あぁ、眠い。
どうしてわざわざ俺は祝日に学校へと向かっているんだ。
通学路を欠伸を我慢している間抜け顔のまま歩いている俺。
理由は分かっているが世間の休日に登校するというのがなんとも腹立たしい。
しかも一年も三年も殆ど居ないので俺達みたいな二年の顔ぶれしかいない。
更にそのなかでも休んでいる奴らがいるのでハズレくじを引いた感は一入だ。
更にまだまだ不具合なことに、周りには顔見知りが見当たらないのでなんともはや疎外感とでも言うか…
などと負感情のデフレスパイラルを考えていると、突然俺の肩を叩く人物が居た。
「おはようございます」
そいつは歯を白く光らせて、まるで芸能人かホストかを思わせる輝かしい微笑を俺に向けた。
「おう」
俺は内心今日は幸先悪そうだな、などと失礼な事を思いながら挨拶を返す。
別にコイツ自身はそこまで嫌いだとかそういうものは無いのだが、この敬語風の話し方が距離を感じるのだ。
「いよいよ明日ですね」
「ああ……ところでSOS団は何をするんだ?」
確か会う度に言ってるような気もするが、その度に同じ答えが返ってくる。
「秘密ですよ。涼宮さんはあなただけには絶対内緒にするように言われてますから」
「はぁ…そうかい。まさかそれで世界を滅ぼしたりしないだろうな?」
まぁなんともそこまで自然に笑いながら返せるものだと内心で褒める。
「禁則事項ってやつですね」
それはお前のセリフじゃねぇよ。
グラマーな美人にしか許されない台詞なんだぞそれ。
「…ハルヒの力は使ってないだろうな?」
「いえ、そのことについてなんですが…」
キョロキョロと少し周りを気にした風な古泉。
まさかもう手遅れな事態が起きているとか俺は勘弁だぞ。
「そんな嫌そうな顔はしないでも大丈夫ですよ。
むしろ、朗報です」
コイツの大丈夫は俺の不安の種だぞ?
「前に言ったとは思いますが、ここ最近は"力"は使われてませんし、神人もでてきてないのですよ」
「ほぉ」
「長門さんに聞いてみればわかると思いますが、力自体がもう衰退しつつあるんです」
「……」
「使われない筋肉は衰えていくように。つまり涼宮さんはいまの現状に満足してるのです。だから」
「ちょっと待て」
今の情報から推測するになにやらコイツの"使命"はおそらく終わりを迎えつつあるのだろう。
しかしだな、
「それは長門と朝比奈さんの役目も終わるという事か?
喜緑さんもどれもこれも終わりなのか?」
そういう事なのか?
ようやく長門の人間らしい一面が俺にもわかるようになっても、
朝比奈さんが現代に馴染むようになっても、
「"現代"の"地球人"の機関の人間はそれでいいかもしれんが、あいつらはどうなるんだ?」
長門は以前いらなくなったら廃棄されるような旨を言っていたし、未来人の朝比奈さんなど帰されるだろう。
俺はそんな結末は見たくない。
たとえ自己満足の為であってもそんな結末なら変えてやる。
「あまり僕を睨まないで下さい」
「…、すまん」
どうやらいつの間にか自然と目に力が入っていたらしい。
「そんな心配しなくても大丈夫ですよ」
「お前の大丈夫は信用できん」
「長門さんは思念体との接続は切ってあるので、今の長門さんを排除しようとするなら直接消す必要があります。
しかし、涼宮さんを観察してきた長門さんを消すのは得策ではないでしょう」
一旦区切る。
「何より、今の長門さんは普通の人間と変わりありません。
ただオーバーテクノロジーを兼ねているだけですしね。それをわざわざ消しにくる労力は無駄だと"繋がっている"人に直接聞きましたから」
「朝比奈さんは?」
「卒業までは絶対に学校にいるとの確約がすでにあるんですよ」
「……そうか」
ならいい。
それを聞いて俺はようやく肩から力を抜いた。
「ですから、遠慮なく泉さんといちゃついて構いませんよ」
「おま、」
覗いてるんじゃねえ!!!と言おうとしたら視界から消えた。
どこにいるのかと辺りを見回す俺の背後に立っていた古泉は
「ではお先に失礼します」
と、俺の首筋に生暖かい息を吹きかけて去った。
その余りの気持ち悪さに鳥肌が立ったのは言うまでも無いだろう。
さて、登校したもらなんと俺が一番乗りだった。
なにか不幸の前触れではなかろうかと心配になりながらもガランとした教室に座り込む。
「……」
いつもなら既に暖房がついていて少しは暖かいのだが、祝日だからかそれともまだ入れていないだけからか教室は寒かった。
教室では脱ぐはずのピーコートも手放せない。
コートの温さと中途半端な眠気が相まって俺は教室に大の字になって寝っ転がった。
「……」
あと一時間も経てば稽古の熱気で包まれるだろうが、今はただ冷たいだけだ。
誰かが来るのを待ちながらこのまま得難くなる冷たさを感じていようか。
いつの間にか眠っていたらしく、気づけば閉じていた目は重くなっていた。
…ざわざわと周りが騒がしくなっているところからするともう皆集まっているのだろうか?
俺は目を開けて起きようとした、が。
何か微妙な重さの物が俺の腹に乗っかっていて邪魔をしていた。
当然そんな物を置いた覚えなど無いので誰かのイタズラだろうと手でそれを床に落とした。
ゴスン!とボーリング球を思わせる音がすると
「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!??????」
と絶叫が教室に響いた。
予想外の展開に俺の鼓膜は痺れ、軽い脳震盪さえ起こしそうだった。
一体何が起きたんだ?
