P.M.7:00。家のインターホンが鳴った。
「こんばんは、柊かがみです……ってアンタと妹だけだったわね。かがみよ。開けて」
ドアホンからきっちりした声が聞こえてくる。名乗った通りかがみだ。
「おう、ちょっと待ってくれ。」
俺はそう言うとドアホンを切って、すぐさま玄関に向かい扉を開けた。
「おぅ、すまんな。」
「いいわよ別に。」
「あーかがみんだー!」
妹が後ろから俺の脇を潜ってかがみの元へ向かう。
「おっ妹ちゃんじゃない。相変わらず元気そうね」
左手にスーパーの袋を持っている為、右手で妹の頭を撫でるかがみ。
黒のオーバーニーに肌色のミニスカ。薄着のシャツの上にパーカー付きの上着だ。
なんとも似合ってる。
「綺麗、だな。」
フッと笑って言ってやった。
「な、何言ってるのよ。私が綺麗なワケないじゃない。」
「着こなしてる、って言った方が良かったのか?」
「それも変わらないでしょ。でもまぁ、うん、ありがと。」
目線を外しながら…少々顔が赤いか?かがみは言う。
「かがみんどーしたのー?熱ー?」
「ん、別に。そんな事ないわ。大丈夫よ。」
かがみは、妹の心配を撥ね退ける。本当に大丈夫なのかね。
おっと、流石に女子に荷物持ちを託すワケにもいかねぇな。
「かがみ、それ材料か?わざわざ買って来てくれたのか。ありがとうな」
右手でかがみの左手にあるビニールの持ち手に触れ、受け渡される。
「もしキョンのところにある材料で足りなかったら嫌だからね。もう買っちゃおうと思って。」
中々重い。流石は"こなた称"で男勝りのかがみだ。
「……キョン、あんた私のコトそう思って……?」
…もしかして俺
「喋ってたわよ。……気をつけなさいよ。」
無言の重圧を浴びてしまった。すまんかがみ。悪気は無いんだ。
「と、とりあえず、家に入れよ。疲れただろ、こんな重いモン持って。」
「あ、そうね。お邪魔します。」
「まぁまぁ狭いトコロだけどどうぞー♪」
妹よ、そういう発言は自分が"下る"時にする発言だ。事実ではあるが。
おっと、言い忘れていた。
何故かがみがウチの家に来たかと言うと、晩飯を作りに来てくれたからだ。
更に今日は俺の両親がいないからだ。かがみが買ってくれたのはその材料である。
学校で談笑の中でその事を呟くと、かがみが率先して「じゃあ私がキョンの家の晩御飯作ってあげるわ。」と言い出したのがきっかけ。
今日は何をデリバリーしようと考えていた俺としては有難い限りだ。拒まず俺は感謝した。
そして、「じゃあ夜7時に行くわね」と言って終わった。そして、ぴったり来た。
かがみのコトだ。家の前で7時まで待ってたんじゃないのか…?
「あまり、期待はしないでね?」
ボーッとしてたからかがみの声で我に返った。
期待しない、ってそんなワケないじゃないか。かがみの晩飯だ。貴重なモンだ。
「バカ、本当に期待しないでよ。しょーもないものよ」
それでもまともに晩飯作れない俺から見れば充分だぞ。
「ん…ありがと。」
さっと台所に向かって行ってしまった。
おっと、そういや台所放置してたな。
「すまん、かがみ。ちょっと待っててくれ。台所汚いままだ。」
俺は、金魚のフンのように台所に向かう。
「アンタ…客人が来てるのにそれはないでしょ。」
溜息吐かれた。ご尤もだ。
「悪い。ちょっとリビングにでも行っててくれ。5分あれば終わる。」
「いいわよ、5分くらいなら買い出した材料纏めておくわ。」
「…本当にスマン」
「いいって。」
兎に角、俺はかがみのエプロンすがt……否!手料理を食う為に手早く台所掃除に取り掛かった。
同時進行でかがみが後ろで屈みながらビニール袋から材料を取り出す。
流石に後ろで「人参とー…」とか甘ったるい声で囁くかのように呟かれていると気になる。
