──────「岩崎?」
ポッポッポッ─とスロウテンポの雫のシンバル
────────────「おーい?」
ピチョン、ピチョン、と響くベースの雫
──────────「仕方ねえな………」
ザアアと途切れない………
「キャッ!!!!!?????」
「あ、すまん……」
「え……あ、キョン先輩……?」
どうして、と続けようと思ったが、私の頭に掛けられたタオルと先輩の持つ二本
の傘に気づいた。
「……もしかして」
「そんな格好のままじゃ風邪ひくからな。迷惑だとは思うが拭いておけ、あと傘
」
なんと……お節介焼きな先輩なのだろうか。下心がないのか疑いたくなるような
親切さだ。
「よーしよしよしよし」グシャグシャ
「ワフッ………」
そんな私の思惑を知ってか知らずか、チェリーの毛をいじる先輩は、顔をまんべ
んなく舐められながらも笑っていた。
────私は、いつの間にかその笑顔に見ほれている事に、先輩が去った後に気
づいた。
コロコロコロ。
飴を口の中で転がす。レモンの香りに慣れた私の鼻は飴はただの甘い塊にしか過
ぎなくなってしまった。
ポリポリと奥歯で噛み砕く。
細かくなった飴の欠片は舌の上であっと言う間に溶けて消える。
…………こんな他愛ない事をしていても先輩の笑顔がまぶたに焼き付いている。
まるで子供になったかのような裏表ない笑顔が。
そして何より───────思い浮かべるだけで私は満たされる。
「……フゥ」
ただの溜め息さえも物憂げになってしまいます。
どうやら認めるべきでしょうか。………初めての、この想い。
身を焼く程に熱く心溶かす程甘い……
私は、恋をしました。
……でも、私は自信がないんです…無愛想な目と貧相な体、そして無口な性格…
。
何より今こんなことを考えるような後ろ向きな性格。
私は視線を教室の後ろ側で話している二人へと向けた。
ゆたかと田村さん。同性の私から見ても充分な魅力を兼ねた二人。
──────私にもゆたかのような可愛さがあれば
─────────私にも田村さんみたいな性格があれば
なんてことを考えた。でも今の私があるのだから二人と友達になれたのだ。
…あれ?自己解決してしまった?いやいや、そうじゃなくて、どうすれば魅力的
になれるだろうか、だった。反省。
魅力……やはり服を変えてみるのが一番手頃でしょうか?
でも、胸の無い人を魅力的に見せる服なんてあるのでしょうか?
延々とそんな事を考えていると、気づいたらあっという間に時間が過ぎていまし
た。
学校が終わって、ゆたかと田村さんと談笑し、帰路についても私の頭は先輩の事
でいっぱいでした。
自覚というものは恐ろしいです。
でもまずは帰った後の散歩中に出会えたらいいかな、等と思いました。
「いいなぁ、チェリー。お前格好いいぜ」
「ハッハッハッ」パタパタ
「よしよしよしよし。噛まないし人懐こいし良い子だな」ナデナデナデ
「ハッハッ♪」ペロペロ
「やっぱ可愛いなぁー」ナデナデナデ
…………まさか、と思ってた事が叶ってしまった。私が信号待ちしていたらいつ
の間にかチェリーと戯れていたのだ。
「……あの」
「ん?ああ、すまん。散歩中だったんだろ?少し、目に入ったからつい、な」
立ち上がったキョン先輩の足下ではチェリーが「遊んで遊んで」と言わんばかり
に尻尾を振り回し、脚にしがみついていた。
……恥ずかしい。
飼い犬の不徳をたしなめようとリードを引っ張るが、それでも先輩から離れよう
としない。
「あの……すいません」
私は顔が赤くなるのを感じた。
「いやいや、構わないさ………ところで岩崎」
「は、はい!」
緊張のあまり少し声がうわずってしまった。……………ホントに恥ずかしい。
更に赤くなってうつむいた私に構わず、先輩は
「俺も散歩に付き合わせてくれないか?」
と言い、予想外の展開に私の頭の許容量は溢れてつい、
「はい」
などと言ってしまった。
更に……………私の言葉を聞いて顔を満面の笑みで彩った先輩を私は直視してし
まい、一段と顔を赤く染めてしまったのも一応書いておきます。
私はキョン先輩と横並びになり、散歩を再開しました。
顔が赤いので私は顔を伏せたままですが……。
そんなことを気にもとめてない様子のキョン先輩はと言うとチェリーがチラチラ
と先輩が顔を見ているのに反応して、笑ったりしています。
…どうやら先輩の内では私と2人っきり<チェリーと2人っきりらしいです。…
…私、犬より魅力ありませんか?
軽くそこらを散策していると私だけ緊張していたのがなんだか虚しくなって、む
しろ今の状況は楽しむべきだ、と思いました。
そんな風に少し緊張が薄れたところに、
「子供が生まれたら犬を飼いなさい。
子供が赤ん坊の時、子供の良き守り手となるでしょう……」
先輩の言葉に私は、びくり、と少し驚きました。
「………子供が幼年期の時、子供の良き遊び相手となるでしょう。
子供が少年期の時、子供の良き理解者となるでしょう。
そして子供が青年になった時、
自らの死をもって子供に命の尊さを教えるでしょう。」
私はフレーズの続きを繋げました。
ブパンッ!とでも表現すればいいでしょうか?再びの突然の出来事に私は乙女に
あるまじき音を出しました。
……つまり、今度は吹き出しました。
「岩崎?」
ええ。もう、本当に狙ってるとしか思えません。おかげさまで気管の変な所に詰
まりました。
しかもぷるぷる震えながら鼻を押さえてうずくまった私の背中を、トントン叩き
ながら「大丈夫か?」なんて言うのです。
しかし、仮にも惚れた人にこんな醜態は見せられない、とばかりに私は立ち上が
りました。
そして大丈夫だと
「はい……もう大丈夫でふ」
………………………………………………………………………………………………
…ふ?
何やら口の周りがぬめっとしました。拭うと血がべっとりと。
「…………」
まさか、とは思いますが………先程の吹き出した勢いで、
「岩崎……鼻血がでてるぞ」
カァッと顔が熱くなるのが実感しました。
よりにもよって………………………!!!!!!!!
「失礼します!!!!!」
普段、自分でも大人しいとは思っていたけれど、こんな大声がだせるとは思って
なかった。
「おい、いわさ」
先輩の制止を振り切って、チェリーのリードを引っ張り家へと逃げるように帰り
ました。
最終更新:2007年10月15日 16:57