「じゃあね」がいい言葉だなんて思ったことはないぞ。
しかしそんなことで喜んでばかりもいられない。俺にはまだ重要な任務が残っているからな・・・・・・
できれば行きたくないな、機嫌が悪いときのハルヒほど厄介なものはない。恐らく部室に帰ったら何を
話していたのか、いの一番に聞いてくるだろうな。正直に答えるべきか、いやそんなことをしては余計にまずいことになる。
SOS団のミーティングをほったらかしにして、ハルヒが毛嫌いしている女と遊ぶ約束をしていたなんて言ってみろ。
俺には言葉通り死刑が下るだろう。そんなことは絶対に避けたい、そう思って俺は部室のドアを開けた。

「・・・・・・」
 ドアを開けると、お決まりの団長の席に座り、腕を組みながら無言で俺を睨みつけるハルヒと目が合った
ハルヒよ、今日のお前は無口なんだな。やめてくれ、いっそ罵ってくれたほうが楽だ。
すっと目線をそらすと、本をめくる指以外微動だにしない長門、少し怯えながら俺を見る朝比奈さん
そして肩を落としながら「やれやれ、困ったものです」と今にも言いそうな顔で俺を見る古泉が確認できた。
「さあ話してもらうわよ。SOS団の大事なミーティングを抜け出して一体何を話してたのか」
 まさに予想通りと言える反応だろう。しかし俺はちゃんとその問いに対する答えを用意してある。
「実は今日数学の宿題の提出があったろ? それをやるの忘れてしまってな、かがみにノートを借してもらったんだ。
でも返すのをすっかり忘れてて、かがみがとりにきたというわけだ」
 何と当たり障りのない言い訳だろうか、これならハルヒも「あ、そう」で済ますしかないんじゃないか
「嘘ね! 今日あんたとかがみは、あの一回しか喋ってないはず。それ以外は私がずっと見てたもん。それにそんな用事
だったらわざわざここから出て行く必要ないじゃない。あんた、団長に嘘つくとどうなるかわかってるの?」
 なんと、俺の予想はここで外れというわけか。ハルヒめ、やはりこいういう事に関しては鋭いな。
しかしずっと見ていたって休み中ずっとか? そんなに俺を観察していて楽しいのか?
「バ、バカ! 楽しいとかじゃないわよ。団長として団員を監視するのは役目の一つなの。それより本当の事をいいなさい」
 さぁどうしたもんか。そんなに考える時間はない。ええいとりあえず何でもいいから言うんだ。
「ほ、本当はその、かがみが猫好きでな。こなたが俺の家に猫がいるってのをかがみに話して、その話を聞いてかがみが
是非家の猫を見せてほしいと言ってきたんだ」
 どうだ苦し紛れの俺の言い訳は。今度は通じたか?
「そうなの・・・・・・でもそれだってここで言えばいい話じゃない」
 ハルヒは顎に手をあて、考え込むような形をしてそう答えた。この反応は通じたのか、ならば畳み掛けだ
「いやかがみ曰く、部室で話したらハルヒに止められるんじゃないかと思ったらしいんだ」
「何よそれ、別にそんな事いちいちやめろなんて言わないわよ。私だってあの猫好きだもの」
 一体なんなんだ。えらく素直じゃないか。そんなに猫が好きだったか?
「猫は普通に好きよ。かがみの目的が猫ならあたしは別に構わないのよ」
 さっきまでの怒りが収まった様子のハルヒがそう答えた。それは遠まわしにかがみの目的が俺だったら困るってことか?
「ち、ちが・・・・・・うん、まぁそういうことでいいわ。それよりも座りなさいキョン。ミーティングを始めるわよ」
 とハルヒはなぜか少し顔を赤らめた。言われた通り座ると横から朝比奈さんが微笑みかけてくれた。
「じゃあSOS団全体ミーティングを始めるわよ」
 と威勢よく立ち上がりながら声高々にハルヒが話しだした。
「今度の日曜日。つまり明後日、市内散策に行くわよ。もういい加減不思議が現れるはずだもの!」
 おいおいちょっと待て、今なんていった? 今度の日曜日? それは困る。その日はかがみ達と買い物だ
「おい待ってくれ、その日は予定があるんだ。そう家族で出かける用事がな」
 もちろん本当の事を言えるはずもない。再び俺は適当な嘘で誤魔化す事にした。
「そんなの許さないわよ! あんたのせいでミーティングが遅れたのに、さらにぶち壊す気?」
「そんなことはない。でも大事な用事なんだ。すまないが俺以外で市内散策をやってくれ」
「あんたその用事とSOS団の活動。どっちが大事なの?」
 怒るというよりも、少し不安そうな顔でハルヒは俺に聞いてきた。どっちが大事・・・・・・か。確かに俺にとってSOS団は
とても大事なもんだ。でもすこしくらいいいじゃないか、俺にだって自由な時間を、かがみ達と買い物する時間くらいくれよ。
「すまない。どうしてもはずせない用なんだ」
「・・・・・・わかったわ。土曜日はあたしも用があるし、今回は中止よ」
 ハルヒは怒っているのか、悲しそうにしているのかわからないような表情をしながらそう言った。
「な、なぁ別に俺なんかいなくても市内散策はできるんじゃないのか?」
 あんな表情をされたら、さすがに俺も罪悪感がしてそう言わざるをえなかった。
「あんたがいなきゃ意味ないの・・・・・・」
 ボソッとハルヒは呟いたが、上手く聞き取れなかった。何だって?
「何でもないわよ。今日はもう解散」
 そういうとハルヒは荷物を持って足早に部室を出て行った。
「一体なんですか? 大事な用というのは。涼宮さんを怒らせてもしなければいけないような事なんですか?」
 ハルヒが出て行った後、ボーっとしていた俺に古泉が話しかけてきた。
「何だっていいだろ、お前には関係ない」
「いえ、関係大ありですよ。あなたのおかげで今日は忙しい事になりそうですからね」
 声と顔は笑っているが心から笑っていない。こいつはいつもそうだ。だが今回はお前にだって非があるんじゃないのか
「ミーティングに遅れたことですか、確かにそれを言われるとつらいですね。わかりました。今回は目を瞑りますが、今後
こういった事はないようにお願いしますよ」
 何でこいつはこうも上目線なんだ。俺はなんでもハルヒの言いなりになるお前とは違うんだよ。
「そのようですね。でもその方が楽だと思いますよ・・・・・・っと早速ですか、では僕はこれで失礼します」
 そういうと携帯片手に古泉も部室から出て行った。特にすることもないし、残された俺と朝比奈さんと長門も帰ることにした。

