「やっほー!キョンキョーン!予告通りに来たよー!」
時計を見ると午後7時。1分の違いなくこなたは来た。
「あー!こなちゃんだー!」
「おっ、妹や。今日も元気で何よりだ」
俺より足早に出た妹を、どこぞの仙人のような喋りで撫でるこなた。
左手にはスーパーの袋。持ち手のビニール部分が今にも破れて落下しそうなくらいだ。
「お前…言ってくれれば……」
「何言ってんのっ。私がキョンキョンの家にご飯作りに行くって言ったんだからこれぐらいはね」
何言ってるの、はお前だ。言い出したのはお前だが、今から作業するのもほとんどお前だろうに…。
不意に罪悪感が襲って来た。
「ほら、ここから中ぐらいまでは持って行って……いや、持たせてくれ」
「あ、ありがとー」
こなたの左手を取って袋を受け取った時、こなたの手はすぐさま赤から黄色に移り変わる。
それもその筈だ。こなたの持っていた袋は無理って程じゃあないが俺でも片手では重かったりする。
「ほら、疲れてるだろ。とりあえず中に入れよ」
「あ、うん。お邪魔しまーす」
こなたは陽気に妹と一緒に家に入って来た。
その時何気ない仕草だが……左手を上下に振っていた動作が、また、俺の罪悪感を募らせていたがな。
おっと、言い忘れていた。
何故こなたがウチの家の晩飯を作りに来たかと言うと、今日は俺の両親がいないからだ。
学校で談笑の中でその事を呟くと、こなたが率先して「じゃあ私がキョンキョンの家で晩御飯作ってあげるよ!」と言い出したのがきっかけ。
今日は何をデリバリーしようと考えていた俺としては有難い限りだ。拒まず俺は感謝した。
そして、「じゃあ夜7時に行くね」と言って終わった。そして、ぴったり来た。
もしかして、家の前で7時まで待ってたんじゃないのか…?
「んじゃあキョンキョン。台所借りるよー」
こなたの声で我に返った。
テーブルにはコップが1つ。ああ、俺がこなたの為に麦茶を入れたんだったな。
俺はその片づけをする為にコップを持って、こなたについていくかのように台所へ行く。
「悪い、台所散らかってたな。3分くらいあれば終わるからちょっと待っててくれ。」
「ん、あいさー」
ピシッと敬礼をするこなたは、まだ俺が運び込んでから誰も触れていなかったビニール袋の中身を弄り始めた。
そういや、何があったんだろうな。俺は皿やらマグカップを片付けながらこなたの手を見ていた。
人参に玉葱、豚肉にー…ジャガイモか。
「こなた」
不意に呼んでしまった。晩飯が解ったからだ。
「ん、何?」
人参を片手にこっちを見る。
「晩飯は、カレーか?」
「おおっ、よく解ったね!」
「俺もさんざんカレーのお使いの時はそのメニューだったからな。」
「ふっふーん、嫌いじゃないでしょ?」
ピシッと人差し指を俺に向けて問いかけて来る。
ああ、寧ろ好きだ。っつーのが俺の回答だ。
誕生日の晩飯はカレーを求めていたな。安上がりで2日くらいはもつからな。
こなたが大体材料を台所の空いてるスペースに置くと、ビニール袋の底が見えてきた。
「おっ、キョンキョンスピーディーだねぇ。もうこんくらい空いてれば作れるからいいよーありがと!」
こなたは俺の前に出て、無理矢理にでも退かして来た。
従うままに俺はどいた。
こなたは俺のお袋のエプロンを着けて、まな板と包丁を取り出す。
いちいち仕草が可愛らしい。小動物のようだ。
「むっ、高校2年生に何たる屈辱の言葉っ」
しまった、口にしていたようだ。性格上こういうコトがよくあるから悲しい。
「キョンキョン気をつけなよー?さもないと……」
あはっ、という顔で俺に警告してくる。 包丁右手に。
「あ、ああ。すまん。以後気をつける」
軽く殺気が出てる気がした。勿論そんな"感覚"だ。こなたが出すハズ…ない、よな?
