ミートボールはお好きですか?

トリなどない注:二秒 による作品

注意書き: この作品にはグロ、ヤンデレ、鬱などが含まれています。
精神的に弱い方、鬱作品への耐性がない方、そういった作品が嫌いな方はお気をつけ下さい。

以上の注意書きを読んでから、画面を下にスクロールして下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――グチャ―――ニチャ――グチャ――

ボールの中のひき肉を捏ねる。
あらん限りの力で、捏ね回す。

――グチュ――ネチャ――

しっかりと捏ね終えたら、あの人が食べやすいように、一口大に丸める。
あの人は、喜んでくれるでしょうか?

――グチュグチュ―――ニチャ――ネチャ――

中々、綺麗に纏まりません。
おかしいなあ?

――グチャグチャ―――ニチャ――

もう、ホントに。
自分の大好きなものになれるんですから、嫌がるのは止めて下さいよ。

日下部先輩?

 

私があの人に初めて会ったのは、桜が散り終わった、四月の半ば頃だった。

友達のゆたかに連れられてくぐった文芸部室の扉。
その先で、あの人は、何の変哲もないパイプ椅子に座っていたのだった。

初対面のときは、彼に関して特別に何かを感じるということは無かった。
このときの私は何て馬鹿だったんだろうと、今はそう思っている。

この時彼は、そう、何時も座っている椅子に何時もの様に座って古泉先輩と何時もの様に
ゲームに興じていた。この時は、確かポーカーか何か、トランプを使っていたと思う。

初対面の人の多さに多少緊張していた私に、彼は優しく言葉を掛けてくれた。

その言葉で私は幾らか気が楽になったことを私は忘れはしないだろう。

そんな感じで、初対面は特に何事もなく終わった。

 

あの人のことを意識し始めたのは間違いなく、あの五月の雨の日曜日だ。

その日、近くの本屋で買い物をした私は、いざ、帰ろうとしたときに雨に降られてしまった。
その日は曇りだったが、天気予報では雨は降らないだろうと言っていたので
私は傘を持っては行かなかったのだ。

仕方がないので、店の軒先で私は雨宿りをしていた。
母親に迎えに来てもらおうとも思ったが折り悪く連絡はつかなかった。

中々止む気配を見せない雨に私が困っていたときだった。
あの人が店の中から出てきたのは。

その日、彼は参考書を買いに来ていたらしい。
その時は彼の方が先に私に気付いて話しかけてきたと記憶している。
挨拶をして、一言、二言、言葉を交わして傘を持っていない私に気付いた彼が
送ろうか? と言ってきてくれたのだ。

私は断ろうとしたのだけれど、彼はほんの少しだけ強引に送ることにしたのだ。

私の家に着いて、彼と分かれる際に気付いたのだが、彼の左肩はぐっしょりと濡れていた。

後で知ったことだが、その本屋からの帰り道は、彼の家とは反対方向だった。

 

日下部先輩と会ったのもその頃のことだったはずだ。

日下部先輩は、ある日用事であの人に会いに彼のクラスに行ったとき
彼女は、柊先輩や峰岸先輩と一緒に彼と親しげに話していた。
あの人に用だけ伝えて去ろうとした私に、彼女は気さくに声をかけてきたのだった。

その後も彼や、柊先輩や、涼宮先輩に会いに行くたびに機会があれば彼女は話しかけてきた。

本当に気さくに話しかけてきたので、私としては割りと早く打ち解けることが出来た。

あの人のことが好きだと気付いてからは、あの人のクラスに行く度に彼女と会話を交わしていたハズだ。

彼女の気さくで、人の良い、ちょっとお調子者のところが、私は好きだった。

 

あの人のことが好きだと気付いたのは六月に入ってからのことだ。

SOS団の活動で彼と何度も会って、彼の優しさに触れるたびに
私の心の中で、彼の存在はどんどんと、大きくなっていった。

彼のことを考えて、授業にまるで集中できなかった日もあった。

彼のことを考えて、お風呂に浸かり過ぎて逆上せてしまった日もあった。

彼のことを考えて、夜、眠ることのできない日もあった。

そのことをゆたかに相談したら、彼女はそれはきっと恋だと言った。
私は、その時初めて、あの人のことが好きだということを自覚した。

初恋、だった。

ゆたかは私の恋を応援してくれると言った。

 

今、あの人は、私の家の食卓で、椅子に座っている。

少し、ぐったりとしている気もするけれど、きっと私の手料理を食べれば元気になるはずだ。
もう少しで出来上がるから、待っていてくださいね?