皿を磨いてる時は後ろを向かせて貰った。誰にも許可は取ってはないが。
かがみが床に材料を置いていく。
人参に―…玉葱。それにウィンナーとキャベツにピーマン。それに豚肉か。
「かがみ、何を作ってくれるんだ?」
古泉のようなスマイルでかがみに聞いてみた。
「んー…野菜炒め。後味噌汁とか………」
作業で忙しいのか質問を受け流すような返答の仕方だった。
野菜炒めか。実にシンプルで申し分無い。
「あ゛っ!」
かがみが飛び上がった。
「どうした?」
「………もしかして今、私晩ご飯のメニュー言った?」
ん、言ったぞ。それがどうした。
「………ん、何でもない……」
そうよねいずれ解るんだし…、とかなにやら後から独り言言ってたがどうしたんだろうか。
「あ、そんくらいやってくれればいいわよ。ありがと。」
その30秒後、俺は後ろも向かずに皿洗いしてた横からぬっとかがみが顔を出してきた。
「エプロンとか、ある?」
ああ、それならお袋ので良かったら。
台所の壁にかけてある質素というか、紺系のラインが入ったエプロンをかがみに渡す。
「ありがと」
かがみは慣れた手つきでエプロンを着用して、紐を後ろで留める。
「ん、それじゃあいいわよ。宿題でもしときなさい。」
と、冷たくあしらって来た。
しかし、それではかがみに頼んだのではなく"使って"る。そんな感覚になっちまう。
「いや、手伝わせてくれ。やって貰ってばっかじゃ何か罪悪感に苛まれる。」
「そう?私はいいんだけど。言い出しっぺだし。手伝ってくれるなら―…材料切るの手伝って。
了解した。イエッサー。
「"Yes,sir."は男に使う言葉よ。女になら"Yes,ma'am"だったと思うけど……意識して使ってるんじゃ…ないでしょうね?」
む、それは知らなかった。すまん。
ていうか、包丁向けないでくれ、な?さっき"男勝り"って言ったからって…
「キョーン~?もう1度言ってくれるかしらー?」
自重する。すまん。今度一切言わない。誓う。誓約書でも書こうか。
「そこまでしなくていいわよ。」
あっさり機嫌を戻した。嫌われてるわけじゃなさそうだ。
とりあえず俺はもう1本包丁を取り出し、かがみが半分に切った人参を切っていった。千切りっていうのか?
「とりあえずはこんなもんか。」
5,6分もすると全ての材料は原型を留めず炒められるだけの存在になってしまった。
「……にしてもかがみ、大丈夫か?」
因みにかがみは、というと。
「う、うん…。」
目に涙を浮かべて苦しんでいた。
泣かせた奴は誰だ?俺じゃないぞ。人じゃないぞ。
そう、解ってたかも知れないが玉葱だ。
人参を切り終えた後、俺はかがみにウィンナーを切るように命じられた。
その時に、かがみは玉葱を切っていたのだ。
俺は淡々とウィンナーを3mm程度に切っていた。
すると、横から鼻を啜る音が聞こえて来た。
周辺視野でかがみの方を見ると、包丁を持たないかがみ右手がかがみの顔に何度も行っていた。
不思議に思い、直接見ると、涙が頬を伝っていた。
「お、おいかがみ…どうしたんだ?」
聞かなくても玉葱切ってる時点で何となく予想はついたんだが。
「う……大丈夫……」
とは、言葉では強がっていたが、目は相当染みて痛いのだろう。だんだん右手が顔に行く回数が増える。
「ほら、目痛いなら顔洗って少し離れとけ。回復してからまた働いてくれよ。」
タオルを渡し、水道の栓を捻って水を出してやる。かがみは水を汲み、顔を何回も洗う。
「ご…ゴメン……それじゃちょっと……」
「おう、やっといてやる。」
つーわけで現在に至る。
「ありがと……っていうか恥ずかしいトコロを…」
「気にするな。こなた的に言わせて貰うと"萌え要素"じゃないのか?」
「うっ煩いな!」