「わかればいいんだヨーわかれば。あ、後はやっとくから妹ちゃんの宿題でも手伝っ………」
言葉が途中で切れる。
「どうした?」
「キョンキョン…やばいよぉ…」
急に眉をハの字にして、懇願してくる。
「今からキョンキョン自分の宿題やって!そして明日宿題写させて!」
あ、そういや宿題あったな。なんだっけ。数学プリントに国語の予習だっけか。
「あと英語の英文読解だよ……はぁ…」
こなたを改めて俺に背を向けて人参を切り始める。心成しか音が具合悪そうだ。
これでは晩飯も雰囲気悪そうだ。まぁ俺もやらないとならんしな。
俺はこなたの横で言ってやった。
「オーケー、こなた。晩飯までにきっちりやっといてやる。だから美味い飯頼むぜ!」
胸を叩き、自慢げに言った。
「流石キョンキョンだよっ。大丈夫!まっかしといて!その代わりそっちもよろしくね!」
親指を立てる"グー"の仕草をして、こなたは鼻唄交えつつ料理に取り掛かる。
俺はこなたにバレないように保護者のような目で笑った。
っと、そんなことしてる場合じゃない。俺も約束したんだ。
俺はすぐさま2階に上って、宿題をリビングに移送して勉強に取り掛かった。
「でっきたー!」「おし、終わった!」
近い2ヶ所で同時に喜ばしい声があがった。
因みに妹はリビングに来て俺の妨害したり、シャミを追いかけて家を色々走り回った挙句、ソファで寝ていた。
そして、前述した声で目が覚めた。
「えっ?あっ、寝ちゃってたー。あ、いい匂い!」
「ふふふ、今日は特別美味しいのが出来たんだよ。自分でもビックリさっ」
エプロンを外して、椅子の背もたれにかける。
……ん、そういや大事なものを忘れていたよーな……カレーに必要な……
……………ライスだ。米。ご飯。
「うわっ!ご飯炊いてねぇ!」
「それはとっくのとーに終わったよー」
安堵の息を吐く。
「すまんな、こんな俺で。もうちょい気ィ利かせてたら」
「悲観しない悲観しない。ドジは裏を返せば大切な要素になるんだよ?」
何と機転の効く奴なんだろう。それでも流石に悪いと思うけどな。
「ん、じゃあ盛り付けくらいはさせてくれ」
「お、ありがとー」
こなたと入れ違いに俺は台所へ向かった。
「あ、宿題。やっといたぞ。俺なりにだから完璧じゃないがな」
「お、さっすがー!ありがとうネー」
盛り付けも終わって、俺と妹とこなたの晩餐会が始まったわけだ。
盛り付けっつっても、カレーをご飯にかけただけである。
「「いっただきまーす」」
こなたと妹の元気な声が重なる。
俺も素朴に「いただきます」とだけ言って、スプーンでカレーを掬って口に入れる。
「……美味い。」
ほろりと口が勝手に動いた。
「おいしいよこなちゃん!私もおいしいご飯作りたいなー!」
「おっそう言ってくれて嬉しいよ!妹ちゃんもお母さんの手伝いをしてると上手くなるって!」
いつになくハイテンションだな。見てて楽しい。
妹の小学校での生活を聞いて懐かしい小学生の頃を思い出すこなた。
逆に、こなたや俺の高校生活を聞いて、早く高校生になりたい!と言い出す妹。
その他諸々、談笑しながら食ったが20分後には俺達3人は全員おかわりをしていた。
お陰で三合の白飯もすっからかんだ。
満腹。それに尽きる。気持ちとしてもな。
またもや俺は進んで片付けに入る。
こなたが手伝おうとしてきたので断ろうとしたが、それもマズいと思い一緒にすることにした。
妹はリビングでテレビを見ている。
「なんつーか…本当にありがとうな。」
「ん?私は何もしてないよ。」