 それにしてもなんだったんだろうな今日は。俺が一方的に好意を抱いているかがみが話しかけてきて、さらには遊ぶ約束まで
これは俗に言う『春が来た』というやつではないだろうか。しかしハルヒの事もあるし手放しには喜べないな。
なんて事を考えながら俺は寝床についた。明後日の事を考えると少し胸が高鳴る。気が早すぎるな俺は・・・・・・
次の日の土曜日は何事もなく平穏な休日を過ごした。といっても家でゴロゴロしてただけだがな。
そして日曜日、俺は10時集合だってのに7時には起きていた。いつもよりも念入りに顔洗って歯を磨いて、気合入りすぎか
しかし誰だって好きな人と遊ぶ日にはこれぐらい気合入るもんだろ? 俺はこんな事初めてだが。
そして予定時間のだいぶ前に準備が完了した俺は、家で待っててもすることないから目的地に向かっていた。
9時を少し回ったくらいに俺は目的地、いつもの駅に着いた。SOS団の集まりの時もこれくらいに着いてたら俺は毎度毎度
団員全員におごることもないんだろうな。

「あ、キョン君! おはよう。来るの早いんだね」
 あれこれ考えているうちに向こうからかがみが声をかけながら歩いてきた。ピンクのアンダーにデニムジャケット
純白のスカートというなるほど今時の女子高生の流行の格好も、かがみが着ると映えるな。と褒めすぎか。
「ようかがみ。お前も中々早いんじゃないのか? まだ9時半前じゃないか。こなたはまだみたいだが」
「あの、キョン君。その、こなたなんだけど・・・・・・」
 少し申し訳なさそうにうつむくとかがみは口を開いた。
「実はこなた急にこれなくなっちゃって、今日はその、キョン君と私の二人だけなの」

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最終更新:2007年09月17日 01:22
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