タオルをペシッと投げつけてきた。
「もう、要らないんだな。」
顔についたタオルを剥がす。
「……大丈夫よ…ありがと。」
「それじゃ、この後はかがみシェフにお任せ致しますどうぞ~」
と言い残し、俺はタオルを持って台所を出た。
「そこまでいいもの作れないって何度……はぁ。」
かがみはそう言うと黙々と調理を始めた。
「お、いい匂いするな。」
ソースでいい具合に焼けた肉と野菜の匂いが香る。
おおよそ3分後、俺は戻って来た。
その間何をしていたかというと、タオルを洗濯籠に持って行くついでに洗濯物洗ってた。
ずっと台所にいても邪魔だろうしな。
んで、洗濯機にかけてる間戻って来てるワケだ。
「ちょっと焼き過ぎたかも知れないけどね…」
アハハ、と笑いながらかがみはフライパンを片手で持ち上げ調理箸で具を混ぜる。
「ちょっとだけ、食べる?」
フライパンをコンロに置き、火を止め、箸で肉を挟み俺の前に持って来る。
「はい、あ~ん」
有無を言わさず、にっこりと笑ってくる。畜生、断れないじゃないか。断る気もないが。
言われるがまま、俺は口を開き、箸ごと肉を入れる。
「…は…あつっ!~~~ん、美味い。」
「ほんとっ!?」
「嘘で言うかよ。いい具合に味が出来てるぞ。」
味付けのコショウやソースが上手に絡まってる。飯が進みそうだ。
「…あ、ご飯炊いてないや…」
忘れてた。かがみに頼りっ放しだったからやっちまった。
「やっといたわよ。3合でよかった?」
なんというかがみ。俺に出来ないコトをやってのけるそこにシビれるあこgゴンッ
「何言ってんのよ。」
顔を赤くしてグーパンしてきた…いっつ…
そんなやりとりしてると、フライパンの横にある鍋が沸騰し始めた。
「あっ、キョン!ざるに入れた玉葱持ってきて!」
味噌汁作ってたのか。盲点だった。
叩かれた部分を擦りながら玉葱をかがみのトコロへ持って行く。
「んじゃあ、お湯が跳ねないように入れといてー」
と言い残し、俺の家の冷蔵庫から味噌を持って来た。
「流石に我が家の味噌とかあるからね。高いし。貰うわよ。」
どうぞ。かがみは味噌をスプーンでおたまに少量掬う。
グツグツと玉葱入り湯が更に熱される。
「そろそろかしら。」
そう言うと、味噌の入ったおたまで茹でられた湯を掬い、箸で溶いていく。
溶いて、もう1度湯に入れる。繰り返された。
繰り返される度に玉葱しか入ってない透明色の湯は、オレンジより濃い色の"味噌汁"になった。
さらにしばらく置いてから、かがみはおたまで味噌汁を掬い、小さい皿に乗せて味噌汁を味見した。
「んー……濃い、のかなぁ…わからないわね…」
1回掬っただけの味噌汁を口の中で賞味し捲ってるのだろう。困った顔をしている。
「…ねぇキョン。このくらいでいいのかしら?」
同じ皿に今度は俺の分を入れて渡して来る。
皿に口を付けて、次は冷ましながらゆっくりと、飲んだ。
……正直俺にもよくわからんわけだが。かがみでわからんのに俺にわかるか?わかる筈も無し。
「……こんなもんじゃないか?俺もわからん。」
「んーそっかー。んじゃあこんなもんで。」
カチッとガスを止める。味噌汁が沸騰しなくなる。
「んじゃあ、お皿取ってちょうだい。入れるから。あ、お椀とね。」
とりあえず7時半もとっくに回ってるので、俺は手早く真っ白な花がポイントされてる皿とお椀とガラスのコップ3セットを取り出す。
かがみは出来上がった料理をテキパキと皿に入れてるので、俺は味噌汁を注いだ。
「キョン、余るから少し多めにしてるわよ。」
構わんが。それにしてもかがみの皿に盛られた量…少なくないか?
「そ、そんなことないわよ?」
少し声が裏返ってるぞ。
「気のせいよ。」
そうか?まぁいいんだが。
…ははぁん、さてはダイエッtぐわっ!