「お袋達がいなくて、こんな美味い飯にありつけると思わなかった。これからはちょくちょくこなたの飯を食いたいもんだな。」
洗剤をスポンジにつけながら適当に言った。率直な感想だ。
ゴンッ
「わわっ!いたたたたた……」
ゴシゴシと皿についたカレーを落とすのに集中してると、不意に音がする。
こなたがマグカップを足に落としていたようだ。屈んでいた。
「ちょっ…こなた大丈夫か、」
「あ~…うん。流石に痛むけど~…」
ペタッと床に尻餅をついて痛みを発する右足をプラプラとさせる。
「椅子に座ってろ。流石に折れてはないと思うが氷用意してやる。」
「ありがと~…イテテ。」
立ち上がろうとするが、右足に力が入らないのかもう1度へたり込む。
「…ふぅ、体の力抜け。」
そう言いながら俺はこなたの落としたマグカップを台所に置く。
そして、こなたの両足の膝下に左腕を通し、右腕で背中を支えてやる。
「えっ!?うわわっ、何してるのキョンキョン!」
いわゆる―――お嬢様抱っこだ。俺はこなたを担ぎ上げた。
「何って……歩けないんだろう?」
おんぶをしようとすると、多分断って意地でも立って歩くだろうからな。悪化させちまうのだけは勘弁だ。
ということで、俺は無理矢理運べる担ぎ方をしたのだった。
「そ…そうだけど何もそこまで……」
こなたの大きな目が前髪で見えなくなった。どうした?頬が赤いぞ。
「熱…あるのか?」
こなたを椅子に座らせてから、俺はこなたの額に手を当て、もう一方の手で俺の額に手を当てる。
「! あぅ……~~~~~~」
こなたはそれだけ言い、熱に逆上せたのかクタッとなり、何も言わなかった。
「ちょっと熱があるみたいだな。」
「………ぅ……」
小さい声で何か言っていたが聞き取れなかった。
とりあえず、俺はこなたを再度担ぎ上げ、妹をソファからどくように促しこなたを寝かせる。
っと、忘れてた。氷だ氷。
小走りで傍の洗濯物の中からタオルを2つ取り出し、ビニール袋に製氷機から氷を取り出して入れ、そして再度リビングに戻る。
こなたの身長では、ソファに全身入りきっているので足に氷が置きやすかった。
置いた時に少し冷たさに悶えるこなたが少々可愛く感じた俺はSなのかね。
「おーい、大丈夫かー?」
「……大丈夫…なんだけど……」
それは良かった。しかし、熱風邪は発症直後が肝心ってな。しばらく寝とけ。
言い残して、俺は残る食器の片付けをするべく台所に向かった。
「ふぅこんなもんか。」
しかし久々に食器洗いに力を注いだな。見事にピカピカじゃねぇか。
ステンレス製の台所を布巾で拭いて、その布巾を洗い、最後に手を洗って終了した。
「やめと~けと、いうべ~きかぁ~」
気持ち良く作業を終えた俺は、洗い立ての食器群の中からコップを1つ取り出して、麦茶を注ぐ。
「そういや、こなたは大丈夫なのか?」
もう1つコップを抜き出し麦茶を注ぐ。そしてそのコップをリビングに持って行く。
「こなた、大丈夫か?」
「……………………」
返事が無い。
「おーい、こなたー?…泉さーん?」
再度言っても返事は無かった。
額から鼻元にかけて氷を包んだタオルを置いてあるから表情が読めない。
もしやと思って、口元に耳を寄せた。
「……くー……くー…」
案の定寝ていた。
そういや、こいつが言う限りじゃ深夜はネトゲであまり眠ってないらしいな。
授業中には時折寝てはいるが流石に睡眠時間が足りなかったんだろう。
こなたにはこういう安息……はオーバーか。ゆっくりする時間が必要だったのか。
