3-706氏
サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいも無い世間話にもならないくらいどうでも良いような話だが、それでも俺がいつま
でサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じていたかと言うとこれは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった
幼稚園のクリスマスイベントに現れたサンタは偽サンタだと理解していたし、記憶をたどると周囲に居た園児達もあれが本物だとは思って
いない様な目つきでサンタのコスプレをした園長先生を眺めていたように思う。
そんなこんなでオフクロがサンタにキスしているところを目撃したわけでもないのにクリスマスにしか仕事をしないジジイ存在を疑っていた
賢しい俺なのだが、宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力や悪の組織やそれらと戦うアニメ的特撮的マンガ的ヒーローたちがこの世に
存在しないのだということに気付いたのは相当後になってからだった。
いや、本当は気付いていたのだろう。ただ気付きたくなかっただけなのだ。俺は心の底から宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力や
悪の組織や目の前にふらりと出てきてくれる事を望んでいたのだ。
俺が朝目覚めて夜眠るまでのこのフツーな世界に比べて、アニメ的特撮的マンガ的物語の中に描かれる世界の、なんと
魅力的なことだろう。
俺もこんな世界に生まれたかった!
宇宙人にさらわれてでっかい透明なエンドウ豆のサヤに入れられている少女を救い出したり、レーザー銃片手に歴史の改変を計る
未来人を知恵と勇気で撃退したり、悪霊や妖怪を呪文一発で片付けたり、秘密組織の超能力者とサイキックバトルを繰り広げたり、
つまりそんなことをしたかった!
いや待て冷静になれ、仮に宇宙人や(以下略)が襲撃してきたとしても俺自身には何の特殊能力も無く太刀打ちできるはずがない。
って事で俺は考えたね
ある日謎の転校生が俺のクラスにやってきて、そいつが実は宇宙人とか未来人とかまあそんな感じで得体の知れない力なんかを
持ってたりして、でもって悪い奴らなんかと戦っていたりして、俺もその戦いに巻きこまれたりすることになればいいじゃん。メイン
で戦うのはそいつ。俺はフォロー役。おお素晴らしい、頭いーな俺。
しかし現実ってのは意外と厳しい
実際のところ、俺のいたクラスに転校生が来たことなんて皆無だし、UFOだって見た事ないし、幽霊や妖怪を探しに地元の
心霊スポットに行っても何も出ないし、机の上の鉛筆を二時間も必死こいて凝視しても一ミクロンも動かないし、前の席の同級生
の頭を授業中いっぱい睨んでいても思考を読めるはずもない。
世の中の物理法則がよく出来てることに感心しつつ自嘲しつつ、俺は熱心に見ていたアニメやマンガをそう見なくなった。しかし、
完全に断つタイミングがあった訳でもなくただ惰性としてアニメやマンガを時折見て、あぁ、こうだったらいいのになと思う程度になった
そんな事を頭の片隅でぼんやり考えながら俺はたいした感慨もなく高校生になり――、
泉こなたと出会った
軽いハイキングな通学路やテンプレートな入学式や制服云々が割愛しよう。それほど重要でもないからな
担任の岡部なる若い青年教師は教壇に上がるや鏡の前で小一時間練習したような明朗快活な笑顔を俺たちに向け、自分が
体育教師である事、ハンドボール部の顧問である事、現在この高校のハンドボール部は部員数が少ないので入部即レギュラー
は保障されたも同然であることをひとしきりしゃべり終えるともう話す事がなくなったらしく、
「みんなに自己紹介をしてもらおう」
と言い出した
まあありがちな展開だし、心積もりもしてあったから驚く事でもない。
男女交互に並んでいる左端から一人一人立ち上がり、氏名、出身中学プラスα(趣味とか好きな食べ物とか)をあるいは
ぼそぼそと、あるいは調子よく、あるいはダダ滑りするギャグを交えて教室の温度を下げながら、だんだんと俺の番が近づいてきた。
緊張の一瞬である。解かるだろ?
頭でひねっていた最低限のセリフを何とか噛まずに言い終え、やるべきことをやったという開放感に包まれながら俺は着席した。
替わりに後ろの奴が立ち上がり――ああ、俺は生涯このことを忘れないだろうな――後々語り草となる言葉をのたまった
「泉こなた」
ここまでは普通だった。真後ろの席を体をよじって見るのもおっくうなので俺は前を向いたまま、その涼やかな声を聞いた
「ただの一般人には興味がありません。この中に二次元しか愛せない人、二次元の世界に憧れる人、萌えキャラな人、同人誌
のサークルに入っている人がいたらあたしのところに来なさい。以上」
さすがに振り向いたね
そいつの容姿は……まぁ、俺の語呂の関係で割愛させていただくが、美人の部類に入るんではなかろーか
しかし惜しむらくは幼児体系といえる体のせいで、美人というか可愛いといった感じか。そえはそれとして
これって、ギャグなの?
