「ちっさい偶像」

七誌◆7SHIicilOU氏の作品




北高にアイドルがいるらしい
俺はその情報を耳にしたとき、信じる信じない以前に
あほらしさを感じた、アイドルってのがそもそもおかしい
歌手が居るだの、モデルがいるだのってのはまだわかる
アイドルって何だ、漢字で書くと偶像だぞ……確かな
まぁ、どうでもいい俺には関係ないな
そもそも情報源が谷口ってのが怪しすぎる
情報源がかがみだとか博識な高良とかいうなら
俺もまだ多少は取り合うがよりによって谷口だ
怪しさ100倍だ、餡子の詰まった食品戦士の全快状態に対抗する勢いのあやしさである
ま、居ようがいまいが俺に関係ある話じゃないさ
しばらくすればすぐに落ち着くだろう

その時の俺はそんな風に思っていた

次の日、噂は格段に広まっていた
あっちでこそこそ、こっちでがやがや
そういった具合で俺にもそれなりに情報が入ってきた
どうやらその有名人は最近深夜番組でナビゲーターをやってる毒舌少女で
名を小神あきらというらしく、CDもでているらしい
教室にいても話題はそのことについてがほとんどで
多少うんざりしていた俺は、昼になるやいなや弁当をもって教室を後にした
部室なら居たとしても長門だろうし、少しは静かに過ごせそうだ
最近は長門もこなたと仲がいいみたいだしな、色々あいつとも話したいところだ
すこし気分が晴れて歩いていると部室棟に向かう渡り廊下で人にぶつかった
多少緩んでいても目の前に人が居て気がつかない筈は無いんだが
とりあえず、ぶつかった相手を探すと
なるほど気がつかないわけだ、こなたと同程度か
むしろ小さめの女の子がしりもちをついていた
なかなか可愛い子だな、と思いながら手を差し伸べると
「てっめぇ、この野郎!どこ見て歩いてんだよ!」
差し出した手を払いのけて怒鳴り始めた
なんという少女だ外見からは想像できない
だが、ハルヒに怒鳴られ続けてる俺には少し凄みに欠けるかな
そもそも、俺はちいさくて見えなかったが
君の視点で俺を見逃すことはまず無いと思うんだがな
しかし、こんな子見たこと無いな
物覚えの悪さには定評のある俺の海馬もこんな可愛いちっさい子をみたら
流石にわすれないだろう…
「ってぇ!」
なんということだ、この少女は人が考え事をしてる途中に
いきなり腿にヤンキーキックを、しかもやけに腰の入った鋭いのを入れてきよった
多少目が潤んでるかも知らんが、俺は少女を睨みつけると
そこには、顔を紅くした先ほどの少女がやはり俺を睨んでいた
「私のことを、ちっさいだのなんだのっていうんじゃねぇ!」
なんということだ、どうやら俺は口から考えていることをそのまま
垂れ流していたらしい、確かに初対面の人には失礼である内容だった気がする
蹴られた衝撃で大半は海馬から失われたがな
彼女は俺にあかんべぇして踵を返してそのままどっか行ってしまった

……戻ってきた
「お前、名前は?何年だ?」
人に物を聞くときは自分からだと教わらなかったか?
「…小神あきら、一年だよ」
ほう、というと君が最近噂になってる有名人か
「そんなことはどうでもいいんだよ!お前の名前は!?」
そんな大声で言わんでも聞こえてるよ
三年のキョンだ
「変な名前だな、日本人じゃないだろ?お前」
残念ながら純国産だよ
あだ名だあだ名
「ふん、まぁいい覚えたからな、キョン!」
早速呼び捨てして彼女は今度こそ去っていった
角を曲がるときにあかんべぇをまたしていってな

そういえばすっかり忘れてたけど弁当……
蹴られてたときに手放してぐしゃぐしゃになっとる

今度あったら弁償させてやることするかな

――― 


昨日は結局訳がわからんかった
たまたま、ちっこい有名人にぶつかってしまったばっかりに
弁当は食えなくなるし、腿にヤンキーキックを貰うし
弁当の方は今度何らかの形で払わせるにしても
家に帰ってみたところ、蹴られた箇所は見事に青紫に変化していて
しかたなしに、風呂上りにシップを張っといた
蹴りの威力は下手すると、格闘経験者のこなたに匹敵するかもしれない
あれも痛かったなぁ
などと、授業中に考え事をしてたのだが
今は歴史の授業中だった、気がついたときは既に遅し
俺は黒井先生におもっきし頭をはたかれた


