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メイクディナーwith...?――つかさ

ピンポーン。
インターホンが鳴った。
時刻はP.M.6:47。
そろそろかと思っていた。
「えーと、キョンくーん?約束通りに来たよー。」
柔らかい声が、機械通して聞こえる。
「えー……どちら様で?」
鼻摘みながらとぼけて見る。
「へっ?あれれ、でもここキョンくんの家じゃ……えっ、あの!ひ、柊つかさですけど…」
声だけ聞いてても今、アイツがどうなってるか容易に想像出来る。
「ハハハハハっ!」
慌て素振りを見てみたいもんだ。想像しててこんだけ笑えるなんてな。
「その笑い方!キョンくん!開けてよね!」
いつもとは違う、眉間に皺寄せてるんじゃないか?怒られた。
「ハハハ……はぁはぁ…悪ィ、今開ける。」
そう言ってインターホンを切った。

「おーっす、いらっしゃい。」
「ビックリしたよぅ……間違えたのかと思って…」
つかさなら有り得そうだ。
「すまんな、出来心だ。わざわざありがとうな。持つよ。」
そう言って、つかさが手にしている、晩飯の材料が入ったビニール袋を受け取った。
つかさの私服は何とも愛らしい。小動物かのような格好だった。
首元のもこもこが気持ち良さそうだ。
「ふぅ~重かったぁ。」
つかさは左手をぷらぷらと振って、ぐ~っと伸びをする。
「言ってくれれば俺も買い物付き合ってるのに…なんなら俺んちの冷蔵庫の中身だけでも」
「でもね、やっぱりヒトにご飯食べて貰うならちゃんとしたモノがいいなぁ、って思って。
     何を作るかはバレたくないしね。」
えへへ、と頬を掻きながら笑う。
ふと、気付いた。
「つかさ……その膝…」
何度か擦り剥いた痕がある。血こそは出てない――いや、固まったのか―ーが。
「ん?コレ?気にしないで、ちょっと買い物した袋を持ったら予想以上に重くてふらっときちゃって。」
空元気で笑ってくる。そういう笑顔は見ててちょっと罪悪感に襲われる。
「ん……悪い…」
「気にしないでよ!私、運動神経ないからよくあるんだし!」
無駄に元気になってくれる。……いいのかね。
「まぁ早く家に入れ。手当てしてやるから」
「あーっ!つかさちゃんだー!」
「あっ、こんばんはー」
突如の妹の登場に驚いたものの、すぐに笑顔で返すつかさは流石だと思った。
「丁度いい。この荷物をリビングまで持って行ってくれ」
手にしてる袋を妹に突き出す。
「えー…なんでー?」
「つかさの足を見てみろ。怪我してるだろう。だからだ」
つかさの足を指差すと、つかさは傷を焦りつつも隠していた。
「だっ、大丈夫だよ!そんな心配してなくてもさ!」
「いーやダメだ。心配するだろ。女の肌に傷つけただけでも悪いってのに」
頼んだ俺が悪いんだからな。過ぎたコトを悔やむより今すべきコトだ。
「んー、わかったー」
そう言って妹は俺の手から袋を取って、両手でふらふらとふらつきながら家に入って行く。
「ほら」
俺は、つかさに背を向けてしゃがみ込む。いわゆるおんぶだ。
「えっ、い、いいって!」
照れ照れとしながらつかさは幾度と断り続ける。
「いいから。乗れって。痛むだろ」
「……じゃあ……ありがと」
つかさがゆっくりと俺の背中に体重をかけていく。
「まぁすぐだからな。我慢してくれ」
「う……うん…」
何か逆上せてるような感じでつかさは返事をした。
どうしたんだか。


おっと、言い忘れていた。
何故つかさがウチの家の晩飯を作りに来たかと言うと、今日は俺の両親がいないからだ。
学校で談笑の中でその事を呟くと、こなたが率先して「じゃあ私がキョンくんのトコの晩ごはん作ろうか?」と言い出したのがきっかけ。
今日は何をデリバリーしようと考えていた俺としては有難い限りだ。拒まず俺は感謝した。
そして、「じゃあ夜7時くらいに行くね、それから―――。ね?」と言って俺は了解してその会話は終わった。
まぁ多少の前後はお構い無しさ。


