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裏表のM'tea party

小泉の人による作品です。

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裏と表のマッドティーパーティー

略して
こなた「( =ω=.)マッティー」
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(前フリとさせて貰いました)

 

 

 

「…と言うところでらっきー☆ちゃんねるおわり!!また来週!!」


「はーい!!カッ!!お疲れ様!!」
はぁぁ………やっと終わった。全く、やってられるかってーの。なんでこんな気分かはわかんだろ?
「はぁぁ……やっと終わった。あ き ら 様ぁ?さっさと控えに戻ってくれませんか?迷惑だろうが」
コイツ。白石みのる。スーパーアイドルの道を阻む害虫。コイツが原因。
「ハァ?それがアイドルに対する口の聞き方か?私がちょっとPに言えば首飛ぶぞコラ」
「あきらちゃーんお疲れ様!どしたの?眉寄せても可愛くないよ!スマイルスマイル!!」
…このウザいのがプロデューサー。業界人ぶってはいるがただウザい。
白石のウザさを1とすると10くらい。それくらいウザい。
「すいません。僕があまりに棒読みなので…あきら様が怒ってしまって…」
「何?そりゃあ白石が悪いよね。でもさあきらちゃーん…」
クドクドクドと良く反吐が吐きでる口だねぇ。少し止めろ。
「この白石は使えないんだよ!!P!!私はもっと」
「ハイハイハイハイでもね?白石がいないと成り立たないのも現実よ?仕事は我慢してチョンダイ」
「プロデューサー…ありがとうございます!!これからもあきら様の支えとして頑張ります!!」
「まったねーん」
くっ…………使えねぇぇぇぇ!!!!!!クォラ!!白石!!勝ち誇った笑顔してんじゃねえ!!
「あきら様?そろそろ控え室へどうぞ」
「いつかその顔潰してやる」
「できるものならどうぞ♪」
ブン!!と殴るが軽く頭を引いて避けた。
「…ムカつくー!!!!」

「あーもう!!中学生だからってなめんな!!」
思い出すだけでイライラするってーの!!大体仮にもアイドルなのに帰りは自腹って……はぁ。……駄目だ。怒りより自虐に傾く……。きっと私じゃまだ数字とれないんだろナ…。
とぼとぼと歩いて帰路につく自分がアイドルだなんて誰が判るだろうか?余程コアな人でない限りわからないだろう。
…自虐のスイッチが入ってしまうともう戻らなかった。
大体、小さく見せるためにサイズを大きい制服を着てるけど150もあるし…。
「おは☆らっきー!」なんて言ってはいるものの、もしかしたら電波の向こうでは誰も見てないかもしれない…。
「………やだなぁ」
……それだけは嫌だ。今思えば何でアイドルなんて目指したかさえ解らない。口の悪いアシ、イラつくプロデューサー。芸能人というのはテレビでこそ明るいが、裏は気苦労ばかりだ。
「………はぁ」
溜め息が自然と漏れた。疲れているのだろうか?

 

 

「……………ふぅ」
公園につくと俺は眼鏡を外し、丁寧に整えられた髪型を乱雑に掻き乱して下ろした。
生徒会長と言う役職は面白い。しかし、教師と生徒が常に見張っているのだ。固っ苦しいこと極まりないな……む?ライターライター…。
俺はポケットに乱雑突っ込んだタバコを取り出したが、ライターが見つからない。パンパンパンと叩いて探すが無い。…あれが無いと息抜きもできやしないじゃないか。クソッ…。
ペッとくわえた煙草を吐き出す。勿体ないが戻しても仕方がない。諦めて煙草を仕舞った。
「……………」トントントン
…別に禁断症状、と言うわけではないが、吸えないとわかるとイライラする。脚の貧乏揺すりが止まらない………あぁクソッ。
「…………コーヒーでも飲むか」
わざわざ外に出たのに結果イライラしただけと言うのはあまりに滑稽だ。ならばせめて少しでもリラックスはしたい。
そう考え、俺は自販機へと向かった。


