さて、どうしたものかね
俺は結局昼近くまでかがみと二人で飲んでいた
お互い破天荒な友人関係を持っているもの同士、弾む話もあったからな
しかし、普段そういう抑制させる立場に立っている俺達
かがみと二人になり、久しぶりにそれから開放されたためか
酔いによる睡眠欲に敗北を喫し、次に目が覚めたときにはばっちりきっかりと
俺もかがみも二日酔いになっていた
「痛い~、頭がガンガンする、視界が歪む~」
ほぼ同時に起きた俺達は起きて早々、似たようなうめきを発した
惨状の部屋でぶっ倒れてた俺達は、何とか立ち上がり顔でも洗おうとして
涼宮とつかさが居ないことに気がついた
「あんた達やっと起きたわね!」
俺が虚ろな目であたりを見渡していると、部屋の外から涼宮がエプロン姿で顔を出して
威勢のいい声で俺達に声をかけた
というか大声をだすな、頭の中でノートルダムの鐘が鳴り響くだろうが
まぁ当然だが、涼宮は俺の懇願に耳を傾けることなどなかった
「あにいってんのよ、情けないわねそれでも男?」
いっそ殺してくれ、そんな情けない思考に惑わされながらも
よろよろと涼宮の横を通って台所に向かった
「おはよー」
こめかみを押さえてのそのそと前進する俺達につかさは元気に挨拶をしてきた
なぜこの二人はこんなに元気なのか、それに答えるのは簡単だ
なぜなら、既にこの交友関係を作り、こいつらと付き合い始めてから10年近く経つからな
つかさは前から子供体質で少量の酒で時間的に寝ちまったんだろうし
涼宮が二日酔いをしたところなんて見たことが無い、まだ未成年のはずなんだけどな
「つかさ美味しそうなの食べてるじゃない、どうしたの?」
かがみが、昨日二人で飲んだときの話題になった四分の一の人物に声をかける
確かにつかさはテーブルに座って、スクランブルエッグやら狐色のトーストやらを食べていた
「私が作ったのよ」
そういって涼宮が後ろからずんずんと俺達を押しのけて台所に舞い戻ってきた
足元のふらつく俺はそれだけで吹っ飛びそうになった
涼宮はそんな俺の様子に目をくれずに食器棚から二つのコップを取り出して
冷えたお茶を入れて俺とかがみによこしてきた
俺は一瞬戸惑ったものの、それを飲み干した
若干生き返った気がするな、確か二日酔いってのは血中アルコールが水分と共に無くなって
脱水症状のようなことになるため起きる現象と聞いたことがある
涼宮に頼んでもういっぱい飲むと、ずいぶん頭がすっきりした気がする
かがみも幾分顔色がよくなったように見える
俺はとりあえずテーブルについて一息つくことにした
ため息のように盛大に肺に入っている空気をそとに押し出す
カチャ、と俺の前につかさが食べてるものと同じものが置かれた
「それはあんたの分、かがみの分もあるわよ」
涼宮はそういって空いてる席にもう一つ皿を置いた
材料は考えるまでも無く我が家にあったものだろうが、俺は何も言わずに
ただ、さんきゅと一言礼を言って食べ始めた
突然だが料理ってのは単純なものほど難しいと聞く
単純ゆえにごまかしが聞かないのが理由だそうだ
複雑なものはそれぞれの味が混ざるため、多少のミスはごまかせる
だから和食なら玉子焼きを焼ければ一人前だそうだ
そして、俺の目の前に並ぶのはトーストとスクランブルエッグというやはり単純なものだ
コレは和食ではないが、どこの料理であれ卵料理というのは難しいらしい
俺はめったに見ない涼宮の料理の腕前をぞんぶんに、文字通り味わっていた
「ご馳走様」
そういって俺は食器を持って流しに置きに行く
そこでふと気がついた、涼宮は朝食くったのだろうか
すると俺の言葉を聞いた涼宮は眉をひそめて時計を指差した
「…昼食は食ったのか?」
涼宮の行動の意味を理解した俺は、訂正しつつ聞きなおす
「あんた達の分だけ作ると思う?むしろあんた達の分がついでよ」
実を言うとなんとなくいつもと違う涼宮の行動にどこかしら対応に困っていた俺だが
この台詞で俺は一気に脱力した
「ご馳走様、ハルヒあんたこんなに料理上手だっけ?」
少し遅れてかがみがそんなことを言い出した
