七誌◆7SHIicilOU氏による作品です。

 

 朝目が覚めると
最近寒くなってきたにしても、行き過ぎなほどに冷えていた。
なんせ、自分の部屋にいるにも関わらず息が白く漂うのだ
とりあえず、窓に向かいカーテンを開けると
一面の雪景色、銀世界がそこに広がっていた
ってか、窓が少し開いてるじゃねぇか道理で寒いわけだ
窓の隙間を睨みつけて窓をしめる、時計を見るとまだ早いと十分言える時間帯だ
休日だというのに寒さに起こされたか忌々しい
残念なことに俺の部屋に暖房器具なるものは無く
普段着に着替えるのにも、非常に辛い思いをする羽目になった
余計に凍えた俺の身体を温めるために、この家の唯一の暖房器具がある
リビングに降りていった、階段を下りる音に気がついたのか
妹が走って見に来た

「あっ!キョン君がもう起きてる、この雪はきっとその所為だよおかあさん!」

 正確には俺の所為で雪が降ったのでは無く
雪の所為で俺がこんな時間に目覚める羽目になった訳だが
そんなことより妹よ、兄君にむかってその言い草はなんだ
なんで俺は早起きして聞いた他人の第一声が俺を馬鹿にしたこんな発言なのか
俺はこの世の理不尽さに多少の憤りを禁じえないね

 さて、暖かい台所で暖かいコーヒーを飲み
やっと一息ついてのんびりとニュースでも見ることにするかと思ったのだが
そうは問屋が卸さなかった、二階から鳴り響く着信アリのテーマは
我らが団長、ブレーキがぶっ壊れた暴走機関車こと涼宮ハルヒ閣下からのTELコールである
俺には2つの選択肢がある、出るか否かだ
ハルヒの考えることなんて、昔飼ってた小動物より理解できないし
オウムの喋る日本語より難解であるが、それ以上にあいつは単純なんだ
この雪をみてじっと出来るはずが無い
電話の内容もつまりそれに準じた事柄を強制的にたたき付けられて
一方的に切られるのがオチなのは目に見えてる
だが出なければ出ないで更なる罰が俺の身に降りかかるのも
また目に見えている、金銭的にも肉体的にもな
それにまた全員集合なのであれば、まぁ退屈もしないだろうからな
俺は思考に時間を割いた分速攻で二階に上がって電話にでた

「遅いっ!私が電話かけたらすぐにでなさいよね!」

 こちらにも事情っていうものがあるんでな

「いいからいますぐ家を出てきなさい!」

 そう電話越しに俺の鼓膜どころか三半規管まで破壊しかねん声量で怒鳴って電話は切れた
一体なんだってんだよ、ってか集合場所を言ってから切れよな
俺は箪笥から適当に上着を羽織って外に出て、先ほどの電話の意味を理解した
玄関前の雪に真新しい複数人数の足跡と小さく
『今すぐ、○×公園に来ること!』と書いてあった
俺は苦笑いをしながら足跡を眺めながら自転車で近くにある大きめの公園に向かった


 公園には5分ほどで到着した
自転車を止めて広場に行くと雪につられた子供はいるが
俺と同年代の団体は見当たらない様に思えた
疑問に思い携帯で連絡を取ろうと思ったら、後頭部に衝撃が走った
突然のことに膝をつき、後ろを振り向くと
雪玉を構えて笑っている高校生集団がいた
振り向いて呆れている俺に止めとばかりに大き目の雪玉を俺の顔面にぶつけてから
永久機関内蔵の団長様は太陽のような笑みを浮かべて俺に

「かまくら作るわよ!」

 と高らかに宣言して有言実行とばかりに周りの雪をかき集め始めた
いつの間にかシャベルを担いでいたこなたやみさおもそれに加わって
かまくらを作るための雪を周囲から持ってきていた
って言うかハルヒ、貴様の握力で固められていた剛速球の雪玉を顔面ブロックした
俺は今鼻から血液を文字通り出血サービス中だ、目に当たっていたら失明しかねんぞ
恨めしげな目でハルヒを睨みながら、ティッシュかなんか無かったかポケットの中身を
確かめていると、トテテと言う擬音を引き連れて岩崎がポケットティッシュをくれた
すまん、岩崎この恩はきっと返すぞ

「いえ、保険委員ですから」

 そういうとまた、トテテと離れていってしまった
ティッシュを鼻に詰めつつ、気がつくと1mほどの雪山が出来ていた
一体どのくらいのかまくらを作るつもりなのかね、こいつはさ