私は、愛情を込めて、肉を捏ねる。

ミートボール、美味しくできるといいな。

私は、愛情を込めて、肉を捏ねる。

ミートボール、日下部先輩の好物。

私は、愛情を込めて、肉を捏ねる。

ミートボール、日下部先輩の体から切り取った肉を使って。

 

 

あの人のことが好きだと気付いてから、私はあの人の傍に積極的に近付くことにした。

ただでさえ、学年が離れていて余り接点がないのだ。
彼に会える、どんな小さな機会も見逃さないように気をつけた。

この頃から、化粧や、服装などにかなり気を遣いだした。
あの人は私がそんなことをしているのに気付かないだろうけど。
似合っていると言われたときは天にも昇る気持ちだった。
それに、彼のことを考えながら服を選ぶのは楽しかった。

髪を伸ばし始めたのも、この頃からだ。
彼がポニーテールが好きだと聞いたからだ。

ゆたかと一緒に、恋の作戦なんて言って考えを出し合って、話し合うのは凄く楽しかった。
ゆたかが、古泉先輩のことが気になっているという話をしたときから、楽しさは二倍になった。

何も知らなかった頃は、何もかもが薔薇色に見えて毎日が楽しかった。

 

あの人は相変わらず、優しかった。

その優しさは私だけに向けられたものではなかったのだろうけれど
私が勘違いしたって良いくらいに、優しかった。

好きになればなるほど、彼の良いところを、発見していった。
彼の良いところが見つかれば見つかるほど、私はあの人のことを好きになった。

まさしく、恋は盲目だった。

あの人のことが好きだ。
あの人を愛している。
あの人に愛されたい。
あの人に好きだと言いたい。
あの人に――

万の言葉を尽くしても、この想いは表せそうになかった。

冷静に考えてみると、彼の周りには、魅力的な女性が多かった。
涼宮先輩や姉の方の柊先輩、長門先輩もいた。

こんなに魅力的な人達がいたというのに、私はその日まで
彼に特別な人がいるだなんて思いも寄らなかった。

 

六月の中頃。

その日、SOS団の活動はないと涼宮先輩がお昼から触れ回っていた。
私は、丁度、保健委員として放課後残っての仕事がある日だった。

仕事が終わって、私は前日に、文芸部室に文庫本を忘れていたことを思い出してそれを取りに、そこへと赴いた。
大分、時間は遅く、文化部はほとんどその日の活動を終わらせていた。

部室の扉はしっかりと閉まっていなかった。誰かが鍵を開けたのだろうか?

中から、あの人の声が聞こえた。
私は、こっそりと部室に入って、彼を驚かせてやろう
そう思ってほんの少し開いた扉から中を覗き込んだ。

――嘘だ。

――嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

――嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘。

そこには二人の人間がいた。

あの人と、日下部先輩。

私が見ているとは知らずに、その場に、寄り添うように立っていた二人。
二つの影が段々と重なり合っていき、二人の顔が近づいていって――

 

――嘘だ。

見たくなんかなかった。聞きたくもなかった。
あの人が私でない誰かに――をするところなんて。

けれど、それだけでは終わらず。

二人の影はさらに、もつれ合うように、絡み合って――

アノオンナハ、ダレ?
ワタシノアノヒトトイッショニイルアノオンナハダレ?
ワタシノアノヒトトケモノノヨウニ――

見たくなんかなかった。聞きたくもなかった。
でも、浅ましい私には、目が離せなかった。

上がる嬌声。微かだけれど、誰もいない部室棟に響く水音。

「――■■■■――」

嬌声に混じって聞こえた、それは、彼の名前。

誰もがあだ名で呼ぶ彼の、誰もが使うことがない、本当の名前。
まるで、その名前で彼を呼ぶ彼女が彼にとって特別な存在であるような――

眼前に広がる光景から目が離せなかった私は、私の頭の中で
何かが壊れるような音を聞きながら、その終わりまで、その場に留まり続けてしまった。

 

あの人のクラスに行った時、いつもあの人と親しげに話していたのは誰だった?

あの人が名前で呼ぶのは、誰だった?

無駄話で、あの人との関係を揶揄されていたのは、一体誰だった?