「これでよしっ」
とりあえず固まった血を濡らしたティッシュで拭き取って、消毒して絆創膏貼った。
というか、これでいいだろう。とりあえずも糞もなし。ベストだ。
「あ、ありがと…」
「いんや、悪いのは俺だ。気にするな」
「で、でも…」
「するなって。な?」
「う…うん」

「キョンくーん。台所掃除終わったよー!」
「おう、サンキュ」
俺がつかさの怪我を治療してる間に妹に台所の片付けを任せておいた。
条件は"1週間宿題の手伝い"だ。こうでもしないとな。多少リスクはあるが。
「べ、別にいいのに」
まだ少々つかさはあがってるのか噛むんでしまっている。ふらふらと立ち上がった。
「今日のシェフでもある客人も調理場が汚いままで飯作りたくはないだろ?」
「シェフってそんな美味しい料理作れるわけじゃないよ……でも、ありがとう。ありがとう、ね。妹ちゃん」
そう言ってつかさは妹の頭を撫でていた。妹も嬉しそうだ。
「あ、テレビが始まるー!」
そう言って妹はリビングのソファに飛び込み、リモコンでテレビの電源入れる。
間抜けなOPが流れ出してきた。これからは妹を呼んでも無反応だろう。
「ふふ、キョンくんの妹可愛いね」
「たまには思うがいつもいると大変だぞ」
「そう?でも、家でも"キョン"って呼ばれてるんだねぇ」
「"キョン"って仇名が広まった元凶はアイツだからな。ほとほと疲れるぜ」
つかさは再度笑い出す。なんだ、羨ましいのか?
「そうだね、羨ましいのかも。私お姉ちゃん3人いるだけで下にいないからね」
俺としては姉がいた方が勉強とか教えてくれたり、社会的にも楽じゃないか?と思うがな。
「そう?でも、妹とか弟の方が楽しいと思うよ」
なんなら俺のウチにでも来てくれたら妹が喜んでくれるぞ。
俺も歓迎するしな。
「え?いいの?」
ああ、妹もそっちの方がいいに違いないからな。
「ありがとっ、それじゃあ行ける時にはお邪魔するね」
ああ、その時は大したモン出せないかも知れんけど我慢してくれな。

――っと、そろそろ料理始めるか。
「あ、そうだね。キョンくんお腹大丈夫?」
そう言いながらつかさはぱたぱたと俺のお袋のエプロンをちゃちゃっと着て台所につく。
俺の腹はつかさの料理に飢えているぞ。耐えれるけどね。
「あっ!ゴメンキョンくん。買い物袋持ってきてくれる?」
忘れてたぜ。人間2人が台所に突っ立っててもどっかの某猫型ロボットのようになんとかなるわけじゃないもんな。
俺は小走りでリビングにある袋を回収して台所に戻った。
ついでに、台所のキッチンテーブルに中身を置いていく。
えっと……卵にケチャップと鶏肉?それに冷凍のミックスベジタブルか。
「あ、ありがとー。さぁ、今日の晩ごはんはなんでしょー?」
妹が美味い飯を食った時のような笑顔を俺に向けてくる。くそ、可愛いな。
さて、どうしたもんか。問題についてだ。
今目の前にいる皆は解ったか?つかさらしいと言えばつかさらしい料理だ。
考えてみろ。卵にケチャップだ。単純なスクランブルエッグかも知れないが、そこに鶏肉だ。
これは1つの料理であって、これで1品、と考えてみろ。
必然と1つしか答えがないハズだ。……多分そのハズだ。