周りに座ってた奴らは俺を中心に少し離れて見ているし、この腹の上に居たのは誰なのか。
耳なりをこらえながら腹筋の要領で起きあがるとそこには涙目の顔があった。
「……先生、何してるんですか?」
「お前のせいで頭打ったんやで?!まず謝らんかい!!」
なんだこの理不尽な展開は。
言いがかりもそうだが周りの連中がクスクスと笑っているのも気にかかる。
「いや、まずなんで俺を枕にしてたんですか?」
「気持ちよさそうやったからに決まっとるやろ」
俺は生徒を枕にする理由なんて考えたこともありませんからね。
というかこんな穿った見方次第ではイチャついているようにも見えるのをこなたに見られてたらどうなることやら。
周りを見渡してみたもののまだこなたの姿が無いことに内心安堵して、そこでまだ予鈴すら鳴ってないことに気づいた。
多分、いつも通りならそろそろ来る頃だろう。
ならばいつまでもこんな風にくっついてるのは得策では無いので引っ剥がす。
「先生。それは分かったんで号令でも掛けて練習でも始めましょう」
「なんや、それやとウチから離れたいみたいやんか…まぁかまへんが」
先生も立ち上がり、号令を掛けようとしたところで丁度こなたが到着した。
ちょっとばかり、あと一瞬遅かったら…とドキドキした。
「またネトゲか?…ほどほどにしておけ」
などと遅刻しかけたの理由を茶化して平静を装った。
「いやね、昨日から朝日を拝むまで…」
こなたも返しでノってくれた。
それにさらにノる為に俺は額に手を当てて、頭痛を堪えるかのように顔をしかめる。
「まぁ、ウソなんだけどね」
「…意味のない嘘をつくな」
と、まぁ本当に意味のない会話をしていたら予鈴が鳴った。
先生の号令が教室に響き、明日に向けての練習が始まる。
確か昨日、かがみに打ち明けると言っていたせいか、こなたの顔は始終浮かずに昼休みを迎えた。
練習中も心ここにあらず、といった風なので少し周りにもそれは伝わっていたのだろう。
小人役の阪中や、魔女役のみゆきさんなどは随分と気を使っていた。
俺は事情を知っているだけに軽々しく頑張れなどとは言えない。
なにしろずっと一緒だった親友と決別するかもしれない瀬戸際なのだ。
不安げな目つきを俺に向けるこなた。
俺はその不安を取り払えればいいな、と頭を少し撫でた。
「……」
行ってこい、ガンバレ、不安か?
陳腐な励まししか浮かばない俺のボキャブラリに絶望しながら頭を撫でる。
それを照れくさそうに払いのけ、こなたは隣の教室へと去っていった。
……何かしら励ましになったのだろうか?
わかるはずもない疑問を抱えながら、俺は疲れた振りをして教室の隅に座り込んだ。
しばらくしてこなたは戻ってきた。
傷ついた様子も余りなく、俺の横に座った。
「……」
「……」
結果はどうだったのかを聞こうとも思ったが、こなたが話すのを待とうと思い口を噤む。
「……」
「……どうなったか聞かないの?」
「お前に決着ついてればいいんだよ」
勿論それは聞かなくても良いという虚勢なのだが、半分はドロドロした話はあまり聞きたくないという本心もある。
そんな俺を見越しているのかどうかは知らないが、こなたは話し出す。
「あのね、……」
「かがみは大人だったよ」
それはどんな感情が籠もっていたのか。
無表情にも落ち込んでるようにも見える顔からは読み取れない。
「私は結局、どこかかがみを信じてなかったんだろうね」
少し自虐的になっているところからすると一悶着あり、最後はかがみが一歩引いた形にでもなったのだろうか。
「…多分傷ついただろうね」
膝に顔をうずめた。
どうやら友達と普段言っていたのにそれは自分では上辺だけだったとでも言いたいのか。
俺はこなたでは無いので本心など分からない。
だから俺は
「頑張ったな」
とだけ言ってまた頭を撫でた。
そして丁度チャイムが鳴り、練習を再開する。
悩みを片づけたこなたの顔は明るさこそ無いものの、それでも最初の顔よりも生き生きとしていた。
学校を出る頃になると既に暗がりが広がり始めていた。
もうすぐ冬だから日も短くなりつつある。
「…寒くなってきたな」
「…うん」
一緒に帰り道を歩いているのはこなた。
「明日だな」
「うん」
生返事を返すばかりだ。
「なぁ、一つ言わせろ」
「…何かな?」
顔に生気は戻っても、帰ってきたこなたには覇気が無かった。
あんなのが主役ではさすがに皆さんに申し訳無いだろうし、それは相方であり彼氏でもある俺の役目だろう。
「かがみに遠慮するなよ」
「……」
「俺がお前を好きになったのは誰にはばかる事もない」
「…でも」
「好きになること位自由にできなきゃ不便過ぎる」
「…キョンキョン」
「なんだ?」
「そのセリフ臭いね」
「うるせえ」
恥ずかしいのを我慢してんだよ。
そっ、と手をこなたは俺のポケットに忍ばせてきた。
「…暖かいな」
「うん」
少しは吹っ切れたか?
「明日だな」
「だね」
遠慮なんてお前らしくないし、したら惚れた俺が馬鹿みたいに見えるだろう。
「セリフ忘れんな?」
「キョンキョンこそ」
だから、好きになるのも無関心になるのもお前自身が決めてくれよな。
言いたいことは色々あったが、胸にしまって俺達は学校を後にする。
きっとこなたもそれはあるだろうけどお互い様だ。
とりあえず、俺達の恋路は後で存分に語ればいい。
今はまず明日を頑張ろうかね。
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最終更新:2007年12月03日 09:04