「クッソー!!!なめてんのか!!!???」
ドガン、と蹴りを自販機に入れる………俺じゃないぞ?変なガキだ。
ダブダブの制服を着たチビだ。手には無糖ブラックが握られている。もしかしたら押し間違えたのだろうか?
「ふむ」
胸ポケットから櫛を取り出して髪を整え、ネクタイを締め、眼鏡を掛けた。これでどっからどうみても超善人だ。
さて、世間知らずのガキを少し注意するかな。

「…………………オイ」
確か私は歩き疲れて、丁度よく公園を見つけた……うん、会ってるよな?そこでアイドル(ここ重要)の私がわざわざ自腹でジュースを購入した。
「確かに私はファンタを押したっ!!間違いないっ☆………………」
……いくら明るく言ってみても現実は無情だ。過去に戻ることも、過ぎた時間を書き換えることもできやしない。
先程、自販機はガコン、という音と共に缶を吐き出した。……ブラック無糖の缶コーヒー(冷たい)を。
「一体…………どういうことだコラァ!!!!」
半分涙目の私は、怒りのあまりナメた真似をした自販機に蹴りをいれた。
「ホントは中に人いるだろー!!??世にも奇妙な物語知ってんだぞ!!出てこいセールスマン!!!」
ドカドカ、と渾身の力で蹴りをかましても微動だにしない。
「フザケンナー!!!!!」

ドカァッ!!!!

 

「すまないがそこのキミ。私が飲み物を買うので少しどいて貰えないか?」
このガキはハーッ、ハーッと肩で息をしていた…疲れるほど蹴る必要はあったのだろうか。というより何故蹴っていたのだろうか?
ガキは私を見ると渋々、と言った感じにどいた。
「……」
ガキは無言の圧力を掛けてきた。ハッそこらの坊ちゃん嬢ちゃんならともかく、俺にそんな程度のガンつけが通用するか馬鹿め。
「……フンッ」
俺も少しだけガンをつけ、平静のまま小銭を入れ、缶コーヒーを選ぶ。勿論、無糖だ。
横目でガキを見る。これだけのことで何怒ってんだ?と馬鹿にした目でだ。
ガシャン!!という音と共に缶が吐き出された。……………ファンタが。

「プッ」
…………ガキに笑われた

俺は……………………眼鏡を外し、髪を乱雑に下ろし、ネクタイを緩めた。


スゥッ───と深呼吸をする。


「舐めてんじゃねえぞこの自販機野郎!!!!!!」

俺は、息を一気に吐き出しながら蹴りを放った。

 

 

 

 

 

 

ビィ────────ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 


秋空に怒りを貯めた自販機が吠えた。

 

 

全力疾走。

俺たちはまるで犯罪者の如くそこから逃げ出した。
「テ、ッテメェ!!何、で逃げて、るんだよ!ア、ンタがやった、んだろ!」
「だから、逃げ、てるんだ!」
二人とも走りながら叫んでいるものだから息も絶え絶えだ。未だに耳にあの警報が鳴っている。
夕暮れ間近なこの時間帯に叫びながら走る二人。端から見ればどれだけ奇異に移るものだろうか。


「ハァ…ハァ……ここまで、走れば…満足だろ!」
ふぅ、…暑い。大体全力であんだけ走ったから……大体一駅半は走ったな。こんな時間だが特に人目が無くて助かった。
「ハァ…おい…ハァ」
少し休憩しようと思い、俺はポケットのタバコを取り出し、口にくわえて火を────
ペッ
「俺は何をやってるんだ…さっき同じ間違えをしてるじゃないか。大体制服を着てるから補導される可能性も高いってのに…」
どうやら少し本気で混乱していたらしい。頭が働いていない。そんなことでタバコを二本も無駄にしたのが少し悔やまれた。
「ハァ…オイ!!!…ハァ」
本当に脳に空気が送られないと思考は鈍るらしいしな。…それにしても暑いな。汗が目に入る。少し落ち着け。この珈琲を……プシュッ
「ギャアアアアアアアアアア!!!!!!!??????」
プシャアアアアアアアアアアアアアア!!!と缶から紫の液体がほとばしった。……そういえばファンタだったな。などと今更思い出す辺りやはりかなり真剣に思考能力が低下してたらしい。
「うーむ…少し裾にかかってしまった……洗濯しなければ」
「テメエェェェ!!!!!ワザとだな!!!!???ワザとだろ!!!!ふ ざ け る なぁー!!!!!!!」
キ───────ィィンと耳なりが響くほどの絶叫をガキが発した。