俺は解答を口にした。

「――オムライスか」
「わー、キョンくんわかっちゃうんだ」
オムライスはカレーとかに次ぐ子供の定番メニューだ。
1番の楽しみはケチャップでの文字だとも取れる。
あの4人の中で唯一、内外見共に子供のように愛らしいつかさならではの選択だろう。
「これなら妹ちゃんも好きかなーと思ってね」
あいつは見たまんまだからな。大丈夫だ。
「ならいいんだけどね。……キョンくんは大丈夫かな?」
作ってくれた飯に文句は言わないぜ。知人なら尚更だ。
「そう?よかったぁ」
ほっと胸を撫で下ろし、つかさはまな板と包丁を取り出す。
その時だ。

ピーッ、ピピピ、ピーッ
電子音が台所に響いた。
「あ、キョンくん覚えててくれたんだ」
今は会話で忘れてたけどな。
説明しよう。
話はつかさが来た時に話した件に戻る。
「それから―――」のところだ。


「それから、―――ご飯炊いておいて。ね?」
と言われて俺は了解したのだった。
成程。効率をよくする為だったか。納得した。
「それじゃ、お釜を出さないと……」
そう言いながらつかさは台所を見回し始めた。
どうした?
「いや、あの……熱いモノを持つ為の手袋みたいなの…あるかなって…」
なんだ、そういうことだったのか。迂闊だ。
それなら、この戸棚の内側に……。
「あ、つかさはいいぞ。俺がやる」
「え?でも」
「こういう飯盒炊さんの時の飯盒役みたいな仕事は男の仕事だろ。せっかく可愛いんだから火傷なんかさせたら俺が殺される」
ハルヒやかがみがこっぴどく怒ってくるのを想像したらゾッとするぜ。
俺は、つかさが率先する前に戸棚から鍋掴み――でいいのか?――を取り出して自らに装着した。
「あ、うん……それじゃあお釜を出してしゃもじでご飯掻き混ぜといてくれるかな」
「おう」
短く言葉を返して俺は炊飯器の蓋を開ける。
もわっと炊けた白ご飯の美味そうな匂いを含んだ熱い水蒸気が天井に向かって上っていく。
まともに喰らってしまった。
「おぅ!?あ、あつっ!」
「へ?わっ!キョンくん大丈夫!?」
まな板を洗っていたつかさが、手拭きタオルを水で濡らして即座に駆け寄って渡してくれる。
「あ、ありがとうな…不注意だ」
くそ、かっこわるいなぁ俺。思いながらあったまった顔を水で冷やす。
「ふふ、キョンくんも結構ドジなんだね」
「ん、悪い…もう大丈夫だ」
タオルをそこら辺に適当にかけて、釜を持ち上げる。案外重いな。
「おっと……よいしょっと」
アルミのキッチンテーブルに鈍い音が響く。
炊飯器の横に備え付けられているしゃもじを右手にご飯を掻き混ぜてやる。
横を見ると、つかさが丁寧に鶏肉をさばいていっていた。
皮の部分は切り外し、双六で使うサイコロ大の大きさに切っていく。
「手馴れたもんだな」
「え?そ、そうかな。いつもお母さんの手伝いとかしてるだけだけどね」
「努力が身についた、ってか」
「そ、そんなんじゃないよ…やり方わかったらキョンくんでも綺麗に切れるし」
へへ…、と笑いながら言うつかさの心中はちょっと重そうだった。
気付いてないだろうがな。切ってる鶏肉が大きくなってるぞ。
まぁ言わないけどな。
「つかさ、そんなもん誰だってそうだろ。
    料理してたら料理が上手くなるし、ゲームしてたらゲームが上手くなる。
    スポーツしてたら自然とそのスポーツのやり方がわかる。
    人間、結局はやるかやらないか、だ。俺に限って言えば料理は後者だけどな。
    自身持て。それはお前の特徴だから、な?」
柄にもないコト言っちまった。
「そう、かな……。うんっ、ありがと!」
こっちを向いて、また"別の"笑顔を見せてくれた。


