朝日が窓を通り抜け、室内へと降り注いでいる。
日は既に登りつつあり、学生ならばもうそろそろ出る時間だ。
しかし、その学生である私は外へでようとしていなかった。
別に風邪をひいた訳でもないし、まだ寝ぼけてる訳でもない。
はたまた、引きこもりたい訳でもなければまだ用意が出来てない訳でもない。
私が外への一歩を踏み出せないのは単純に気分の問題なのだ。
こんなにも空は青く、空気は清らかで、暖かささえ感じられるような陽気でもあるのに。
「…ふぅ」
私の吐いた溜め息は尋常では無く思い。
それもそうだ。
友達を裏切ったも同然なのに、それを告白しようというのだから。
うだうだとこんな玄関で悩んでいても仕方がない。
昨日の私が決めた事なんだ、と半分ヤケッパチのまま私は家を出る。
普段の通学路を1人で走り抜ける。
いつもはここを4人で歩くのに、今日は私ひとり。
もしかしたら今日からは私独りになるかもしれない。
友達と言っても私達は他人なのだ。
ましてや愛怨憎悪といった感情が絡むだろうに、そのままでいられるほうが珍しいさ。
そういう風に、私は自分の心に予防線を張っている。
意識してない計算だったのかもしれないけど、私はそれに気づいた。
…こんな人だから平気で友達に黙ってつきあったりしちゃうんだよね。
かがみ、ありがとう。ゴメン。
裏切ってゴメン。友達になってくれててありがとう。
「…あ」
これも予防線なんだろう。
つくづく自分のことながら呆れた。
今日はギリギリ、予鈴の鳴る前に教室へとたどり着いた。
私の彼氏は
「またネトゲか?…ほどほどにしておけ」
などと忠告。私の遅刻の理由はそういったものしか浮かばないのかと小一時間(ry
「いやね、昨日から朝日を拝むまで…」
こんな風に返してしまう私にも問題はあるのだろうけど。
キョンキョンは額に手を当てて、頭痛を堪えるかのように顔をしかめた。
これがポーズだとは分かっているけど、私としては原因を作ってしまった罪悪感のようなものが少し湧き上がる。
「まぁ、ウソなんだけどね」
「…意味のない嘘をつくな」
本当に意味のない会話。友達同士の他愛のない。
普通のカップルとは違うけど、これが私達なのだ。
文化祭も明日になると言うので、既に机も椅子も教室には無い。
あるのは舞台くらいだ。
他のクラスで模擬店などをやる所では既に内装も普通の教室では無い。
勿論、こんな状態で授業などできるはずも無い。
…というよりも実は今日は祝日で休みの筈なんだよね。
自由登校なので、ウチのクラスみたいに演劇をやるところは役者と裏方、あとは数人の手伝いだけだ。
他のクラスでも内装をより派手にするために今日一日をフル活用しているだろう。
私たちは舞台で稽古をする。
衣装も合わせて本番さながらの練習をする。
板で遮られた舞台の後ろにあるアンプからはどこかで聞いたようなクラシックが流れ、原色をゴテゴテと使用したメイクの魔女も現れる。
私も白いドレスへと着替えて、足りない頭で覚えた台詞をアウトプットする。
メンバーが集まった所で最初の場面が始まった。
最初は皆、照れも入りながらだったが二回、三回とリハーサルを繰り返すうちに抜けていく。
真剣な表情で、何度も駄目な場面はやり直す。
そういった空気は伝染していくものなので、普段は不真面目な私やキョンキョンなどでさえ表情だけは引き締まっている。
…ここだけの、内心だけの話ではあるが、真面目な顔のキョンキョンが迫るシーンでは不覚にも舞台であることを忘れてしまった。
…その場面のセリフが頭から飛んでいってしまったのでリテイクだったけど。
この、文化祭の前日という特別な日は学校のチャイムも休んでいない。
登校してから稽古を数回通していたらいつの間にやら昼休みの時間になっていた。
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、他の役者さん達は緊張の糸が切れたらしく座り込んでしまった。
私はドレスを脱ぎ、ジャージに着替えて廊下へと出た。
トイレに向かうわけでもないしご飯を買いに行くわけでも無い。
今、休憩中だというのに私の心臓はドクンドクンとむしろ稽古中よりも激しく脈打っている。
私が目指しているのは隣のクラス。
「………」
隣のクラスは飲食店をするらしく、教室のドアは取っ払われて代わりにカーテンが引かれていた。
ちらっと見える向こう側には机を4つ程集めたものにテーブルクロスを掛けただけの簡易的なテーブルが幾つかあるのがわかる。
私はドアの代わりのカーテンをくぐり抜け、友達の姿を探した。
「……」
その友達はどこか気だるげに、椅子に座りながら髪をイジっていた。
私の事を横目で確認しても髪を弄ぶのを止めない。
「あの、かがみ……」
「何」
冷たく突き放すような声。
既に私が秘密にしていた事を知っている故の態度か?