「気・の・せ・い・ね?」
ニッコリ笑顔だが、怒りマークを頭につけてるかのような表情で、脇腹殴って来やがった…
「は、はい…、それじゃ俺は皿をテーブルに配って行かせて頂きます……」
「よろしく♪私はちょっとトイレに行って来るわ。」
そういってかがみはエプロンを壁に丁寧に掛け直し、台所を後にした。
その間に俺は脇腹から発する痛みを抑え込みながら、皿とお椀とコップをテーブルに置いていく。
ちょっとやりきった感になっていると、白色が夕飯に足りないコトを思い出す。
「おっと、飯だ飯。」
すっかり忘れてたぜ。
俺はすぐさま純白のお椀を食器棚から取り出し、ちゃちゃっと入れてテーブルへと行く。
「ありがと。」
「わーいばんごはーん♪」
ご飯入れてる間にかがみと妹は既に椅子に座っていたようだ。
ご飯を入れたお椀を3ヶ所に置いて、俺はかがみと妹の向かい側に座った。
「それじゃ」
かがみが音頭を取る。
「いっただっきまーす!」
俺のゆっくりした声を掻き消して妹が乗ってしまった。まぁいいか。
箸をとってご飯の椀を手に取り食おうとしたらかがみが手を動かさず、妹の顔を見ていた。
「どうしt……」
心配になって言おうとしたがなんとなく、解った。
俺も子供の頃に母さんから料理を教わったコトがある。
夏休みの宿題か何かで強制的に晩飯一食の調理だった。
母親に教えられながらも、洗う、切る、炒めるまで全てやった。
その後、家族が揃ってる中で晩飯を食った。
その時、俺は多分今のかがみみたいなコトをしていただろう。いや、していたに違いない。
妹も箸を取って、玉葱と人参を挟んで口に、入れ、た。
昔の俺も、今のかがみも求めたモノは1つだけだ
「おいしー!」
そうだ、その一言だ。
かがみはほっと溜め息を吐いて、やっと箸を手にした。
「…? キョン、どうしたの?ニヤけてると気持ち悪いわよ。」
言われて気付いた。ニヤけてたのか。
ソースを口につけて笑う妹を無視して、俺も食事に入った。
俺は淡々と、さっき試食した野菜炒めの味を食した。やはり白飯がよく進むな。
食事中は、かがみと妹でお互いの学校の話をしていた。
ああ、こうなって妹の学校生活を聞くともう1度小学生に戻ってみたいもんだ。
妹は逆のようだ。高校生になって俺達みたいに自由になりたいらしい。
だがな、妹よ。真の自由は小学生までなんだぞ。
俺はそのコトをじっくり諭してやりながらご飯2杯目にありついた。
因みに、その諭した結果は皆無だ。
「ごっちそーさまー!」
「ご馳走様でした。」
「ごちそーさん。」
3人ともしっかり食い残し無く食べきれたところで晩餐会は終わった。
ピーマン嫌いの妹がピーマンまでも空にしていたコトには驚いた。
「あ、下味っていうの?ちょっとピーマンの風味消してみたのよ。」
皿洗いしながらかがみは解説してくれた。
どうやら、ピーマンを他の野菜より小さく切って、後は塩コショウやら何やらでやってみたらしい。
しかし、かがみ。失礼だが、見直したぞ。料理もしっかり出来たんだな。
笑って褒めてやると、かがみは皿をスポンジで擦りながら後頭部を向けて来る。
「…………つかさが教えてくれたんだけどね。」
正直だ。だが、教えてくれただけだろ。
「まぁ、そうだけど。」
「調理したのはかがみだし、そのピーマンのやつもお前がやったんだ。それは充分かがみの力だ。自信持てよ。」
「あ、ありがと…、あ、はい。皿。」
目を見て言ってやると顔を赤らめていた。
それから皿を洗い終えるまで、かがみは終始無言だった。
心成しか、耳が赤かった。
「んじゃ、そろそろ帰るわね。」
時刻は8時半。楽しい時はあっという間に過ぎるな。
かがみは、1人で先々と玄関に足を進ませる。
「お、ちょっと待て。こんな暗い中じゃ危ないだろ。送ってやるよ。」
「別にいいわよ?そこまで気使わなくても。」
「いや、使わせてくれよ。晩飯作ってくれたのもあるし。」
「あ、んじゃお言葉に甘えさせてもらうわ。ありがと。」