「それじゃ、フライパンにミックスベジタブル、乗せといてくれるかな。あ、大きめのフライパンでお願いね」
次の指令を承った。
俺は、別の戸棚から1番大きいフライパンを取り出し、ミックスベジタブルを半分くらい入れる。
「それでね、炒めといてくれるかな?しばらくしたらケチャップをかけて、ご飯を入れてね」
「わかった」
そう言ってガスコンロがチチチチ...と鳴らせる。火が灯る。
木製のヘラを取り出して満遍無く混ぜてやる。どうだ、香ばしくなってるか?
30秒くらい中火で炒めて、ケチャップをかけて更に混ぜる。
「それで、次はご飯、か。」
ケチャップが香ばしくなるという料理経験の少ない俺にとっては珍しい匂いを堪能している時だった。


ぱしゃっ

"液体"が床に跳ねた音が、した。
「きゃっ!」
何事かと思い、右を見る。
つかさが尻餅をついて、なんというか。何をしていたかはわかったが。
あまりにも色んな面で惨いと言うか。台所の床が畳とかじゃなくて洋風の床でよかったと言うか。
「……つかさ、大丈夫か?」
第一声がそれであった。
俺は火を止めて、つかさの元へさっきのタオルを持って駆け寄った。
「あ、うん……ゴ、ゴメン……」
簡単に言うならば、というか簡単にしか言えないが。
卵掻き回してたつかさが足滑らせて溢した、ってコトだ。
しかも、器に入ってた卵が先にテーブルから落ちてるから、その上に尻餅をついていた。
「いや、別にウチのコトとかはいいから。すぐ拭けるしな。とりあえず服だ」
「あぅ…下着には染み込んでないみたいだけど……気持ち悪いよぉ…」
つかさは軽く涙目になる。
とりあえず手を差し延べて体を起こしてやる。
「とりあえず、下着は大丈夫なんだな。んじゃあスカートだけでも履き替えるか」
「! えっ!?いいよいいよ。気にしなくても。ちょっと我慢すれば…」
顔を赤くして、溢した卵をタオルで拭こうと再度しゃがみ込む。
が。
「ひあっ!」
あまりに冷たかったんだろう。立ち上がる。
木枯らしの舞うこの季節なら店に備わってる温まってない洋式トイレの便座に座った時と同じだろうな。
「つかさ、無理はするな。ズボン貸してやるから」
流石にジーパンならデカ過ぎるだろうが七分ズボンならちょうどいい具合だろう。
「あ、いや、別に…」
「つ・か・さ」
言っとくが、命令みないなもんだ。つかさはどことなく"引く"癖があるからこうでもしないと…
「……わかったよぉ…」
すまんな、わざわざ萌え衣装とかに無理矢理着替えさせるわけでもないんだからいいだろ?

俺は自室のタンスからズボンを取りに行くと、その間に洗濯機のある洗面所に行かせたつかさの元へ持って行った。
「ほら」
「あ、うん……ありがと…」
少々顔を赤くしているつかさに渡してやる。
「脱いだスカートは洗濯機の上に置いといてくれればいいぞ。後で洗濯くらいしとくしな」
「えっ?わざわざそこまでやらなくてもいいよっ」
「同じ濡れてるモン持ってかえるにしても綺麗な方がいいだろ?」
「まぁ…そうだけど……」
「ならいいじゃないか。置いといてくれな」
「あ、うん…」
流石にいつまでも着替えたいであろう女子の近くにいるのも不憫なので台所に戻る。
「あー…そういやケチャップ…大丈夫か?」
リビングを経由して台所に向かう途中、ソファでは妹は幸せそうに寝息を立てていた。
「やれやれ」
そう言って、ソファの端で妹の足の下にある毛布を引っ張って掛けといてやった。