 

「…さて、私は帰るとするか。君もそんな格好してると風邪をひくから早めに帰ったほうがいい」
「無視か!原因から目をそらすな!」
確かに私はファンタを飲みたかったけどさ、浴びたいなんて思ってネーヨ!!!なーに眼鏡かけてスかしてんだよ!!!待て!!なんで携帯掛けてんだ!!
「ああ、喜緑君かね?」
「電話しながらアタシの体ナニじろじろ見てんだってーの!!」
今度は打って変わって私をじろじろ見つめて……まさかさっきのファンタ服が透けて………?
視線を下に送ると同世代より(ほんの少し)発達の遅れている私の胸が見えて………………
「この、変た」
「すまないが女子の着替えを隣駅近くの喫茶店…ああ、そこだ、大至急頼む。」
へ?
パタン、と携帯を折りたたんだ。
「変態とは心外だな。その服を駄目にしたのは私だ。私はした事の責任くらいはちゃんととるさ」
なら自販機から逃げるなよ、と言いたかったがそれを我慢する。過ぎたことは仕方がない。それよりも替えの服を貰う方が重要だ。
コイツは携帯をしまうと櫛を取り出し、髪型を整えた。…その仕草が似合うのが更にムカついた。
「さて、そんな姿で往来に立つのも人目を引くからどこかへ行ったほうが良いな?そこの喫茶店にでも避難するぞ」
クソッ…なんでアタシの周りには表面だけ紳士のヤツが多いんだ!だからどいつもこいつも私が正面きって怒れないから嫌なんだ!!

「ぬぅ……」
店内に入ると奴は見事な采配を行った。
まず、びしょ濡れの美少女(洒落にあらず)の私を見ると少し訝しげにコイツを睨んだウエイトレスに
「すまないがまずタオルを数枚貸してくれ。この子が座って濡れないように乾いた物を最低一枚。
あと禁煙席で二名。キャラメルマキアートとエスプレッソを一つずつで。以上」
……と、言うよりこちらの要望だけをまくし立て、押し付けたと言った方がただしいけど。…威風堂々と話す姿にほんの少し惹かれたのは秘密だ。
あとウエイトレスを無視して席に座るのもどうかと思うが。
「なんだ?なにか不満でもあるか?あるなら不慮の貸しのある今のうちに言った方が良い。今ならまだ聞く耳を持ち合わせているからな」
…どうしてコイツはこんな自信満々なんだろうか。私には理解……出来なくはないがやはり出来ない。
「まずさぁ~?アタシに言うべき事無いかな?謝罪とか謝罪とか謝罪とか謝罪とか」
こいつはいきなり腕組みをしながら明後日の方向を向いて「喜緑君よ早く来い」なんて言い始めた。
まったく聞く耳もってねえじゃねえか。
「あといきなりタオルせがんだり、ウエイトレスを無視するのもどうかと思うなー」
ちなみにそのおかげで多少なり濡れた不快感を拭えた事実は今は置いておく。
「……じゃあ、暇だから少し言葉遊びにでも付き合ってもらおうか?」
そう言うと奴は腕組みを解き、私に講釈を説きはじめた。その姿はやはり威風堂々としており、どこか私を惹きつける。
「すべての商売の基本はサービスだ。これはわかるな?」
コクコク、と頷いた。
「サービスの根幹はなんだと思う?」
「もてなし?」
「そうかもしれないが私はそうは考えない。私は客を不愉快にさせない事、だと思う。例えば私がしたような事を断るとどうなる?多分そんなことにすら応じない気の狭い店、とでも悪評がながれるだろうな。
ならばどうする?私に応じるしか無いだろう。だから私は強気に出るんだ」
と、コイツが演説(?)を終えたと同時に注文の品が来た。
「私の奢りだ。気にせず飲みたまえ」
と言い、キャラメルマキアートを私にくれた。
「なあ……少し聞いていいか?」
コクン、と一口飲む。苦いだけのとは違い、カラメルの匂いと甘さが口に広がり、コーヒーの後味を残す。美味しい。
「なんだね?」
もう一口。多少甘さが強いがこれは充分に許容範囲内だ。それに対してコイツのコーヒーはミルクも砂糖も入っていないのでいかにも苦そうだ。

