小泉の人氏による作品です。
無口。
無表情。
無味乾燥。
私を表す言葉を探すならこの七文字で足りてしまうだろう。
別に内心ではそんなつもりはないのだけれど。
無口なのはずっと独りで本を読んでたからで、
無表情なのは表情を向ける相手がいなかったからで、
……要するに私は独りぼっちだった訳で。
後ろを振り返る。
そこには私の志望校があった。
ついさっき試験を終え、周りの人達は既にめいめいの友達と帰ってしまった。
勿論私のクラスメイトもいたけれど、独りぼっちの私に声も掛けずに「友達」と帰ったあと。
「……」
これが私の普通だからいいんです。
私は独り、帰路につく。
もし受かった場合はあそこが私の通学先になるので、今歩いているこの歩道は私の通学路になります。
試験が終わったという事と、この並木道の雰囲気が私の神経を解きほぐしています。
何となくハイな気持ちになって深呼吸などしました。
スウッ………ハァッ
冬の冷たい空気は暖気された室内に暖められた体を冷やします。
こんなことを出来るのも周りに人が居ないお陰ですが。
別に、寂しく無いです。
寒くもないです。
いつもの事ですから。
そのまま歩いているとコンビニを発見しました。
そしてその対面には公園。
近くを見回すと団地があったのでそこの集いの場にでもなっているのでしょうか。
こういう所(通学路)にコンビニがあると便利ですね。
中を覗くと店員が二人。
冬ですしこんな時期ですから学生も居ないのでしょうかね?
と、徒然なるままに覗いていた私ですが、冬の気温にやられて随分冷えてます。
具体的には歯の根が震え始めた位に。
あったかい、ミルクと砂糖入りの甘くて暖まる缶コーヒーがレジの隣にあるのが見えました。
「……」
ガーッ ピンポンピンポ-ン
「いらっしゃいませー」
折角なので目の前の公園で一服することにしてみました。
公園はベンチが数組、砂場と鉄棒があるだけのとても簡素なものです。
最近は過保護な親が多いから遊具も減る一方らしいけど…これは少し寂しい風景だと思う。
人影も一人二人と非常に少なくて……風の吹く度に砂埃が少し舞う。
冬の光景には相応しいとは思うけど、何も無さ過ぎて少し怖気さえ感じた。
近くにあったベンチに腰を下ろす。
パキッとプルタブを開けてコーヒー(と言うよりカフェオレと言った方が適切)に口を付けた。
「はぁー………」
吐いた息が白い煙になってもうもうと立ち上がる。
飲み下す度に喉からお腹へと温かみが体を抜けていく。
ちび、ちび、と口を付ける。
染み渡る暖かさが寂しさに彩られた心を隠す。
今コーヒーを飲んでいる。
温かいコーヒー。
それだけで私は独りぼっちであることを忘れていた。
「隣、いいかな?」
ぼーっとしていた私に声を掛ける人がいた。
「いやね、僕は君に何か邪な気持ちを抱いてる故にここに座らせて欲しい訳ではないんだ。そこをまず明らかにさせてほしい。
実はこんな寂しさに彩られた光景に僕は一人で耐えられる自信が無い。だから人の温もりという物が欲しくてね。
…だけどもここには君しか居なかったから君の隣はどうかと思ったのだけど……駄目かな?」
「……はぁ」
何だろうこの人。
「肯定とも否定とも無関心ともとれる返事だね」
いや、あなたもう座ってますよね?