おそらく全員の頭にどういうリアクションをとればいいのか、疑問符が浮かんでいた事だろう
「ここ、笑うとこ?」
こなた「二次元はいつも私の胸に...」
キョン「自重しろ」
こなた「ルッシャラララーラッラッラッラー♪」
こなた「なんでだろ いつも金欠な私です」
キョン「漫画ばっか買うからじゃないか?」
こなた「もう止まらない 友人から止められたけど」
キョン「止まってやれ」
こなた「I belive 見るだけじゃつまらないの」
キョン「それは……まぁ、そうだろうが」
こなた「You’ll be right!」
こなた「衝動買いで地雷踏んでブルーになろう」
キョン「地雷買うの前提かよ!」
こなた「金欠でしょでしょ!? 初回に限定が付属する世界で」
キョン「少しは我慢しろ」
こなた「おまけがあるから買いたくなるのよ 品物はいらないの」
キョン「可哀相だろ!」
こなた「一緒に来てくださいっ」
キョン「お、まともだな……」
こなた「ポイント溜めたいから私と来てよネ」
キョン「前言撤回だ」
こなた「ちょうど景品もらえる今日のいまが奇跡」
キョン「大袈裟な事この上ないな」
こなた「I belive you...」
こなた「前の席の人はツッコんでばっかりだネ☆」
キョン「ネ☆ じゃない。ツッコまざるを得ないんだ」
こなた「ストレスでハゲルヤ☆」
キョン「黙れ。それにしても二次創作の二次創作は何次になるんだろうな?」
こなた「チッチッチ。わかってないなぁ前の席の人。二次元はどこまで行っても二次元だヨ」
こなた「戻れないとこまで 行かなきゃつまらない」
キョン「意味深だな」
こなた「さぁ行きましょう 秘めてる欲望思いのままに」
キョン「ここまでいやな予感がするのも珍しいな」
こなた「My delight 『一緒に行こう』と受け止めたわ」
キョン「曲解も甚だしいな」
こなた「Your mind fry!」
こなた「コミケに行って笑顔になろう」
キョン「いつの間にそんな話に」
こなた「始まりでしょでしょ!?」
キョン「キレイが闇を照らすみたいに」
こなた「私のことば私の都合 どっちも正しいの」
キョン「服従でもしろと?」
こなた「現実にゆれる繊細な心が 傷つくのはイヤ」
キョン「更生フラグか?」
こなた「思いましたアニメだけを見れば 大丈夫...」
キョン「戻って来い!」
こなた「普通じゃないのが当然なら 別に私オタクでもいんじゃない?」
キョン「開き直りか」
こなた「一般人でも普通じゃなくて」
キョン「一般人でも無いと思うんだが」
こなた「買いたいまま買いたいものだけを買うよ」
キョン「少しは控えろって……」
こなた「冒険でしょでしょ!? お金がぎりぎりの今月で」
キョン「そりゃあれだけ買えばな」
こなた「二次元があるから強くなるのよ 私の為だけど」
キョン「正論……か?」
こなた「始まりでしょ始まりなんでしょ!?」
キョン「あー、OPかEDか見分けつきにくい物多いよな」
こなた「キレイが闇を照らすみたいに あなたとあたし冒険の途中」
キョン「これ以上の属性の開発は遠慮したいが…」
こなた「一緒に進んでく どこまでも自由に」
キョン「なんかもう行き着く先が不安だな」
こなた「現実を超えて」
キョン「待て、それは危険なルートだ」
こなた「明日過去になった今日のいまが奇跡」
キョン「前向きなのは良い事だよな」
こなた「確かな情報を 積もう地雷を」
こなた「I belive you...」
キョン「………元気出せ」
こなた「イヤー、歌った歌った」
キョン「歌詞はともかく、上手いな」
こなた「そりゃあ、中の人が一緒だからネ」
キョン「………お前」
こなた「前の席の人は次に、“中の人など居ないっ!”と言う!」
キョン「中の人など居ないっ!………はっ!」
こなた「……そういえば本編は?」
キョン「考えてないな。他の人頑張って下さいと言うしかないか」
こなた「え………?」
キョン「……悪かった。俺も頑張ってやるからそんな顔すんなよ」