日本沈没2


―――――――――――――

 女性の買い物は長い。
先の店で時間をつぶしてから更にそろそろ20分は経とうかとしている。

「流石に遅いな…」

 目の前の小さな店舗。
ファンシーな装飾、看板は明らかに女性客に向けてのデザイン。
しかしウィンドウ越しによく見ると中にはカップルなのか男の影もちらほら見えた、

「…仕方ないか」

 その様子と時間に押されて俺は隠れるように店内に入った。
だがあまり一人でいるところを店員に発見されたくはないな…。

「あんたなにやってんの?」

 しばらく捜索を続けていると、
いつのまにか後ろにいた涼宮が俺にあきれたように声をかけてきた。

「お前達が遅いから迎えにきたんだよ、どこにいたんだよ探しちまったよ」

 俺はいつの間にか低くしていた体勢を戻して、
仁王立ちしてる涼宮に向かってそういった。

「あにいってんのよ、それはこっちの台詞よ私達とっくに店出てたのよ?」

 みるとガラス張りの扉の向こうにはかがみとつかさがこっちに手を振っていた。
涼宮の言ってることに耳を傾けていると、
実は俺がアンティークショップでみなみと話しているときには店を出ていたらしい
つまり謝るべきは俺のほうらしい、ちくしょう。

「じゃあそろそろ行きましょうか」

 そういってたったか行ってしまう涼宮にさっきの店のことを言うべきか否かまよったが
結局言わないで置いた、他意はない。

――――――


「たっだいま~」

涼宮はアパートに着くなり俺の家の扉を空けて叫びながら中に入っていった。
俺はいつものこととそれを無視して、向かいの涼宮と書かれた表札がかかっている扉を
車のキーと一緒にくっついている合鍵であけ、玄関のところに涼宮の荷物を放置した。

 柊姉妹はあの後適当にぶらぶらしてつかさの運転で帰って行った。
ちゃんと帰れればいいのだが…。
思考しながら大きな荷物の中から少しだけある自分の荷物を引き上げる。
もちろん小さく包装されたカップを忘れない、
ビニール袋にまとめて、涼宮の部屋の鍵を閉める。
そしてやっと向かい側の自分の家の中に入る、出かけたときの通例だった。

 部屋に入ると涼宮は俺の部屋のテレビをつけて
自分で入れたらしいコーヒーを飲んでいた。
色々といいたいことがあるものの、涼宮の家にはテレビは無いし
コーヒーに関しては、横に俺の分も作られてることで帳消しにしとこう。
…だが。

「……マグカップは他にもあっただろう?」

 コーヒーはなぜか俺の魚の名前の書かれた湯飲みに注がれていた

「別に味は変わりはしないでしょ?」

 涼宮は俺の抗議にしれっと答えて、テレビから視線を動かさなかった。
俺もテレビに目を向けると、強張った表情のアナウンサーが原稿を読んでいる
どうやら十数個残ってた日本の島の中でもっとも小さかった例の島がとうとう沈んだらしい。

 あそこには行ったことがない、
というか島民が他の島の行き来をすることなんてめったに無く。
貿易関係を抜きにすれば月に数回の定期船がお互いの島を行き来してるだけだ。
だからどんな島だったのか知らないが、聞いた話だと台風がよく通るらしく、
四方八方海だらけの小さな島でのその環境。仕方ないといえば仕方ないのかも知れんな。
俺は湯飲みのコーヒーを口に運びつつなんともいえない気分に浸っていた、
だがそれは騒がしい電子音でかき消された、湯飲みを置いて電話にでる。

『やふー!キョ…』プッ、ツーツー

 俺は何事も無かったかのように座りなおした。
ジリリリ、すぐにかかって来る電話
もう一度立ち上がり電話に出ると。

『こんにちは、キョンさんお久しぶりです』

 電話の主が変わっていた。
流石というべきかあいつはこういうときの対処法をよくわかっている。
俺がこの子に先ほどのような行動を取れないのを知っての行動だ。
俺はこの義姉妹の姉が向こう側で笑っているのが手に取るように想像できた、
というより含み笑いのようなクスクス声が電話越しに聞こえていた。


「二ヶ月ぶりぐらいかな?二人ともどうせならもっと近くに住めばよかったのに」

 俺がそういうと、

『キョンキョンだって私達がお金ないの知ってるくせに~』

 予定と違う声が恨みがましい調子で聞こえてきた。
俺は少し受話器を耳から離して、受話器を見つめてから
嘆息をついて耳に当てなおす。

「いつの間に入れ替わったんだよ」
『スピーカーホンですよーだ』
「あぁそうかい」

 妹のほうはいいのだが姉のほうは少し話してるだけで疲れる。
俺はこの二人、特に姉のほうが涼宮と仲がいいのをいいことに
テレビに夢中になってる涼宮を呼び、涼宮に相手をさせることにした。

「おい、こなたとゆたかちゃんが電話してきたけど話すか?」

 涼宮は俺の台詞は聞くと手元のコーヒー(マグカップだ)を飲み干して
テレビの電源を切ってこっちにやってきた。
俺はあっちの義姉妹やってるようにスピーカーに変更して受話器を置いた。

「やっほーこなた、ゆたかちゃんも」
『やふーハルにゃん、またキョンキョンのお家にお邪魔してるのかい?』
「なにいってんのよ、私がきて邪魔に思うわけ無いじゃない」

 女三人寄れば姦しい、ゆたかちゃんはあまり会話に参加してるわけじゃないが
旗から見ている俺からすればまさにその諺通りだった。
この状況で会話に入ることは不可能と早々に判断した俺は
とっとと部屋に入ってコーヒーを飲むことにした。
あの調子ならしばらく話しているだろう、俺はテレビを付け直してニュースに耳を傾けた。

 
「電話もういいわよ」

 涼宮がそういって部屋に戻ってきたのは意外と早く20分程度だった。
一時間以上話してるだろうと思ってた俺としては結構驚いたが、
理由はすぐに涼宮の口から発せられた。

「こなた達、今からこっちに来るって言ってたわ」

 俺は咄嗟に頭を抱えて窓をぶち破って雨の中をはだしで駆け出したくなったが、
大怪我をするだけで何の解決にもなってないことに気がついて止めた。

「あのな涼宮、こっちって言うのはもちろんお前の…」

 俺が希望的観測を述べようとなんとか言葉を発したのだが。

「この部屋よ」

 見事に打ち砕かれた、今日はどうやら静かに寝ることも邪魔されるらしい。
この部屋は宴会場でも溜まり場でもないはずなんだがな…。
だが、この雨の中北の村からやってくるってことは、車を買ったのだろうか?
免許を取ったのに車がないと嘆いていたのはついこの間のように記憶しているのだが、
俺は外から流れてくるテレビの砂嵐のような音にどこか落ち着きつつ
もうすぐ消えるはずの短い平穏を味わっていた。

「コーヒー飲み終わったみたいだからもう一杯入れといたわよ」

 撤回、こいつがいる限り平穏は無いのだった。
俺は湯気を立てて香りをここまで放っているコーヒーが入っている湯飲みをしばらく眺めていた。

 

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最終更新:2009年05月23日 09:38
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