俺はクスッと笑って、こなたに持って来た麦茶を飲んだ。また入れてやればいいさ。
することにアテも無いので、俺はちゃんとした宿題をこなたに渡せるように見直しをした。
ぷにっ
頬を突かれた。
「んー……」
薄ら目を明ける。こなたが目の前にいた。
「寝顔って誰でも可愛く見えるよネー」
ニマニマと笑うこなたがいた。
いつの間にか俺は寝ていたようだった。
「ん……こなた…大丈夫なのか?」
「そりゃあもうばっちし!キョンキョンのお陰さ!ありがとうネ!」
俺は何もしてないんだけどな。その回復はこなたの精神力の賜物だろう。
「そうか、良かったな。これからはネトゲもいいがちゃんと睡眠も取れ。」
「んー、それは…出来ないかなぁ、」
ちょっと引き気味に拒否られた。後悔するのはお前だぞこなた。
「生き方は人それぞれなんだヨ。それで倒れるならその人個人の責任だし。」
だが、それで周りに心配かけたらどうするんだ。
「んー、そうだね……キョンキョンとかに迷惑かけるのは……」
しばらくこなたは現実の天使と電脳の天使の闘いを脳内で繰り広げそうだ。打ち切りにしとくか。
「まぁ俺としては頼ってくれてるのは喜ばしいコトでもあるから、じゃんじゃん頼ってくれ、な。」
「うん、その時は頼むよー♪」
でもアレは勘弁…、と言い足してきたが何のコトだかさっぱりだ。
「ん、それじゃあありがとうねー。」
俺が起きた時、時刻は既に10時半。俺達は1時間くらいは寝てたことになる。首が痛い。
流石にこなたの親父さんも心配しているだろう。
こなたを帰らせようとしたが、こんな真っ暗な時間じゃ、幾ら格闘技やってるこなたでも危ない。
俺は、愛車の後ろにこなたを立たせ、漕げる限り全速力でこなたの家に向かったんだった。
「おぅ、こっちも今日はありがとうな。また…頼むぜ。」
「おぅ、合点承知!」
胸を叩いて、こなたはまたもや"グー"をしてきた。
こなたが自分の家の扉の内側に入って閉まるまで俺は見送り、そして自転車を走らせた。
夜風が涼しい。3時間半―――寝てたから2時間ちょいか――が振り返る。
家庭的なこなたを見れたのが最良点だ。学校で見るのに見ないものを見ると新鮮だ。
出来れば、もう1度見たかった。
ふと、道中で俺の携帯がポケットから鳴り出した。
【泉こなた】と件名無しで表示された。
「ん、何だ?お礼ならさっきもしたし、寧ろこっちがしたいくらい……」
キキィッ!
思わずブレーキを力の限り引いてしまった。
片手運転だったから転倒しそうだったぞ。
「なっ…あいつ……」
携帯を握り締めていた。
次の日問いただしてやるとしよう。そして即刻対処せねばならん。
内容はこうだ。
送信者:泉 こなた
件名:(無題)
内容:
今日はありがとうネー。(=ω=)
妹ちゃんは相変わらず元気でこっちも嬉しくなるよ~ (ピースマーク
私の料理が食べたいなら大歓迎。たまにはウチに来て見る? (笑いマーク
まぁそれは冗談だけどね。ウチに男の人呼ぶとおとーさんうるさいし~
まぁ気が向いたらお邪魔するよー。
あ、そうそう。これはオマケオマケ~。受け取ってくれたまへ~↓
それじゃあおやすみー。学校で宿題貸してねー♪
まあこれはいいとする。というか別に普通の文面だ。
問題は"オマケ"だ。
俺は何事も無くスクロールした。画像が気になるからな。
………俺の寝顔だったさ。
「あいつ……」
笑いながらも憎く思った。
次の日。俺のその画像がSOS団全員に回ってるとは思わなかったけどな。あいつめ…