放課後。
俺は部室へ向かった。
もちろん、昼休みに泉達に来るように言っといてある。もっとも、俺が呼ぼうが、呼ばまいが、彼女達は勝手にやってくるのだが。
朝比奈さんは委員会で少し遅れるそうなので、俺はノックもせずに部室のドアを開けた。
部室には11月にも関わらず、暑苦しく感じるスマイルを浴びせる古泉と、いつもの様に本を読んでいる長門がいた。
「お前ら2人だけか」
「何かご不満でしょうか?」
「いや、むしろお前らが2人揃ってないと身の危険を感じる。ハルヒが何かやらかしてる証拠だからな」
「それはごもっともです。安心して下さい。涼宮さんは今のところ、かなり落ち着いています。泉さん達が加入したことでSOS団は盛り上がっていますからね」
「盛り上がっている」といっても古泉のゲーム相手が増えたこと(主につかさ)と読書家が増えたこととパソコンの使い道が増えたことぐらいじゃねえか。
「良いんですよ。涼宮さんはそれで満足しているんです。入学したての頃に比べると、実に平和的、現実的ではないですか」
「まあ、それはそうだが…」
俺が危惧しているのはいわゆる「嵐の前の静けさ」ってやつなんだが、それは杞憂なのだろうか。
「杞憂とまではいきませんが、可能性がないとは言えません。ですが、あなたが例え無意識下であっても、それを考えていれば最悪の事態は避けられます」
そうだといいんだがな…。
なかなかハルヒは来ない。
俺が古泉と、咲かせたくもない花を咲かせてしばらくすると泉がやってきた。
「ほっほ~い。お待たせ~。あれ?キョンキョンとながもんとイッキーだけかい?ハルにゃんとみくるちゃんは?」
「おう、泉。かがみ達は?」
「もう少ししたら来るよ~。黒井先生の手伝いがあるんだって」
「そうか。見ての通り、団長様はまだお見えになってないぜ。あいつのことだから、また何処かで至らないことでもしてるんだろうよ」
「むぅ~。だったらかがみ達と来れば良かったかなぁ…。仕方がない。イッキー、オセロでもしない?」
「僕でよければ」
「よっしゃ。キョンキョンとやると必ず負けるからねぇ。あたしが楽しめないよ」
「お前、勝てる勝負じゃねえとやらないのか」
「違うよ~。ギリギリの接戦とかならまだしも、キョンキョンは一方的じゃないかぁ。この前もあたしが四隅取ったのにキョンキョンが勝つし…」
「あれはお前のやり方が悪いじゃねえか」
「いいや。あれはキョンキョンが悪魔だった瞬間だよ。さ、イッキーやろう!」「分かりました。では泉さん、お手柔らかにお願いします」
「こっちこそ負けないからね!」
やれやれ。
俺もすることがないので、2人の対戦をしばし見ることにした。
部室は平和だった。
「うーす」
「来たよ~」
「遅れてすみませんでした」
しばらくして柊姉妹と高良さんが来た。
古泉と泉の泉オセロ対決は三回戦を迎え、泉が全勝していた。
「よっ、結構遅かったな」
「仕方ないのよ。黒井先生がなかなか離さなくてさ…。」
「お姉ちゃん、先生と話盛り上がってたよねぇ」
「ち、違うわよ。あれは先生が…」
「そういえば、涼宮さんはどうされました?」
不意に高良さんが話を切った。
「まだ来てないんだ。あいつは気まぐれなところもあるからな…しばらくすれば来ると思うが…」
「そうですか」
「全く…人を呼びつけておいて、本人がいないなんて…とんだ団長様よね」
かがみが呆れて溜息をつく。
ちょうど、その時。
コンコン。ガチャ。
「あ…皆さん、お揃いですかぁ?」
ついに来たというべきか、この部室のェンジェール、朝比奈さんが可愛らしくドアを開けた。
「ハルヒだけいないがな」
「ハルヒだけいないわよ」
……俺とかがみの言葉がハモった。
「…………」
空気が止まった。
「あ、そ、そうなんですかぁ。良かったぁ。私、遅れてしまったかと思ってたんです」
朝比奈さんが、この妙に気まずい空気を取り払おうとしてたが、焼け石に水だ。
「そんなに照れなくてもいいではないか、かがみんよ」
「う!うるさいわね!別に照れてないわよ!」
「無理なさるなよ。ほっほっほ」
どこの長老だ、お前は。
「でも人と言ったことが被るのって、何か恥ずかしいよね」
「そうですね、特に男女関で起こった場合は気まずくなったりしますね」
「別に狙ったわけでもないのにね」
「かがみんは狙ってたんじゃな~いの?」
「バッ…!そんなわけないじゃない!」
かがみの顔がさらに赤くなる。
全く、確かに気恥ずかしいが、それぐらいのことで赤くなるなよな。
部室内の空気が程良くほぐれた頃、けたたましくドアが開いた。
「みんな~来てる?」
我らが団長様、ハルヒだった。
いや、なんて平和なんだろう。平穏だったのだろう。この時までは確実に平和だったのだ。
しかし、泉達も交えた市内探索。
これがこの平和をぶち壊す鉄槌になるとは、俺はもちろん、古泉も、長門も、当然の如く、ハルヒも知らなかった。
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