俺達はとある遊園地に遊びに来ていた。
理由の1つとしては学校という縛りからの息抜きだ。
いつも頭をグルグル回してるので、ぱーっとやりたい放題やっちまうって考えだ。
もう1つはこの遊園地のタダ券を貰ったからだ。
古泉から、というのがちょっと癇に障るのだが、まぁ至って普通の遊園地のようだ。
老若男女の客が出入りしていた。大盛況か。
俺達はSOS団メンバーで来ていた。
だが、入場早々、人混みに巻き込まれて俺はみんなと逸れてしまった。
「マズったな……」
当然の如くポケットから携帯を取り出そうとしたが、携帯が無かった。
そういやベッドの上に放り投げて終わってた気がする。
「さぁどうするか…」
後頭部を掻きながら、周囲を見回す。
すぐさま、1人だけ知り合いと思える人が見つかった。
紫がかったツインテールは――……
「おーい、かがみ」
「ん? あ、キョン」
柊かがみで当たっていた。
「1人か?」
「うん、私も逸れちゃった」
「んじゃあー…2人で探すか」
周囲を見回しながらとりあえず足を動かそうと前に歩み出す。
が、服の後ろの裾を摘まれた。かがみに。
「………あのさ、キョン」
かがみが眼を逸らしてる所為で眼が合わない。
「どうした?」
「一緒に、観覧車、乗らない?」
一つ一つ言葉を確実に発音する。
観覧車か、小学生の時以来かな。
「ああ、俺はいいぞ」
「ホントっ?」
まるで仮面ラ●ダーの変身セットでも買ってくれることになった子供の顔で喜んでくれた。
まぁ上からあいつらを探すのもいい案かもな。
俺達は観覧車に向かった。
道中、周囲を見廻しながら行ったが誰もいなかった。
ココの観覧車はいい眺めが見えるそうだ。
絶景ベスト3に入ってた気がする。適当に雑誌を眺めた時に見たんだが。
「お2人様ですね。どうぞ、お入り下さい」
係員の指示に従って俺達は赤の部屋に入った。
観覧車が動き出す。
「あいつらいないなぁ……」
上から眺めていたが見つからなかった。
黄色いリボンなら解り易いとは思ったが如何せん人が多過ぎた。
背の高い人の陰になってれば見える筈も無かった。
ま、今見つかってももしかしたら降りた時にはソコにいないだろうけど。
「じ…が……ば、いい…なぁ」
かがみが呟く。聞き取れない。
「何て言ったんだ?」
虚ろな眼をしてる様子から多分無意識に聞いたのだろう。もう1度言う。
「時間が止まれば、いいのに。そうしたら私、その間やりたい事やってもいいんだけど…」
俺の向かいに座るかがみが遊園地が見える窓と反対の窓を眺めてふと呟いた。
「でも、さ。無理なんだよね。科学的に言うと」
俺もかがみの見ている方を見る。
山の森林が燦々と日に煌き輝いていた。
美しい。普段こんな言葉なんか使わないが、そう感じ取れた。
「そうだな。でもさ、だから面白いんじゃないか?」
俺は木を見ながらそう言った。
「そう?」
「同じモン何度も見ても面白くは無いだろ?
そりゃあ――久々に見たら良いとは思うかも知れんけどさ。
……まぁ感情は人の数だけ、ってな。独り言だ、流してくれ」
何か自分が何言おうとしてるのか解らなかった。
こういうのは性に合わん。照れ臭いな。
「かがみは何か……願い事があるのか?」
「まあね。時間が止まれば、その為にやってもいいかな、って」
気になるな。
けど、まぁ言わなくなった時は言ってくれるだろう。
俺は他人の願いを貪欲に聞き出す程タチ悪くは無い。
「………………」
「………………」
沈黙が出来てしまった。気まずい…
話題が作りにくい性格としてはこの沈黙はどうしようもなくて困る。
ただ、観覧車がゴゥン、ゴゥンと動く音が小さい部屋に響く。
「ねぇ……キョン…」
助かった。かがみは少し躊躇いながら語り掛ける。
「ん、何だ?」
「知ってる?」
かがみは遊園地側の窓の下の景色を見る。
「何をだ?」
「今、私達が一番上にいて―――」
ああ、そんな感じはするな。上には"部屋"は無かった。
「―――今、止まってるみたいよ」
……………は?
バンッと手の平を窓に打ち付けて確認するが、どうやら動いてないのは確かなようだ。
拡声器を持ったさっきの係員が必死に叫んでいた。
≪現在、観覧車が電通不良によって静止しております。
しばらくすれば再始動しますので、今暫くお待ちを―――≫
マジか。くそったれ。
久々に盛大な溜め息を吐いてしまった。
「ふふ…ふっふふ……」
かがみの堪えた笑いが耳に入る。
「ふ、ふふ……」
「…どうした?」
「い、いやっ……あははっ、だって……」
かがみの笑いは止まりそうも無い。
「これってさ、私達の周りの時が止まったみたい――じゃない?」
周囲を見ると、木々には風も吹かず、観覧車の下では野次馬が一塊の侭溜まり捲って動いてないように見えた。
「バッカみたい私。さっき余計な事言った所為で…」
そういや上り始めた時に言ったっけ。
{時間が止まれば―――その間にやりたい事やってもいいんだけど}
「かがみのやりたい事って……なんなんだ?」
今なら聞けると思った。
「……聞きたい?」
横目で、睨まずに見てくる。
「言ってもいいなら、な」
無理強いはしない。
かがみが深呼吸する。そこまでせんでも。
「キョン」
人混みで別れてから初めて真摯な眼で見られた。
「私と――――付き合って」
ゴゥン。
観覧車が動いた。