あきらかに私と関わるのを避けようとする姿勢が見えるが、私は退かずに続ける。
「ここじゃ話しづらいしさ、……少しいいかな?」
「別にいいわよ」
ガタン、と座ってた椅子から立ち上がり、私の後に続く。
友達同士の雰囲気とは思えないような重さの中、私はどこなら人がいないだろうか?と考えていた。
「…寒いわね」
私たちは部室練の廊下(コンクリートの吹きっさらし)に立っていた。
冬も間近な季節、しかも日の当たらない場所で風を受けていれば当然の反応だろう。
かがみの目は、未だ他人のそれのまま。
私は身長差からくるのでは無く、その目に怯えるようにかがみを見上げている。
「あの、私…」
「キョン君と付き合ってるの?」
予想通りの、しかし予想以上の先制攻撃は私の二の言を封じた。
「ねぇ、こなた。私の気持ち考えた事ある?
私はさ、こなたは意外と人に譲っちゃうタイプだと思ってたのよ。昨日まで。
だけどね、昨日、キョン君とこなたのキスしてる所を見て私は愕然としたわ」
かがみは表情に感情を浮かび上がらせることをせずに、淡々と語り続ける。
「それからね、私は当然あれはなんだったのか考えたのよ。
でも結論は一つだった。
こなたは何故拒まなかったのか納得できる理由」
私の心臓は激しく動くのに、体は冷や汗しかでなくて凍え死にしそうだ。
「ねぇ、なんで。
どうして私に言わなかったの?
どうして私がキョン君に告白しようって決めてから私に話そうとしたの?」
かがみには私の目的もバレていたらしい。
心臓が抉られるかのような痛みがした。
「なにか言い訳無いの?」
「……ゴメン」
それしか言えない。
例え私の考えを言ってもそれは私の視点から見た都合のいい解釈だ。
そんなもの、かがみから見ればただ都合良く歪められた自分勝手な行動だ。
だから私の言えることはゴメンの一言。
「ゴメン」
「……顔上げて」
私は殴られるだろうと思った。
それだけの権利はかがみにあるだろうと納得もしている。
目をつむり、私は顔を上げた。
「えいっ」
私はその瞬間、体を強ばらせた。
しかし、予想していた痛みは来ず、私が薄目を開けた瞬間にそれは来た。
「…デコピン?」
私は軽い痛みを額に少し感じた。
かがみはもう、他人のような目をしておらずいつもの友人になっている。
「あんたねぇ、私がひっぱたくと思ったでしょ?」
「…違うの?」
「えい」
ピシッ!
再び私の額にデコピン。
それは照れ隠しのようだった。
思わず目をつぶった私が面白かったのかなんども続けるかがみ。
まるで仲睦まじい姉妹のように。
やがて飽きたのか、止めて再び語り出すかがみ。
「私だって子供じゃないわよ。
こなたの事だからどうせ私が傷つくからとかそんな理由で話さなかったんでしょ?
多分、私がキョン君を好きじゃないのかって思ってたでしょ?」
「…うん」
すかさずビシィッ!!!と大きめな音を出してかがみのデコピンが突き刺さった。
「痛っ!!??」
「そんなのいい迷惑!大きなお世話よ!
だいたい色恋沙汰で思い通りに行くなんて元から思って無いわよ!
そんな思いやり…全く嬉しく無い」
かがみは軽く目の端に涙を浮かべながらそう言った。
「だいたい、明日の劇で主役なんでしょ?顔殴ったら隠せないじゃない」
なんとも友達思いの友達。
「もういいわ。明日見に行くから精々稽古の手を抜かないようにね?」
「…うん」
かがみは振り向かず、後ろ向きのまま私に手を振って別れた。
「ありがとう…かがみ」
その日計10回も通しでやり、疲れ果てて帰宅した私はすぐにソファに寝っ転がった。
ゆーちゃんが私に何やら言っているのが聞こえたが、もう眠りかけている私には届かない。
心を重くしていたつっかえが取れ、肉体的な疲れもあいまってか眠りは深かった。
この分なら明日も……
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最終更新:2007年12月01日 10:05