ついでにつかさは俺達より早く食べ始めていたのにもかかわらず
まだチマチマと食べている、両手にトーストを持って端から齧ってくその姿は
さながらリスやハムスターなどの小動物を思い起こさせた
そういや、その手の動物もトンと見なくなったもんだな
いまや野生の動物というと=昔で言う絶滅危惧種となるからな
そういや、みなみのところは犬を飼ってるとか言ってたな
ふむ、こんなことを考えていると実家のシャミセンに会いたくなってきたな
あいつもそろそろ年だからな、いきなり居なくなったりしたら寂しいもんがあるし
妹に最近連絡とって無いな、こんどの短期のバイトが終わったら顔でも出しに行くかな
っと話が脱線しまくってるな、俺が動物思考をめぐらせてる間に
かがみと涼宮の間でもなにやらやり取りがあったらしく
こんど涼宮が洋食を教える代わりにかがみに和食を教えてもらうらしい
同じ方向で違うジャンルが得意なもの同士で教えあいというわけか
二人はしばらく料理談義に華を咲かせていた
俺にはそんなに夢中になる趣味なんて無いに等しいからな
そういった感覚がわからないんだが、……多少羨ましいかもしれないな
鈍さも抜けて頭が上手く回り始めた俺はコーヒーを入れて
壁にもたれながら二人の様子を眺めていた
ギュッと水を絞った雑巾で車を拭く
先日の土砂降りの中の走行で雨の跡が残ってしまっている
それを俺は雑巾で磨いていく
「こんなもんか」
久方ぶりに天気もよく、もうすぐ夕暮れ時だというのに辺りは結構明るかった
俺はバケツの中の汚れた水をその辺にまいて、ガレージを閉めて帰った
階段を上っていくと、水平線の向こうにゆっくり沈んでいく太陽が見えた
カメラかなんかでその瞬間を捕まえておきたかったが
いかんせん俺はそんなものを持ってないし、仮に持っていたとしても
家にとりに行き、ここに戻ってきたときには既にそれは別の景色なのだ
俺は残りの段を一個飛ばしにのぼって、目的の階についた
ガチャ、と扉を開く
そこには先ほどまでの喧騒は嘘のような静寂が
ただ、ぽつねんと存在しているだけだった
柊姉妹は料理談義に華を一しきり咲かせた後に帰宅した
涼宮は多分向かいの自宅に戻ったのだろうと思う
まぁ家に友人がいるなか、それを放置して洗車するような輩でもないんでね俺は
風呂場にバケツを置いて、腕時計で時間を見るとそろそろ数少ない娯楽形の番組が
放送する時間帯になる、普段そういうのを見る性質じゃないんだが
いま俺の身体を包んでいる虚無感を誤魔化すにはいいだろうと
いまだにアルコール臭残る部屋でコーヒーをすすりながら、身を乗り出して電源を入れる
人によってはこのご時世に不謹慎だとか思う奴もいるのだろうけど
戦時に宝塚歌劇団が重宝されて、あちらこちらに遠征したように
こんなときでも、こんなときだからこそ人には気の休まるときが必要なのだと思っている
あれだ、何の本だったか東北からの遠征軍の兵士に
雪国の芝居を見せたら、偽物の雪に感動して泣き出したという戦中の話もあったじゃないか
俺はいつのまにかよくわからない方向へ飛んでいった思考に
訳もわからぬままうなずいて、コーヒーを飲んだ
…たまには豆を挽いた、インスタントじゃないコーヒーでも飲んでみたいもんだ
若干そこに固まってた砂糖の所為で中身が減るにつれて甘みがじわじわ増してくコーヒーを飲みつつ
俺は実にもならない番組をしばらくの間眺めていた
朝、昨日に引き続いてのいい天気で
窓から差し込む朝日に照らされて、俺は心地よく目を覚ますことが出来た
いやはや、起きて早々ノイズ音が鼓膜を刺激する朝から久方ぶりに開放されて
俺としては万々歳だな、丸一日たってアルコールのにおいもきれいさっぱり消えてしまったし
清々しいとは今のような状況を指すに違いない
寝ている間に固まった関節を一本一本鳴らしながらほぐしていきながら俺はそんな風に考えていた
やっぱり寝起きは背骨や首が良くなるものだ
上体を後ろにそらせるとぽきぽきと軽快な音を立てて骨がなる
この身体の関節がなる現象をキャビテーションというらしい