「……見事に固まってるな」
ご飯入れてないからか。絡まらずにケチャップは固まっていた。
もう1度ガスコンロに火を点けてケチャップを溶かしていく。
再び良い匂いがしてきた。
「おっと、卵も掻き混ぜないとダメだったな」
つかさがいる方が指示してくれて楽だったな。
頼もしい味方がいないのはどの状況であっても心細いもんだぜ。身を以て知る。
先程の器を洗って、つかさが買って来た卵を2つ程拝借し掻き混ぜる。
「あー!キョンくん!ケチャップ焦げてるよ!!」
後ろから叫び声というか、叱りの声が聞こえた。つかさが帰って来てた。
「えっ、な!うわ!やべっ!」
即座に器と掻き混ぜるのに使っていた橋を置いて、ケチャップを混ぜる。
「もー…」
「わ、悪ぃ…」
「それじゃ、そこにご飯を入れて。2人分くらい」
元々逆らってないが、もう逆らえない……すまん、つかさ。
だが、それよりも……
「中々、似合ってるな」
さっきは怒声を浴びた時に瞬間的にしか見てなかったが、落ち着いて見れば。うん。
滅多に使ってないからそのズボン、あげようかね。
「そ、そんなことないって!大して意識してるワケでもないしね。ってこれはキョンくんが貸してくれたズボンだけど」
つかさはまたもや照れながら、俺に代わって卵に下味をつけていた。
俺はご飯をフライパンに入れて、しゃもじでケチャップとかと混ぜ合わせていた。
「…なぁつかさ」
「ん、何?」
「つかさは、もうちょっと前向きに行くというか。謙虚過ぎやしないか?」
「え、どうしたの?急に」
つかさの手が止まる。
俺は視線をフライパンに向けたまま、まだ喋る。
「つかさは自分の長所を否定し過ぎてると思うんだ。なんて言ったらいいかわからんが
    あまりにも自慢し過ぎるのもよくないけどな、その逆もダメだと俺は思う。」
「………」
「だから、さ。もうちょっと自分を褒めてあげたら……どうだ?」
「………」
これは自分にも言ってるんだけどな。俺も自ら卑下にするタイプだ。というか人間殆どそんなもんじゃね?


………炒め終わりそう、なんだがな。
俺がそう言ってから1分くらいか、ずっと重い沈黙が漂っていた。
「………」
つかさを横目で見ると俯いていた。ずっとだ。
言い過ぎたかね……俺としてはつかさはそうした方がいいと思ってたんだが。
「つか「そっか…」
声が重なった。どうしたつかさ。
「前向き、かぁ……」
言ってる意味が解らない。何をずっと考えていた?
「つかさ…?」
「うんっ、そうだね!ありがとキョンくん!」
急に振り向いて笑いながら結論だけ述べて来た。
「……どうした?」
「いや、今さっきキョンくんが私に言ってくれたことを考えてたんだけどさ…うん。
    思えば私、少し引き過ぎてたかなって」
そのことか。
「そうだよね。ちょっと私前向きに行こうかな。すぐには無理かも知れないけど…」
つかさは再び卵に目を戻した。

自然と笑みが零れた。つかさの笑顔が見違えたからだ。
さっきまでの笑顔も良かったさ。俺や妹が面白いモン見て笑ったりする時の笑顔だ。
けれど、今見せてくれた笑顔は違う。
ハルヒが俺達に提案して来た時の笑顔。
もっと言えば、あの"2人きりの閉鎖空間"で"神人"を見た時の笑顔だ。
全身が喜びに満ち溢れてるのがよく解る時の、だ。
「ああ、つかさはその方が絶対良い」
俺に言えるのはそれだけだった。
「キョンくん、もし私が引いてたら、よろしくね?」
勿論だ。出来る限りやってやるよ。
「ありがとっ!」

