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春不縁

この作品は春不遠の後日談です。








 空き部屋。
そうとしか表現できないような質素な部屋だった。

部屋の中心に1人の女性が座り、その手にバラの造花を持っている。
それをクルクルと手で弄んでいる。
「……」
無言のまま女性は目を閉じた。
数秒もしないうちに再び目を開けると手には本物のバラが握られていた。
「……不思議なものだね」
クルクルとそれを回す。
マジックでは無く、本当に造花が変化したのだ。
その女性は部屋の隅に置いてある黒い固まりに目をやった。
その目は恋人を心配する乙女のような必死さがあった。
「まだ…足りないのかな」
床に落ちていた造花を手に取る。
再びその女性が目を閉じるとまたしても造花が生花に変わった。



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「よお。久しぶりだな」
男は馴れ馴れしい口振りで話しかけた。
「あ―……ん―あれから何年かね?」
話しかけた相手は返事をしない。
「涼宮とか泉とか大変だったんだぜ?そういやあの長門まで取り乱しててよ…お前何者だよ」
懐から男はタバコを取り出し、火をつけた。
「ふぅー…そういや涼宮は古泉と付き合ってるらしいぜ?だから早めに告っておけって…俺?お前に聞かせる義理はねえよ。」
ぷはぁ、と紫煙を吐いた。
「まぁ、怒らず聞いてくれな?お前の妹可愛くなったよな。
妹さん、俺の大学の後輩でな?
まぁ、その、お義兄さんって呼びたくてな…駄目か?
同級生にお義兄さんなんて言われたく無いだろうが…………ん?」
男は何か異常に気づいたらしい。
顔を青ざめさせて"墓石"をずらした。

「キョン………なんでだ?お前、そこまで誰かの恨み買ってたのか………?」

骨壺の保管されているべき場所。
そこには何も無かった。



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ポリポリ
新幹線内で女性が1人、白いスナックを食べている。
「あはははっー」
「コラッ!!」
反対側には親子連れの乗客。
一人息子の扱いに手を焼いているようだ。
その子供が女性へと近づく。
「ねえ、お姉ちゃん何たべてるの?」
「…」
スッ、とそれが子供に差し出された。
「いいの?…ポリッ…これ、あんまりおいしくないよ?」
「コラッ!!!あの、迷惑かけてすみませんね」
謝る親に会釈だけを返し、再びスナックをかじる。

ポリッ…ポリッ…

「お姉ちゃん、そのリボンかわいいね」
女性はピタッと動きを止め、少年に笑みを向けた。
「ありがとう。私もこのリボン気に入ってるの」
ポリッ………ポリ
その女性は食べる手を再び進める。
白い何か。
それは人骨ではなかっただろうか。



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と或る居酒屋に男女三人。
「乾杯!!!」
「──乾杯」
「………」
といってもあまり盛り上がった空気は無い。
「橘」
「ん―♪何ですか?」
「そろそろ原理を話せ。僕にはさっぱりだ」
橘と呼ばれた女は上機嫌で語り始めた。
「まずですね―♪藤原さんが良いこと言ってくれました♪
"涼宮ハルヒの生死は規定事項に触れられていない"
そして機関を通して知ったんですが
"長門有希は未来との同期をしない"
ってことを知りました♪」
「それで?」
「あとはキョン君が死んでくれれば良かっただけですから。
ただし、不慮の事故で。
いいですか?佐々木さんは"欲"が無いから"力"は不必要だったんですよ。唯一、キョン君を除いて。
まず古泉を離したり~ってのはそれ、周防さんという未来の読めるスゥパァコンピューターが居るですよね?
私は考えましたよ―色々。
そして未来を覗くことの出来る私達はなんともまぁ、あっけなく勝利しましたよ。
痴情のもつれ?ですか。
結局古泉と柊さんを別れさせた程度しか動いてませんけど」

「まさかここまで全て予想通りだとは思いませんでしたが…わかりましたか?」
橘という女はグイッとグラスを傾け、空にした。
「アイツの死体は何故2つあったんだ?」
一方の男は未だに何にも口を付けず、残りの女は黙々と酒盗を口に入れていた。
質問に橘が答える。
「質問ばかりですね―そんなんだからハゲるんですよ?
まず、一つは私達がこっそり奪ったのがバレないため。
もう一つは佐々木さんの目標…"キョン君を行き返す"為ですよ」
「ふん…そうかい」
ようやく疑問が解消されたからか、箸を延ばし始める藤原。
「感謝してくださいよ?積極的に動けないあなたの代わりに私が動いてたんですし。
あの目がイってた子を誘導したり機関の報告書偽造して古泉疑わせたり…これはもう鉄十字勲章もんですよ?」
特にあるわけでは無い胸を張る。
「おつかれ」
「────おめでとう」
「わぁー……嬉しくない」
まるで居酒屋に飯を食べにきたのが本来の目的、とでも言わんばかりに喰い進める二人。
「もう少し私たちは協調性って奴をですね―………」


三人は再び乾杯をして、飲み始めた。



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時間の停止した状態では光も止まるらしい。
だから仮に時間を止めたら黒く見えると聞いた。
部屋の隅にある黒い塊。
丁度人が一人寝れるくらいの大きさ。

「なぁ、キョン。あの時……君はなんて僕に言うつもりだったんだい?
あのとき、何故僕を庇ったりしたんだい?
………僕はそれを聞くまで諦められないんだ」

目を閉じ、念じる。

「ほら、僕はこんなことができるようになったんだ。
なぁ、キョン………………聞こえてるかい?」

手には真っ赤なバラ。

佐々木は今まで作ったバラを束ね、黒い棺に添えた。
そしてまた造花に手を伸ばす。














春不縁。





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最終更新:2007年11月17日 00:34
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