昼休み、はたかれた頭を擦りながら
弁当をもって教室を出る、理由は簡単で今日も今日とて
生徒の大半が下らない、噂話をしているからである
実際に有名人が居たのは、昨日の衝撃的な出会いで確認したが
なんというかあんなのに会いたいのかねぇ
物好きが多い学校ですこと

今日は何事もなく部室に着くことに成功した
案の定いつもの席に座ってる長門に話しかける
「周りが噂話でうるさくてな、ここで昼飯食わせてもらうな」
長門はいつものようにミリ単位でうなずいた後
「いい」
と、一言だけ喋って本に目を落とした
しかし、静かだな騒がしい喧騒の中に居た俺には
ここはまさに砂漠のオアシス、俺は目を閉じて長門の本をめくる音に
耳を傾けた後、弁当に手をつけて

嵐がやってきた

扉を突き破るかの勢いで開きながら
「キョーーーン!!」
と俺の名前を呼んでいる
こんなことをするのは、一人昨日の破天荒ちびっ子をふくめても二人である
振り向くと、そこには誰も居なかった
ん?おかしいなドアがひとりでに開いて俺の名前を呼ぶはずは……
「下だ下!!!」
……なるほど、俺は昨日と同じ過ちを犯すところだった
流石にあの蹴りを再び食らうのはご遠慮願いたいものだね
しかし、なんでお前がここに居る
「お前のクラスの連中に聞いた、お前三年としか言わなかったから、全クラス回ることに
なっちまっただろが!」
なるほど、俺が教室にいなければどこに居るかといって
一番に思いつくのがSOS団の部室であることは
俺と面識が無くてもすぐに出てくる物だろう
だから、俺を探してここにきた、ここまではまぁいい
しかしなんだこの少女は、自分が有名人なのを自覚してるのかね
最近うわさの有名人が三年の全クラスを回って
キョンはどこだ、なんてことを聞いていたのかと思うと午後の授業が
俺への疑惑の眼差しや、嫉妬の眼差し
いやそれですめばまだいいほうだ、殺意を向けられでもしたら
俺は一体どうすればいいのか、考えるだけで憂鬱だね
俺がひたすらに悩んでいると
気がつくと彼女は部室にずんずん入って俺の座ってた席の隣に
パイプ椅子をおいてちょこんと座っていた
なにしてんだよ、一体
「なにってお前弁当食うためにここに居たんだろ?一緒に食おうぜ」
……まったく人の都合をまったく考えないちびっこだ

「ちびっこじゃねぇ!」
ぐはっ、…俺の腹の中がポップコーンパーティだぜ
座ってるゆえ、俺に蹴りを食らわせられないだろうと思って油断した
まさか正拳突きが腹にくるとは思わなかった
この野郎…
「この野郎でも、ちびっこでもない、小神アキラだ!あきらでいい」
なにやら、名前で呼ぶことを許可されたらしい
いやこの場合は強制が正しいだろう
まぁ、わかったよ…あきら…ちゃん
すると、彼女は一瞬反応に困ったようにしてたが
それでいいから、早く弁当食おうぜと続けた
顔が若干紅い気がするが気がつかない振りをして
俺は椅子に座って飯を食い始めた、時間がもう少ないからな

そういや、昨日の弁当を弁償させることについては俺はこのとき
すっかりどうでも良くなっていた
多少怖いが可愛い子と仲良くなれたんだ、ここはすっぱりあきらめるべきだろ
あきらだけに

―――

 

 結局、昼休みはあきらちゃんと2人で弁当を食って終わった
周りがうるさいからと、部室に逃亡したはずなのだが
何故だろう、彼女一人で十分うるさかった
鐘がなり五時間目の授業が始まるため、教室に戻るや否や
クラス中から、質問攻めにされた
お前ら授業始まるって言うのに、暇人どもめが

