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朝霜の夢『二日目』かがみ

暗闇の中、携帯を開いた。
既に日付は変わっており、メールも電話もする相手は眠っているだろう。
しかし、興奮のせいか私は全く眠気が無いのだ。

『私、キョン君に告白する』

もう取り消せない宣言だ。
今思い返すとわざわざ言い切る必要は無かったのかもしれないけど、あの時はこれが最善だと思った。
いくらこなたがキョン君に好意を抱いてる可能性があったとしても、あれではむしろ焚き付ける結果になってしまわないか?
深夜、私は布団にくるまりながらの自問自答を繰り返す。
けど、もし今成功すれば文化祭という一年に一回しかない大イベントを一緒に過ごせる。
つまりハイリスクハイリターンだ。
…そういえばライバルはこなただけじゃなかったわ。
むしろ大本命はハルヒとみくるさん、意外にゆたかちゃんとか…
「あーっもう………」
ライバルにしたくない子ばっかね。
というかキョン君の周囲にはハイレベルな女子が多すぎだと思うわ。



さて、何時間この暗闇に居ただろうか。
母の目覚ましの音が微かに私の耳に届いた。
私達の朝食を作ったり、洗濯物を出したり、新聞を取ったりと主婦の朝は早いのだ。
一方の私は未だに眠気は降りず、ただベッドに寝ころんでいるだけである。
大変だな、などと他人ごとのような感想を抱きながら窓の外に光が差し込み始めたのを見ている。
携帯を覗くと五時────

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

イィン!!と余韻を残して目覚ましは止まった。
音の発生源は恐らくつかさの部屋だろう。
これだけの轟音を枕元で響かせながらも意識が覚醒しないというのはむしろ感心さえする。
……やはり、起きてない。
今のベルの音から全く物音がしていない。多分まだ夢の中で遊んでいるのだろう。

仮にも私は姉である。
妹が恋路にはまり込んでいるのを応援はしても邪魔はしない。
なのでとても良心的な事にわざわざ私はつかさを起こしに行った。



「おはよー」
「おはようございます」
朝の通学路に一際目立つメガネの美人に声を掛けた。
まぁ私の友達だけどね。
「あの、つかささんはどうなされました?」
「愛しの彼と同伴したいって……こなたは?」
「さぁ…?お姿を見ませんね」
あの見た目幼女はまた寝坊でもしたのだろうか。
…まさかキョン君に早速アプローチ掛けてたり?
「いやいや…それは無いわね」
自分で考えておいてなんだが、こなたはそんな性格では無い。
傍若無人のように見えても意外と分別は知っている。
私がキョン君に好意を持っていると知ったなら逆にこなたはキョン君から離れる。そんな子だ。
「…つかささんは羨ましいですね」
「?、何で?」
「だって私達の中で一番早く彼氏さんができたんですよ?しかも相手はあの古泉さん」
「そんなに有名だったの?」
「モデルみたいな顔してますし、女子の噂に結構上るんですよ」
へぇ…そんな格好いいんだ。
『妹の彼氏』って風に見てたからだけど、そんな風には見えなかった。
「みゆきも意外と面食いだったのね」
「いや、そんなんじゃ……美形、って感じよりもっとこう…普通な感じの」 「キョン君とか?」
「え、ええう、そう……じゃなくて!!あの…」
顔を赤らめさせてうつむいてしまった。
女の私からみても可愛く感じるのだから多分、私が男だったら即刻惚れてしまうだろう。
これは反則ねー…などと思いつつまた一人ライバルが増えた事に内心肩を落とした。
だってもう、ほら。道ゆく人(主に男子)が耳まで真っ赤にしたみゆきを振り返ってるもの。



「柊ぃ!ノート貸して!!」
授業が終わると真っ直ぐ私の所にみさおが来た。
さっきの時間丸ごと睡眠学習に費やしたおかげだろう。
「やだ」
「うっわヒドいっ!!それでもドラえもんか?!」
悩みが無いって良いわね。
「違うわよ。別に私は」
「あやのー、ノート貸して!」
ふぅ、とため息を吐きながら言い返している途中だというのに他人の所へ行ってしまった。
…てかドラえもんってなんだ。
それは暗に私が寸胴だと言いたいのだろうか。
少し殺意なるものを覚えながらみさおを睨むと、あやのから借りたノート片手に私にあかんべーをしていた。
子供かっ!!