「……はい」
「この返事は今僕のした質問に対する返答…いや、返答ではおかしいな。やはり返事かな?」
いや……そんなことは心底どうでもいいです。
その人は私と同じコーヒーを持っていた。
「おや、君も同じだね」
「…まぁ」
何がまぁ、何だろうか。
私のお茶を濁すだけの返答を聞きながらその人はプルタブを開け、コーヒーに口を付けた。
「……」
「寒い冬にはやはり暖かいコーヒーが一番だね」
暖かい冬なんて私は聞いたこともありませんけどね。
「随分無口なようだけど僕の話は退屈かな?話という程の話では無いけど。
むしろ世間話…いや、世間話は話だね。何なんだろうね?」
話してるあなたに分からないものが私に分かるとは思いませんけど。
ちびり、と私も一口。
冬だからだろうけど蓋を開けた缶コーヒーは既にぬるくなり始めてた。
「君の格好をみるとあの中学の制服だね。と言うことはこの時期は…ああ、入試だね」
「…はい」
「…随分と乗り気じゃないね」
見ず知らずの他人にいきなり意気投合するのは珍しいと思いますが。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
なんの会話も無く寂れた無人の公園で一つのベンチに座ってる二人。
結構シュールな光景です。
「……………」
「……うん、決めた」
気まずさを無視するために既に空の缶を傾けて飲むふりだけという努力をしていた私にその人は何か決めたようです。
「君」
「…はい?」
「寂しくないかい?」
……いきなり何でしょうか。
突然そんな事を言われても
「あの…だね、君は今心の中で独り言を言ってないかい?」
「………」
「ただの経験則でしかないけれどね。
人とあまり話さないでいると言いたい言葉が出てこないで心の中で言ってしまうんだ。
…まぁ、嫌いな人に悪態をつくときもそうなんだけどね。
どうにも会話のキャッチボールが進まないから直接言わせてもらおうかな」
…何なんだろう?この人は何がしたいんだろう。
「独りぼっちで寂しいだろう」
「……」
本当に。
しかも疑問符すらついてない。
断定された。
「僕はね、心情を打ち明けられる友達が1人しか居なかった。
つまりその人に会うまでは僕は表面的には友達は居たけれども僕は独りぼっちだったんだよ。
君は、そんな"友達"が居るかい?」
「………だったらなんなんですか」
少し、この理不尽な物言いに腹が立った。
いきなり隣に座られた他人になんで批判されなければいけないのだろうか。
「今、君は僕に怒りを抱いてるだろうね。例えば
"なんで説教されているんだ"
とかね。
だが生憎とこれは説教でも何でもないのさ。ただ人生の後輩への助言だね」
「いりません」
「そう、そんな風に心情をさらけ出す相手。
君は居るかい?僕には1人"居た"
だけど今は居ないのさ。ただ高校が違っただけで僕の中では大きな溝が出来てしまった」
…本っ当に………何が、言いたいのか。
「多分君が聞きたい事に答えようか。
やれやれ……簡潔にすませるつもりがついつい脱線してしまう。あ、これも脱線だね。
つまり僕はこう言いたかったのさ
"友達"を作った方がいい
ってね」
「……あなたは、何がしたかったんですか?私に、試験帰りの後輩に、訳の分からないアドバイスをしたかったんですか?」
「ああ、そのとおりだね。君を見てるとどうも僕を思い出してね。友達のいない頃の」
私は立ち上がり、スタスタと公園の出口を目指した。
大きなお世話だ。
何が僕に似てて、だ。
そんな突拍子もない話を誰が信じるのか。
家に帰り、私はベットに一目散に入り込んだ。
疲れた。
試験がどうとかいう話では無くてもう…。
「みなみちゃん」
「岩崎さん」
「うん?」
「次は移動教室ッスよ」
「…ありがとう」
「みなみちゃんが居眠りするなんて珍しいね」
「……うん」
…なんの夢だったのか。
心に残った微妙な後味の悪さからすると中学生の頃でも思い出して居たのだろうか。
「みなみちゃん?早く行かないと遅刻するよ!」
「…あ、ごめん」
「行くッスよ!」
あの頃と違って私には友達が出来た。
あの頃の私と違って笑顔さえ浮かぶ。
なんで、あの頃の私は友達を作らなかったのだろうか。
もし、私に会えるなら叱ってやりたい程だ。
最終更新:2007年11月18日 10:15