満月の夜

久方ぶりに誰に起こされること無く目が覚めた
しかも、ずいぶんと頭がすっきりしている
今日は平日のはずだが、休日で昼まで寝ている時のそれに似ている
しかしあたりはまだ暗かった、ベットから起き上がり
窓から顔をだすと空には満月が空間に穴を開けるように
ぽっかりと浮かんでいた
……おかしい、いくらなんでもこの空はありえない
寝ていたとはいえ、俺の感覚では普段なら遅刻しているような時間のはずだ
時計……やはりだ、時計はもう九時近くを示している
それにうろ覚えだが、昨日は満月なんかじゃなかったはずだ
俺は着替えもそこそこに、台所に下りていった
誰もいない、どの部屋にもいない
TVをつける、映らない
電気を点ける、点かない
…どうなってる、この状況は永遠の夏休みを思い出すが
同じ時間を繰り返すというより、これは……
明けない夜、誰もいない空間、閉鎖空間に近い

時間が止まってるかのような静寂
多少経験を積んでる俺は一回部屋に戻り、着替えを済まし
携帯を睨みつける、きっとこの世界には俺以外の人間もいるはずだ
必ず連絡があるだろう、俺は昨日携帯を充電器につけっぱなしにしていた為
電池は満タンだ、俺はしばらく携帯を見ていると
ほらきた、メールが10数件一気に届いた
送信者を確認すると、ほぼ予想通りの面子からの連絡だ
…だが、一番に連絡をよこしてくるだろうと思っていたあいつがいない

ハルヒがいないんだ


俺は一通りメールに目を通した
かがみにつかさ、みゆきさん、こなたにみさお
峰岸、ゆたかにみなみ、ひよりにパティ、あとついでに古泉
朝比奈さんは携帯もってないだろうし、長門はメールなんかをするとは思えない
…やはりハルヒはいない
とりあえず俺は全部に同じ内容で返信した
『とりあえず、学校に一回集まろう』
そう送ると俺は、携帯をポケットに突っ込んで
近くにあった財布もポケットにねじ込んだ
実際には金を使うことは無いだろうが、出かけるときには常に持ってないと
気分的に落ち着かないからな
俺は、外の様子を見て上着を一枚羽織って家を出た
自転車に跨りそう一度空を見上げる
満月は怖いほど鋭く美しかった


学校につくと、既に全員集まっていた
連絡をしてないはずの長門もしっかり制服姿でそこにいたが
俺はそれに関しては、特に言及しなかった
とりあえず自転車を置いて、そこに向かうと
皆俺に気がついて、走り寄ってきた
「キョンキョン、これどういうこと?何でずっと夜なの?」
「キョン!どうなってんだよこれ!昨日は半月だったじゃん」
「家にもどこにも人がいないんだよ、目が覚めたらお姉ちゃんしかいないし」
やはり、他に誰もいないのか
それに俺の月に関しての記憶も正しかったようだ
俺は一旦みんなをなだめつつ
ずっとおろおろしている朝比奈さんと長門、古泉を集めて
四人だけで一回話し合うことにした

「さて、どういうことだ?古泉説明してくれ」
朝比奈さんにはもともと説明は出来ないだろうし
出来てもまた虫食い状態になってしまうのは目に見えてるし
長門に関しても、専門用語の塊を俺にたたきつけて来るだけだしな
「まぁ言うまでも無いでしょうが、これは涼宮さんの影響でしょうね
この場に涼宮さんがいないことに関してはわかりかねますが……
これはいつぞやの夏休みと同じように、涼宮さんが夜が続いて欲しいと思った結果なのでしょう
時間が戻るのではなくその時間が永遠に続く、まさしくエンドレスです」
そうかい、でどうすりゃ元に戻るんだ?
俺がそう口を開こうとすると長門が静かに俺の質問に先回りして答えた
「この世界のどこかにいる涼宮ハルヒを見つけて、寝ている彼女を起こす」
あいつはやっぱりここにいるのか、ってか寝ている?
「なるほど、夢ですか」
「そう、涼宮ハルヒは長い夢を見ている、そしてそれから覚めたくない
だから永遠の夜の世界を作り上げた
私達は閉鎖空間における古泉一樹の役割をするためにここにいる」
なるほど大体の自体は飲み込めたが、あいつらをどうするかだな
この状況をうまく誤魔化して、それでいてハルヒの捜索を手伝わせるために
最低限の現状を伝えなくてはならない、俺にはうまくやる自信は無いんだが
「………結局、それでも俺がやらなきゃいけないんだろうな」
俺はあいつらに向き直り、直球で行くことにした
「みんな、ここには俺達しかいないんだここから出るためにはハルヒをとっ捕まえるしかないんだ協力してくれ」
こんな説明でなっとく出来る人間がいるとは思えないが、俺にはこれが精一杯だ
しばらく顔を見合わせていたが
「オッケ、ハルハルを見つければいいんだね?」
こなたのその言葉を皮切りにみんな承諾してくれた
その後、思い当たる場所を全員で捜索することと相成った
とりあえずはハルヒの自宅に向かうことにした


