part3-893
とても不思議な感覚だった
初対面のはずなのに、見知らぬ人のような感覚がしない
新鮮といえば新鮮だが、どこか刺激に欠ける
あまり興味のない芸能人に会うと、こんな感じなのかもしれない
いやいやそうじゃない
誰と聞きたいのは俺のほうだと思った
谷口「お前、何組?」
実際に聞いてみた
だがそいつはもじもじするだけで、答えようとしない
谷口「うちのクラスに何か用か」
特別強く言ったわけじゃないのに、そいつはびくびくしている
よく見ると、そいつの服はところどころ破れていたり、顔や髪には灰みたいなのがかかっていた
・・・なんなんだこいつ?
別にびくついている奴を気遣う義理なんてなかった
だが、不思議と俺の体はダンスを踊っていた
WAWAWAダンスを
・・・なんでだ?
ともあれ、それで多少安心したのか(それとも何か変なシンパシーでも感じたのか)、奴は落ち着きを取り戻した
自分は白石稔という
もちろん他のクラスだが、ある女子(あきら様とか言ってた)の命令でこのクラスにきた
このクラスの涼宮という女子が巷で人気らしい
だから菊の花でも置いて、自殺においこみにきた
・・・こいつ頭だいじょうぶか?
白石「もちろん僕だってこんなことしたくないんです!」
白石とかいうやつは涙ながらに訴えた
白石「でも・・・あきら様の命令は絶対だし・・・
第一噂では涼宮さんて女子は相当怖いって聞くし・・・」
わかってるじゃないか
アレは相当アレな女だ
あいつに何か悪さを働けば、きっと末代までのさらし首だろう
・・・巷で人気という点が、はなはだ疑問ではあったが。とりあえず
谷口「やめとけ。花代の無駄だ」
もし奴が怒り狂って、俺にまで火の粉が飛んだらどうする
そういう意味で言ったつもりだった
だが、白石はさっきまでにも増して、涙をあふれさせた
こいつは泣き上戸だな
谷口「そのあきらっていう女子にも俺が言っといてやるよ」
なんでこんなに、この男子が気にかかるのかわからなかった
ただ、そうしたほうがいいような気がしただけだ
服やカバンについたほこりをはたき、かぶっっていた灰をとった
谷口「こいつも、そのあきらにやられたのか?」
暗い顔をして白石はうなずく。まあ、色々とあったのだろう
マンガのようにだくだくと流れる涙が面白かったので、ぬぐってやった
白石「・・・・・・っ!」
急に顔をそむける白石
なんで顔を赤くしてるんだ
白石「こんなに優しくされたこと・・・今までなかったから・・・」
そうか。よほどお前の人生は人に恵まれてなかったんだな
これからはちゃんと人を選んで付き合っていけよ
と、言うつもりだった
谷口「家まで送ってやるよ」
今何を言った、俺
帰り道、お互いあんまりしゃべらなかった
だってそうだろう
知らない他のクラスの男子と下校するときの話題なんて、俺には持ち合わせがない
それでも、俺がきまぐれにダンスを踊ったりハレハレダンス(コンボ?)をすると、難なく後に続いてくる
運動神経はいいのかもしれない
やがて奴の家に着いた
じゃあな、というつもりだったのに、何も言い出せない
なんで黙ってるんだ俺
早く家に帰れ
白石が言った
ちょっと、あがっていく?
白石の部屋は、大して変わったところはなかった
普通の、一般的な男子高校生にありがちな部屋
俺の部屋とも同じところがいくつもある
いくつもありすぎて、逆に怖い気はしたが・・・
白石が茶を持ってきた
そんなに長いするつもりはない
むしろ帰りたい気まんまんだ
なのに
どうしても腰があがらない
苦し紛れに、俺はふたりでゲームすることを提案した
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