「つまり、結局全部こじつけだよな」

コイツは目を点にして呆け、私を見つめた。


「ハッハッハッハッ!!………その通りだクソガキ」
俺はメガネを外し、ネクタイを緩め、髪を乱した。
「最初に言葉遊びって言ったしな…いいなオマエ。はっちゃけてんよ」
見た目から推測してたバカじゃなかったな。ただのバカなら俺の言ってる内容なんて聞きやしないでもっともそうな事言ってれば信じるしな。
「なぁ…もう一つ聞いていいか?なんでオマエはそんな自信があるんだ?」
今のガキは最初見たときの印象とは真逆の、どこかおどおどした印象を思わせた。
「なんだ?イジメにでも合ってるのか?」
コイツは額に眉を寄せたしわを作り、真剣というか茶化しを許さないような表情を作った。
「小神あきらってアイドル…知ってるか?」
なんとも情けない、庇護欲よりも虐待欲を喚起するような顔だ。アイドル?何の関係があるのだろうか?
「知らんな。そいつが何の関係がある?」
ズッと無糖のエスプレッソを飲む。苦味と独特の風味は俺の舌と心を落ち着かせた。


「やっぱ知らないよな………………私の名前」

 

………しまった。地雷を踏んでしまったか?
そう言えば互いに名前も知らないではないか。なのにまぁ、俺ときたらよくべらべらと話していられたものだな。
「小神あきら……か。アイドルには生憎と興味が無くてな。知らない事で気分を害したなら謝ろう」
しかしここもまた、俺の詭弁の披露会場に過ぎない。舌先三寸で話を逸らすのは古泉よりも遥かに上手いと自負できる。
だが。
「それでも……アイドルの一人や二人は知ってるだろ?アイドルって言ってもまともな給料貰えるような奴は一握り。
その内でも知名度がある奴は更に一握り。……ワタシは、その選考外なんだよな…」
ただ自分で完結した話題を相手にぶつけて反応を見る────つまり、ただの愚痴などにはなんの役にも立たない。
ちなみに俺はこういう手合いは嫌いだ。同意や否定が欲しいくせに自分の意見は変わらない。
そんな堂々巡りの独り相撲に付き合わされる他人を考えて見ろ。バカな奴なら見えきった結論にも驚き、同意し、感動さえするだろうがな。
「アタシには自信は───」

カランカラン

喫茶店のドアに飾られている鐘が揺れる。
淡い緑に見えるパーマがかった、少し長めの髪を下げた女性がドアをくぐる。
「お待たせしました」
毎日見慣れた筈の彼女の姿はどこか違う色がした。常に全てを知っていながら黙っているような不思議な笑みを浮かべている女性。
「遅いぞ。喜緑君」

 

その人はどこか人間離れしている雰囲気を纏っていた。別にどこも人間離れした箇所は見当たらないが、それが逆に宇宙人か何かが「普通」の人間を模したような感じがした。
「……?何か私、変な顔をしてますか?」
「い、いや………なんでもないです………」
第三者の突然の介入によって私は少しだけ冷静さを取り戻した。
(……突然あんな話したんだし……引くだろうなぁ)
いきなりアタシが実はアイドルで、しかもやっていく自信がないだの言い始めたらおかしいとさすがに思う。
最初見たときにどこか惹かれるものがあったのは、子供のころアイドルになれると疑わなかったあの自信を亡くした私が、コイツは自信に溢れているように見えたからだ。
赤の他人に。亡くした私の自信の影を求めて。

……もう、やめるべきかな?