ハルヒの家を見るのははじめての俺だが
特に特出すべき点はない、鍵が開いてるようなので中に入ることになったが
中に入るのは女性のみ男はそとに出ていろ、とのかがみからのお達しで俺と古泉は
道路で二人立ち尽くしていた
「お前の機関の連中はどうなってるんだ」
「先ほど自分で言ってたじゃないですか、ここにいるのは自分達だけだって」
「答えになっていないな、俺はお前の機関の連中のことなんて知りやしない出鱈目いっただけだ」
実際、この場で荒川さんや森さんがタクシーで現れるとは毛頭思ってないが
可能性が無いわけでもない、だから俺は直接古泉に尋ねたわけだが
「あなたの思ってる通り、ここには本当に僕達だけです
そもそも涼宮さんが我々以外の人間をこういったところに連れてくるはずも無いでしょう」
まぁそうだろうな、俺は納得の行く答えが返ってきたことで満足し
それ以上の会話はしなかった、それにそろそろみんなが出てくる頃だろう

一番手にみゆきさんがゆったりとした足取りで出てきて
俺達に向かって首を横にふった、どうやら収穫はなかったらしい
しかし、普通の家からぞろぞろと出てくる女子高生ってのはなかなかシュールだな
まるで蟻みたいだ、そう呟いたらどうやら聞こえていたらしく
かがみとこなたにぶん殴られた、口は災いの元ってか
その後、とりあえずは思い当たるところに向かうことになり
全員ばらばらに散っていった


俺が向かうのはSOS団の部室、ハルヒといったらここしか思いつかんからな
一応靴を履き替えて、暗闇の廊下を俺は疾走していた
多少上がった息を整えつつ、部室のドアを開いた
……もぬけの殻、期待はずれって奴か
しかしここにいないとなると、俺には他に場所が浮かばんのだが
俺はそれなりに期待していただけ大きな落胆を覚えつつ
ついでに学校内を探してまわった、他に当てが無いからな



自分達のクラスにも顔を出してみたが結局ハルヒの姿は無かった
携帯を確認するが、だれからも連絡がないやはり見つからないのだろう
俺は携帯をまたポケットにねじ込む
ため息をつきながらたまたま目の前にあった教室を覗いてみる


………いた
ハルヒは教室の真中辺りの席に座って
気持ち良さそうに寝息を立てていた
この教室はなんの教室だ、俺は一回教室のプレートを確かめると
俺達が一年のときのクラスだった、良く記憶を引っ張り出すと
あぁ、あの席は一番最初の席だ、あの前の席が俺の席だったんだな
俺はどこか懐かしい気持ちでハルヒに一歩ずつ近づいていった
ハルヒを眺めつつ、昔俺が使ってた机に腰を落ち着けた
驚くことに、その机はそのまんまあの頃使っていた机だった

俺が授業中惰眠を貪る際に視界に毎回入っていた、机の刺青が残っている
なんであの日のままなのか、もしかしたらハルヒはあの日の夢を見てるのか
俺は色々な想像をめぐらしたが、結局答えが出ることは無く
ハルヒを目覚めさせることにした

しかし、こいつはしぶとい頬をつねっても
鼻をつまんでも、デコピンをしてみても
起きる気配は無い、こいつは…俺は始めてハルヒと閉鎖空間に閉じ込められた日のことを思い出した
すると、タイミング良く携帯がバイブレーションして着信を知らせた
見るとメールの着信だった、あて先不明の件名なし
ってかメールであて先不明って…開くと一言書いてあった
『それが正解』
長門か、しかしまたワンパターンだ
たまには俺がハルヒをぶん殴って抜け出すパターンもあっても言いと思うがね
そういったところで自体は好転するはずも無く
結局俺に残された選択肢は一つだけだった
ハルヒに顔を近づけて目をつぶる

 

 

一瞬の温もりを感じて、顔を離すと
世界が一変した、足元が揺らめき
視界が歪む、窓の外を見ると満月はその姿を失っていた
最後に扉の方で物音がしたと思ったが、それを確かめる前に俺の意識はフェードアウトしていた


目が覚めるといつぞやのように、自分のベットの上だった
昨日のこと、っといっていいのかはわからないが
あの永遠の夜のことはどうなってるのだろうか
俺は完全に記憶に残ってるが、こなた達はどうなってるのやら
なんとなく、充電器に付きっぱなしになってる携帯を手に取ると
メールが溜まっていた………昨日の面子そのままにメールが来ている
それにあの時送ったメールも受け取ったメールも受信簿に残っていた
俺はメールの一つを開いて、……死にたくなった
こなた頼むからあの時いなかった連中にまで言わないでくれよ
手から転げ落ちた携帯の画面にはこなたのメールが開いたままになっていた


『昨日は寝込みのハルハルを襲っちゃって積極的だね~』

 

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最終更新:2007年11月05日 00:05
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