きゅるる~……
腹の虫が鳴った。つかさの、な。
「あ……///」
つかさは誤魔化そうと、頬をポリポリかいて言い訳しようとする。
「――急いで作るか。」
「う…うん、そだねっ」
もういいよありがとう、と言われて俺は料理から離脱した。
それからつかさの背中には何かオーラのようなものが見えた。気がした。
溶いた卵を別の火にかけたフライパンに箸を通じて広げる。
しばらく放置し、いい具合に液体が固体と化して来たらその上に手製チキンライスを乗っける。
そしてトドメに両端を巻いて―――完成。
俺に出来る事ははせいぜい皿を置く事くらいだった。
それをあと2つ。つかさは手早く行ってくれた。
「――これで、よしっ!」
真面目になり過ぎていたせいか、つかさの頬に汗が垂れる。
俺はリビングのテーブルにつかさがそれぞれの名前をケチャップで可愛らしく書いたオムライス3つを運ぶ。
卵の甘い匂いが否が応でも鼻に入って来る。
コップ・スプーンを3つずつ揃えてから、妹が寝ていることを思い出す。
「おーい、起きろー?」
妹の顔を覗き込んで見ると、涎を垂らせていた。
今から本当の飯だってのに…もう食ったってか?
そんなことを言っても虚しいだけなので妹の体を揺すって起こしてやる。
「ん…ぁ?……あれ、カボチャのトマトスープは……?」
ンな不味そうなモン知るか。
「晩飯、出来たぞ」
「わーい!」
がばっと起きて妹はすぐさまテーブルに座ってこぽこぽとお茶を入れ始める。
「あ、起きたんだ、おはよー」
台所からエプロンを外したつかさが出て来る。
「おいしそーだね。あ、私の名前!つかさちゃん上手だねっ!」
「そう?ありがとう。それじゃ食べよっか。キョンくん早くー」
この短い距離で走ることもないか。
多少早めに俺は妹とつかさの正面の席に腰を置いた。
「では」
「いっただっきまーす!」「頂きます」「いただきます」
俺とつかさは素朴に手を合わせ、妹はスプーン片手に食前の挨拶をした。

食事中は殆どつかさと妹の会話だった。というか俺が傍聴人でいた感じだな。
互いの学校での暮らし方とか、妹の友達のこととか、俺達の部活での行動とかな。

楽しい時はすぐ過ぎる、体感時計の宿命だ。
オムライスを平らげてからもまだまだ話が続きそうだったので、
    俺は少々席を外して勝手ながら予告通りつかさのスカートに洗剤を少量付けて洗濯機に投入。
3分くらい回した後タイマーを手動で止めて、乾燥機にダイビングさせる。
今度はタイマーを全部回す。
後は勝手に止まるので戻ることにした。
「あ、お帰り。もしかしてスカート洗濯しといてくれたのかな?ありがとー」
台所に行くとつかさが皿を洗っててくれていた。
「あ、悪い。俺がやらないといけないってのに」
「いいよ別にー。キョンくんは私のスカート洗ってくれてたんだしね」
「ん、そうか。ありがとう」
「どういたしましてー」
泡だらけの皿を水で流して乾燥機に綺麗に並べてこっちの洗濯は終わった。

ピンポーン
インターホンが鳴った。こんな遅い時間に誰だ。
「柊――かがみですけど。キョン?つかさ迎えに来たんだけど…」
これは驚いた。そんな話は聞いてなかったしな。
「お、おう。今開ける」


扉を開けて玄関に入れるとビニール袋片手に現れた。
「お邪魔するわねー。あ、つかさ」
「お姉ちゃん!?ど、どうしたの?」
「いや、ちょっと喉渇いたからコンビニ寄ったついでにつかさを迎えに行こうかなって……迷惑だった?」
「い、いや、私は別にー…」
「ちょうど今食い終わったところだ。わざわざすまんな」
「いや、こっちも悪かったわね。つかさがまたドジってなかった?」
「つかさは実に美味い飯を作ってくれたぞ。金払ってもいいくらいだ」
「別にお金なんていいよいいよっ。あんなのでお金貰っても……」
「あ…つかさ」
「?……あ。」
「?」
つかさが引いてしまった。そのことを突っ込むとつかさもうっかりしてたようで。
かがみは理解してなかったが。

