「ミヨキチ!早く行こうよ!」
妹さんが私の手を引いて急かします。
「急がなくてもまだ時間はありますって」
私がそう言っても聞く様子は無くて少し困りました。
私としては、お兄さんに会う前に鏡で変な所がないか見直したりこのドキドキを抑えたりしたいのですが。
「早く早く!」
「はいはい…」
普段と違った"お祭り"の雰囲気がそうさせるのか妹さんの元気は普段より五割増です。
私は校門で配っていたパンフレットを片手にお兄さんのクラスを目指します。
勿論、お兄さんが主役の劇をやるというのでそれを見に行くためなのです。
…出来ればその姿を写真に取りたいと思ってデジカメを持ってきているんですが、これは内緒です♪
開催したのが10時で、今は10時半。
お兄さんの劇はこのパンフレットによると11時、1時、3時の三回に別れてるみたいです。
まだ少し時間に余裕があるからジュースでもどこかで買おう、と提案して始まる五分位前に着くのが理想的でしょうか?
いまだに私の手を引っ張っている妹さんに声を掛けます。
「あの、まだ時間もありま」
「お嬢ちゃん、お姉さんと来たのかな?どうせならウチを見ていかない?」
突然の出来事にびっくりしました。
妹さんに少し強引目に声を掛けてくる人がいました。
やはり高校生のお祭りというのは小学校や中学校とは違った熱気みたいのがありますね。
みんな積極的に人を集めようとしてます。
「ミヨキチは友達だしキョン君に会いに行くの!!」
あ、妹さん少し怒ってます。
私の腕、そろそろ引っ張られすぎて少し痛いのですが…
妹さんがプンプンと怒りながら私を引っ張るのはいいんですよ。でもこっちは逆方向です。
「もーっ!!なんで私がミヨキチの妹に見えるかな!?ヒドいよね!」
「ですね」
お義姉さんならよかったのですが。
私はどうにか妹さんをなだめ、軌道修正することができました。
とりあえず落ち着いてパンフレットを覗くと丁度お兄さんのクラスの隣に喫茶店があるのを発見。
そこで私たちは開演まで待つことにしました。
「でもなんかこの学校て美人さん多いよね」
「んー…そうですね」
私は100円で購入したアイスティーで唇を湿らせながら周りを見ました。
「ああいったのがキョン君の好みかな?」
妹さんの指し示した先には髪を両側で縛った、可愛らしい髪型の人がいました。
正直同性の私から見ても結構美人なのでああいった人はやはり彼氏は居るんでしょうね。
「どうなんですかね。一概には決められないでしょうし」
「ミヨキチ難しい言葉禁止ー」
でもあのような方がお兄さんに迫っていくのを想像できても付き合ってる姿が想像できないのは何ででしょうか。
不思議な思いにかられながら、妹さんと二人でお金を出したスコーンを食べました。
「さて、そろそろ行きましょうか」
時計を見るともう8分前になってました。
廊下から隣のクラスのざわめきも聞こえ始めていますし、頃合いでしょう。
「そう言えばキョン君は絶対来るなって言ってたけど、これって"フリ"って言うんだよね」
来るなって言われてたの初耳ですよ。
「まぁ、入ってしまえば無理やり出されることもないですよね?」
ありがとうございましたーと美人揃いのウェイトレスさん達に言われながら退室しました。
教室に入るとそこは、舞台と観客席が簡易的な柵で分けられ、暗幕で少し薄暗くなってました。
でかい板が舞台の両脇にあるのであそこにお兄さんなどがスタンバイしてるんですかね?
私たちはできるだけ前のほうに座り、開演を待ちました。
そして少しするとスポットライト(教室の隅に立ってました)が点灯して舞台が照らされました。
「皆様、本日は舞台「白雪姫」にお集まりいただき誠にありがとうございます」
そこに立っていたメガネの、すごいプロポーションをした人が台本も無しに開演の挨拶をしました。
「児童向けのお話と軽んじられますが、その中身は充分に一考に値すると私達は考えました。
あくまで"お芝居"ではなく真剣な"演劇"です。
絵本の話とは少し違った「白雪姫」、どうぞお楽しみ下さい」
言い終えると同時にライトが消え、真っ暗になります。
再びライトがつくとそこには大きな鏡と綺麗な女性がいました。
どこからか適度な大きさの音が流れ、舞台が動き始めました。
「ここにいるのは白雪姫の母。その美しさは────」
ナレーションも入り、意外な本格さに、私は舞台に見入っていました。
そして見入っているとあっという間に進んでいきます。
意外と知っているつもりの話なのに記憶と違った展開に驚きます。
魔女(女王)は継母だったり、狩人に暗殺を命じたり…
だけど一番驚いたのは白雪姫はまだ子供で、白雪姫の役の人がすごく当てはまってた事です。
それなのにどこか年相応の色気も纏っていて、羨望という言葉がぴったりです。
編んだ髪型とドレスも似合っていて到底私には真似できません。
おそらく、私はため息が思わず出ていたでしょう。
これなら確かに一番の美人です。
場面は進み、白雪姫は毒殺されました。
そこへ現れた王子。
もちろんお兄さんです。
黒いマントに身を包み、羽帽子を被っただけですがそれだけでも男らしさが強調された気がします。さすがです。
小人が白雪姫を運ぶ途中に現れた王子。
王子は一目惚れして小人達と交渉します。
そして一番有名なシーンがやってきました。
白雪姫を抱える王子。
…でも、普通は棺に入っているのにこれは何故そのままなんでしょうか?