「君。顔を上げたまえ。濡らしてしまった服の替えだ。着替えたまえ」
はい、と言ったような顔で喜緑さんは私に紙袋を渡した。……そういえばコイツ、口調が変わってたな。人の前だと猫被ってんのか?

私はそんな取りとめない事を思いつつ紙袋を受け取り、トイレへと向かった。

 

「喜緑君」
「はい?何でしょうか」
ふぅ、とため息を机に吐きつけた。
『自信が無い』とあの小娘は言っていた。普段の私ならつまらん、と言って一言で切り捨てただろう。
「少しあの子に人生の先輩として話してやる事ができた。君は帰りたまえ」
「かしこまりました」
喜緑君はそう言って一礼をして、席をたった。

喜緑君が行ったのを確認すると俺はメガネを外し、髪を乱してネクタイを緩めた。
「クソガキめ……まったく、子供じみた悩み抱えやがって」
大体、自信なんてあってないようなものだ。金と同じく無駄にあれば幸せとは限らないし、無さ過ぎると不幸にはなる…ある程度あれば充分だ。
臆病なくらいが一番自分が磨かれる状況だ。自信とは、過ぎては曇り、無くしては折れる。 ガキで売れないアイドル……ふざけるな。まだまだそんなものは取るに足らないガキが勝手に作った幻想に苦しんでるだけだ。
俺はさっき言ったが、「自信がなくなった」程度で逃げ出すような悲劇のヒロイン気取りのバカの顔はイラつく。故に優しい言葉などかけるつもりは無い。
せいぜい泣き喚いて逆ギレして叫んで逃げるだろうよ。

……決して、あんな風な時期が俺にもあったからではない事を念入りに説明しておく。

 

紙袋の中身は質素な白いジャージだった。
私はそれを紙袋から出すと服を脱ぎ、折り畳んで紙袋に入れてジャージに着替えた。
(私、疲れてるよ……そんな自覚全然無かったけどな)
ふぅ、と図らずも溜め息が口をついた。洗面台の鏡にはテレビに映る笑顔のアイドルの姿は無く、ただ疲労し、憔悴したような童顔の中学生が写っていた。
(初対面の人に愚痴って、勝手な妄想して……あのままだと私、取り返しのつかないほど馬鹿な自虐言ってたかもしれないな)
私は手を洗い、ペーパータオルで水気を取り、鏡の中の自分と目を合わせる。
「自虐は一人で家でする。とりあえず奢ってもらうことに感謝。ジャージは後で返す。よし!」
自分に向かって今やるべきことを宣言する。簡単な自己暗示だ。
紙で作り上げたような脆い平静ではあるが、無いよりましだ。トイレを出たら「ありがとうございます」と言ってジャージの旨を言って「さようなら」と言うだけだ。
なにも難しくない。
紙袋を肩に掛け、ドアに手を伸ばす。…全てを言い終わるのに2分とかからない筈だ。私は深呼吸をする。
スゥ、……ハァ
こういうことは踏ん切り、きっかけが大事なのだ。私は手に力を込めて、ドアを開け放った。