「決まってるじゃない、私達全員が入れるぐらいの大きさよ」

 そういうとハルヒは俺にもシャベルを投げてよこして、除雪ならぬ集雪作業に戻った
かがみやみなみに目を向けると彼女達もシャベルをいつの間にか持っていた
ついでに、ゆたかちゃんとつかさとみゆきさんはスコップとかソリを持っていた
……まぁ仕方あるまい、しかしこの量のシャベルを調達してきたのはどこのどいつだ
大体想像はつくけどな。

「まぁそういうことです、我々も雪集めに参加しましょう数少ない男手ですのでね」

 古泉はそういってシャベル片手に微笑んだ、さまになりそうでならんな
俺は返答の変わりにため息を吐きつつ肩をすくめ、まだ雪の比較的残ってる
離れたところに向かった。

 しばらく、その場の雪を回収してハルヒが作る山とは別の小山を作ったのだが
俺の手元にはシャベルしかない、シャベルでこの雪の塊を運ぶのはなかなかに骨が折れそうだった
仕方ないソリを持っている人に救援を頼むしかないな
俺は一旦大山のもとに戻ると、少しの間にずいぶん成長した山があった
もはや俺と肩を並べるほどになっている
この分なら確かにそれなりの大きさのかまくらが出来るだろうが
ここからが大変なことも俺は知っている、ここまで大きくなると
これから10cm大きくするためには、小さいときの50cm分以上の雪が必要とされるだろう
とにかく俺はソリを持ってるみゆきさんを呼んだ。

「なんでしょうか?キョンさん」
「実はあっちにも雪を集めたんですけどシャベルだとこっちにもってこれなくて」
「あぁ、なるほどわかりました」

 そういってみゆきさんはソリを持って先ほどの場所まで着いてきてくれた。
シャベルで山を崩してソリに乗せて運ぶ。
3往復ぐらいで全部運び終えて周りの雪もずいぶん減ったように見えた
ハルヒはシャベルを地面に勢いよくつきたてて周りを見渡してから

「よし、そろそろ穴を掘りましょ!」

 といって今度はつかさ達が持ってたスコップを構えて穴を掘り始めた
スコップはシャベルほど量もないし、トンネルを作るわけじゃないので
大勢が一度に作業できないため、何も出来ない俺達は何をしていたかというと
穴をあける際にあぶれた雪をまた山の頂きに乗せて大きさの底上げを図っていた

 三十分後それは出来た
多少手狭だし全員が入るには窮屈この上ないが
かまくらと呼べるだけの代物がそこに存在していた
最初の山のうちの大半は穴掘りで掻き出されたため
穴を掘り始めたばかりのときより、一回りほど大きくなっていて
そこそこの見栄えのように思えた
俺は途中から夢中になって雪を集めてた自分を思い返して苦笑しつつ
小さい頃に誰でも一度は思うかまくらをつくって中に入ってみたい
その夢をいまさらながら叶えられた事に、少なからず感動を覚えていた
こんなことをしようと思い、実際に行動して、完成させる
そんなことはハルヒと知り合っていなければ絶対に無かったであろうことで
少しだけ、今日はハルヒに礼を言ってもいい気分になった
……絶対に言わないがな。

 しばらく、作ったかまくらに出たり入ったりしていると
ポツッと顔に何かが触れた、空を見上げると太陽は隠れて分厚い雲が空を覆っていた
雨が降るのかと思っていた、せっかく作ったかまくらが壊れてしまうな
そう残念な気持ちが現れかけたのだが、それは杞憂に終わった
降ってきたのは雨では無く、雪だった
チラチラと白い妖精が空から降り、俺達が雪を持ってった所為で
所々見えている地面を隠してゆく、雪を触っていた所為で若干かじかんだ手の平を
そっと虚空にのばすと、小さな雪が俺の手の平にふわりと落ちて
ゆっくりと水滴に変わっていった

「これならかまくら、明日まで持つかもな」

 俺の呟きに誰も何も言わずに白く濁って消えた。
ふいにこなたがドサッと地面に寝転んだ、それをみて俺も地面に寝転んだ
するとみんなが輪になるように地面に寝転んで、みんなで空を見ていた
雪はゆっくりと落ちてきて身体にくっつくと溶けて消えてゆく
しばらくそうやって眺めていたけど、ハルヒが一番に立ち上がって

「そろそろ行きましょうか」

 そういってスタスタ歩き出した、みんなもそれに倣って立ち上がり
かまくらの横を通って自転車を取りに行った
そのまま、ハルヒの解散宣言を受けて銘々家に帰っていった
夏ならまだ明るい時間だが、もう周囲はずいぶんと暗くなっていて
空も雲がぼんやりと灰色に光っているだけだった
普段なら閉鎖空間を思い出すこのモノトーンな色合いが
今はとても美しく見えた、俺は帰る際にもう一度かまくらを振り返り
自転車に跨った。

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最終更新:2009年05月26日 21:22
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