ちゃちゃっと俺は携帯をジーパンのポケットに入れて、靴を履く。
「えー、かがみん帰っちゃうのー?」
妹がリビングから出て来た。
「うん、ごめんね。また来るから。」
「約束だよっ!」
妹は、足に合わないハズの俺のサンダルを履くと俺を追い越してかがみと指切りげんまんをする。
「うん、来るわ。今度はハルヒ達と一緒にトランプとかしましょ。」
妹の顔が晴れやかになる。かがみは保育園の先生に向いてるのかもな。
「お待たせ。んじゃあ妹は留守番頼むな。」
かがみと俺は、自転車と一緒に並び歩く。
「はーい、またねーかがみーん!」
近所迷惑おばさんになりかけるかのような大声で妹はかがみを見送った。俺はオマケだ。解ってるさ。
自転車に跨り、走らせた。
「かがみって可愛いところあるよな。」
唐突にこんなコトを言ってしまった。
さっきの妹の顔を見て、評価を待ってるのを思い出したからだ。
「へっ、きゅ、急に何よ//」
「いや、ふと思っただけだ。いちいち照れると噛むところとか、な。」
「う、煩いな……///」
もしかしたら自転車に乗ってなかったらまた殴られてたかもな。
何故か爽やかに笑えてしまった。
しばしの沈黙。今日の飯のコトを振り返っていた。
「あ、そうだ。なぁかがみ」
大事な疑問点が抜けていた。
「何よ」
振り向いてくれたは良いが、急につっけんどんだな。
「調理する前にさ、俺が"晩飯何だ?"って聞いただろ?」
「うん?…ああ、聞いたわね。」
「あの時、"野菜炒めと味噌汁"って答えてから何か後悔してなかったか?」
「後悔…?」
顔を前に戻して、かがみは数秒の間考えていた。
「………あ~~~~…」
思い出してくれたようだ。
「あれ、何で後悔したんだ?教えてほしいんだが。」
「………笑わないでよ?」
多分な。
「料理する前からそんな質素なモノを作るって言ったら、嫌、だと、思った、から……」
唖然とした。
「………はっ、はははは。アハハハハハ!」
「だから笑うなって言ってるでしょうが!///」
もう、何とも言えないぞ。笑いが止まらん。
「アハハハ!か、かがみ。俺はマトモに作ってくれたモンに対して文句なんて言えないぞ。立場も無いしな。
友人が作ってくれたなら尚更だ。有難く頂くし、今日の晩飯も充分美味かったさ!
自信持てよ、かがみ。自分で嫌悪してるだけだぞ。」
「ほ…ほんと?」
「ああ、本当だ。別に不満なんて一欠片も無かったさ。」
寧ろ、マジで不満出すやつは俺がシメるさ。かがみの飯は美味い!異論は認めん。
「な、だからさ。自信持て。」
「う、うん。キョン、ありがと!」
今日一番の笑顔を見せてくれた。晴天の下ならもっと映えてたんだろうな。勿体無い。
ピロリロリ、ピロリロリ。
携帯が鳴った。俺のでは無い。っつーことは
「あ、私だ。ゴメン。」
かがみだった。
人通りも車通りもほとんど無い、街灯の下で自転車を止めて、かがみは携帯を見つめる。
「えーっと、メールの番号は――っと…あ、お姉ちゃんからだ。」
かがみのぼやきを聞きながら、俺は街灯の近くを飛んでる羽虫をただ何となく見ていると。
「あ~~~~っ!!!」
先程の見送る妹の声に負けず劣らず。かがみが大声を出した。
まだそこまで暗くなくてよかった。周囲の家にあまり反応は無い。
「か、かがみ。どうした?」
「ごめんキョン!早く帰らないと!ちゃんと帰れたらメールするから!それじゃ!!」
「あ、おう。」
早口でそう言うと、かがみは自転車の出せる最高速でシャーッと帰っていった。
「…どした?」
街灯の下、独り虚しく自転車に乗ってるのも気分が良いものじゃない。俺はすぐ帰った。
「ふぃー、只今。」
家に帰って、まだ夕飯の匂いが残っているコトを実感する。
「おっかえりー!お風呂入ってよー!」
麦茶を飲む為に、リビング経由で台所へ行くと、バスタオル頭に妹がソファにいた。
「りょーかいー」
流し返事。
食器棚から新たなコップを取り出して、冷蔵庫から麦茶の入ったボトルを出して注ぐ。
