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朝霜の夢『二日目』キョン


「あー…すごく気が重い」
ジャバジャバとぬるま湯で洗顔をしながら昨日の事を思い出した。
まず、かがみはどうやら俺に気があったらしい。
次に、かがみは俺に告白しようとしているらしい。
更に、かがみには内緒にしてあるが俺は既に彼女が居る。
トドメに、その彼女はかがみの親友だ。
「………」
ジャバジャバジャバジャバ
洗顔料を落とし、タオルでガシガシと荒っぽく顔を拭った。
気持ちいい。
「ふぅ…」
目やにも油も垢も一遍に落とした俺の顔はツヤツヤとしていた。
次に熱湯に切り替えてタオルに含ませる。
「熱っ」
充分に含ませたら絞っておしぼりにして頭に巻く。
こうすると頭の毛穴が開いて脂も流れるし寝癖も取れる。
一石二鳥だ。
ただしすぐ冷めるのが欠点だ。
「……はぁ」
現実逃避をしていたが解決にはならない。
寝癖直しを片手に俺はすっきりした寝覚めと対照的に、すっきりしない心中を抱えていた。



「よぉ」
「ああ、おはようございます」
朝、手持ち無沙汰な俺はいつもより早く登校した。
いつも見るような顔とは違う、当たり前な事に新鮮さを感じていると見知った顔を見つけた。
「聞いたぜ。ずいぶんと仲睦まじいらしいな」
「ええ、お陰様で」
俺のちょっとした皮肉をするりと受け流した。
「あんまりハルヒにかまかけるとつかさがヤキモチ妬くから注意しとけよ?」
「勿論ですよ。…アナタも」
この野郎…まさかとは思ってたが知っていたな。
俺の苦々しそうな顔をちらり、と様になる横顔で覗きながら
「組織の目はそんな甘くありませんよ」
と言い放った。

「何か俺達に対して行動を起こしたりしないのか?」
もう、全て知っているだろうという前提で話してしまっていいだろう。
この野郎はこれまた嫌になるような清々しい微笑のままでいやがるしな。
「僕はこの頃、初めて青春を謳歌させてもらってます。何故でしょうか?」

「俺が知るか」
古泉はピンッと人差し指を立てる。
「つまり、涼宮さんの能力はここしばらく"全く"発揮されてないのですよ」
いちいち回りくどい上に芝居がかった仕草するんじゃねえ。
「宇宙人も組織も少なからず落胆を覚えてはいますが、僕は今の状況がとても楽しいですよ」
「そうかい」
「あなたが大変な状況にあるのも知っていますが、それも青春ですよ」
…ん?待てよ。大変な状況だって知ってる?
「お前まさか」
「おっとすいません。僕はSOS団の催し物の準備のために早く登校したんです。なので失礼します」
俺がその言葉を聞き終わる寸前に捕まえようとして伸ばした手をひらりと避けて古泉は去った。
「あー…くそっ」
組織とやらは出歯亀集団か?
昨日あった出来事の詳細さえ知っている所からすると本当にそうじゃないかとさえ思えた。



「おはよーキョンキョン」
「おう」
「パンニニラハサムニダ?」
「ハラショー」
HR寸前のギリギリの時間に泉が登校した。
朝の挨拶の後の謎の言葉に適当な返事をしたが、それに満足したのか泉はにこやかに笑いながら着席した。
「キョンキョンも段々私に染まってきてるね」
「そうかい」
「クールぶってるキョンキョンも素敵だねっ☆」
「寒気がするからやめろ」
付き合って少しは経っているものの、未だコイツの性格は掴みきれない。
付き合う事を秘密にしようと言ったくせに普通に俺に抱きついてきたりするしな。
お調子者かと思えば意外に友達思いだったり。
「でさ、キョンキョン」
「何だ?金ならないぞ」
「昨日の事なんだけどさ」
…ふざけた話のあとに急に真面目になったりな。
「私がかがみに直接話すからさ、キョンキョンには何もしないで欲しいんだ」
そして意外に気が強くて我も強い。
今俺が反対してもコイツは聞かないだろうな。
「なら、任せたぞ」
「うん」
泉が力強く頷いたと同時に担任がドアを開けた。

「はい、きりーつ!」



「…だが私は、これから先に姫を見ずに、生きていけない。礼なんてできない、ただ、私に譲ってくれ。
誓おう。私の生きている間は、姫を敬おう、決して粗末になどしない」
なんとも歯がゆい…いや、歯の浮くセリフを観客席へと見栄を切りながら口に出す。
小人役の女子が観客席側へ出ると同時に俺は一歩下がる。
「なんという素晴らしい人でしょうか。宜しい、あなたへこの姫を与えましょう」
そう言うと、他の小人役が泉の入った棺を舞台の中央に持ってくる。
原作ではここでコケてリンゴが取れるらしいがやはりキスで目覚める方が採用された。
俺は片膝を付き、泉へと覆い被さる。
そして間を空けて、
「ああ、…私は、どこにいるのですか?」
と泉が喋りだす。
「あなたは俺の傍にいるのです。姫様」
パチパチパチとまばらな拍手が送られた。
文化祭に向けてのリハーサルなので観客は劇に参加しない生徒と先生だけだ。
俺は主役である恥ずかしさとキスシーンの恥ずかしさでなんともやるせない気分になっている。
「いやーキョン、お前かっこええな」
担任の素直な感想?だろうが俺には皮肉にしか聞こえない。
今日もまた例によって授業を潰しての練習をしているのだ。
通しでやるとやはり疲れる。…あんな甘い台詞を言うから精神的にもな。
しかも一回通すと20分はかかるからな。
「あー疲れた。キョンキョン肩揉んでー」
お姫様もお疲れの様子で、俺の隣に座り込んだ。
腰まである髪を綺麗に纏め、貸衣装ではあるがドレスを着た泉の姿は意外なほど綺麗に映った。
「…?キョンキョンどしたの?」
「あーいや、何でもない」
口が裂けても言えるかっての。


そして今日は何事もなく終わった。
かがみのことは泉が任せろと言ったきりだし、つかさは古泉と飽きずにいちゃいちゃしているらしい。
…今日、初めて本格的に衣装合わせをした泉の姿か目に焼き付いている。
まるで本物のようだ。
一応、彼氏としての欲目を差し引いてもかなりの物だった。
「あー…実は俺ってかなり、羨ましい立場なのか?」
家のベッドに寝っ転がりながら今日を思い出す。

『似合ってる?』

『してもいいよ』

…泉の残り香が未だベッドにあるからなのか、実は俺は泉にいつのまにベタぼれしていたのか判断がつかないが。

…どうやら俺の頭の中は泉でいっぱいらしい。
朝に古泉の言った通り青春真っ盛りだな。俺。






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最終更新:2007年11月25日 15:18
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