私は席に向かい、まずどう切り出そうかと考えながら視界に入れると、喜緑さんとやらは帰っていた。
「……なにをそこで呆けてるんだ?早く座れ」
しかもメガネの無いブラックモード(仮)だ。私は早速嫌な予感が走った。なので帰りを切りだそうと、
「あの、コ」
「早く座れ」
遮られた。なにやら用件でもあるのだろうか?
私は言われるままに座り、ぬるくなったコーヒーに口をつけた。……相変わらず、甘かった。
「小神あきら。15歳。中学生アイドル。毒舌と幼顔が特徴」
「へ?」
「なにをマヌケ面晒してやがる。携帯で見たんだよ」
ああ…成る程。簡単なプロフとは言え、いきなり言われたので驚いた。
「芸歴は浅く、特にこれといった経歴も無い……フン」
「……ナンだよ」
人をあざ笑うような目で見下すな。
「自信が無い……そう言ってたな」
「それがどうかしたのかよ」
携帯をこちらに向け、コンコン、と指を画面に打ちつけながらこう言った。



「こんな程度の仕事も無いアイドルなら辞めろよ」


私は真実、突然の言葉に呆気にとられた。
「自信が無い?笑わせるな。自信が無くなったんだろ?子供のころ夢見たアイドルの裏側を見て幻滅したんだろ?」
そんな私に構わずにコイツは言葉で胸をえぐった。
「どうした。その通りだろ?自分の力量もわきまえず、ただ偶然のチャンスで手に入れただけの身分に最初は酔いしれたんだろ?」
違う、と言いたいが口が動かない。
「酔いがさめると自分が勝手に見た夢に裏切られたと勘違いしてさっきみたいに愚痴を吐く……何様なんだ?」
「好きだから…やってたんだよ」
「好きだから?ハァ?おまえの言う好きな事ってのは自信が無くなったから簡単に捨てられる物なんだな?へぇ。凄いな」
………言い返したくても、事実だ。
「…落ち込んでたんだよ」
「アイドルだろ?お前一人だけでやってる訳が無い。事務所の人間が関わってる。それなのに『落ち込んだ』だけで簡単に辞めるんだな。中学生なら少しはわかるだろ?社会の仕組みは」
「…………やめろよ」
「無理だ。俺の気がすまない。大体、元々本気じゃなかったんだろ?なら俺にも少しはわかるさ。学業の間の暇つぶしだったんだろ?本気でアイドルになりたかったわけじゃないんだろ?」
「……………………違ぇよ」
「何が違うんだ?偶然アイドルになるきっかけがあったからなってみようと思ったんだろ。違わねえよ。本気なら辞めたいなんて言わないしな。大丈夫だ。事務所とかも本気じゃないってわかってるだろ」
「……………フッ……フッ」
私は、この間違った理論に反論することができなかった。もしかしたら本心ではそう思ってなかっただろうか?
情けなさと悔しさと怒りに涙が溢れた。
「泣いたら止めると思ったか?残念。大体何も反論する言葉が無いならそうなんだろ?おい。軽い気持ちで始めたのが辞めたくなっただけなんだろ?なんで泣く必要がある?まだお前の本心の意見聞いてないぞ?」

 

「………な」
「聞こえねえよ。なんだよ」
俺は徹底的と言うわけではないが、それなりにこき下ろしたつもりだ。やる気の無い奴か自主性の無い奴なら反論の一つも出来ないだろう。
「……けるなよ」
「何がだ?主語をちゃんとつけろ。はっきりと喋れ。何を言ってるかわからねえよ」
うつむきながら涙をポツリと落としたまま何か言われても、くぐもっていて聞きとれない。
「ふざけるな!!初対面の人間が私の心を勝手に決めつけるな!!」
バンッ!!!!とテーブルに手のひらを叩きつけ、涙目のまま俺を睨みつけた。ここが喫茶店だって忘れてないか?
「初対面?それがどうした。お前の言った言葉を解釈するのには事前の顔合わせが必要なのか?どちらにしろお前は」
「私は努力した!他人は夢だと馬鹿にする夢を叶えて見返した!!その結果を簡単に捨てられるか!!」
「辞めたいと言っただろうが」
「愚痴を……真面目に受けるな馬鹿野郎!人が黙っていれば都合いいようにねじ曲げやがって!!私は辞めない!」
「はっ……どうだか。一度諦めたらまた欲しくなったんだろ?もしくはただ俺に反論したいだけか?」
「努力の結果をオマエの下世話な思い込みで汚すな!!わ」
俺はいい加減、うるさくなり始めた声を直接封じた。
「少し黙れ。努力?結果?そんな物は成功した後に振り返って初めて意味があるんだ。今は負け犬にすらなれてない子犬の鳴き声だ」
口を抑えられたままでも俺を不倶戴天の敵のように見る目は変わっていない。抑えた手のひらが噛まれたが気にしない。
「いいか」
俺は顔を近づける。
「どれだけの努力をしたかは俺は知らない。しかし今は若さだけしか取り柄のない体に頼っているだけだ。化粧もせず、髪を漉きもせず、……男の俺でもわかる。お前まだまだ磨ききれてないんだよ」
俺は手を離す。それに対するカウンターのように俺にビンタが振る舞われた。
「そんくらいわかってんだよ!!死ねっ!!」
そう言い残し、彼女は紙袋を掴んで走り去った。