そんな疑問が浮かんだんですが、すぐに吹っ飛んでしまいました。
ざわっ…!
観客が一斉にざわつきました。
私はむしろ言葉を失いました。
なぜなら、王子が白雪姫にキスした……いえ、お兄さんが白雪姫に"直接"キスしたからです。
「うわー」
隣の妹さんなど少し顔を赤らめながらも見入っているのがライトの反射に照らされて見えました。
観客のざわめきを無視しながらも舞台は進みました。
「スゴかったねー…」
「はい…」
舞台を見終わり、私たちは変な余韻に包まれながら教室を後にしました。
あれは、つまり、その、お兄さんとそういう関係の人だったんでしょうね。
「まさかこなちゃんとキョン君がキスするとは思わなかったぁー…」
恥ずかしそうに頬を押さえる妹さん。
私もこんな展開は想定外でしたよ。
なんだか二人とも疲れを感じたのか、お祭りを最後まで堪能することもなくこの日は妹さんのお家にお邪魔して終わりました。
最後まで楽しまなかったのは別に心残りではありませんが、お兄さんを撮ることを忘れたのだけが心残りでした。
…なんだか、心にぽっかり穴があいた日でした。
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「キョンキョン」
ちょいちょいとこなたに手招きされた。
「ん?」
のこのこと近づく俺。
その俺の鳩尾に向かい、
「馬鹿ぁ!」
と叫びながらだいぶ本気の正拳突きが放たれた。
しかしそれをひらりと避ける俺。
勿論火に油を注ぐ羽目になる。
「~~~っ!!!!」
顔を真っ赤にして蹴りも交えてなぐりかかるこなた。
俺はそれもひらりと避ける。
「なんで、あんな事をしたのかなっ!!!」
ドスンッ!!と腹に突き刺さった。
拳を受け止めたのは痛かったが、これくらいは構わない。
「今回だな、」
「……」
「こなたに迷惑を掛けたのは俺のせいだったと思う。こなたがひた隠しにしなければかがみと争わなかったはずだろ?」
「それは私の責任って事ダヨ…」
「そうじゃなくて、そのときに強引に俺が押し切ってればそれは回避できてたんじゃないかってな」
ポンポン、と頭を撫でるように叩く。
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はにかみが止まらない。
多少強引過ぎるが、別に嫌では無かったし。
「それにだな、こなたの彼氏は俺だって示さないと、こなたみたいな立場に俺がなるかもしれないしな」
ポンポンとまた私の頭を叩くキョンキョン。
大きなその手はお父さんを思い出す。
その手が私に触れている間はとても安心できるのだ。
「でもさ、キョンキョン…やりすぎたと思わないのかな」
「それは正直思った」
「馬鹿っ」
脛を思いっ切り蹴り飛ばした。
「痛ぇ!!この野郎!!」
少しは後先を考えて行動して欲しいね。
私は頬を膨らませてそっぽを向いた。
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教室に乱暴に入ってきた迷惑な従業員がいた。
「柊ぃ!!」
「何よ」
その迷惑者は息を荒げながら話そうとしている親友だ。
「大ニュース!!キョンの奴がちびっ子に手を出したって!!」
「知ってるわよ」
私としては今更すぎる話題だ。
「なんだよ……せっかくサボってたのを止めて知らせに来たのに」
「道理でいないと思ったわよ。じゃあ後は終わりまでずっと休み無しよ」
「ヴァ!?」
全く、そのことで憂鬱になっていたのにわざわざ掘り返されるなんて思ってもいなかったわ。
……あれ?でもなんでバレたのかしら。
「ねぇ、みさお。なんであんた知ったの?」
「ヴァ?だって今すごい噂だぜ?舞台でキスしたって」
………呆れた。
キョン君とこなたは何考えているのか。
こんな噂になっちゃもう後に引けないわよ?
…でも、これで二人の間には誰も入れなさそうね。
私はどこかその結果に満足して接客を再開した。
最終更新:2007年12月04日 18:00