オヤジとして……

◆I6QqpqKJmg氏による作品です。

 

「ふむ……」

腕を組んでもっともらしい顔をしながら考え込む、何やら最近娘の様子がおかしい。
帰りが遅くなったり学校へ早く出かけたり……いや、後者は良い事なのだろう。それに妙に笑顔が多くなったと思う
今までの娘の事を考えると信じられないな。帰りが遅くなったりするのはかがみちゃん達と書店に寄ってたりするのだろうが――
ここのところ頻度が多い。殆ど毎日と言っても良い方だ
それにネトゲ中毒だったのに早起きをするとは……考えれば考えるほど俺の意識は

「彼氏でもできたのだろうか」

そちらにいってしまう。そしてポツリと呟き――自己嫌悪に陥った。娘に彼氏……娘に彼氏……その言葉だけがリフレインする
それに対抗するように俺の勘は当たらないんだ、と言いきかせようとする――無理か

「ただいまー、お父さんいるー?」
「ああ、こなたお帰り!」

いつものように俺なりの最高級の笑顔で迎える。――いつから根付いた習慣なんだか
そうだ

「なぁこなた」
「なに?」
「……最近帰りが遅くなったりするけど……彼氏ができたのかい?」
正直どうかしてたな、あの時の俺は。聞きたくも無かったのに何で聞いちまったんだ

「!?…………うん」

「…………」
「お、お父さん……?」
「お前も一人前になったんだなぁ……」
「え?え?どういう事?」
「……ちょっとジュース買ってくる」

そう言い残して俺は家を出た。泣きたかった、いい年こいたオヤジが泣くのを娘には見られたくなかった
こなたが小さい時にかなた――俺の女房は死んだ。それ以来俺は過保護に娘を育てた
いつか、娘もかなたと同じように逝ってしまうんじゃないかと怯えて

「いらっしゃいませ~」
「……桜を一つくれ」
結婚してからずっと煙草は止めていた、女房は煙草が嫌いだったから
だけど今は――モヤがかったこの頭をどうにかしたくて――吸いたくなった

「ありがとうございました~」

コンビニから出て煙草を開ける。火は……マッチがあるな

シュボッ……
「……ゴホッ、ゴホッ!駄目だこりゃ……」
どうやら長年煙草を断っていたせいかいつの間にか煙を寄せ付けない身体になっちまったらしい
だけど、かっこつけてくわえ煙草で街を歩く
何も考えたくなかった。それなのに――

「こなた……」
娘に彼氏が出来た事を思い出し――泣いた。使いふるされた言い回し、古典的とも言える台詞を
「……煙が、目に……しみる」
吐いた

 

 

気付くと足は公園へと向かっていた。こなたが幼い頃よく連れていった公園へ
感傷に浸りたかったのだと思う。過ぎし記憶を思い出させて
娘の彼氏を想像してみる。性格は良いに決まっている、娘が選んだのだからな
顔はどうなんだろうか。俺よりもかっこよかったりするんだろうな
背も――クセも――

「見てみたいな」
いつしかそんな事を考えてた。気持に余裕が出てきたって事か
さて、ジュースでも飲みながら帰るか。こなたも心配してるだろうしな

「120円……っと」
ピッ……………
……
出てこないな……チクショウ、120円返しやがれ
そんな事を愚痴りそうになった時

「あのう……」
一人の青年が話しかけてきた
すまないがお金なら持ってませんよ。俺はひ弱なんです。見逃してください

「その自販機横を蹴らないとジュース出しませんよ」
何だオヤジ狩りじゃないのか、ちょっと安心したよ
青年のアドバイス通り自販機の冷たい横っつらを蹴る

ゴトン!………
「おお、本当だ。青年、ありがとうな」
「いえ」
落ち着いた雰囲気の青年だ、裏をかえせば老けているというか何かほかとは違うものを感じる
「君もどうだい」

「ありがとうございます……コーヒーを」

背は……俺より少し高いぐらいか
「ほれ」
「いただきます」

この時間帯に男二人で公園のベンチ、見るやつが見ればアレなんだろうが俺にその趣味は無い
…………
……………やはりというか何というか。沈黙が続く。だが、悪くはない。しかし青年は息苦しくなったのか口を開いた

「何かあったんですか?」

思わず心の中で笑ってしまった。君はオヤジか、って。普通はコーヒーだけ貰ってごちそうさま、じゃないか?その年代だと
聞きたがりなのかね?まぁ、いいか。たまには誰かに愚痴っても

「少し娘の事で悩んでね……」
それから俺は今日の事を話した、娘に彼氏が出来ていた事。それがたまらなく寂しかった事
だからつい家を飛び出してきた事。ありのままに

「娘さんを愛してるんですね」
「ふふっ……過保護なオヤジって思うだろ?」
「いえ、そこまで想われているならその娘さんだって幸せだと思いますよ」
「ありがとうな、そんな事言われるのは初めてだ」

なんだろうなこの感覚、この青年に親近感が湧く。性格が似てるのか――

「君は……彼女はいるかな?」

 

いるらしいな。頭をかくとは随分古典的じゃないか。それじゃあウソはつけないな

「ははは……お見通しですね…… 俺の彼女は――どこかひょうひょうとした性格でしてね」
「よく俺の分からない場所に連れていったり拉致ったりするんですよ」

困った彼女だな

「いえ、悪い気はしないんですよ」

ふむ……君は随分と世話やきらしいな。自販機の事にしろ彼女の事にしろ
困っている人を見るとほっとけない、そうだろ?
「……そうかも知れません」

君のような人を彼氏にできた彼女は――幸せものだ。きっと君が彼女を思っている以上に彼女は君の事を思っているよ

「もしそうなら――きっと俺は世界一の幸せものですね」

そうだ青年、その笑顔で彼女を受け入れてやれ。きっと――いや、絶対に――君達は長続きするさ

「ありがとうございます。貴方も娘さんを、大事に」
「ああ、お互いにな」

苦笑しながらベンチを立つ。いつの間にか人気は無くなっていた。コーヒーは――熱を無くしていた。煙草は灰へと
俺もそろそろ行かないとな、こなたも心配してるだろうし

「じゃあな青年。愚痴を聞いてくれてありがとう」

「こちらこそコーヒーありがとうございました。……それじゃあ、また」

互いに歩く道は違う。背中合わせに歩き、振り返らずに俺は手を振る
彼がどうだったかは分からない…………あっ

「名前を聞くのを忘れた……」

まぁいいさ、もう二度と会わないだろう。聞いてどうこうする訳でもないしな
それより今の問題。今日の飯はどうしようか

「ただいま」
「おかえり~遅かったね」

家に帰れば俺がこの世で、一番愛してる娘がいる

「こなた」
「?」

「彼氏を見てみたいな」

そんな幸せものの願いを聞いてくれ

「!…………お父さん何もしない?」
「ああ、しないよ。今度連れてきてごらん」「……うん!」

どんな彼氏だろうと、俺は絶対に疑りはしない。それは今だから言える
誓ってな

それからこなたの彼氏ことキョンが家に来て一騒動あるのは又の機会に


~END~

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最終更新:2007年10月04日 06:40
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