「そ、それじゃ帰るねっ」
「おう。また明日、な」
「今日はつかさの面倒見てくれてありがと。はい、お土産というか差し入れというか」
かがみはそう言いながらビニール袋の中からファン夕とゴゴ〒ィーを差し出してきた。
「サンキュー。今度何か返すわ」
「いいわよ別に。自然と返してくれる時はあるだろうしね」
「む…そうか」
「それじゃあね。長々と悪かったわ。おやすみ」
「あ、それじゃ、おやすみー」
手をひらひらと振りながら2人は扉の反対側に行った。
リビングに戻ってテレビを見ている妹にファン夕を放ってやり、俺はもう一本は冷蔵庫に入れる。
何となく慌しかった所為か、静まってると眠気が襲って来た。
「俺は先に寝るから、お前も早く寝ろよ」
「あ、んじゃあ私も寝るー」
さっきまで寝てたのに寝れるのか。
突っ込もうと思うが欠伸が止まらん。
先に妹が自分の部屋に戻ったので俺が渋々一階の電気を全消しするハメになった。
「ふわぁ……」
ダメだ。なぜか眠いぞ。
何かもう階段上るのも面倒だからソファで寝ることにした。


次の日、ソファで寝てた所為か6時くらいに起きれた。
スカートを乾燥させてそのままなのを思い出して、綺麗に畳んで適当な紙袋に入れて学校に持っていった。
学校に行くと、10人くらいの生徒しかおらず、その中につかさはいなかった。
今日当たりそうなところの問題を予習しているとつかさは来た。足の怪我は良さそうだ。
つかさも紙袋に俺が昨日貸したズボンを入れて持って来ていた。
互いに渡し受け取っていると、そのシーンをハルヒや谷口に目撃された。
それからはハルヒからは詰問。谷口からは泣かれて「友達だったのに」発言連発。
誤解が解けるのに1日要したのは余談とさせて貰おうか。


――アフターディナー――
「ふんふんふ~ん♪」
今晩の私はご機嫌だった。
キョン君の家でご飯作れたのもそうだし、何よりキョンくんが優しかった。
って、いつも学校でもそれなりに優しいけど……何か別の"優しさ"だった。
「つかさ、どうしたの?嬉しそうじゃない」
横にいるお姉ちゃんが私の陽気さに気付く。
「ん、嬉しいよv」
お姉ちゃんの方を向いてにこっと笑ってあげた。
「ふふ、良かったね」
お姉ちゃんも釣られて嬉しそう。
「あ、はい。これ」
そう言ってお姉ちゃんはビニール袋から私の分のジュースを取り出してくれた。
「ありがとー」
そう言って受け取り、一口飲んだ。
「上手に、出来た?」
「うん。最終的にはね」
「へぇ、つかさでも失敗するんだ」
お姉ちゃんは驚いてこっちを見る。お姉ちゃん、誰だって失敗はするよ?
ム、としながらもう一口、二口。ジュースを口に入れて体に通す。
少し寒くなってしまった。秋風が秋を知らせてくれる。

「で、何を得たの?」
唐突に質問された。
「え?」
聞き直した。
「だから、失敗した時同時に何かを得ているんだ……って昔から言われてたでしょ?」
ああ、お父さんがよく言ってたなぁ。
だから、失敗を恐れるな。って言葉が続いてたっけ。
何を得たかって?そりゃあ、ね―――


≪もうちょっと自分を褒めてあげたら……どうだ?≫

キョンくんの言葉が木霊する。
前向きに、後ろを振り向かずに、迷わずに。
私は変わろうと思った一言。
私が"得た"モノ。
心の中で反響する。染み渡る。
段々と自分が見違えるかのような感覚に陥る。
心地良い。

私は、笑顔で、躊躇わずにこう言った。

「自分、かな?」

……言ってから照れ臭くなってきちゃった…
誤魔化す為にまた、キャップを開けてジュースを体に入れる。
「ふふ」
お姉ちゃんが含んで笑ってきた。
「な…何?」
「いやぁ、つかさ。明るくなった気がして。 いや、いつも明るいけどさ」
「そ、そうかな?」
「まぁいいか。つかさが元気になるのは家も賑やかになるしさっ」
お姉ちゃんはそう言って、気付くと辿り着いていた家の扉を開ける。
「キョンはつかさを幸せにしてくれそうだし」
……へ?
それ、どういう…………

!!!

「お姉ちゃん!!!」

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最終更新:2007年10月04日 06:39
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