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作品1

~プロローグ~

 肌寒い秋の朝、心地良いまどろみの中で寒さに震える。
 寝ぼけながらも俺は暖をとるために、布団の中に潜り込んでいるであろうシャミセン
を手探りで探し出す…
 すぐにソレは見つかった。俺は暖かくて柔らかいソレを抱きしめて再び夢の世界へ旅
立とうと、心地良きまだろみに意識を委ねた。

 僅かな違和感を覚えながら…

「んん~? なんだぁシャミ…お前随分とでかく…なったなぁ……」

『すぅ……すぅ…』
「それに随分…人間っぽい声を…って!!」
 曲者かぁー!! っと叫びながらガバッと俺は起き上がった。そこで俺はさっきまで
抱きしめていたソレ…いや、ソイツを見て驚愕した。

「こんなとこで何やってんだ? 泉…」
『すぅ……すぅ…』

 そこには俺のクラスメートの『泉こなた』? が幸せそうに眠っていた。

 『キョンの世界』  第1話 ~泉かなたと奇妙な覚醒~

 我が学び舎北高は山の上に存在するため、その通学路は当然気が遠くなる様な坂道に
なっている。もちろん俺の中では魔のハイキングコースとして恐れられている。入学し
て1年と半年ほどたったが、未だにこの坂の長さには慣れる事が出来ない。
 俺はその地獄を今まさに体験しているわけなのだが、そんな地獄も今や俺のささやかな
日常の一つだ…が、今日の俺は既に非日常の世界へと足を踏み込んでいた…足というより
は主に俺の背後、背中の部分だが…
『キョンくんは頑張り屋さんね。毎朝こんな坂道を登っているなんて』
 俺の背後の何が非日常なのかと言うと、どうやら俺は何かに憑かれてしまったようだ…
『私も出来ることなら高校生に戻ってこの坂を歩いてみたいわ』
 そう、先ほどから俺の背後で青いロングヘアーをふわふわと揺らして漂っているコイツ…
『そう思うなら替わってくれ…かなた』
 『泉かなた』に…
 何? 状況がつかめない? それは良く分る。当事者の俺ですらよく分らんからな。この
状況を説明するためには数時間ほど遡らなければならない。そうだな、あれは今から2時間
ほど前…

 朝起きたら自分の隣で自分のクラスメートが寝ている…いや、ありえない。そんなこと
あるわけが無い。たとえ長門が谷口の下らんジョークに大爆笑しようが、実は朝比奈さん
が裏でちゅるやさんを虐めていたとしても、絶っっっっったいにあり得ん! まあ現実に
そんなこと起こるわけないが…
 そうだ、これは幻だ。覚えも無いのにこいつが俺の隣に寝ているなんてあり得るわけ無い
もんな。なんだ、心配して損したな。なんて事無い、寝ぼけた頭が俺に奇妙な幻影を見せて
いたに過ぎなかったのだよワトソン君。

『あら、人を幻扱いなんて酷いんじゃないかしら?』
 どうやら俺は遂に末期症状をむかえていたらしい。何故なら幻覚だけでなく、幻聴まで
聞こえだしたのだから。
『もぉ、キョンくんったら。一夜を共にした中じゃない』
「誤解を招くような言い方をするな!」
 そう言ってそっちを振り向くとそこには先程まで眠っていた『こなた』が目を覚まして
ベッドに座っていた。ん? 何か違和感が…普段見ているこなたとは何かが違う気がする。
『それはそうよ。私はこなたじゃないですもの。私はかなた、泉かなたです』
 泉…かなた? ってことは…
『そうね、幽霊って事になるのかしら』
 そう言ってかなたは立ち上がった。いや、正確には立ち上がったわけではない。顔の位
置が上に上がったから立ったと錯覚しただけだ。ではどうして顔の位置が変わったのか?
答えは簡単だ。浮いているのだ。ま、幽霊なんだし浮きもするだろう。
『あら、意外と驚かないのね』
 そりゃ最初見た時は驚いたが、こういうトンでも現象にはもう慣れっこでね。それで?
何だってあなたは俺の部屋に現れたんだ? 俺なんかよりこなたの奴に会ってやった方が
良いんじゃないか? 
『それは出来ないわ。私は貴方から5メートル以上離れる事が許されてないの』
 そう言いながらかなたは俺の目の前、目と鼻の先に飛んできた。すまんがもう少し離れ
てくれないか? 顔が近い…
 しかしそんな俺の切実な願いをかなたは全く無視して続けた。
『詳しい説明は省くけど、私はあなたの生命エネルギーが作り出した像らしいの。まあそ
んなに難しく考えなくてもあなたの守護霊みたいなものって考えてくれても構わないわ』
 なんだか難しくてよく分らんな…
『それでも良いわ。でもこれだけは知っておいて、必ず私が必要な時が来るわ』

