目を覚ますと、ベッドからはみ出て携帯を握りしめた格好だった。
どうやら何かメールを打とうとしたが途中で寝てしまったらしい。
長らく放置されていた携帯の画面は真っ暗になっていて、ボタンを押すと再び点灯した。
新規メールを開いてそのままの画面。
あー何にも打ってないんじゃん、とまず気づいた。
次に充電器使ってないから電池が残り二つだと気づいた。
最後に、右上に表示された時間に目が行った。
08:28
「え、」
遅刻する?
遅刻?
寝坊?
ゆーちゃんは?
おとーさん?
私はいまだ寝巻きのまま。
もうすぐ予鈴のなる時間。
「………………えー?」
頭が凄まじい勢いで覚めていくのが分かる。
私は嫌な汗が背中を伝うのを確認しながら急いで着替えて学校へと向かった。
「あぁぁぁぁ!!!!寝癖!!目やに!!寒いし!!顔洗いたい!!!」
誰もいない通学路を全力疾走する。
その「誰もいない」というのがますます私の焦燥感を掻き立てる。
それに寝起きの顔ままで学校に向かっていると言うのも女としてどうなんだろ…。
凄まじく惨めな気分になりながらも足は止めない。
運動が得意だということに、こういう時は感謝する。
校門に差し掛かり、屋上の大時計を確認!!
約50分!!
まだ予鈴は鳴ってないからダイジョーブ!!
私は小走り程度に速度を落として気づいた。
寒いとは言え、全力疾走したのだ。汗をかいた。
人間は寝てるときも汗を かくのだ。
冬場なのでデオドランドなんて持参している訳が無い。
「…泣きたいヨ」
キンコンカン♪
とチャイムがなり始めたので再び私は走り始めた。
おそらく汗臭いまま。
「……やから、今日も」
なにやら黒井センセが話しているが後ろのキョンキョンに汗臭いのがバレないかと気が気でない。
ついさっき、かがみについて考えてた事は現状維持、という答えをだしただけで解決はしてない。
真面目にどうしようかと考えていたのは本当だけど、彼氏に汗臭いのがどうなのかを考えるのも重大なのだ。
私はうつむきながらそんな発展性のない事を延々と考えていると
「泉。このあと職員室な」
「へ?」
いきなり呼び出しをくらった。
「なんだ…よかった」
ほっと胸を撫で下ろした。
「なんや、まさか話聞いてなかったんか?」
「い、いやいやまさか」
職員室に呼び出された理由は貸衣装だった。
先生の名義で借りた衣装を持ってきたので、持って行けという話をしたらしい。
「おおー…」
基本は白。フリフリ、と言うほどでは無いがフリルが随所に施されていてスカートは質量のあるフワフワ。
まさしくお姫様と言った感じの衣装だ。
「じゃあ、三限目にリハやるで。休み時間に着替えとき」
「使うんですか?」
「使わないんかい」
「いや…そんなことはないですが」
どう見ても一人で着るのは無理だし、しかも恥ずかしい。
先生も乗り気だし拒否は出来ないだろう。
私は先生から渡されたドレスを抱えて教室へ戻った。
「………誓おう。私の生きている間は、姫を敬おう、決して粗末になどしない」
私は棺に入りながらキョンキョンの独白を聞いている。
甘ったるいセリフだけどキョンキョンなら言いそうだな、なんて思った。
続いて小人のセリフが終わり、私の出番だ。
私は棺の中で花に埋もれて登場する。
胸の上で手を組んでいる格好の私を見下ろしているキョンキョン。
羽帽子とケープを合わせただけの安っぽい王子姿を薄目を開けながら見た。
キョンキョンがセリフを終えて、私に被さる。
…そのとき、私にほんの少し意地悪心が芽生えた。
「…シテモイイヨ」
すごく小声で、ギリギリ聞こえる程度の。
ギョッとキョンキョンの目が開いたのが私からだけ確認できた。
明らかに照れた様子をみせるキョンキョンを見て少し私は愉快な気持ちになった。
私は少し、顎を出した。
皆に見えない体制とはいえキスをするのは抵抗があるであろうキョンキョンの後押しだ。
………チュッ
ほんの少し触れただけのキス。
キョンキョンの耳が赤く染まっているのも見えた。
「ああ、…私は、どこにいるのですか?」
私は腹筋の要領で上体を起こす。
キョンキョンが私の肩を抱いて、見つめる。
「あなたは俺の傍にいるのです。姫様」
「あー恥ずかしかった!!」
「お前は全く…」
キョンキョンがぶつくさ言ってるけどこれはきっと照れ隠しの一種。
嫌だったら嫌って言うしね。
そもそもキスしないだろうし。ツンデレだね。
「…」
自分の唇に指を乗せてみた。
端は冬の空気に乾燥してたけど真ん中は少し潤っている。
…なんだか自分がキスをした証拠を自分で確認していたら途端に恥ずかしくなった。
別に誰も見ていないのにキョロキョロ辺りを見回したり。
自分は意識してるのに無表情なキョンキョンの顔に少しイラついたり。
自意識過剰なのは分かっているけどこのもやもやした気持ちはしばらく収まりそうになかった。
そして昼休みになった。
つかさはまた包みをもってどこかへと消えた。
たぶんまた古泉君の所かな?
またかがみに聞いてみようか。
私はパンと牛乳を持ってみゆきさんの机に向かった。
「かがみん来ないね…」
「どうしたのでしょうか?」
みゆきさんと二人きりでご飯を食べていたけれど、いつも来るはずのかがみが来なかった。
つかさは何も言ってなかったし、多分休みじゃないはずだよね?
どこか言いようのない不安が私の心に住み着いている。
何か…いつの間にか。
みゆきさんもいつもより笑顔が暗い。
なにかあった訳でも無いのになんでこうも心配なんだろうか……?
授業を全て終え、放課後になると隣のクラスにかがみを探しに行ったが既に帰った後だと言う。
…おかしい。
今まではよほどの例外がない限りかがみはつかさと私達と一緒に帰っていた。
なのに今日に限って何故一人で帰ったのか。
[subject:
text:どうしたの?]
簡潔なメールを送ってみた。
ドクン、ドクン、と心臓が痛い。
変な汗が私の背中を伝った。
しかし、二十分過ぎても私の携帯に返信は無かった。
夜中、つかさからメールが届いた。
なんでも、かがみは少し調子が悪いから先に帰ったとのことだ。
……だけどそれは私のメールに返事しなかった理由にはならない。
私は一向に止まる気配の無い嫌な予感が体を這いずり回っているのを感じた。
…明日、かがみと話そう。
遅かれ早かれバレる事なんだから。
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最終更新:2007年11月25日 15:19