 

 

 

「会長?」


─────少し、呆けていたらしい。目の前の書類を読む手が止まっていた。秋の薄暗い曇り空の送る風がガタガタと窓を揺らす。
「何かね?喜緑君」
「文化祭でアニメ研究会がプロジェクターを使うので貸してほしいと言ってきたのですが」
「自由にしたまえ」
「貸したら壊されました。修理費の捻出を頼みたいそうです」
「…………自腹で直させろ」
私は目の前の「文化祭要項」と書かれたプリントの見落としのチェックを再開した。
生徒会長は楽しい事が多いがその反面、つまらない事も多い。馬鹿な生徒の尻拭いもそれに含まれる。
……チェック終わり。次は模擬店などの届け出をチェックだ。
「……今年は随分と野外の店が多いな?」
「ああ、それは体育館にアイドルを呼んでライブをするらしいので、外にあると買い食いが楽になるかと」
「ふむ……そうか。一通り目を通したが問題ない。これで提出させてもらおう」
トントン、と資料をまとめる。席を立ち職員室に向かおうとすると喜緑君が
「そういえばそのアイドルが今日下見に来ているらしいですよ。顔合わせだけでもしてみては?」
と言った。まぁ、どうせ暇なのだからアイドルとやらを覗くのもやぶさかではない。
なので俺は職員室に書類を提出するとその足で体育館へと向かった。

アイドル……そういえばあのクソガキもそうだと言ってたな。俺が発破掛けたが……どうなったかね?
ふぅ、と空気を吐き出す。
…別に自分で何か出来る訳でもないが、説教する口だけは一人前だったな。俺も歳を無駄に食ったか?人を誉めるより説教する方が楽しい。
「はっくしょい!!?…白石!?寒いぞ!」
「そりゃそうだ。秋空の下で制服一枚ですから。あきら様はさのやうなこともおわかりになられぬのでしょうか?」
「私の喉の心配しろって言ってるんだよ!つっかえねえな!」
「知るか」
……どこのバカだ?放課後に喚きあってる奴らは。恥と言う言葉を知らないらしいな。
注意しようと人影を探すと、
「この前初対面の奴にファンタぶっかけられて夏服しかねぇんだよ!!」
「私服でいいじゃないですか」
「あ……」
…………低次元の言い争いをしている二人組が入り口にいた。。
「でもなんだかその日辺りからやる気出ましたよね?」
「私を馬鹿にされたんだよ……次に会ったらぶちのめす」
「あきら様ツンデレー。『私…あの人が忘れられないっ』」
「死ねっ!!!」ブンッ
「顔赤いデスヨー?」ヒョイッ
なにやら聞き覚えがあるような無いような声だ。まぁ顔でもみれば真偽はわかる。
スタスタと歩み寄る。するとどうやら男が気づいた。
「あ、ここの生徒さんですか?このチビが今度ここでライブさせてもらう」
「(誰がチビだっ!!)おは☆らっきー!私は小神あき」



「あ、」
「あ。」

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最終更新:2007年10月24日 21:44
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