『だからその時のためにもっと私のことを知ってほしいの。特に、私の能力について…』
 能力? 何だそれは。透視でも出来るようにしてくれるのか?
『私の能力は――

「くぅおら! バカキョン!!」
 突然の地獄の底からわきあがる様な声によって俺は現実に引き戻された。
「掃除の邪魔よ! さっさとそこをどいて部活に行きなさい!」
 地獄の閻魔のような声を放つハルヒは箒で俺をたたいて俺を教室から追い出した。
「良い? サボったりしたら、死刑だからね」
「へいへい」
 ここで反抗するとまたうるさいので素直に部室へ向かう事にした。
『可愛い子ね、ハルヒちゃん』
 どこがだ? あんなうるさい奴。
『ふふ、素直じゃないんだから』
 と、その時、突然前方から女子生徒がものすごいスピードで走って突っ込んできた。
「どいてどいて! 危ないってヴァ!」
 俺はとっさだったが紙一重でかわす事が出来た。が、かなたはその場から一歩も動こうと
しなかった。このままでは正面衝突だ! しかし…
『………』
 女子生徒はかなたをすり抜けてそのまま走り去って行った…
そう、俺以外の人間がかなたに触る事は出来ない。全てすり抜けていってしまうのだ。
そしてその声すら誰にも聞きとる事が出来ない。それを話した時のかなたの表情はどこか
淋しげだった気がした。

 部室に到着するとまだSOS団室兼、文芸部室のマスコットが窓際で本を読んでいた。

「よぉ、お前だけか?長門」
 ドアを開けた姿勢のままそう長門に問うと、長門は読んでいる本から目を離さずにコク
ンと頷いた。俺もそれ以上は何も言わずそのまま椅子に座り、一息つく。もちろんかなた
は俺の後ろを漂っている。どうやらかなたは長門に興味をしるしたらしく、しきりに長門
の方を盗み見ていた。
と、長門が突然口を開き喋り出した。
「あなたが昨夜の深夜2時22分丁度に無意識的に手に入れた能力は涼宮ハルヒ力によるも
のではない」
 俺が何も言わないうちから長門は俺の疑問を晴らしてくれた。さすが長門、俺にはでき
無い事を平然とやってのける! そこに痺れる憧れるぅ!! ……っとすまんな。少し取
り乱してしまったな。というか長門よ、お前にはこいつが見えるのか?
「見えているわけではない。ただしその存在を感知することなら可能」
 そうか…
「それから…」
 長門はそこで本を閉じ、俺を見上げてきた。長年長門の表情を見てきた俺だからこそ分
る変化だが、その時の長門の表情は何か心配している様な表情に変化していた。
「あなたは今過去最大の危機に直面している」
 過去最大? そりゃあ朝倉の襲来とか天蓋なんとかとか言う奴らよりも危険ってことか?
「そう。もう危機はすぐそばまで迫っている」
 そう言って長門は部室のドアを指差した。その瞬間ドアが開き『ソイツ』は部室に入って
きた。
「おや?まだお2人だけでしたか」
 ソイツはいつもの通り笑顔をその整った顔に浮かべていたが、何かが違った。
「少し遅れてしまったと思ったんですが」
 いつも気持ち悪かったが今日は当社比65%増しで気持ち悪かった。いや、それ以前に…