タッタタンタ!タンタタッタタッタタンタタンターン。
聞き慣れた携帯の音が鳴る。俺のか。
携帯を見ると、かがみから到着メールだった。
『今日はありがと。急いで帰ってゴメンね。』と届いた。
「"ま・た・く・い・た・い・ぜ"っと。」
『感謝するのはコッチだ。こんな機会があったらまた食いたいぜ。』と返して、俺は風呂に入って、床に就いた。
次の日、いつもと何ら変わらぬ感じでかがみとは教室で会った。
いつものメンツで昼飯食ってると、かがみとつかさの弁当が何となく力入ってた。
「今日はおねーちゃんが作るって言い出してね。1つ食べてみる?」
えへへ、と笑いながらつかさが自分の弁当から卵焼きを俺に渡してくれた。口に運ぶ。
「ん、美味い。」
それだけ言った。
その時、みんなの視線は一時的な評論家の俺に言ってたが、かがみの表情が嬉しそうだったのは見逃さなかった。
――アフターディナー――
P.M.8:45
「ぜぇぜぇ……只今。」
私は、帰って来た。急いで帰って来た。肩で呼吸してた。
「あ、お姉ちゃんお帰りー」
つかさが笑顔で迎えに来てくれたが……、
「つ・か・さ?」
「え、何、お姉ちゃんどーした…ふぇぇぇえ…」
怒りが溜まりつつある私は、つかさの頬を横に抓ってやる。
「あんた、ねぇ…まぁた余計なコトを……」
「へっ、ほひかひて、はつりほへーひゃんひ…」(へっ、もしかして、まつりおねーちゃんに…)
そのもしかして、よ。
「あーお帰りー。楽しかったー?」
ニヤニヤ顔でメール送信者、まつりお姉ちゃんが迎えに、来た。
「言っとくけど、違うからね!」
「な、に、がー?私何も言ってないよー?」
お姉ちゃんのニヤニヤが止まらない。正直腹立つ。
「このメールは何よ!!」
つかさから手を離して、携帯を突き出す。
メール内容はこうだった。
『いつまでカレシのトコロにいるのー?(ニヤニヤ顔
もしかして"お泊り"かなー?(ニヤニヤ顔×2』
「えっ、あー、私今さっきまで寝てたから、寝てる間に打ったんじゃないかなー」
引用符まで使ってる文章がどうやって寝ながら打てるのかしらねぇ…。
拳がふるふると震えてる。
「ご、ごめんお姉ちゃん……」
「こなたの家に行ってる、でいいじゃないの……」
「そう言ったんだけど、こなちゃんから電話かかってきちゃってバレちゃった…」
「ウソはつくもんじゃないわね♪」
「うっさい!」
まつりお姉ちゃんはニヤニヤこそ落ち着いてるけど、まだ笑ってた。
「まぁまぁ、つかさがいるトコロで何だし、私の部屋で説教してよー」
「…もういいわよ。疲れた。」
急に脱力感が襲って来た。気疲れかしら?
「あら?珍しい。いつも説教して疲れてるのに。」
「気分じゃなくなったわ。さっきまで衝動的だったし。ちゃっちゃと寝るわ…オヤスミ。」
「あ、うん、おやすみ。」
まつりお姉ちゃんはあっさりと私を見送ってくれた。
部屋に戻ると、私は何をするもなく、携帯をベッドに投げて、私自身もベッドに身投げする。
「……あ、キョンにメールしなくちゃ。」
ピピピ、と寝惚けた頭でメールする。
『今日はありがと。急いで帰ってゴメンね。』と。
送信してから気付いた。絵文字も何も無かったら淡白過ぎる。
上手く頭が回らない。
「そうだ、明日の授業の用意……」
今の私はよくある幽霊かも知れない。
ゆっくりと立ち上がって、学校鞄に明日の授業の用意を入れる。
「こんなもんか…」
ピロリロリ、ピロリロリ。
携帯が鳴った。
「はいはーい」
携帯に返事をする。
送信者は…キョンだった。
「えっと…なに?『感謝するのはコッチだ。機会があったらまた食いたいぜ。』か……」
携帯を待受画面に戻して折り畳み、枕元に置く。
「本当にあんなものでよかったのかしら……でも、嬉しそうだったな……うん。いいか。」
キョンが喜んでくれた。
その妹ちゃんも喜んでくれた。
私が作った料理を。下手だけども。
「……ありがと。」
天井に言葉をぶつけて、私は目蓋を閉じた。