次の時間は体育だった。
男子は外でサッカー、女子は体育館でドッジボールだ。
この寒いのに男子は数名がリーダー(体育系の部活に入ってる人たちだった)が嬉々として率先してボールを借りてサッカーを始めた。
女子はすきま風の吹く屋内で球威もなにも無いドッジボールをするだけ。





「おーし、出席番号の奇数の奴らは片付け。それ以外は戻ってよし!」
「「「ありがとうございました」」」
チャイムのなるより少し早く(着替えに時間がかかるから)体育は終わる。
しかも着替えに時間のかかる女子は男子よりも早く解放されるのだ。
ワイワイと女子は銘々のグループで雑談しながら教室へと戻る。
「いやー柊は当てやすかったな」
「…恨むわよ」
おそらくこの時間のMVPである親友と話しながら私は帰った。
女子とは思えないような球速でバタバタと当てていた光景はなかなかのものだった。
ただ、それを空気の読めない子と見られる恐れもあるんだけどね。

「私トイレ行ってくる!じゃ!」
と言い残して颯爽と親友は角の向こうへと消えた。
もう一人の親友(あやの)は片付けがあるからまだこの場には居ない。
なので必然的に私一人になる。
「寒っ……」
心情的なものもあるのだろう。
さっきまでは別段意識もしなかった寒さが身にしみた。



とぼとぼと更衣室へ向かう途中、騒がしいクラスがあった。
こなたのクラスだ。
そういえば演劇だと言っていたからその練習をしているのかな?
そう思い、私は足をドアへとむけた。

「この棺を、私に譲って下さい。その替わりに私は何であろうと差し上げます!」

ドアについた窓越しにキョン君の語りが見えた。
どうやら今は白雪姫の佳境らしい。
しかも王子はキョン君で白雪姫は……
「こなた?」
ドレスに身を包み、花に埋もれている私の友達だった。
「はぁ…道理で私に全く話さなかった訳ね」
そう、こなたは多分みゆきやつかさに箝口令でも布いたのではないだろうか。
不自然な程に私にだけ三人とも情報を流さなかったから。
たぶん、恥ずかしかったのだろう。
こなたの父親を除けば一番親しい男の人なのだ。
意識するなと言う方が無理だろう。
「そろそろ退散しましょ……」
どうせなら文化祭当日にいきなり来て驚かせる方が楽しいだろうし。
そう思って私は踵を返した。


「………誓おう。私の生きている間は、姫を敬おう、決して粗末になどしない」
…筈だけど、虫の知らせとでも言うべきか。
どうせならキスシーンまで見ていこうと私は再び窓から中を伺った。


そして私は後悔した。


私はこなたに自分を重ね、キョン君が迫るイメージを持った。
動きから私はそれを脳内で再生する。
唇を重ねるシーンで僅か。
ほんの僅かだけど確かにキョン君の頭が下降した。
「……え?」
おそらく、本当はキスをしないであろうシーン。
寸止めの筈だろう。
『一度止まった』ならそこからは離れるだけのはずだ。
なのに、『頭が更に沈んだ』のはどう言うことか。
勿論私の見間違えた可能性もある。
だけどそれだけはない。私の目は完全にキョン君へと焦点が合わさっていた。

「嘘…………」







私はそれからの授業など一片も頭に入らなかった。
ただ一つの事だけ考えていた。
私は、騙されていたの?
いや、適切な表現ではないのは分かっている。
だけど、心情的にはそう表現するしかない。
こなたは、おそらく既にキョン君と付き合っていた?
?がつくのはあくまでも見間違えた可能性があるからだ。
もしくは事故の可能性。
だけど、本当の所は私が信じたく無いから。
ずっと、ずっと、考えた。
昼休みになっても気づかず、終わってからご飯を食べるのを忘れたことに気づいたくらい。


それでも、結論はでなかった。


……こんな感情を胸にしまったままこなたと顔を合わせたら口に出してしまいそうだ。
だから、私はすぐに帰宅した。
今までこなたからのなんの説明が無かったのは誤解だからか。それとも気まずいからか。
もし、後者ならば私はとんだピエロなんだろう。
正しく、愚か者。
舞台の上でくるくる独り踊っていた間抜け。



私は制服にしわができるのも構わずにベッドに仰向けに寝ていた。
私は私の妄想に涙した。
…誤解であっても正しくあっても、そんな事しか考えられない私がたまらなく悲しかったからだ。






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最終更新:2008年01月06日 07:40
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