なんでも骨と骨の間の液体に気泡ができてそれが潰れる際にポキッと音がするらしい
まぁ、どうでもいいんだけどなそんなこと
俺はベットから降りて、ぐしゃぐしゃになったシーツを適当に伸ばしてから
机の上に乗っている携帯と財布をポケットに突っ込んでバイトに向かう
バイトへはバイクでいつも向かっている
朝の張り詰めた空気の中を誰もいない道を一人で走る
風を感じるには自転車が一番の乗り物というが、バイクだってなかなかのもんだ
こうやってフルフェイスのシールドを開けっ放しにして
泥臭い湿った空気を肺にいっぱいに入れると最高の気分になれるね
俺は若干アクセルを開けながら目的地に向かった
俺がやってるバイトは大抵、結構稼げる短期系だ
一,二ヶ月やってその金で次の一ヶ月間は無職みたいな感じだ
涼宮は意外に普通の時給制のバイトやらなんやらを毎月きちんとやってるらしい
ここだけ見ると俺のほうがダメ人間に見えてくるから不思議だ
しかも涼宮はふだんの性格をバイト先ではおくびにもださんというから驚きだ
一度茶化しにバイト先に顔を出したときは顎が外れるかと思ったな
まぁ、バイトが終わって帰ってきた涼宮に本当に外されかけたためもう行かんがな
「おや、なにをしてるんですか?こんな所で油を売ってる暇があるようには思えませんがね」
何だお前は、俺は今現場の状況を考えて最善の手を打つための思考をまとめていたところだ
お前こそ俺に話しかけてる暇があったら動いたらどうだ?古泉よ
「いえ、僕のノルマは既に終わったもんでしてね、それであなたの最善の手というのはなんですか?」
お前を追っ払って持ち場につくってのが一番だな
わかったらとっとと散れ、ってか終わったなら帰れ目障りだ
俺はシッシッと払いような仕草をして古泉を追っ払うと
足早にそこから去って、持ち場に戻った
昼をちょいとばかし過ぎた頃に俺は自分の仕事を片付け終わり
終わった奴から順に解散という効率の良いやり方をしている仕事場から
現場のチーフ等に声をかけてその場を去る
ベルトのところに通してある鍵を外してくるくる回しながら近くにおいてある
自分の単車のところに向かうと、なぜかとうにあがったはずの古泉がいた
一体なんだというのだろうかこいつは、美をつけてもなんら違和感ない顔立ちを
柔和な笑みで彩りながら俺に声をかけてきた
「そろそろ終わる頃だと思いましてね、どうです?この後一杯」
古泉はただでさえ細いその瞳をより一層細めながら
飲むジェスチャーをして俺に問いかけてきた、が悪いな古泉
先日、涼宮やら柊姉妹やら複数名が俺の家に押しかけて
やっとこさアルコールが抜けきったばかりなのだよ
久々に男同士でってのも悪くは無いが、ウイスキーとか大量に飲んじまってな
しばらくはやめときたいんだよ
…それに今月は電気,ガス共に支払いの紙が届くのが恐ろしいくらいでな
本当にゆとりが無いんだよ、俺の財布には必要経費を除くと
諭吉があと一枚しか残ってないのが現状でね、あと二週間どうやりくりするかで大変なのだ
当然お前とどこかで飲み交わすような現金はありゃしないのさ
俺は若干自嘲めいたため息をついて古泉に肩をすくめて見せた
「そうですか…では今日は僕がご馳走しましょう、この間の負け金を払ってませんしね」
そういうと古泉は俺のバイクの近くに止めてあった小さめのバイクにまたがった
お前が50ってのもなかなか意外だよな、オメガ50だっけか
その外見で法廷速度30は情けないだろうよ
それに俺がお前の提案に乗るとは一言もいってないわけだが
何でお前はもう話がまとまったかのようにバイクのエンジンを吹かしているんだ?
「おや、ではこのまま帰ってしまうんですか?飲まなくても一食分浮くのでは?」
俺は古泉から、先日俺がこなたに言われたばかりの
答えの出ていることをあえて聞いている意地の悪い何かが出てるのが見えた
やれやれだ、頭を振ってため息をつきつつ古泉にきいた
「で、どこに連れてってくれるんだ?前回のお前の負け分を考えればそれなりの場所なんだろうな?」