適当にあしらって席に座ってしまえばそのうち教師がやってきて
こいつらを追い払ってくれるだろうと、無視して歩き出そうとしたその瞬間
俺の背中に見事なドロップキックが放たれた
格闘技の美しさを競う大会があれば上位に食い込むのではないかと
思うほどの見事さだ、なんてったって俺に食らわした後に
自らも地面に胴体着陸するような不様な真似はせずに
あの強力なキックを放ったとは到底思えない細い足できれいに着地しているからな
しかし、何故背中に食らった俺がそれを見ていたかって?
簡単なことだ、俺は蹴られた勢いで前方へ一回転して教卓に頭をしたにした状態で
ぶつかり停止した、その結果逆さになった天井へ
優雅に着地するハルヒが視界に入ってたわけだ
しかしだなハルヒ、打ち所が悪ければ俺はこの短い人生を終えることになっちまうぜ
せめて天寿をまっとうしたいもんだ、俺としては
だが、ハルヒは俺のそんな些細な抗議も聞こえない振りをして
俺に怒鳴り散らしてきやがった、
「あんたのことを探してさっきロリぃ女の子が三年のクラスを大声で巡回してたわよ!?
あんたそっち系の趣味があったわけ?SOS団員その1がこんな変態やろうだったなんて!」
ふむ、やはり俺の想像通りの行動を行ってたらしいな彼女は
しかし大声ということじゃきっと今のハルヒの方がでかいに決まっている
それとハルヒ、俺には犯罪者予備軍に加わるつもりは毛頭無い
あと手の趣味を俺は否定はしないが俺自身にはそんな趣味は
まったく無いことをここに付け加えとこう
それに彼女はここの一年生だ、確かにちっこいが
こなたや、ゆたかちゃんの例もあるんだ
俺が蹴っとばされるような事柄では、無いと思うんだがな
それともこれからこなたやゆたかちゃんが俺を呼んだときも
同じように蹴り飛ばすつもりか?
だとするならば、三年のこの時期にして登校拒否になるという
最終手段を使わざるを得なくなるわけだが
「うっ…そこまで言うならあのちっこい子は何なのよ、一年生っていっても
見たこと無いじゃない」
あぁ、彼女は小神あきらって名前でどうやら最近話題の有名人であるらしい
見たこと無いのは、さて仕事で忙しいからではないのかね?
「その主張を一億歩、いえ一万歩譲って信じたとして」
一々俺は突っ込んだりはせんぞ
俺とて今の状況で突っ込んで、無傷で帰れると思うほど楽観的でも馬鹿でもない
「なんでその有名人とあんたがそんな仲良いわけ?」
まったくのご意見である
この時になって、先ほどの蹴り以降動いてなかったクラスの連中も
自分達が知りたい情報が出そうに成ったためか身を乗り出している
自分に危害が来ないとなるととことんあつかましい奴らだ
特に谷口、馬鹿は死んでも直らないというが
こいつは直ろうが直らなかろうがとりあえず死んでもらいたい
周りを見渡した後、ハルヒに目を向けなおすと
先ほどよりもずいぶんと近くに居た、アサシンにでもなればいい
俺は至近距離から発せられる、ハルヒの死ね死ね光線を浴びせられた俺は
仕方なしに昨日の事とさっきのことのあらすじを適当に話してやった

すると、ハルヒは納得したようなしてないような表情をしていたが
「あんたが、幼女にいかがわしいことをしてたわけじゃないならいいわ」
と、いって自分の席に着いた
気がつくと授業開始から既に20分ほど経過している
教師は何をしているのかと思ったが、あぁ五時間目は世界史だったな
俺は足音を極力させないようにして前の扉から顔を出すと
思ったとおり、黒井先生がそこに居た
いったい何をしてるんですかあなたは、授業をサボってまで
生徒のやり取りを立ち聞きとは
そういうと黒井先生は、開き直ったように
「だって、気になるやん」
と、朗らかに笑って
何事も無かったかのように教室に入っていった

痛みによく耐えがんばった、感動した
俺はそう自分に対していったやりたいね
なんてったってハルヒの化け物キックを思いっきり食らってなお
その日の残りの授業をきちんと受けて
その上今日も休むことなく、学校に向っているというのだ
多少自画自賛したところで罰は当たるまいて
しかし何だろうな、あのちっさい有名人に出会ってから
やけに俺の体の負担が増えた気がする
肉体的にも精神的にも、な
しかも、今日に至ってはまだ学校についていないのに
と、俺は横にいるピンクの目立つ髪の毛の少女に目を向ける
学校は山の上にあるから、どこからどんな交通手段であろうと
必ずここは通らなくてはいけないため、こういう事態になることは
あらかじめわかっていたものの、まだ初対面から三日目だ
いくらなんでも展開が速すぎてついていけない
一体なにがどうなってこうなったのか、誰か俺に説明してくれ
「おいキョン、ちゃんとあたしの話聞いてんのかよ?」
俺が思考している間、延々と話し続けて

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最終更新:2009年05月30日 05:17
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