「なあ古泉」
「何でしょう?」






「何故服を脱ぐ!!!!!!!!!!」
 ソイツ、いやもうぼかす必要も無いな。古泉は部室に入ってくるなりおもむろに服を
脱ぎだし、今では股間のモッコリ伊達じゃない! とでも言いたげな顔で某特殊刑事課の
海パン一丁の刑事並みの…いや、それ以上にハイレグなブーメランパンツ一丁になってい
た。その…なんだ……殴っていいか?
「おっと、無駄な抵抗は止めた方が良いですよ? こう見えて僕は機関で訓練を受けてい
ます。自分で言うのもなんですが、只の高校生の貴方では荷が勝ちすぎると思いますが」
 確かにそれは一理有る。実際に古泉が喧嘩なんかをしているところは見たことは無いが、
恐らくその訓練とやらははったりではないだろう。それに、あまり見れたものではないが
コイツのむき出しの肉体を見れば、コイツが俺よりも優れた戦士である事など拳を交わさ
ずとも分る。

  俺ではコイツに適わない…

 だが古泉よ、大事な事を一つ忘れてはいないか? 
「ほう、それは何でしょうね?」
 ここが文芸部室で、その文芸部室に誰が居るかってことをだよ!

「長門!!」
 俺は長門に助けを求めた。そうだ、宇宙人とはいえ女に助けてもらうのを期待するなん
てなんとも情けない話だが、こいつが居る限りは俺は安全だろう。そう思った刹那、俺は
見た。古泉の表情を! 古泉は笑っていた。まるで自分の勝利を確信しているような、そ
んな笑みだった。何なんだこの余裕は…コイツに長門を押さえる手段があるわけ…
 その時声が聞こえた、その声は俺が絶対の信頼を置く奴の声だった。とても小さな思わ
ず聞き逃してしまいそうな、ちょっと物音を立てれば消えてしまいそうな声。だがその内
容は俺を絶望の底に落とすのに十分なものだった。
「す、すまん。もう一度言ってくれないか長門。よく聞こえなかったんだが…」
 もちろん嘘だ。ただ認めたくないだけだ。そんな俺の心情も気付いていただろうが、
長門は言われたとおりにもう一度繰り返してくれた。今度ははっきりとした声で…

「私はあなたを古泉一樹から助ける事は出来ない」

 理解できなかった。いや、これも嘘だな。理解したくなかったんだ…無理も無い、ずっ
と信じてきた仲間に裏切られたんだ。それも2人も同時に。
「……なんでだよ…何でだ長門ぉ!」
「思念体の…許可がおりない…」
 そう言った時の長門はとても悔しそうな顔をしていた。しかしそれは本当に僅かな変化。
長い間共に居続けた俺だからこそ分る、小さな変化。 
 そうだな、お前を疑った俺が悪かった。お前だって辛いんだよな、許してくれ…
「………」
 長門は何も言わなかった。しかしその表情は心なしかさっきよりも穏やかなのもになった
気がした。
「で? なんで思念体はそんな意見になったんだ?」

 そう聞くと長門は僅かに頬を綺麗な桃色に染め、言いにくそうに
「それは…思念体があなたの……俗に言うところの、アナル…というものに興味を持った
から…」
 などと言った。ってちょ!! アナルて。
「そろそろ宜しいですか? もう待ちくたびれて ア ソ コ がギンギンなんですが?」
ちょ、マジで俺のアナル狙いかよ!
「それではイきますよ、ふんもっふぅ!!!!」
 そんな謎の掛け声を上げながら古泉は俺に飛び掛ってきた! くそっ、万事休すか…
『キョンくん!!』
 この声は…かなた!? そうか、今の俺は只の高校生じゃない。コイツに対抗する力が
有るんだ!
 俺は右手を前にかざし、意識を集中する…かなたから力が送られてくるのを感じる…
 そして俺とかなたは叫んだ!かなたから授かった魔法のコトバを!


「『ザ・ワールド!!!!』」

 

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最終更新:2007年10月21日 11:03
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