知ってしまえば、簡単なことで。
気付いてしまえば私の愚かさばかりが目に付いて。

その日から私は、あの人のことを着け回した。
あの日のことは、私の夢だったんじゃないかと、そう思いたくて。

でも、私が見ていることに気付かない、あの人は、彼は、私の好きな人は――

何度も、何度も。

その度に、目が離せなかった。
声をじっと押し殺しながら、私は始めから終わりまでを見続けてしまった。

現実が、私を打ち据えるたびに、私は何かが壊れていくように感じた。

私の中に、黒い感情が澱のように溜まっていくのを私は感じていた。

嫉妬に狂った醜い私が、何もかもをぶち壊してしまうような気がした。

 

六月も終わりに近いある月曜日。

放課後、あの人は、その日も日下部先輩と一緒にいた。

私は、その日も隠れてその場を見てしまっていた。

あの人が口付けをしようとする。夢であれば良いのに。

日下部先輩はそれを受け入れる。目が覚めれば良いのに。

日下部先輩があの人の名前を呼んで、にっこりと笑う。何もかもが嘘だったら良いのに。

その時、笑っている彼女と、目が合ってしまった。

彼女は驚いた顔をする。私は脱兎のように逃げ出す。

何もかもが見透かされたような気がした。醜く、浅ましい、私の全てが。

日下部先輩が、先輩が、彼女が、あの女が、あいつが、あいつさえいなければ。

アノオンナサエイナケレバ。

私の中の私でない私が、そう囁いた。

次の日の放課後、私は日下部先輩に呼び出された。

 

昨日は恥ずかしいところ見せちゃってゴメンな?

日下部先輩は会うなり、そんなことを言ってきた。

……日下部先輩。

でも、内緒にしておきたいんだよ。だから黙っててくれると……ん? どした?

……先輩は何時から付き合っていたんです?

え? ああ、うん。今年の二月くらいからだな。

私とあの人が出会う前。そうか、それなら大丈夫だ。

どうかしたのか? さっきから変だぞ? 調子、悪いのか?

私は先輩の近くに寄る。鈍い銀色の光を反射している、ナイフを抜きながら。

え?

先輩は間の抜けた声を上げた。その声に私は少しだけクスリとした。
こんな時でも、彼女の声はとても可愛らしかったからだ。

私は、日下部先輩のお腹に、刃渡り10センチのナイフを突き立てていた。

彼女の着ていた制服は血で赤黒く汚れていった。

 

私は何度も何度も、彼女のお腹にナイフを突き立てた。
初めはビクビクと痙攣していたけれど、すぐに動かなくなった。

私は衣服に血がついていないことを確認してから、ナイフの血を綺麗に拭き取ってから
ナイフをしまって、予め用意しておいた、ノコギリを取り出した。

スポーツバッグに、運びやすいようにバラバラにした日下部先輩を入れて自宅へと持ち帰った。

前の日から、両親は結婚記念だと休みを取って一週間ほど旅行に出ていた。
私の両親は、そういった記念日をとても大事にしていた。

日下部先輩の入ッタスーツケースハ部屋ニ放リ出シテ置イタ。

一日経ち、二日経ち、三日経つと日下部先輩がいなくなったと世間がざわめき始めた。

オカシイナ。日下部先輩ハワタシノ部屋に居るのニ。

 

金曜。あの人が私に、日下部先輩がどこに行ったか知っているかと聞いてきた。
二人きりになって、私が日下部先輩と最後に会っていたはずだと問い詰めてきた。

ソウダ。先輩をワタシノ家ニ招待して日下部先輩に会ワセテアゲヨウ。

私は、言葉巧みに彼を家へと誘って、家に着いてから
この前買ったばかりのスタンガンであの人を気絶させた。

どこにも行かないように、私の元から離れられないように、食卓の椅子にあの人を縄で縛りつけた。

コレデもう彼はドコニモ行かない。彼ハ私とズットズットイッショニいるだろう。

何故だか、ここのところ妙に落ち着かない。
あの人と一緒に二日も過ごしているという事実に緊張しているのだろうか?
彼は心なし、ぐったりとした様子を見せている。

イイコトヲオモイツイタ。彼に彼のスキナモノヲ食べさせてあげよう。カレノ好きな物を。

そうすればきっと私のことをもっと好きになってくれるはずだ。

ソウ、カレノ、スキナ、モノヲ。

クサカベセンパイ、ヲ。

 

火を止めて、鍋をコンロから下ろす。

――もう大丈夫だ。

真っ白なお皿に綺麗に盛り付ける。

――だって、あの人はもう私のものだから。

炊き立てのご飯を装う。

――心も、体も、何もかも、私のものだから。

食卓に出来上がった品々を並べる。

――あの人の、何もかもはもう、私のものだから。

彼の真向かいの席に座って、口を開く。

 

ねぇ、キョン先輩。■■■■先輩。

ミートボールはお好きですか?

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最終更新:2007年10月16日 22:40
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